聴覚で感じる音楽と視覚で感じるデザイン。似て非なるこの2つのジャンルは、いつの時代も互いに影響を受け、共に歩んできました。とくに、ミュージシャンなどのアーティストのプロモーション活動には、ビジュアル的な要素は必要不可欠。彼らの音楽を聞いたことのない人にも、ビジュアルはそのイメージを伝え、音楽に触れるきっかけをもたらします。また、すでに聞いたことのあるリスナーやファンには、彼らの存在がわかるビジュアルを用意することで、関連した情報を判別しやすく、新たなニュースを届けやすくします。そうしたアーティストのビジュアル面を担うのは、写真やロゴマークなど、一目でそのアーティストであることを示唆するデザインです。
今回は、ニューヨークで活動しているインディーズバンド「Affinity」のロゴデザイン作例をご紹介したいと思います。制作したのは、ポルトガルのデザインスタジオ「Creative Carbon」のデザイナー Rafael Maia 氏。どのような手法でアーティストの個性をカタチにしていくのか、具体例を見ていきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Rafael ! )
より多くのリスナーに届けたいという想いをロゴへ
Affinityは、俗に言う『プログレッシブロック』に属するバンド。プログレッシブロックというと、古くは、キングクリムゾンやピンク・フロイドなどが有名所ですが、現代ではその裾野は広く、さまざまなジャンルの音楽からインスピレーションを受け、実験的で先鋭的な音楽スタンスを持つロックミュージシャンを包括してプログレッシブロックと呼んでいるようです。
プログレッシブロックというと、ロックのリスナーにとっては少々難解で敷居が高いイメージを持っている人も少なくありません。Affinityは、そういったイメージを払拭し、より多くのリスナーに「今」のプログレッシブを聞いてもらいたいという思いから、今回のロゴ制作に至りました。
Affinityは、豊かなメロディラインと、鋭いボーカルが印象的なロックバンド。また、ジャンルを超えたさまざまな音楽から影響を受け、実験的な楽曲を手掛ける先進的な一面も持っています。ロゴマークをデザインするに際し、バンドの持つ「鋭さ」と「先進性」、また多ジャンルとの「親和性」をコンセプトにカタチが考えられていきました。
オリジナルのロゴタイプで形式されたロゴデザインは、文字一つ一つの鋭さと自由なアレンジが印象的です。文字それぞれが、バラバラの個性を持っているようにも見えますが、全体を絵柄として見た時、一つのマークとしてよくまとまっており、一体感を感じます。
一体感を表わすのに大きな役割を果たしているのは、「A」「F」「T」をつないでできた長い横のライン。このラインで文字通しをつなぎ、一つの絵柄に見せています。また、「A」「N」「Y」は右から左に突き刺すように伸びるインパクトの強い斜線を持っており、3文字共に角度を合わせることで協調性を表わし、「i」と「i」のシンメトリーな角度もセンターにアクセントを作りだしています。
角度へのこだわりは、文字の細部にまで及びます。文字の端の角度を75°と45°に揃え、黄金比をロゴグリッドに使用することで、尖ったデザインを演出しながらも、デザイン的な安定や統一感をしっかり図り、一つのデザインとして完成されたものに仕上げています。
デザインとして安定したロゴマークは、どのようなメディアにおいてもイメージを損なわない、広い汎用性を持っています。アーティストのロゴマークは、CDジャケットやポスター、プレスリリースやweb、グッズなど幅広く展開し、多くの人の目に触れます。どのメディアにおいても、一定のクオリティーと同一のイメージの共有を図ることは、アーティストのイメージ戦略の上で非常に重要なことといえるのではないでしょうか。
まとめ
Affinityのロゴは、一文字一文字の個性を尊重しつつ、要所要所で協調する絶妙なバランスで成り立っています。それはデザインだけでなく、バンドそのものの音楽性にも通じるコンセプト。
アーティストは、音楽でも絵画でも、自身のビジョンを持っています。ロゴデザインはブランドの看板のようなもの。アーティストのロゴを作る際は、彼らが持つ個性や目指すものを理解し、それに合致したデザインを提供したいですね。
design : Rafael Maia – Creative Carbon ( Portugal )
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