どんな色のロゴでも、「黒で使用すること」も前提にデザインされています。媒体によっては色を使わずモノクロで展開するケースもあるためです。しかし、ロゴを展開する際にほとんど色を使わず、黒あるいは白だけをメインに使うブランドもあります。あえて無彩色をそのテーマとして使用する企業が目指すポジションは、どこにあるのでしょうか?
黒はモダンでシンプルな印象を持つ色です。この色を選ぶ企業に共通する方向性は、色のもつイメージに左右されず、自社のブランドに特定の印象を与えたくないという確固たるポリシーです。ブランドイメージが確立している企業、確固たる創業者のポリシーが存在する企業、デザイン自体を商いとする企業など、一般的なイメージから距離を置いて存在しようとする企業の姿が浮かび上がってきます。代表的な事例を見ていきましょう。
アップル(Apple)のロゴデザイン
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アップル社は、1977年にパーソナルコンピュータ「Macintosh」の製造販売でスタートしました。創業者のスティーブ・ジョブズは人間とコンピュータの理想的な関わりをイメージし具現化する屈指のアイデアマンでした。彼は一度アップルを離れ、アニメーションスタジオ「ピクサー」の前身となるコンテンツ事業の世界に入りますが、その後経営が傾いたアップルに復帰してすぐ、スマートフォン「iPhone」を創って世に出し、世界を塗り替えました。2007年にアップルコンピュータから社名変更して「コンピュータ」を外し、現在の「アップル」となりました。並外れたコンセプトの商品で世界を牽引したジョブズは、アップルが時価総額で世界最大の企業となった2011年に亡くなりました。
キリスト教においては、「知恵の実」を表わすリンゴを食べて人間は知恵を得ました。人類を次のステージに導くアイテムを創り普及させたいというジョブズの想いは、このロゴのビジュアルに象徴されています。初期のアップルロゴは7色のレインボーカラーを使用している時期もありましたが、その後よりシンプルな形に洗練され、色も白・黒をメインとしたモノクロに統一されてきました。白と黒は2値で処理されていくコンピュータの世界と、ジョブズも影響を受けていた東洋思想におけるタオイズム(道教)における二元論との関わりを彷彿とさせます。
モード系(CHANEL, PRADA, CalvinKlein, COMME desGARÇONSなど)のロゴデザイン
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ファッションの世界の中でもいわゆる「DCブランド」と呼ばれる高級志向のブランド。モード系とも呼ばれますね。世界各国で年4回開催される「ファッションウィーク」でコレクションを開催し、最新のモードを発表することで、ファッションの世界を牽引しています。
近年のこれらのブランドに共通するのは、高級感を持つ色として黒を使うところです。中でも日本のコム・デ・ギャルソンは既存の権威への反抗というコンセプトで黒を中心としたスタイルを展開し、世界的に注目されるブランドになりました。
ロゴに見られるデザイン的な特徴は、シンプルかつストレート。字間のアキ具合には綿密な調整が伺えます。いずれも「服のデザインで勝負する」という、センスの最前線で戦うデザイナーの静かな気合いが感じられます。
ザラ(ZARA)のロゴデザイン
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ザラはスペインのファッションブランドです。いわゆるファストファッションと呼ばれる、ファッション性に優れた服をリーズナブルな価格で提供するというコンセプトに基づく業態で成功しました。徹底した合理性で生産ラインを効率化してコストダウンを図っています。デザインに関しても、年4回のコレクションを参考に素早く先端のデザイン傾向を抽出し、商品展開に生かしています。
ロゴデザインはセリフ体をベースにしていますが、均質なラインでモダンなテイストで仕上げています。モダン=合理的思想で、セリフ体=クラシックなモードスタイルを実現してみせる、という現代の企業姿勢を象徴化しているかのように見えます。
アディダス(adidas)のロゴデザイン
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アディダスはドイツのスポーツ用品メーカーです。そのロゴデザインは1948年の創業から何度か移り変わっていますが、小文字を使った文字デザインと、最大の特徴である「三本線(スリーストライプ)」は使われ続けてきました。
三本線で三角形を形作ったロゴは1991年に登場しました。円に三本線が入ったタイプは2002年に登場し、若年層向けのカジュアルスタイルで展開しています。
ソフトバンク(SoftBank)のロゴデザイン
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ソフトバンク社が展開する携帯電話サービスブランド。元はJ-phoneからボーダーフォンへと変わり、2006年からソフトバンクになりました。
非常にシンプルで細い明朝体のフォントを用い、2本のシルバーラインをアクセントにおいたデザインです。この二本線は坂本竜馬が創設した「海援隊」の旗印をモチーフにしており、「=」(イコール)、アンサーとしての意味も持っています。「ソフトバンク」という社名には、「ソフトウェアの銀行」として情報化社会を担う存在になるとの意気込みが込められています。
まとめ
「黒」のロゴを選ぶ企業に共通していたのは、確固たるポリシーの存在だったように思えます。独自の道を歩みナンバーワンを目指す強い信念。究極の色である「黒」をあえて選ぶ企業には、唯一無二の存在であろうとするストイックな姿勢があるのです。
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