東京から飛行機で約四時間の身近な外国である台湾。親日的な国で、観光旅行で訪れた方も多いことかと思います。台湾は様々な外来民族との関わりがあり、複雑な文化持っている国です。ここ数年、台湾政府は自国のアイデンティティーをより確立するために、多くの政策を取り組んでいます。その重要な政策のひとつに挙げられるのが『デザイン』。2016年の「World Design Capital」には首都台北が選ばれ、各種の関連イベントを多数開催してきました。
現在、大学や専門学校のデザイン学科はとても人気があり、何人もの優秀な若手デザイナーを世に送り出しています。
そんな台湾デザイン界において、今日皆さまにご紹介するのは、台北でフリーランスのグラフィックデザイナーとして活動するEcho Yang 氏の作品です。デザイン学校として名高いCollege of Design – Shih Chien Universityのコミュニケーションデザイン科を2003年に卒業し、グラフィックデザインを主に、ブランディングデザインやデジタルアート、アニメーションの製作、書籍やCDパッケージのデザインなど、幅広い作品を多数生み出しているデザイナーです。
彼の作品の特徴は、どこか懐かしさを感じさせるアジア的な感覚と世界に通用するデザイン能力を融合したもの。一連の彼の作品を見ていきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Echo Yang! )
工業都市とのコラボレーションポスターデザイン
最初にご紹介するのは、ポスターのデザイン『工廠春聯 Renewal』です。
『工廠春聯 Renewal』は、地場文化の推進を施すためにデザインスタジオDDH社が立ち上げたイベント「プロジェクト193」において、Yang氏がポスターデザインでコラボレーションしたものです。
対象となったのは台湾のSanchung市。古くからあらゆる種類の機械加工工場が所狭しと立ち並ぶエリアですが、金属や暗い色で塗装された壁で構成される街並み景観の中に、新しい年の到来を祝い、華やかな雰囲気を醸し出すことを目標にポスターのデザインがなされました。
Yang氏は3種類のポスターをデザインしています。それぞれのポスターに用いたモチーフは「新春」「旋盤加工」「金属のメッキ」の三点です。金属加工を主とする工場の業務をイメージさせる新しくデザインされた書体に、新年を感じさせる意味合いを上手く構成させて、それぞれのポスターが仕上がっています。
基本のカラーリングには、華やかさやおめでたさを喚起させる赤色と金箔色を使用。工場内部や街並みを構成するグレーを基調とする壁をバックに、このポスターを一枚貼るだけでぱっと目を惹く効果を与え、新年のお祭りを意識させる様相となっています。
新春をモチーフとした「SPRING」のポスターは、「春」の字を電熱コイルで表現したもの。
次の「HAPPINESS」は、「幸福」の文字を旋盤で作り上げています。
また、「WELL-BEING」のポスターは、金属メッキ仕上げの形状で「福」の文字が出来上がっていますね。
縦向きに配列した英字と中心のデザインされた形状文字の組み合わせも実に見事になされており、バランスのとれた秀逸な作品です。
漢字を主役にしたデザイン
デザイン界において世界的にマジョリティーの高い文字は英字フォントですが、最近では日本、中国、台湾など漢字を使う国以外の欧米諸国でも漢字を用いたデザインの人気が非常に高まっています。
英字フォントに比べ、漢字は欧米人には 「エキゾチックで未知なもの」、私たち日本人には親しみやすく「和」のイメージを彷彿させます。ただ、漢字自体が線と角で成り立っているものが多いため、少々固いイメージを与えがちです。しかし、デザインの組み方次第では、様々な表情を作り出すことを可能とし、デザイン領域を広げるのに一翼を担うのが漢字です。また、漢字を使ったレイアウトの大きな特徴には、横書きでも縦書きでも容易に組むことが出来ること。縦横に配しても可読性に優れ、視覚的にも安定することが挙げられます。
Yang氏は、漢字を単独に使ったり、上記の『工廠春聯 Renewal』ポスターのように英字と組み合わせたりしながら、漢字の特色を最大限に生かした様々なグラフィックデザインを生み出しています。
1.旋盤加工で作られた木製品展覧会のブランディング&デザイン
『跳台與木器 Tiaotai & Woodware Visual Identity』は、2017年11月に台北市で開催された旋盤加工で作られた木製品の展覧会イベントのプロジェクトです。数々の貴重な木製工芸品に加え、台湾の木材産業の歴史を刻んだ「Tiaotai」と呼ばれる木工旋盤機械の説明や展示が行われ、Yang氏は展覧会全般のグラフィックデザインを担当しました。
