香港のデザインスタジオAland Studioは、グラフィックデザイナーのAlan Wong氏が2018年に創業しました。同スタジオのデザインからは、落ち着きのあるモダンさといったものを感じます。英文字と漢字を使ったタイポグラフィもアイデアのヒントとなるでしょう。150年以上英国領だった香港ならではの東西文化の融合が、その背景にはあります。
Wong氏はオーストラリアのロイヤルメルボルン工科大学(RMIT)でコミュニケーションデザインの学士号を取得。ブランディングやパッケージデザイン、グラフィックデザインを中心に活動しています。ゴールデン・ピン・デザインアワードやインターナショナル・デザイン・アワード(IDA)を受賞したプロジェクトなど、同スタジオの制作例を見てみましょう。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。(Thank you, Aland Studio!)
環境にやさしいハンドメイド石鹸のリブランディング
アロマセラピストで自然療法治療士のAda Lui氏が2008年に香港で創業したブランドが「Sisa Handmade」です。地球とからだにやさしいハンドメイド石鹸は、石油由来の成分や動物性油脂を使わず、人工添加物を含まない製品を提供しています。動物実験も排除したヴィーガン対応です。合成香料を使っていない石鹸やワックスからは、天然のアロマの香りが漂います。
Sisa Handmadeの石鹸には、さまざまなバリエーションがあります。香りや成分だけでなく、石鹸そのものの外観もさまざまです。ベーシックなバルク・コレクションには、シックなカラーバリエーションが揃っています。また、絵本のようなイラストが描かれていたり、精密に彫刻されたフラワーボックスのような製品もあります。ハロウィンに作られるのは、かわいらしいモンスター石鹸です。
DNAにヒントを得たロゴデザイン
スタジオAlandがリニューアルを手がけたSisa Handmadeの新しいロゴは、2021年の10月に公開されました。
ロゴタイプは、大文字で組んだ「SISA」です。「S 」と「A」のストロークには独特のくびれがあります。「I」の末端は、とがった部分と微妙なカーブが組み合わさって、ななめになっています。これは、書道の「打ち込み」と「止め」のように見えます。
もう一度ロゴタイプを見てみると、ほかの文字のストロークも「I」と同じであることがわかります。「I」の線を長く伸ばしたリボンを、やわらかくねじりながら、折り曲げたようなデザインです。くびれたリボンのようなストロークは、Sisa Handmadeが2008年の創業以来持ち続けてきた、石鹸とフレグランスづくりのDNAを表現しているのです。
文字をアウトライン化したシンボルマーク
ロゴタイプの頭文字「S」をアウトライン化したものがシンボルマークです。ソリッドなロゴタイプにくらべると、さらにDNA感が出ているように思います。また、ワイヤーアートのような繊細さも感じます。
もとはひとつの「S」なのですが、ふたつの「S」がからみ合ったモノグラムのように見えるのがおもしろいです。アウトラインは、交差することはなく、ひとつの閉じられた輪になっています。
アドビ社のIllustratorを普段から使っているデザイナーであれば、まず、あれをこうして、次に、これをああやって、と頭の中で手順を確認したくなるかもしれません。
パワーストーンの原石のようにも見える美しいハンドメイド石鹸には従来、スクリプト書体でブランド名「Sisa Handmade」が刻印されていました。そのため、オーセンティックでオーガニックな印象でした。ブランドリニューアル以降は、「S」のシンボルマークがひとつ刻印されているだけです。これまでの品位は保ちつつ、モダンさが加わりました。
弧を描くタグラインと角丸の長方形
リブランディングと同時に、ハンドメイド石鹸のパッケージのデザインもあたらしくなりました。
茶色の無地のボックスの表には、白いラベルが貼ってあります。長方形のラベルの左上だけが大きな角丸です。マット地のラベルには、シンボルマーク、タグライン、「Maker」の文字が、エンボス加工されています。石鹸の種類によって色の異なる封印シールが貼ってあります。
全体に、天然無添加で、肌にも心にも良い刺激をあたえる手作り石鹸にぴったりマッチした、オーガニックで高品質な印象のデザインです。
とても刺激的で美しい、といった意味のタグラインは、左上の角丸に沿ってカーブを描いています。1か所が角丸になっている長方形、角丸に沿ったタグライン、「S」のシンボルマーク。これらは、ブランド・アイデンティティの要素として、ビジネスカードにも展開されています。
