見つけやすく食欲をそそる暖色系の色彩が主流
時間に追われるビジネスマンにとって、ハンバーガーショップは移動中に昼食をとりながらスマホなどで情報をチェックする場所。包装紙でくるまれたバンズを片手に、手帳をチェックしているスーツの男性もいます。チャージするのは空腹だけでなく、ノートパソコンの電源も大切。コンセントのある席を確保することは、モバイラーの死活問題ともいえます。そんなビジネス戦士とともに、中高生や主婦と子供たちには、安い費用で食事はもちろん会話を楽しめる場所です。
一方でノイズキャンセラ-機能のあるヘッドホンで音楽を聴きながら、資格取得のために熱心に参考書とノートで勉強している学生もいます。デートの語らいに訪れている若者も見かけます。
牛丼屋は、時折ふと食べたくなる和食の味が魅力。ためらわずに入ることができる親しみやすさが大切です。最近では、お酒を提供する店も多くなり、カップルで訪れる客や、女性ひとりで訪れる客も多くなりました。
ファーストフードといっても、さまざまな業態があります。ただ、共通していえるのは「あ、あった!」とみつけてもらえること。したがって、ロゴマークの色彩は視認性の高い黄色が多く使われます。寒色系の青などより、食欲をそそる赤やオレンジが使われることも特徴です。シンボルの象徴性やイメージもブランドの価値になります。
マクドナルドのMは店名じゃない?
Bikeworldtravel / Shutterstock.com ・マクドナルドの有名なロゴ
外食業界でガリバー的存在のマクドナルド。世界的な外食チェーンです。残念なことでに、異物混入などの問題や業績不振による店舗の撤退など、凋落ぶりが囁かれていました。しかし最近になって、ポケモンGOなどのコラボによって底打ちを反転したのではないか、という見解もあります。
マクドナルドの黄色い「M」といえば街を歩いて着るときやクルマを運転中にも目立ちます。「 I’m lovin’ it」のタグラインもよく知られています。しかし、意外に知られていないのは、「M」のロゴはMcDonald’sの頭文字のMではないということではないでしょうか。ロゴができる以前、店を目立たせるために看板のMcDonald’sの上に黄色い橋をイメージする「ゴールデンアーチ」というサインを設置しました。黄色は視認性が高く、工事現場でも使われるように注目を喚起させる色です。
その後、アーチは店の両脇に設置されることになり、2つのアーチを組み合わせた形から現在のロゴが生まれました。店名からロゴデザインが設計されたのではなく、店頭の物理的なサインが時間を経てロゴになった点では、とても興味深い成り立ちです。
マクドナルドのロゴといえば黄色が一般的ですが、世界に1箇所だけ青いロゴのマクドナルドがあります。米国アリゾナ州のセドナ店です。パワースポットとしても有名なセドナには、レッドロックと呼ばれる赤い岩山がたくさんあります。景観保護のために黄色を用いることができませんでした。したがって、ブルーのロゴのマクドナルドが誕生しました。
Vytautas Kielaitis / Shutterstock.com ・シックな店舗展開も
また、2010年頃からマクドナルドは高級店を展開するようになりました。「黒マック」と呼ばれる、内装が黒を基調とした大人向けの店舗も定着しています。色の与える効果をロゴデザインや内容等へ、巧みに反映させていますね。
モスバーガーのロゴは自然の恵みの安全・安心と手作り感を訴求
TK Kurikawa / Shutterstock.com ・モスバーガーのロゴ
赤いロゴマークが印象的だったモスバーガーですが、最近では黒で縁取った白抜きのロゴと背景の緑に変わっています。これは食に対する社会的問題に対して、「安心、安全、環境」の提供に努めるという企業姿勢を示したものです。
従来の「赤モス」から徐々に「緑モス」と呼ばれる店舗に移行を図ってきました。緑モスでは、屋根の色やサインを緑色にして、ナチュラル&ウッディな居心地のよい空間の提供に努めています。日本のハンバーガー業界で第2位のポジションにあり、社会的責任を視野に入れた企業姿勢が感じられます。ただし、現在でもCMや海外の店舗では赤いシンボルが使われているようです。利用しているときには気になりませんが、ふと疑問に感じるのは「モスってどういう意味?」ということ。マクドナルドは、店舗を始めたマクドナルド兄弟にあやかったものです。一方でモスには、ビジョンを示す意味があります。
