
インターネットにつながりさえすれば、オフィスやデスクにしばられずに、どこでも仕事をするひとをノマドワーカーと呼びます。この「ノマド(nomado)」という言葉は、もともとは遊牧民や放浪者のことです。
アートディレクターでデザイナーのJose Bessega(ホセ・ベッセガ)氏とIvo Pallucchini(イヴォ・パルチーニ)氏が2013年に創設したデザインスタジオ Amateur(dot)rocks は自らを「ノマド・デュオ」であるといっています。ブエノスアイレス、アムステルダム、ロンドン、ベルリンと拠点を移しながら、さまざまなクライアントにサービス提供しています。これは単にデスクを離れて仕事をしているというだけではなく、ノマドの本来の意味でさすらっているのです。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。(Thank you, Amateur(dot)rocks!)
Amateur(dot)rocksの作品に見る「場所に依存しないデザインの強さ」
Amateur(dot)rocksがノマドスタイルで世界各国を移動しながら制作しているにもかかわらず作品の品質が安定しているのは、「制作環境」ではなく「制作の判断基準」が一貫しているからです。
どこで作るか、どんなデスクで作るかは、最終的なデザインの品質には直結しません。「どの基準でフォントを選ぶか」「どのルールで配色を決めるか」「どのレベルでディテールを仕上げるか」という内的な判断基準が確立されていれば、場所が変わっても品質は揺るぎません。場所や環境のせいにせず、「自分の判断基準の精度」を磨き続けることが、どこでも通用するデザイナーの条件です。
アイデンティティ・ガイドラインのようなグラフィックスで精密感を演出
アディダスの長距離ランニングシューズ「SolarDrive(ソーラードライブ)」のキービジュアルは、モビールと一輪車を組み合わせたようなユニークなオブジェです。うまくバランスをとりながら奇妙な生き物のようにゆるゆると進むオブジェをプロモーション動画でみることができます。オブジェには製品とともにアッパーやソールの素材でつくられたオブジェも登場します。
このSolarDriveというシリーズの特徴は、快適さ・クッション性・安定性・耐久性が完璧なバランスでまとまっているということです。オブジェはこの特徴を視覚化するために作られました。
デザイングリッドでコンセプトを表現

Amateur(dot)rocksは、このプロジェクトでグラフィックデザインを担当しました。「パーフェクトバランス」という製品コンセプトと精密感を表現するために、両氏が選んだのがデザイングリッドです。通常は裏方のグリッドラインを、ひとつのデザイン要素としています。
メインビジュアル、製品名、キャッチコピー、ロゴを、グリッドラインと組み合わせることで、メディアによってタテヨコの比率が異っていても、フレキシブルに対応することができます。
ロゴもアウトライン風のデザインに

ロゴをあえてアウトラインバージョンにしてるのは、おそらくデザイングリッド感を確実にするためでしょう。
発音記号と炎をモチーフにして「言い伝え」を表現したデザイン

Amateur(dot)rocksのふたりがドイツのベルリンを拠点として活動していたときに、アディダスのキャンペーンへの参加を持ちかけてきたのが、アムステルダムのクリエイティブスタジオStudio Loreでした。そのStudio LoreのブランディングもAmateur(dot)rocksは手がけています。
発音記号を用いるというユニークなアイデア

スタジオ名の「lore(ロア)」は、言い伝えを意味する単語です。物語や神話、伝説を口伝えする、という行為がブランディングのヒントとなりました。文字ではなく音声で伝えるということから、発音記号をタイポグラフィに使うというユニークなアイデアが生まれます。

国際音声記号(IPA)に基づいて、Sharp Type社の書体Oggをベースにしたカスタム書体を作りました。Studio Loreのサイトには、「シェアされなければ物語ではない」「炎をあおる」といった同スタジオのフィロソフィーがこの独特の書体で掲げられています。
デザインのキーエレメントは「炎」

また、ひとは太古から火のまわりに集まってものがたりを口伝えしてきました。このことから、キーエレメントとして火が採用されました。
WEBサイトの「LORE」をクリックすると炎の写真が現れます。さらにウィンドウ右下の「FIRE」をクリックすると、おそらくは同スタジオにとってネガティブな単語が並んだページが表示されます。このページでは、マウスクリックで火の写真を画面に貼り付けて遊べます。現代のキャンプファイヤーに火をつけて、文化の垣根を超えた物語で会話をはずませることがStudio Loreの役割だ、ということを印象づける仕掛けです。
幾何学的なタッチで表現する個人的体験


ブエノスアイレス近郊のティグレで2018年に開催されたフェスティバル「Periferia」のイベントアイデンティティをAmateur(dot)rocksは手がけています。デルタ地帯の島でおこなわれた音楽とアートのフェスのキービジュアルは、等高線で描いた島のような図形と揺れ動く格子模様のふたつです。
水面や島をイメージさせるデザイン
会場が三角州であることから「島」をモチーフにした図形となっていると同時に、これはフィスティバルに参加するひとりひとりの象徴でもあります。揺れ動く格子模様は水面から着想を得ています。そして、このふたつの要素を組み合わせることで、各人各様の体験を表現しているのです。カラーパレットは、アルゼンチンの夏空の色を反映しています。
エッジがわずかに丸みを帯びたやわらかいサンセリフ系の書体、幾何学的なライン。この組み合わせによるミニマリズム的アプローチのグラフィックでありながら、音楽とアートという、ひとりひとり異なるオーガニックな個人的体験を描いているところがおもしろいです。
SFとNASAと心理テストにインスパイアされたパッケージデザイン