シンボルマークとテキスト要素は、ビジネスカードでも、質感のあるマットの用紙にデボス加工されています。ハンドメイド石鹸を思い起こさせる、やさしく品のあるデザインとなっています。
体と心のウェルネスにマッチする茶館のブランディング
香港のティーハウス(茶館)は、英国のティールームと中国の茶館が融合した、独特の空間です。ウーロン茶やプーアール(ポーレイ)茶、ジャスミン茶など、青茶、黒茶、緑茶、紅茶、黄茶、白茶といったさまざまな種類のお茶が楽しめます。茶館では、それぞれの茶葉に合った本格的ないれ方で提供されます。
お腹を整えたり、脂肪を洗い流すなど、お茶にはフィジカルな効能もあります。また、茶館でゆっくり過ごす時間そのものが、心の平穏にも効果的です。最近では、作法にしたがってお茶をていねいにいれながら、自分を見つめる「茶瞑想」もおこなわれています。
素朴なロゴタイプをモダンにリニューアル
香港のティーハウス「一葉茶舎(One Tea Room)」のリブランディングをスタジオAlandが手がけました。
以前のロゴタイプは、楷書体のフォントで組んだグリーンの文字です。白いフチくくりがあり、ダークグリーンのソリッドな影で文字を浮かせています。紙をカットアウトしたようなデザインで、クラシックな印象です。
スタジオAlandのデザインでは、ロゴタイプにシンボルマークとブランド名の英語バージョンが追加されました。漢字のブランド名「一葉茶舎」には、モダンで上品な書体が使われています。英語ブランドのセリフ書体も漢字ロゴタイプにマッチしています。
お茶をいれるプロセスを凝縮したシンボルマーク
スタジオAlandは、お茶をいれる前の棒のような状態の葉と、お茶を入れた後に開いた葉を組み合わせてシンボルマークにしました。これは、ブランド名「一葉」を図案化したものです。
また、それと同時に、お茶を入れて味わうプロセスが凝縮されています。その時間で得られる心の平穏とマインドフルネスが表現されているのです。
太さの異なる2本のボーダーが、繊細なデザインに力強さを加えています。黒に近いダークブルーのパッケージやビジネスカードに、ゴールドで箔押しされたシンボルマークは、高級感があり、とても印象的です。パッケージには、茶の種類ごとの茶葉の形をモチーフにした幾何学的な図形が、細いラインで箔押しされています。
この一葉茶舎(One Tea Room)のプロジェクトで、スタジオAlandは、中華圏を対象とした台湾発祥のゴールデン・ピン・デザインアワードでゴールデン・ピン賞を、米国のインターナショナル・デザイン・アワード(IDA)で銀賞を得ています。
ダンス集団のブランド・アイデンティティ制作例
香港の「不加鎖舞踊館(Unlock Dancing Plaza)」は、王榮祿(Ong Yong Lock)氏と周金毅(Elsie Chau)氏が2002年に創設したコンテンポラリー・ダンス・カンパニーです。同カンパニーは外部とのコラボレーションも積極的におこなっていて、日本のカンパニーとも共同制作、共演したこともあります。
活動コンセプトを表現したロゴタイプ
ヘルベチカやノイエ・ハース・グロテスクのような書体を彷彿とさせるロゴタイプの文字のいくつかは、ストロークの一部が切れています。漢字のロゴタイプも同じく部分的につながっていません。
不加鎖舞踊館は、舞台の制約を解き放ちながら、ダンスのあたらしい見方や体験を追求しています。開かれた空間、そしてパフォーマーとオーディエンスとのコミュニケーションを重視しています。
スタジオAlandは、同カンパニーのコンセプトを表現するために、英文字のロゴタイプでは、「O」「D」「A」「P」といった閉じられている文字では、解放(アンロック)するために、ストロークの一部を開きました。漢字も同じく、閉じられた部分は解放されています。
空間を重視していることを表現
ビジネスカードのオモテ面の中央にはロゴタイプが印刷されています。黒を背景にして黒い文字が浮かんでいます。
ロゴの周辺は、アイデンティティカラーであるオレンジで塗りつぶされています。このため、極太のオレンジのフレームの方がメインで、その中央のネガティブスペースにロゴタイプがレイアウトされているかのようです。
これは、空間(=ネガティブスペース)にこそ、重要なもの(=ロゴタイプ)があるという、ダンスカンパニーのコンセプトを表現しているのです。また、ひとびとの固まったマインドセットを解放(アンロック)するという、スタジオAlandのアイデアでもあります。
design : Aland Studio (Hong Kong)
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