グラフィックデザインの制作には様々な技法や表現の仕方がありますが、中でも一番身近で親近感溢れるものに「コラージュ」が挙げられます。
フランス語で「糊付け」を意味するコラージュは、新聞・雑誌の切り抜きや壁紙、写真、書類など、ばらばらな素材を組み合わせることで一つの造形作品を構成する芸術的な創作技法です。20世紀初頭のキュビズムの時代に、パブロ・ピカソやジョルジョ・ブラックらにより、紙媒体だけではなく布切れや針金・ビーズなどを使用し、見る人の感性を刺激する多数のコラージュ作品が発表され、近代アートの創作技法の一つとして開花しました。
現代社会に至っては、とりわけファッション・コスメティック業界をはじめとする広告デザインの分野において、このコラージュ技法はユニークで前衛的な作品を生み出すことができるスタイルとして、多くのデザイナーに支持されています。 どのようなモチーフにどんな加工を施すか、またどんな別の要素を付け加えるかはデザイナーのセンスにかかっています。
今回は、ドローイングを用いてポップで独創的なコラージュを展開するAndreea Robescu 氏の作品をご紹介します。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Andreea ! )
Andreea Robescu氏は、数々の著名な広告デザインを手がける新進のインテリア & グラフィックデザイナーです。活動の拠点をスペインのバルセロナに持ち、幅広く創作活動を展開しています。彼女の作品はユニークでオリジナルなイラストレーションと現代アートセンスを掛け合わせたものに定評があります。ファッション業界などで撮影された写真にエネルギッシュなイラストレーションやドローイングを付加した、独特な遊び心満載のデザインスタイルが特徴です。
化粧品・コスメブランドの広告展開
まず、『SEPHORA』のプロジェクトを見てみましょう。 SEPHORAはフランスのLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)傘下で、幅広い化粧品や香水商品を取り扱う専門店です。現在、27カ国に1300を超える店鋪を展開し、その数は年々上昇しています。
2017年の母の日キャンペーンに際し、Robescu氏はショーウィンドウやショーケースデザイン、店舗空間の構成、限定版パッケージングデザインなど、キャンペーンに関わる全ての媒体のデザインを担当しました。
一見して目に飛び込んでくるのが、鮮やかなピンク色をバックに、女性モデルや香水の画像に黄色や白色でのびのびと描かれたドローイングをプラスした自由奔放なテイストのグラフィックですね。このキャンペーンのコンセプトキーワードは、「パワフルで鋭い感覚を持ち、時には破壊的でもある世界中全てのお母さんたちへの贈り物」というもの。このコンセプトをまさにビジュアル的に表現したデザインに仕上がっています。
通常のSEPHORAのインテリアデザインテイストは、白と黒を基本としたモノトーンで構成されたシックな空間であるのに対し、Robescu氏の作り上げたキャンペーンスペースは、そのシックさを上手に利用しながらも精力的でバイタリティー溢れる空気を吹き込んだ様相を展開しています。
ピンクと黄色、そしてモノクロームという派手な強い印象を醸し出すカラーコンビネーションと花やハート、水玉にストライプというキッチュなモチーフでコラージュされています。各種イラストレーションを満載した図柄ですが、嫌みになることなくリズム感溢れた楽しい雰囲気を上手く生み出すことができたのは、人間の身体や顔の特徴を分析しながら、そのセクシャル性をグラフィック要素を加えることでいかにアップできるかを常日頃より考察している Robescu氏の研究姿勢の成果によるものでしょう。
様々なサイズの限定版パッケージやキャンペーンのリーフレット・コマーシャルビデオ、Webサイトにも、一貫したデザイン展開が施されています。
YouTube Magazineのカバーデザイン
次に見て頂くのは、『YouTube Magazine』のプロジェクトです。 誌面と映像で制作されるこのオフィシャルなYouTube Magazineのカバー・エディトリアルデザインをAndreea Robescu氏が担当し、2017年のSundance Film Festivalで公表されました。
アメリカ、ユタ州のパークシティで行われた2017年の1月に行われたSundance Film Festivalのキーワードは「新しい気候」。全世界的な気候の変化とその環境に対する警鐘をテーマとしたフィルムフェスティバルで、同時にYouTubeで最も影響力のあるクリエイターやイノベーターのサクセスストーリー を祝うイベントです。
まずはカバーデザインを見てみましょう。斜向きにポーズを取ったモデルを表紙と裏表紙に採用し、どちらもRobescu氏お得意のエネルギッシュなドローイングをプラスして、紙面を構成しています。 このドローイングですが、通常Robescu氏はデザイン媒体に合わせて、マーカーからアクリル絵具、鉛筆、パステル、インクなど使い分けているそうです。
今作品で使用されたのはアクリル絵の具。表紙には赤色でアクセントとなる模様を、裏表紙にはモデルを一段と強調させる放射状のカラフルなラインが描き込まれています。 人物画像とユニークなドローイングを上手く融合させてできた特徴的なコラージュ作品ですね。人物の姿態やその視線から強い主張をイメージさせ、ドローイングにより一層の生命力やエネルギーが感じられる様相です。
中の紙面にも、赤、黄、青、緑の基本色を使い、力強いタイポグラフィーと動きのあるドローイングを組み合わせて制作され、統一したテイストの紙面構成が取られています。 多数のカラーやモチーフの使用にも拘わらず確固としたレベルの高いデザイン性を保っているのは、秀逸な余白の使い方や各色の塗り面積の考慮など、各所に細やかなレイアウト構成がなされているためです。
グラフィック作品を動画に変換させたり、大がかりなアートインスタレーションの製作を試みたり、と 幅広いデザイン活動を実行しているRobescu氏ですが、このYouTube Magazineは彼女のデザイン活動の本質を顕著に表しているものと言えるでしょう。
まとめ
ユニークなドローイングや独創的なイラストレーションをコラージュしながら、新鮮で目新しいデザインを創り上げているAndreea Robescu氏の広告を見てきました。 大胆な色や形で形成されたRobescu氏のコラージュ作品は、見る人に活力を与え、楽しく明るい気分にさせてくれるものです。 今まで数々のグローバルブランドや出版物のデザインを携わってきたRobescu氏の今後の活動にも注目したいですね。Instagram もぜひチェックしてみてください。
created by : Andreea Robescu ( Spain )
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