MOSは 「山のように気高く堂々と」の「Mountain」、 「海のように深く広い心で」の「Ocean」、 「太陽のように燃え尽きることのない愛情を持って」の「Sun」。創業者の櫻田慧(さとし)氏が、そう願って命名したと言われています。その由来を知ると情熱の色に見えますね。とはいえ、かつての赤いMは、ホットドックにひねり出したケチャップのようにも感じます。
artzenter / Shutterstock.com ・モスバーガーの旧ロゴ
シンボルマークのMは食パンを意味しているといわれます。かつて「MOS BURGER」のロゴタイプには手書き風の袋文字が使われ、手作りのあったかさを表現していました。現在では、丸みを帯びたゴシック系の書体が使われています。古いロゴタイプは「MOS BuRGER」のようにUが小文字に見えました。真意は謎のようです。デザイナーが感覚的に大文字のUにしっぽを付けてしまったのではないか?と考える説が有力ではないでしょうか。つまりデザイン上の遊び心です。
信頼を築きつつ、斬新な商品開発を展開するロッテリアのロゴデザイン
Hanoi Photography / Shutterstock.com ・ロッテリアのロゴ
ロッテのカフェテリアとして創業したロッテリア。創業当初はハンバーガーがメインではなくロッテのアイスクリームでした。現在はハンバーガー業界第3位です。何度かロゴが変わっていますね。2006年4月24日から使われていたロゴは、店名の上に「Straight Burger」というタグラインが入り、フラットデザイン的なシンボル赤と黄色が使われて、図形の隙間でイニシャルの「L」で象ったシンボルでした。この形は「信頼の輪を広げたい。ロッテリア」というビジョンを具体化したもので、円形は「ハンバーガーの丸さ」「直球勝負の丸さ」「信頼の輪」を表していました。
TK Kurikawa / Shutterstock.com ・ロッテリアの旧ロゴ
2012年、40周年を契機にロゴマークを変更。2006年以前の黄色い「L」と赤い球体による「O」のシンボルに戻しました。ただし、以前のシンボルは平面の塗りつぶしでしたが、光沢に見えるような処理を施しています。ロゴタイプも親会社のロッテと統一されました。原点回帰をめざしながら、新しさを感じさせるデザインです。シニアの方にとっては、懐かしい印象があるのではないでしょうか。
ロッテリアではユニークな商品も数々提供しています。2005年には、関西のソウルフード、お好み焼きをハンバーガーの具として店舗限定で発売しました。ところが数日で販売終了。熱くて持てなかったからです。2013年には麺屋武蔵とのコラボレーションによって「ラーメンバーガー」を発売しています。評判にはなりましたが、味は賛否両論のようです。
赤は食欲を増進させる色であると同時に、アグレッシブ、革新的という意味もあります。やんちゃな黄色の印象と組み合わせたロゴで、ロッテリアの斬新さを示しているといえるかもしれません。ただし、お客様のことを考えていないわけはありません。ロッテリアのストローは赤が使われています。これはロゴが赤いことが理由ではなく、女性のお客様から「口紅がストローに付いたときに目立たなくしてほしい」という要望に応えたからだそうです。
王様とハンバーガーから、ダイナミックに変わったバーガーキングのロゴ
360b / Shutterstock.com
創業 1954年のバーガーキングは、マクドナルドと並ぶ老舗のハンバーガーチェーンです。日本における店舗数では、主要ハンバーガーショップのうち6位になります。
1位のマクドナルドは2,899店舗、2位のモスバーガーは1,349店であり、続くロッテリア、フレッシュネスバーガー、ファーストキッチン、バーガーキングは 500 店舗 以下です。歴史はありますが、日本における店舗数では小規模といえるでしょう。( 参考「マクドナルドの 復活」は本物か」PRESIDENT Online 2016 年 10月 28日http://president.jp/articles/-/20514)。
創業時にはロゴタイプだけでしたが、1957年に王様のキャラクターが飲み物を抱えたロゴに変わりました。まさにキング(王様) という分かりやすいイメージです。創業時の「とてつもなく大きい」という意味のワッパーは、バーガーキングの人気商品。まさにキングの風格といえるでしょう。その後、黄色いバンズの間に赤い店舗名のロゴタイプを挟んだデザインに変更しました。
さらに1999年から、周囲を青い弧で囲んで、背景のデザインから社名のロゴタイプを左に傾斜させて、はみ出させたロゴに変わって現在に至ります。過去の王様のキャラクターはダイレクトで、ロゴタイプをハンバーガーの具に見立てたロゴも具体的です。しかし、現在のロゴはやや抽象的に変わりました。食べ物を扱う店関連で寒色系の青い配色もあまりありません。
