デザイナーとして日々の制作に携わっていると、自分のデザインやその手法が代わり映えのしないマンネリ化したものに感じることはありませんか。クライアントや広告媒体が変わってもワンパターンの方法で制作してしまう、また、似たような色彩やフォント、レイアウトを繰り返して使用してしまう、というのは多くのデザイナーが抱えるある種の葛藤ではないでしょうか。
もちろん、自分の中で定番のデザインがあることはモノを作るには大変効率的ですし、デザインの個性とも言えます。しかし、人々はどんな作品を求めているのか、広告デザインに対する現代のニーズは何なのかを常に考え、トレンドに合わせたデザイン制作をしていくことは、秀逸な作品を生み出すためには必要不可欠です。
今回は、フォトコラージュにデジタルペインティングを取り入れた手法で、ストーリー性のある作品を発表しているAressandro Radaelli 氏の作品を見ながら、インパクトある広告デザインについて考えてみましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Aressandro ! )
「味覚の都市」を表現した広告デザイン
Aressandro Radaelli 氏は、イタリアのミラノで活躍するグラフィックデザイナーです。彼の作品の特徴は、デザイナーとして活動を始めた初期にはイラストレーションを駆使して作られたものが多かったのに対し、時の流れに沿って技法や表現の仕方を少しずつ変え、近年には独特の世界を醸し出すデジタルコラージュにシフトしています。
このCity Of Tasteは、ミラノ近郊のAbbiategrasso市を起点とし、 さまざまなイベントを通して食文化の推進を図る団体『Abbiategusto』の広告デザインです。Abbiategrasso市があるスイスに近い北イタリア地方は、自然を満喫できる肥沃な土地に恵まれています。そこから生まれた食物や食文化を多くの人に伝達・継承していくべきである、というのがAbbiategustoの基本テーマです。
Radaelli 氏はこの地方の特色を物語る、「緑に溢れる大地」「清らかな水源」「歴史を感じさせる建物」「豊かな土壌」を キーワードとし、これらの要素で構成された『ケーキ』に見立てた非常に写実的なフォトコラージュで広告を作り上げました。
広告デザインの構想を練るアイデアスケッチを見てみましょう。作品のメインモチーフであるケーキの詳細が細密に描き込まれていますね。
また、メインモチーフに鮮明な色を使用、背景はメインモチーフを引き立てるために中間色の使用という配色のアイデアも記載されています。鮮やかで楽しげなイメージを持つこのモチーフはまさに『City Of Taste(味覚の都市)』そのものです。フォトコラージュの利点を最大限に生かした広告と言えるでしょう。
土地の味覚を感じさせる広告制作例
こちらの作品も前述と同様のAbbiategustoの広告デザインです。
今回のメインモチーフは『ワイン』。
この地で生産される、穀物やパン、タマネギ、アーティチョーク、カブ、キノコ、ゴルゴンゾーラチーズ、サラミ、ラビオリ等でこのワインを構成しています。モチーフの作成には明るい色調のそれぞれの写真をコラージュして作られ、食欲をそそるイメージを生み出しています。
この作品のアイデアスケッチも非常に興味深いですね。
メインモチーフのワインやその背景が丁寧に描き込まれています。皆さんの中にもコンピューターを使って作業する方が多いかと思いますが、最初からPhotoshopやIllustratorといったソフトでデザインプロジェクトを始めるのは至難の技ではないでしょうか。理由はたくさんありますが、とりわけ顕著なのは、独創性を即座にコンピューター画面に反映させられることが難しいためです。
頭の中で生まれた作品の構想を手早く描きとめ、そのイメージを紙やスケッチパッドの上に落とすアイデアスケッチは、デザイナーにとって非常に大事な作業です。実際、名デザイナーのほとんどは常に手描きのスケッチからデザインを始めるのが現状です。
コンピューターを駆使しフォトコラージュを主体として作品を作り上げているRadaelli 氏も、プロジェクトの開始には手描きのアイデアスケッチから始めていることが伺えます。
まとめ
デザインのトレンドはあらゆる文化やメディア、テクノロジーやファッションなど、さまざまな分野から影響を受けています。
身近なものやありふれた自然現象を要素としたモチーフを作成し、人間の五感に訴えるAressandro Radaelli 氏の作品は、多くの人に共感されています。フォトコラージュという手法を上手に使って、奇抜なものではなく誰にでも受け入れられやすいデザインで仕上げられた彼の作品は、安定の中にもちょっとした刺激が欲しいという現代のニーズにマッチしたものではないでしょうか。
created by : Aressandro Radaelli ( Italy )
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