アルゼンチンのマイクロブルワリーKerzeのビールのロゴとパッケージデザインは、SF映画の古典『2001年宇宙の旅』やNASAの伝説の「ワーム」ロゴ、性格診断のロールシャッハテストにインスパイアされた作品です。
2種類のビールにはそれぞれ「Luca’s Demon」「Supernova」という名前がつけられています。
「Luca’s Demon」のパッケージデザイン

もし「Luca」がキリストの使徒ルカのことであれば意味深なネーミングです。聖人といえどもその美味しさに逆らうことができないビールであることを、「聖ルカの悪魔」といっているのでしょうか。どのようにでも解釈できそうなあいまいなイラストの上に、飲む前からすでに酔ってしまったと思わせる不思議なロゴが大きくあしらわれています。
「Supernova」のパッケージデザイン

「Supernova」は超新星と訳され、大きな恒星が一生の最後に起こす大爆発のことです。こちらのデザインは、星のようにも、瞳のようにも、HAL9000のカメラのようにも見えます。形は違いますが、どことなくモノリスも彷彿とさせます。

NASAの過去のロゴ : Rafael Ben-Ari – stock.adobe.com
ロゴの書体は、1976年から1992年までアメリカ航空宇宙局(NASA)で使われていたロゴのデザインを踏まえたものです。ブルワリー名「Kerze」というワードロゴも前年のプロジェクトでAmateur(dot)rocksが作りました。
道で拾ったゴミをまとめた本
この「The Trash Book」は、ニューヨークの街に落ちていたゴミのスクラップブックです。いってみれば、ゴミだけでつづる思い出のアルバムといったところでしょうか。写真ではなく現物ですが。
“ここにはニューヨークならでは多様な文化や資本主義などが反映されている”
とAmateur(dot)rocksは言います。
“アイデアの素はオフィスの外にある”

彼らにとって、その土地の個性を透視するためのレントゲン写真のようなものなのです。アイデアの素はオフィスの外にあるとスタジオAmateur(dot)rocksは考えています。ひとびとが生活し行動している街頭から発送を得ているのです。

これからこのゴミ本を作りたい都市として、ベルリン、ニューデリー、東京、ブエノスアイレスがリストアップされているそうです。ニューヨーク版を作ったのが2016年ですので、もう新しい版はいくつかできているかもしれません。
デュオ(2人組)の制作体制が生む「相互チェック機能」
Amateur(dot)rocksが2人組のデザイナーデュオであることは、制作品質にとって構造的な利点があります。1人で制作すると、自分のデザインに対する盲点が生まれやすく、「これで完成」と判断した時点で見落としが残るリスクがあります。
2人体制では、一方が制作したものをもう一方がレビューする「相互チェック」が自然に発生します。この相互チェックが、タイポグラフィの微調整、配色のバランス、レイアウトの整合性など、1人では見落としがちな細部の品質を担保します。フリーランスが1人で活動している場合でも、信頼できる同業者に「仕上げ前のレビュー」を依頼する習慣を持つと、品質の底上げにつながります。
コンセプトを重視し、タイポグラフィを核としたデザイン
スタジオAmateur(dot)rocksのふたりは、南米、欧州、米国に拠点を移しながら仕事をすることで、グローバルで多様な視点を持てるようになりました。コンセプト重視であると同時にビジュアルの細部にこだわる姿勢は、その体験の賜物ではないでしょうか。
スタジオAmateur(dot)rocksは、視覚デザインとことばの結びつきを信じているといいます。そして、グラフィックデザインを強力なコミュニケーションツールとしてとらえつつ、作品づくりの核としているのはタイポグラフィです。
プロジェクトごとに要求されるトーンと視覚的デザインはさまざまですが、同スタジオが手がけたプロジェクトはすべて、タイポグラフィ、普遍性、力強さ、デザインしすぎない、という点で一貫しています。
ちなみにスタジオ名に使われている「amateur」は、一般に「アマチュア」と訳されます。日本語のアマチュアは、プロフェッショナルのレベルに達していない素人(しろうと)の意味で使われることが多いのではないでしょうか。しかし、本来の意味合いは、「愛好家」の方がニュアンスが近いです。アマチュアだからといって、かならずしもレベルが低いとは限りません。
同スタジオが「amateur」に込めたのは、アートやデザインに対する純粋な思いなのかもしれません。スタジオ名「amateur rocks」を勝手に解釈すると、「アマチュアってサイコー」です。また、「愛好家が転がる」とも訳せます。アートとデザインを愛するデュオが世界中を旅していることを表しているようにも思えます。
design : Amateur(dot)rocks (Germany)
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