とはいえ、傾斜して背景デザインからはみ出したロゴタイプの配置にダイナミックな印象があります。バーガーキングは一度、2001年に日本から撤退しています。さまざまな大手企業と資本提携をして事業を展開してきたのですが、JTとの関係が決裂したためです。しかし、コンサルティング企業のリヴァンプとそのクライアントであるロッテにより、2007年に再上陸しました。ロッテには競合企業にロッテリアがあり、意外ではありますが相乗効果を狙ったようです。
バーガーキングの新しいロゴデザインには、ハンバーガーチェーン店の老舗のポジションにとどまることなく、斬新な展開を試みようとする意気込みがあるのかもしれません。
KFCのロゴは不動のカーネルおじさん
Radu Bercan / Shutterstock.com ・KFCのロゴ
KFC(ケンタッキーフライドチキン)といえば、入り口に立っている白い髭のカーネル・サンダースのシンボルが何よりも有名です。実は、この立像が店頭に置かれたのは、日本が発祥地です。カナダでイベントに用いられた立像を日本に持ち帰って店舗の前に置いたことが始まりでした。したがって、海外では立像のない店舗もあるそうです。
1985年には、阪神タイガースの優勝騒ぎにより、道頓堀川に立像が投げ込まれる事件もありました。かわいそうなカーネルおじさんが川から救出されたのは、なんと24年後だったそうです。
創業者の顔をシンボルとして採用したロゴデザインは希少で、KFCが最も有名です。何よりもカーネル・サンダース自身の特徴のある風貌、優しそうな顔付きが、最大の効果をあげています。最近のロゴではシンボルをアウトライン化してデフォルメされ、特徴を浮き彫りにしています。
1952年、1978年、1991年のロゴは顔だけでしたが、現在は赤いエプロン姿です。よく知られた立像のような白いスーツ姿ではなくなりました。力強いタッチで笑顔も広がり、ちょっとだけ若返った気がしませんか?
というのも、新しいロゴマークには「若さ、エネルギー、現代的、親しみ」というテーマが込められているそうです。また、日本KFCがテーマとして据えている「FHH & H」を表現しています。これは Fresh(新鮮)、Healthy(安全で健康的)、Handmade(手づくり)、 Hospitality(おもてなしの心)。「本物のおいしさへのこだわり」を標榜するものです。
カーネル・サンダースがオリジナルチキンのレシピを完成させたのは49歳、創業したのは65歳のとき。高齢化社会といわれますが、まだまだシニアも頑張ることができるのではないかと思わせられます。赤と黒の配色は力強さを感じさせますが、エプロン姿のカーネルおじさんから元気をもらえそうです。
SUBWAYのロゴマークは潜水艦の形から
Oliver Hoffmann / Shutterstock.com ・サブウェイのロゴ
サンドイッチのファーストフード店、サブウェイ。世界最大規模の飲食店チェーンで、日本ではサントリーホールディングスの傘下にありました。しかし、2016 年になってオランダにある本社サブウェイインターナショナルは、サントリーホールディングスに対してフランチャイズ終了を宣言。サントリーホールディングスは、これに応じる方針です。
店舗名の 「サブウェイ(SUBWAY) 」は、潜水艦型の 「サブマリンサンドイッチ (SUBMARINE SANDWICH)」に、 「ひとりひとりの好みに合わせて」の「WAY」を組み合わせたもの。黄色に塗られた WAY は目立ちます。実際にパンや焼き方、野菜の種類、ドレッシングなど目の前で注文して、カスタマイズされていくサンドイッチは見ていても楽しいものです。
ロゴタイプの最初の「S」と最後の「Y」は矢印になっています。これは店舗の拡大を願ってデザインされました。
日本では「野菜の」という緑色の吹き出しが加えられています。この「野菜のサブウェイ」は、前社長である伊藤彰氏のもと、2010年から2014年の間に店舗数を約2倍に拡大しました。国産のパンや野菜を使った日本独自のメニュー、テレビにおけるCMの露出、15坪ほどあれば出店できるチェーン店の開設しやすさなどにより、店舗数の拡大に合わせて売上も伸びました。しかし、地方におけるショッピングセンターのフードコートの存在等、拡大への課題もあるようです。
今後、日本市場で潜水艦(サブウェイ)は浮上できるのでしょうか。みずみずしい野菜を使った美味しいサンドイッチを提供するお店だけに、期待しています。
創業者の頭文字BとRで31を表現した、31アイスクリーム
Olga Vasilyeva / Shutterstock.com ・31アイスクリームのロゴ
