現代の多くの企業は、その歴史・理念・事業内容・独自性などを、統一したイメージや分かりやすいメッセージで発信し、社会と共有することで存在価値を高めていくコーポレート・アイデンティティー(CI)を導入しています。CIを構成する要素は多々あり、中でもロゴタイプは、企業・商品などの特徴や価値を視覚的にアピールするのに大変有効なアイテムの一つです。
時の変化に左右されない普遍性、また競合企業と明確に差別化するための強い独自性が求められるロゴタイプですが、独自性を追求するあまり文字として認識できないものや、企業がユーザーに伝えたいメッセージやインフォメーションなどを的確に表現できていないロゴも少なくありません。
文字で構成されたロゴタイプは、使用する文字そのものの形状やレイアウト、カラーリングの仕方によってその印象が大きく変わるもの。企業やブランドイメージとロゴの放つイメージが上手くマッチするよう、最大の配慮を払ってデザインされなければならないのがロゴタイプです。
今回は、オリジナル性を強く持ちつつ認識性の高い優れたロゴを多数デザインしている Duminda Perera 氏の作品を紹介します。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Duminda ! )
スリランカ出身のDuminda Perera氏は、イタリア共和国のミラノで活躍しているクリエイティブディレクターです。イギリスのスタッフォードシャーにあるKeele Universityで修士を取得後、正統的なグラフィックデザインをバックグラウンドとしながら芸術的かつ機能的な独自のアートディレクションを遂行。ブランディング・デジタルアート・UI/UXデザイン・Webデザインなど、幅広い分野での創造活動を展開しています。
Perera氏の創作するロゴは、文字の認識度を失うことなく、キーワードである単語の意味をより明瞭にする表現がデザインの中に組み込まれているのが特徴です。 彼の一連のロゴ制作例を系統立てて考察していきましょう。
1)文字の一部をカット・消滅させたロゴ
『BROKEN』-壊れた-
力強いサンセリフ系の大文字で構成されているロゴタイプですが、BROKENの意味どおり「K」「E 」「N」に亀裂を入れ、水平ラインを崩しながらリズム感を出しています。
『JANUARY』-1月-
こちらは縦長なタイポグラフィーを使ったシンプルな表記ですね。「N」字の右上部をカットし、「J」「U」「R」字の持つ円弧に相当する弧を持った小さな扇型を挿入。これがアクセントとなり、このロゴのオリジナル性を高めています。
『BLANK』-空白-
こちらは文字の一部が消滅しているように見せ、見る人の興味を一層そそらせる効果を施しているロゴデザインです。 このロゴのように文字の一部を消滅もしくはカットする手法は、すっきりとスタイリッシュに見せたい場合に有効です。通常は『BROKEN』や『JANUARY』のようなサンセリフ系の書体に用いられることが多いこの手法ですが、このロゴではセリフ系の書体に使用。華奢で神秘的な雰囲気を一段と醸し出すことに成功しています。
2)文字の一部をイラストに変換させたロゴ
次のロゴデザイン群は、文字の一部をイラストに替えて、その単語の意味をより強調している事例です。
『ELECTION (投票)』は「O」が投票カードになっていますね。ブルー主体のカラーリングに赤いカードがアクセントとなり、スマートなロゴに仕上がっています。
初めの「O」を円形の蓋が開いたデザインで表している『Open』
「n」字をトンネルの入り口に見立てた『tunnel』
「R」の中にロケットを埋め込んだ『Rocket』
「n」をボトルに見立てたロゴ『wine』は、そのカラーリングにグラデーションを施したブドウを連想させるパープルを取り入れ、文字に加えてより一層「ワイン」を強調しています。
同じアルコール系のロゴ『WHISKY』は、「H」と「I 」の間に余白の利用しながらウイスキーボトルを挿入させています。
『SUITS』のロゴタイプは「T」字が蝶ネクタイにデフォルメされていますね。
『BAG』は「A」字がバッグに置き換えられたもの。全体を細いモノラインで構成し、モダンでおしゃれなテイストのロゴデザインになっています。
『BOOK』と『MASK』は、文字そのものの形状を単語の意味に合わせてデザインしています。書籍や紙をイメージさせるイラスト文字で構成された『BOOK』、仮面をデフォルメして「M」字を形成し、続く「A」「S」「K」も同じテイストで出来上がった『MASK』、どちらも文字としての認識性の欠くことの無いオリジナル性の高いロゴ制作例です。
同じく、文字の意味と形状をマッチさせたロゴである『BOLT』。「O」にボルトの上面形状を、「T」に側面形状を取り入れて仕上げられています。
『building』は、文字の中に黄色の点を入れることでビルの窓明りを表現。また文字の高さをランダムにすることで、高層建築物のスカイラインをイメージさせるロゴです。
『CARPRT』は「A」字が赤のカーペットで表現されていますね。『ELECTION』同様、赤色の人の目を惹き関心を集める効果を上手く利用したロゴです。
『KEY』は「E」字を鍵に見立てたもの、『melon』は「e」と「o」にカットしたスイカの断面を挿入したもので構成されています。どちらのロゴデザインも、硬いイメージの鍵、丸みを帯びた形態であるスイカが強調されるようなタイポグラフィーを使用していることにも注目です。
3)文字自体に表情を与えたロゴ
文字を一つの形として捉え、 息を吹き込んだかのようなロゴデザインを見てみましょう。
『follow///』は「後について行く…」のように、余韻を残すようなイメージで「///」が使われています。
「i」を改造させてできた『Friday』は、週末を迎えるウキウキしたイメージが伝わるロゴデザインです。
『STEPS』はその名の通り、文字の大きさを順に拡大していくことにより「階」を表現。的確な使用フォントが「足取り」や「一歩一歩」といったキーワードを連想させてくれるデザインです。
風にたなびくイメージを醸し出しているのが『Flag』。文字をイラストレーションのように使っています。赤と白のダブルラインで構成し、人目を惹きつけるロゴデザインですね。
『MORE』は最後の「E」字を引き延ばすことにより、「もっと、もっと」というメッセージを感じさせられるテイストです。
『TOMORROW』は「O」字を太陽に見立て、高さを変える事により「日没から明日へ」というメッセージを表現。アルファベットと「O」字太陽のバランスが優れたロゴデザインです。
まとめ
英字ロゴタイプはまとまりやすい反面、ただ文字を羅列しただけのものにもなり兼ねません。 文字の持つイメージと制作するロゴのコンセプトが一致していることも大切です。
バランスのとれた独自性の高い Duminda Perera 氏のロゴデザインは、”もう一捻り”の踏ん張りを見せてくれる素晴らしいアイデアに満ちています。
design : Duminda Perera ( Italy )
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