シンプルなフォントから作られたロゴデザインでも、強い印象を与えることはできます。むしろシンプルだからこそ、訴えたいコンセプトを強調しやすいとも言えます。そこに端的なイメージを示す図形や記号を組み合わせれば、よりダイレクトに企業やプロジェクトの意図を伝えることができます。
そんなテクニックを効果的に駆使しているのが、モスクワを舞台に活躍しているロシアのデザイナーDmitriy Silchenko 氏です。シンプルさをインパクトに変えて、コンセプトをダイレクトに伝えるロゴの数々を生み出しています。彼が専門としているロゴデザインは、企業やプロジェクトの顔として長く残ることになる重要なものです。企業の業務内容やプロジェクトのイメージを分かりやすく伝えるために、限られたスペースと文字数で的確なブランディングを行なう必要があります。今回は、Dmitriy Silchenko 氏のデザインとそのテクニックを参考に、多くの人々にコンセプトを伝えることができるロゴマークのポイントを紹介したいと思います。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Dmitriy ! )
シンプル・イズ・ザ・ベスト!企業名とシンボルの組み合わせ
企業名(プロジェクト名)と業務に関するシンボルの組み合わせは、ロゴデザインとしてはメジャーなテクニックです。文字だけではイメージしにくい業務の内容を、それを示す記号や図形と組み合わせることで、一目で分かるようにできるからです。この場合、「分かりやすさ」が重視されるため、ロゴタイプはシンプルかつ誰もが読みやすいものが望ましいでしょう。
デザイン性を追及するあまり読みにくいフォントを使用してしまうと、企業名の周知や、プロジェクトの知名度の向上の妨げになってしまうからです。また、業務のシンボルとする記号や図形も、誰にでも認識できるものが推奨されます。企業やチームが何を行なっているのかを、老若や文化の違いを問わずに即イメージできることが大事だからです。アーティスティックな要素やデザイン性にこだわりすぎてしまうと、万人に伝わらなくなってしまいます。そんなシンプルさを追求したロゴのデザイン例として、以下のようなものがあります。
こちらはリハビリテーション・エクササイズの施設のロゴです。医療を示すメジャーなモチーフの十字マークと、施設名を組み合わせています。背景の赤とフォントの白も、医療のイメージとして馴染み深いものです。そのため、すぐに「医療に関係のある施設だ」と悟らせてくれます。
こちらは、同じロゴの別バージョンです。背景が白、十字が赤、フォントが黒となっていて、同じく医療のイメージと清潔感をダイレクトに伝えてくれます。このように、一般に広く浸透しているイメージカラーを取り入れるのも有効なテクニックです。
こちらは、スーパーマーケットや商店のための資材を扱っているお店のロゴデザインです。業務用の商品に広く結びつけることのできる「タグ」をモチーフにしており、業務の内容を端的に表しています。
次は、保険サービスのロゴマークです。契約時に欠かせない「サイン」や「条件の確認」を連想させるチェックマークと、記入枠を思わせるアルファベットの「o」を組み合わせています。なお、色違いのバージョンは安心や安全をイメージさせる緑を背景とし、公正さやフォーマルさを感じさせます。これも保険に欠かせない信頼感を抱かせてくれます。
突き詰めればシンプルになる、ロゴマークが洗練される過程
これまでは完成したロゴを見てきましたが、今度はそれらを創り上げた過程を見ていきましょう。出来上がったロゴだけを見るとシンプルすぎるようにも思えてしまいますが、そこに至るまでには、慎重な検討と絞り込みが行なわれています。完成したシンプルなロゴが、様々なシーンで活用できることも知ることができます。
こちらが完成した企業ロゴデザインです。「グランド・クリュ・ワイナリー」は、ロシアの首都であるモスクワと、旧ロシア帝国の首都であったサンクトペテルブルクにまたがって展開しているワイン量販店です。地域でトップクラスの店舗数を誇っており、伝統あるワイナリーのコンセプトを保ったまま、現代に即したロゴにリニューアルすることが求められていました。
リニューアル前とリニューアル後のロゴの比較です。ロシア語をカットした上で、視認性が高くメリハリのあるデザインに変更されています。ボトル型の枠の中に企業名を入れ、さらに液体を想起させる「・」をワイングラスに似た「U」の中に配置することで、ワインという飲料を扱っていること、ワイナリーであることを端的に示しています。
一見簡単なシェイプアップに見えますが、ここに至るまでには多くの案が検討されました。
凝ったビジュアルや、大胆な改造など、様々なロゴが候補に上がっていたのです。
ですが、最も的確にグランド・クリュ・ワイナリーのコンセプトを伝えられるのは、やはり「シンプルなフォント+ワインボトルのモチーフ」だと判断されました。ロゴを単体で見た印象と、実際に様々なシーンで活用してみた際の印象は、ずいぶん異なるからです。
こちらは同社のホームページです。左上に配置されたロゴがシンプルながらも強いインパクトを与えており、実に認識しやすくなっています。この効果は、実店舗に看板として掲げられた際も同様でした。
やはり視認性が高く、印象に残るビジュアルとなっています。以前のロゴマークは、ワインレッドの背景に白いフォントだったため、街中やホームページなどの視覚的に混みあった状態では、多くの情報の中に溶け込んでしまっていました。しかし、シンプルでインパクトの強いロゴデザインにリニューアルすることで、人々の視線を引きつけるようになったのです。
こちらは併設レストランのメニューですが、やはり一目でグランド・クリュ・ワイナリー社のものであることが分かります。ロゴや商標の第一の目的が知名度の向上とブランドの浸透にある以上、これは非常に効果的と言えるでしょう。
このようにシンプルかつ万人に分かりやすいデザインは、多くの人々の記憶に刻まれて、ブランドの認知度を高めてくれます。こういったロゴデザインの基本を忘れないようにしたいものです。
design : Dmitriy Silchenko ( Russia )
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