スマートフォンを代表するデジタルデバイスが普及している今、世界中で“音楽”に対する需要がより高まっていると言われています。日本国内でも浸透してきた音楽配信サービスなどにより、聞きたい曲はすぐに手に入れられ、見たいアーティストは動画配信サービスで検索すればすぐにチェックすることができます。以前より、より身近で便利になった音楽環境の中、気に入ったアーティストや曲を聴くためにライブ会場やDJイベントに行ってみたいという、音楽イベントに対する需要も確実に増えてきているそうです。
アジアに目を向けてみると、現在急速に発展している国、インドでも音楽に対する注目は高まっているようです。インドに本拠地をおく、デザインチーム BLOODY PAPER BOAT は、インド国内のナイトクラブや音楽イベントのフライヤーデザインを数多く手掛けています。
インドというと私たちの中では溢れる熱気や混沌としたイメージが浮かびがちですが、彼らがデザインする世界観は、ウィットに富み、都会的で洗練されたものばかり。インド自体、今、急速に発展を遂げていて首都を中心に都市化が進められているそうです。インドではどんなイベントがどのように表現されているのか、変わりゆくインドの今を彼らのデザインを通し見ていきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, BLOODY PAPER BOAT ! )
招待制クラブパーティーのフライヤーデザイン
Playground”というレーベルにより、定期的に開催されているナイトクラブイベントのフライヤーです。インドのクラブは、安全面からの配慮から、日本のように朝まで大騒ぎというスタイルではなく、夜中12時くらい迄を目途に営業しているそうです。また、入店も男女ペアが基本らしく、トラブルを防ぐためさまざまな配慮がなされています。このイベントについても、招待客しか入れないというクローズド形式のパーティーになっています。
上の画像はバレンタイン時期に行われた際のフライヤーデザインです。いくつもの歯車が周りを取り囲み、まるで映画に出てきそうな厳重で美しい鍵のようにも見えるこのメインビジュアルは、この先に広がっている煌びやかでゴージャスな世界の入り口のように立ちはだかっています。
こちらは、クリスマスイブに開かれた“Playground”のパーティーフライヤーです。クリスマスらしさを感じさせるホワイトを基調とし、ゴールドの飾りがさらにラグジュアリーな雰囲気を醸し出しています。
こちらも“Playground”主催のパーティーフライヤーデザインです。まるで宮殿の入り口のようなゴールドのエントランス。固く閉ざされたその先には、奥から漏れてくる青白い光がパーティーの様子を想像させます。
この“Playground”シリーズは、全作通じて「閉ざされたものの先」をイメージさせるビジュアルで制作されています。また、それのどれもが豪華で、羨望の対象となるような美しさをもっています。「招待制」というスペシャリティを生かし、選ばれたものだけが立ち入ることを許されるプレミアムな体験をテーマに、期待感をもたせる洗練されたデザインでまとめられています。
異次元を感じさせるアジアンバーのDJイベントフライヤー
地上から生え出す不思議な球体に器用に立つフラミンゴ。モノクロの世界にこの鳥と球体の周りにだけ色彩がとどまっている。アジアンバーで定期的に開催された “Last of Libai”というDJイベントのフライヤー制作例です。
このイベントのフライヤーデザインは「異次元」に迷い込んだような感覚を覚える、日常からかけ離れた不思議な風景を見せてくれます。仕事や雑事から解放され、美味しいお酒とDJのセレクトした音楽が鳴り響く夜のひととき。それはまさに、「異次元」のような日常から切り離された時間と場所なのです。
深い森の中、立ち尽くす少女。目の前には神とも異星人ともつかない異形の者が木と融合し少女を見下ろしています。まるでゲートのように不可思議な広がり方をする木々、目の前に溢れ出す光。映画のポスターといっても差し支えないほど、よく作りこまれたフライヤーデザインです。
レトロフューチャーの匂いがする大げさなマスク、ウェアに描かれた暗闇に浮かび上がる×模様。そのどれもがフィクションの小道具のように、この世界観を作り上げています。夜の世界の怪しい雰囲気が伝わってきますね。
