売り場で商品選びをする際、なにを基準に商品を選択しますか?商品への予備知識があれば、情報に基づき、自分の趣向に合ったものを選ぶでしょうが、それがなかった場合はどうでしょう。目に入ってくるのは、「見た目」と「価格」が主なものではないでしょうか。
売り場において、主張できるデザインの条件の一つに『識別力の高さ』が挙げられます。それは、同業他社のさまざまな商品の中にあっても埋もれない、視覚的な自己主張の強さとも言いあらわすことができます。また、それらパッケージデザインの中で、ブランドを識別する視覚的情報の中心になるのがロゴデザインであることも忘れてはいけません。
今回ご紹介するのは、ウズベキスタンでロゴデザインやマーケティング、ブランディングを専門とするデザイナーJamal Akbarov 氏のプロジェクトです。彼は、バーレーンやアラブ、中央アジア、ロシア地域の市場に詳しく、地域での競争力あるブランドづくりを得意としています。彼の手掛けたデザインは、シンプルでありながらインパクトが強く、一度目にすると記憶に残るような識別力の高いものが多く見られます。どのようなロゴデザインで消費者の注意を引きつけるのか、具体的な作例を見ながら考えていきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Jamal ! )
他にないキャラクターとカラーで差をつけるヨーグルトドリンクのロゴデザイン
「ESSI」は、ウズベキスタンの乳製品メーカーが新たに開発したヨーグルトドリンクのブランドです。数ある競合製品との差別化を図るため、シンボルデザインとなるキャラクターと、パッケージデザインのカラーリングにこだわり、ブランディングがすすめられました。
基本的にベースカラーはブラック。黒地にシンボルデザインとなっている牛をモチーフにした図柄が、フレーバーごとに色を変えて配置されています。
通常、ヨーグルトや乳製品のロゴやパッケージデザインには、緑の牧場や、青空、豊満な牛たちやミルク缶など定番とも呼べる、「ミルク」をイメージさせるイラストや図柄がよく使われています。しかしながら、このESSIのシンボルデザインは、ウズベキスタンの国土のかたちを思わせるような、カクカクとした横長の図形。これまでの乳製品パッケージにおける、丸く豊かな印象の牛像とはかけ離れたものです。それに加え、背景が「ミルク」と聞いて誰もが浮かべる「白」の反対色である「黒」。従来の乳製品のイメージを大きく打ち破った斬新なロゴデザインです。
商品パッケージのデザイン展開
パッケージの表側のデザインは、ロゴマークと、その下に種別をあらわす「YOGURT」の文字。フレーバーを示す文言の下にリアルなフルーツのイラストが描かれています。
裏側は、同じくロゴマークの下に「KEFIR」とあり、ヨーグルトドリンクの中にどの程度ケフィアが含有されているか吹き出しを使ってデザインされています。
通常、フルーツや野菜を使ったジューシーなドリンクのパッケージでは、黒が使われることはあまりありません。特に、乳製品ともなればイメージは完璧に「白」です。しかしながら、抽象的な牛のキャラクターや、黒の背景に美しく映える瑞々しいフルーツのイラストは、従来の乳製品から一歩進んだ高級感や質の高さを感じさせます。このような斬新なデザインがプラスのイメージとして感じられるのは、ロゴデザインやパッケージデザインのクオリティの高さが大きな要因の一つと言えるのではないでしょうか。
ウェットティッシュのロゴマークを中心としたリブランディング例
以前から市場でウェットティッシュのブランド展開を行ってきたRio International社。既存商品の認知度の低さから、ブランドのビジュアル・アイデンティティを一新することを決めました。コンセプトはこれまでと変わらず「太陽」とし、加えて、よりシンプルで純粋なイメージを必要としていました。
ロゴデザインの大幅なリニューアル
そこで考案されたのが、右側のロゴマークです。左にある過去のデザインと比べるとその違いが一目瞭然ですね。
まるで食べ物かなにかのロゴマークのように、アーチを描く赤い枠の中に納まっていたロゴタイプは、すっきりと黒一色で描かれ、大文字と小文字の両方を使うことでメリハリがつき、デザインとしてまとまっています。
シンボルマークの太陽は、あえて曲線を使わず正方形を基本に設計されています。よく見ると中心に十字型が見て取れ、ブランドカラーのグリーンの印象も手伝い、モダンで衛生的なイメージに仕上がっています。
各種商品パッケージとロゴ
製品によりそのターゲットの違いから、パッケージデザインのイメージは大きく異なりますが、どのパッケージにあっても馴染む、この新ロゴデザインは、汎用性がとても広く、有用なデザインであることがわかります。
他社との差別化を念頭においたエナジードリンクのブランディング例
世界的にも市場規模が大きいエナジードリンクは、その用途から嗜好品に近く、とくに若い世代のユーザーは、購買への動機付けがブランドイメージに強く影響されている部分があります。
そのような市場の状況下で後発としてスタートする「18+」は、競合商品とイメージを分かちつつ、より鮮烈なエナジードリンクのイメージを発信するため、ブランドイメージを慎重に検討する必要がありました。
まずは、パッケージにも大きく配置してあるロゴデザインです。品名の「18+」を強くシンプルに表現したロゴマークは、単純ですが、数字と記号の組み合わせというだけで、売り場で十分目を引く存在感があります。そのシンプルなロゴマークを、赤とシルバー、黒という注意を引きつけるカラーリングでデザインし、なおかつ、ドリンク自体を「電池」を思わすような外見に仕立てているところがポイントです。『エナジードリンク=人間のエネルギー』という意味合いをパッケージデザインを通じて表現するという、ユーモアのセンスを感じる仕掛けが施されています。
ブランドのアートワーク作成例
広告戦略におけるビジュアルイメージは、強さをあらわす『虎』、熱狂を象徴する『ナイトクラブ』、スピードを感じさせる『バイク』の3つをモチーフとし、webやポスターなどさまざまな媒体に展開しています。これは、競合が『炎』や『波』、『電気』などをモチーフにした広告展開を行っていることに対抗する為とられた措置でもあり、18歳以上を対象とするターゲティングを、より明確にするような具体的な事象をモチーフとしています。
まとめ
物が豊かになればなるほど、市場には同類の製品が増え、やがて淘汰され消えていく製品もでてきます。そんな中で勝ち残るには、商品自体の品質を向上させることはもちろん、売り場や広告で、他社製品と確実に差別化できる識別力が必要不可欠と言えます。
パッケージデザインは、消費者が手にする最終段階の広告であり、購入するかを左右する最後の関門ともいえます。そのパッケージデザインのベースとなっているのは、ブランドコンセプトを体現するロゴデザインを中心としたビジュアル・アイデンティティです。ロゴマークをデザインする段階から、パッケージやポスター、チラシなど多岐に渡る展開を見据え、それらに順応することができるロゴマークを制作することが、ブランディングの第一歩なのではないでしょうか。
design : Jamal Akbarov ( Uzbekistan )
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