ブラジル北西部のロンドニア州は隣国ボリビアに接しています。今回は、州都ボルト・ベーリョで活動しているグラフィックデザイナー Drielly Adriana 氏のデザイン例を紹介します。
主にブランディングとパッケージデザインを提供しているAdriana氏の特徴は、ミニマリズムを追求したブレない姿勢です。ソリッドで力強い作風は、ミニマリズムを突き詰めた先の可能性を見せてくれます。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。( Thank you, Drielly Adriana! )
伝統と喜びを感じさせるチョコクッキーのブランディング
ブラジル、サンパウロ州の「Dalla Dolci」は、イタリア伝統のチョコレートクッキーを提供しているクッキーショップです。
Dalla Dolciでは、クッキーを単なる甘いお菓子とは考えていません。クッキーを食べることは旅であり、楽しい思い出を作るチャンスだと信じています。Dalla Dolciのソーシャルメディアには次のような言葉があります。
「Dalla Dolciは、日常の瞬間を特別な体験に変えることに情熱を注いでいます」
ブランディングを手がけたAdriana氏は、ブランドアイデンティティのカラーパレットに、深いグリーンと落ち着きのあるピンクを選択。高級感のある化粧箱には、ポピー(ひなげし)の花をモチーフにしたシンボルマークとロゴタイプがあしらわれています。
オールドスタイルのローマン体で組まれたロゴタイプは、伝統を感じさせる気品のあるデザインです。「O」の文字がわずかに反時計回りに傾けられていることで動きが生まれています。ワクワク感を表現しているのでしょうか。
丁寧に作られた農業関連企業のビジュアルアイデンティティ
ブラジル北東部のマラニョン州で、農業畜産関連商品を販売している「Ortigas Produtos Agropecuários」は、地元の農家に35年以上サービスを提供してきました。
サービス内容は、製品や消耗品だけではありません。ドローンによる薬の噴霧など、農村部に生きるひとびとのための、革新的なソリューションも含まれています。
ブランド「Ortigas」のビジュアルアイデンティティに必要な属性としてAdriana氏がピックアップしたのは次の7点です。
時を超えた永続性・ミニマリスト・力強さ・プロフェッショナル・洗練・唯一無二・男性
書体「アバンギャルド」(Avant Garde)を思わせるロゴタイプは、「t」「g」などを見ると、既存のフォントに独自のデザイン処理がほどこされているのに気づきます。とくに「g」に追加されたドットは小さいにもかかわらず印象的です。
木をモチーフにしたと思われるシンボルマークは、水平のバー、幹、枝の太さを少しずつ変えてあります。水平のバーは大地の象徴でしょうか。
農業関連のシンボルマークとして樹木をモチーフにする場合、葉や実、花、芽などを描いて、豊潤さや実りを表現することが多いように思います。Adriana氏のデザインのように、幹と枝だけで構成するのは勇気のいることかもしれません。
Ortigasは、生産者にさまざまなソリューションを提供しています。そのソリューションによって導かれる、将来の成長・発展への道筋が表現されているように感じます。
ミニマルで力強いシンボルを求めた結果、抽象性が高まりました。無駄を削ぎ落とした結果の豊かさこそ、ミニマリズムのひとつの優位点であり魅力でしょう。
このシンボルマークは、ロゴタイプと並べたときの絶妙なバランスをみても、よく練られたデザインであることがわかります。
ミニマリズムで訴求する先進的美容サロンのブランディング
ボルト・ベーリョで2016年に開業した美容サロン「Making Of」の目的は「美容院のイメージを変えること」でした。
ブランディングを手がけたAdriana氏は、美容サロンMaking Ofは「洗練されたハイセンスな空間で、この地域で最高のプロフェッショナルが上質で快適なサービスを提供」していると紹介しています。
ヘアメイクに加えて、スキンケアやヘアケア、エステティック、メイクアップなどのサービスを提供しています。国内外の高品質コスメ製品も扱っています。
ブラジルの消費者も日本と同じように、英語のブランド名からは、高級感や品質の高さ、現代的な雰囲気、異文化の魅力、信頼性の高さなどを感じるようです。とくに、ファッションやコスメティクスの業界では、英語名を採用する傾向があります。