3人の初老の男性が、舞台挨拶をしているような構えで笑みを浮かべています。時代も場所もよくわからないこのシチュエーションは、日常に近そうでとてつもなく遠い、別の形の異次元であると言えそうです。
浮遊感をテーマにしたアジアンバーのDJイベントフライヤー
音楽は不思議なもので、人の心にさまざまな影響を与えてくれます。強さや勇気をくれるものや、心を癒したり高揚感をもたらすものなど、そのジャンルや曲によって数多の種類があります。そのような音楽の中で、とりわけエレクトリックミュージックの部類では浮遊感や透明感を感じさせる曲が多く、このようなDJイベントなどでは好んでプレイされる傾向にあります。先ほどと同じアジアンバーを舞台に“Libai unclubbed”と題されたシリーズイベントでは「浮遊感」をテーマにしたビジュアルづくりがされています。
灯台をアクセントに、大空に熱気球がふわふわと浮かんでいます。その大空をよく見ると円状に区切られ色合いが違っていることに気が付きます。灯台を中心に円が二つ描かれていますが、一つ目の円は元の画像に近い明るい昼間の色。二つ目の円は上に虹のような光の環が見える夕景のように赤く染まった風景。さらにその外側は夜の色合いを見せています。その3つの風景をシームレスに飛んでいく気球は、時間や場所に捕らわれない自由な存在として描かれているのではないでしょうか。
こちらのフライヤーでは、宇宙飛行士が宙を漂っていますね。ただ、その空間は宇宙ではなく海上。宇宙飛行士と海という意外な組み合わせから生まれるこのビジュアルは、異なるジャンルとのセッションやアーティスト同士の競演などで生まれる音楽のケミストリーと符合しているのかもしれません。
青い海に不自然な色をしたクラゲが浮かぶ幻想的なフライヤーデザインです。まるでサーモグラフィーで映したような色合いのクラゲ。パーティーの夜の熱気を伝えているのかもしれませんね。クラゲの近くを飛ぶ飛行機のイラストが小粋な演出を加えています。
自然の中で開催されるミュージックフェスのブランディング
インドで行われた“Sula Fest”は2017年で10回目を数える人気の音楽フェスティバルです。その特徴は、ぶどう畑で行われること、そして美味しい食事も楽しめること。立地条件や特色が加味されフェスのビジュアル・アイデンティティが設定されました。
空の色に使われたメインカラーは、熱気や高揚感に包まれるような黄色からオレンジへのグラデーション。その他のカラースキームは自然や食べ物、畑から着想を得て設定されています。
設定されたビジュアル・アイデンティティに沿ってポスターやフライヤーがデザインされました。大きな空とうねるようにして描かれた大地が自然に囲まれた会場であることを感じさせます。広くとられた空に出演アーティストの名が連なります。
10周年記念ということもあり、力を入れて記念グッズが制作されています。チケットやリストバンド、ポスター、フライヤー等は予め設定されたビジュアル・アイデンティティに沿って統一感を第一に制作されますが、記念グッズ等物販に関しては、ビジュアル・アイデンティティを踏襲しつつも、普段の生活で使用したいと思わせるような、もう一歩踏み込んだデザインで制作されています。
屋外看板や会場設置用のスケジュールサイン等、什器用のデザインも統一感のあるビジュアルで制作されました。大々的に告知された10回目のSULA FESTは大いに盛り上がり成功を収めたようです。
まとめ
現在のインドは、私たちの想像以上に熱く、力強く前進しているように感じました。また、文化的にも大きく変化しつつある今、盛んに行われているイベントをサポートするデザインの力も大きな飛躍を遂げています。
BLOODY PAPER BOATは、イベント関連のデザインのほか、パッケージデザインやブランディングなど多方面で活躍しています。彼らはこれからのインドをますます面白く、ますます美しく彩ってくれることでしょう。
design : BLOODY PAPER BOAT ( India )
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