この作品の特徴は、展覧会のタイトルであり、木片や木の肌を感じさせるタイポグラフィーを作り上げた「跳台(Tiaotai)」「與(そして)」「木器」の三語です。
この三語を、ポスターや会場内サインには縦表示、ポストカードには横表示と、デザイン媒体によって配置方法を変えながら使用されています。
繊細に描きこまれた製作風景の画とシンプルでストイックな様相を持つ漢字タイポグラフィーの調和が成された作品です。
2.台湾女性シンガーのアルバムジャケットデザイン
『You Lovely Bastard』は2014年の5月にリリースされた台湾女性シンガー 、魏如萱 (Waa Wei)のアルバムパッケージのデザインです。
黒色のベースカラーリングと人物画像で構成されたパッケージですが、まず目につくのが、曲のタイトルである漢字(と英字)の並べ方です。一見すると、水滴のような、またはある種の記号・信号のようにも見受けられ、とてもエレガントな雰囲気を奏でています。
歌詞を表示しているページの構成は、漢字の持つ固さを上手く活かし、整然とした趣です。
採用されている各種の画像とそれに見合う文字配列の組み合わせ、黒色に加えてピンク色をアクセントとして使ったカラーリングなど、一貫して上品で洗練されたパッケージデザインです。
Graphic & Packaging Design : 楊維綸 Echo Yang / Photography : 吳仲倫 Chung Lun Wu / Image Art : 鄭婷 Ting Cheng
同じシンガー魏如萱の別のアルバムデザイン『魏如萱 waa wei – 末路狂花 Run! Frantic Flowers!』でYang氏が試みたのは、前記の『You Lovely Bastard』とは一転して華やかさや可愛らしさを表したものです。『You Lovely Bastard』のデザインが黒をベースとした「静・落ち着き・整然さ」のイメージを醸し出したのに対し、こちらは赤をベースに「明・晴れ晴れしさ・躍動感」を感じさせられるデザインです。
柔らかい手描き風な漢字の採用や、漢字・英字の配列を歪ませたり、各段落の文字の位置を微妙にずらせたりと、動きのある構成を全体的にとっています。
一般的にこのようなイレギュラーな組み方をすると、概して煩雑なデザインに陥りがちですが、Yang氏が行ったのは、赤や白色の背景の面積を充分に考慮しながら視覚的なバランスを上手に取ったレイアウトです。
イラストレーションや画像の選定、各ページの構成の方法からも高いデザイン性が伺える作品です。
Graphic & Packaging Design : 楊維綸 Echo Yang / Photography : 鄭婷 Ting Cheng
3.セレクトショップのブランディング&パッケージデザイン
『花室製造 Maison De Waa』は、セレクトショップMaison de Waa社のブランディングとパッケージデザインです。
ロゴマークには、裸の女性とネコが手を取り合って走っている絵柄に、社名「maison de waa」の小文字と漢字名「花室製造」を組み合わせた各バージョンをデザインしています。カラーリングは白と黒のモノクロームを採用。すっきりとしたシンプルなデザインですね。
このロゴマークを全面に採用したハンドメイドソープ「nepenthe」のパッケージを見てみましょう。
ロゴマークに対応するように商品名も小文字で統一。背面の原料や生産場所等の記載には、繊細な英字フォントにはアンダーラインを引き、漢字部分は可読性を高めた構成が施されています。まさに 洗練した文字配列デザインと言えるでしょう。
まとめ
2016年の台湾政府の総統府のデザイン常設展では、台湾を代表する4人のデザイナーの一人として Echo Yang氏が選ばれ、そのポップアップストアには総統府のために制作した数々のオリジナルグッズが並び、話題となりました。
高いデザイン能力で漢字を上手に作品の中に取り上げ、アジア(台湾)テイストを表現するEcho Yang氏の作品は、世界中のデザイナーから注目されています。Yang氏が今後どのような制作活動を繰り広げていくのか、とても興味深いです。
design : Echo Yang ( Taiwan )
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