ですから、「Making Of」という英語のブランド名は【これまでにない美容サロンである】というブランドのコンセプトを、ファッションやトレンドに敏感な若い世代のターゲットに向けて、強くアピールしています。
美容サロンMaking Ofのメッセージは、「お客様の内にある美しさを引き出し、ひとりひとりの魅力が高まるよう変身させる」というものです。これをAdriana氏は、ミニマリズムによるデザインで具現化しました。
キービジュアルはモノクロになっています。モデルの衣装も柄が目立たないものです。その上に、ウェイトの軽めのサンセリフ書体で組んだロゴタイプを配置しています。大文字で組んだ中で、「f」だけ小文字にして変化を付けました。これによって、エレガントでフェミニンな印象が得られます。
Making Ofのヴィジュアルアイデンティティは、ミニマルでシンプルなデザインにすることで、トレンドなどに左右されない、時代を超えたブランドとなることを目指しているのです。
医療環境専門の建築家のための伸縮自在なロゴデザイン
「A+F Architecture」は、病院や診療所、研究所などの医療に関わる建築プロジェクトを専門としてる企業です。
A+F Architecture社が追求しているのは、技術面や機能面だけではありません。利用者の健康促進のために、居心地がよく視覚的にも美しい空間の創造を目指しています。技術的な専門知識と人間の感性を組み合わせることで、革新的でサステナブルなソリューションを提供します。
ビジュアルアイデンティティ開発にあたっての課題は、クライアントの洗練さを伝えることができ、それと同時に、クライアントにとって使いやすいデザインは何か、ということでした。Adriana氏は、シンプルなフォルムと明快なビジュアルで、この課題を解決します。
企業名「A+F」が、とても独創的な仕方でビジュアルアイデンティティに仕立て上げられました。ロゴタイプといっていいのか、モノグラムといっていいのか、シンボルマークと呼ぶべきか迷ってしまいます。
「A」と「F」をつなぐプラス記号は伸縮自在です。販売促進ツールやプロジェクトの提案書、名刺、ポートフォリオなど、メディアのプロポーションが異なっていても、プラス記号の水平線の長さを調節することで、あまり悩まずにレイアウトできます。
そして、このデザインのすぐれた点は、ロゴタイプの比率が異なっていても、一貫したアイデンティティが保たれているということです。
ミニマリズムが生み出すピラティスクリニックの多様なデザインエレメント
「Arteaga」は、ピラティスを軸とした総合ヘルスクリニックです。ピラティス専門の理学療法士に加え、筋膜リリース専門の理学療法士や、健康のための食事をパーソナルにサポートしてくれる栄養士もいます。
伝統的なピラティスと健康のための技術を組み合わせることで、身体、精神、感情の良いバランスを得られるよう、来院者をサポートするのがクリニックの目標です。
ビジュアルアイデンティティを請け負ったAdriana氏は、ミニマリズムのアプローチをとりながら、ユニークでバラエティ豊かなデザインを実現しました。
アイデンティティカラーに選ばれたのは、藤色を思わせる淡いパープル。やや青味の強いライラックとも言えるこの色は、落ち着きと静けさを伝えることを意図しています。
カラーパレットは、このパープルと白、ライトグレーです。印刷物によっては、シルバーの箔押しが組み合わされる場合もあります。
また、とても特徴的なシンボルマークは、ダンスと動きを表現しています。
Adriana氏は、シンボルマークを構成している3つのエレメントを使って、ロゴとは別に、複数のシンボルを作り出しました。あるものは腕や足のように見えます。肩甲骨や筋肉を思わせるものもあります。八芒星(オクタグラム)のような図形や真円は、精神的なバランスを象徴しているのでしょうか。
9つのシンボルをメインビジュアルとしたポスターには、クリニックの名前の下に「動きでバランスの保たれた体と心」というコピーが添えられています。
design : Drielly Adriana (Porto Velho, Brazil)
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