31アイスクリームの31とは、31日間、つまり1ヶ月のこと。「1ヶ月(31日間)毎日違ったおいしさを楽しんでいただきたい」というビジョンに由来しています。まるでおもちゃ箱のような店頭のショーケースは、眺めていてもワクワクします。豊富な種類のフレーバーを揃えているのは、日替わりでアイスクリームを味わってほしい願いが込められています。
日本に上陸時には、この「31」を強調したロゴでした。しかし、日本では31アイスクリームの店舗名が有名ですが、海外では創業者ふたりの名前から「バスキン・ロビンス(baskin robbins)」と呼ばれています。
最近のロゴでは、ふたりの名前を英文で並べて、中心に頭文字の「B」と「R」を配置。「B」の右側が「3」、「R」の左側が「1」として、この部分だけブルーではなくピンクに色分けしています。創業者の名前を店舗名にするのは、よくあるパターンですが、頭文字の一部を31に見立てるデザインはおシャレです。秀逸な発想ではないでしょうか。
また、ロゴタイプもポップな書体が使われ、きちんとグリッドに沿ったデザインではなく、「K」の形が歪んだり、文字のラインがでこぼこになったり、遊びのある配置で楽しさを表現しています。ピンクは女性的であるとともに、エレガントで甘い印象をもたらします。ブルーとの配色により、子供だけでなく大人も楽しめるイメージを感じさせます。
牛丼の最大手、すき家のロゴは赤い丼が目印
Takamex / Shutterstock.com ・すき家のロゴ
和食のファーストフードとしてまず思い浮かべるのは、牛丼ではないでしょうか。すき屋のロゴマークは、黄色い背景に赤い横向きの丼が配置され、その上に店舗のロゴタイプが大きく載せられています。英文表記も添えられていますね。
黄色と赤の暖色系の配色は、何よりも食欲を促します。赤い丼の外側に黄色で囲むことにより、赤がいっそう目立つようになります。また、店舗名のロゴタイプは白い袋文字で、ひらがなを使っているところも和食の店として印象的です。手書き文字のようなテイストも親しみやすさを感じます。
すき家は牛丼最大手。ゼンショーホールディングスの傘下で、同じ傘下の飲食チェーン店には「なか卯」があります。「ゼンショー」とは、顧客に喜んでいただく「善商」、日本の文化を世界に伝える「禅商」、フード業界で世界一になる「全勝」の意味があるそうです。主力商品には牛丼のほかにカレーもあります。丼を取り巻く黄色は、カレーをイメージさせる色ともいえるかもしれません。
松屋のロゴの3つの円には意味があった
Lodimup / Shutterstock.com ・松屋のロゴ
牛めしだけでなく定食や、とんかつの業態を加速している松屋。ロゴは抽象的です。ロゴタイプの左に、大きな濃いオレンジの円の中に黄色と青い小さな円が並んでいます。店舗名に青を使っていますが、飲食店で青を使うことは珍しいといえます。とはいえ、この円はいったい何を指すのでしょうか。
実は外側のオレンジの円は、おぼんです。青い円は松屋のロゴタイプと呼応しますが、牛丼を表しています。そして、小さな黄色の円はみそ汁だそうです。松屋は、みそ汁を無料で提供することを他社との差別化戦略としていました。この戦略を示すために、牛丼とみそ汁を抽象化したロゴデザインを作ったそうです。みそ汁を無料で提供する戦略はズバリ的中して、松屋は牛丼業界で大きく成長しました。
松屋の創業者、瓦葺(かわらぶき)利夫氏は、1966年に中華飯店として松屋を始めます。その後、食の専門誌で読んだ「牛ぶっかけ丼」から、牛めしに関心を抱きます。ある日、たまたま入った吉野家で牛丼を食べて「こんなにおいしい牛丼が世の中にあったのか!」と感動して吉野家を研究して、牛めしを究めたそうです。
ところで、最初のロゴマークは社員の家族がアイデアを出した丼を持っている牛「牛ちゃん」のキャラクターだったそうです。続いて2代目「まんぷく松丸」、3代目「メシカモ」、4代目「ウシ松くん」とキャラクターを展開しています。2016年、創業50周年を記念して、公式キャラクター「マッキー&ヤッキー」が誕生しました。松屋の「マ」と売れ筋商品の焼肉の「ヤ」から名付けられたそうです。
ロゴの基調となるオレンジは吉野家と同系色ですが、あえて青を使うことで、差別化を図ったのかもしれません。このことにより、牛丼にとらわれない自由な事業展開を可能にしたともいえるでしょう。
ふだん目に止めるファーストフード店のロゴデザインには、それぞれ深い意味があり、企業の差別化戦略やお客様への想いが込められています。
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