スペイン北東部カタルーニャ州を拠点に活動している「I’m Blue I’m Pink」は、Pedro(ペドロ)氏とTeo(テオ)氏のGonzález(ゴンサレス)兄弟によるクリエイティブスタジオです。
同スタジオは、オリジナル作品を含むさまざまな小物を組み合わせて、アーティスティックなビジュアル空間を作り上げます。基本的に写真や動画の撮影用セットのスタイリングがメインで、アートディレクションと撮影もおこないます。
シュルレアリスムの代表的な芸術家、サルバドール・ダリもカタルーニャ出身です。ダリのように、I’m Blue I’m Pinkはシュルレアリスムを創作に取り入れています。思いがけない素材の取り合わせでインパクトのあるビジュアルを生み出しています。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。(Thank you, I’m Blue I’m Pink!)
英国ファッションブランドのサングラスのビジュアルデザイン
英国のSuperGroup社は、漢字とひらがなを使った「Superdry 極度乾燥(しなさい)」というユニークなロゴで有名なファッションブランドを世界各国で展開しています。ここで紹介するのは、I’m Blue I’m Pinkが手がけたSuperdryのユニセックスサングラス「Sakura」シリーズのカタログ用ビジュアルです。
桜の花の色をメインカラーにして、サングラスが使われるシーンが表現されています。バックパック、ヤシの葉、砂、石、アーチなどの小道具で旅行の雰囲気を演出しています。象徴的な小道具(プロップ)を使いながらも、あくまでもサングラスが主役となるような構成です。
FCバルセロナ公式グッズ用ビジュアルのアートディレクション
スペインのサッカーチームFCバルセロナの公式グッズのビジュアルのアートディレクションをI’m Blue I’m Pinkは手がけています。チームカラーの紺とエンジ、カタルーニャのナショナルカラーである赤と金色などをキーカラーとして空間を構成し、Tシャツ、キャップ、スポーツボトルなどを浮かせています。
この「プレーヤー」シリーズのグッズは、リオネル・メッシ、フランキー・デ・ヨング、マルク=アンドレ・テア・シュテーゲン、セルヒオ・ブスケツなどの選手のイラストと背番号を組み合わせたデザインを採用しています。
グッズのデザインは、Mucho社がおこないました。同社は、ブランディング、パッケージ、グラフィックデザインをさまざまな世界的企業に提供しています。
ハーブティーの広告動画のためのカラフルなセットデザイン
ボトル用ハーブティー「Infusión para tu botella」のビジュアルです。水を入れたボトルに一袋入れるだけで、リラックス効果が期待できるヘルシーなドリンクに早変わり、というのが売りです。
ノンカロリー・シュガーレス・ノンカフェイン・非加熱が特徴のこのシリーズには、ベリー&ミント、ライム・レモン&ミント、パイナップル・マンゴー・ジンジャーの3種があります。それぞれの味に合わせて3つのカラフルなセットが作られました。I’m Blue I’m Pinkの作品としては比較的オーソドックスな仕上がりかもしれません。
ネット上でプロモーション動画を見ることができます。味気ないデスクに置かれたボトルの水に、ティーバッグをポンと入れるとあっという間にカラフルな空間に変わります。気分が良くなることと手軽さが表現された動画です。
英国発祥のHormimans(ホルニマンズ、オルニマンス)ですが、現在では、スペインや南米のスペイン語圏諸国で人気のブランドとなっています。
「ミックス」をテーマにした雑誌の表紙ビジュアルデザイン
絵画、建築、料理、音楽の4つのカテゴリーそれぞれで、混ぜること(mix)をテーマにしたビジュアルをI’m Blue I’m Pinkが作りました。雑誌『El Duende』の表紙のための作品です。
建築をテーマにした作品では、遺跡を連想させる柱や階段、入り口などのモチーフが使われています。ドリンクを入れたグラスには煙突のように煙を吐くストローが刺さっています。
音楽をテーマにした作品は、パンクなスパイクをまとったバイオリンやマラカス、ヘッドホンなどで構成されています。カセットテープが使われているのがおもしろいです。
料理のテーマでは、チュロス、マカロン、フライドポテトによって、さまざまな地域の料理が象徴されています。ハンバーガーのように見えるアイテムは、ライムと麺が挟んであります。別の写真では箸が添えられているところを見ると、アジア料理の象徴でしょうか。
絵画をテーマにした作品には、真珠の耳飾りの少女を思わせるオブジェや、キャンベルスープの缶、モンドリアン柄のシートが置かれています。赤白の水玉模様の球体も見えます。真珠貝は、ヴィーナスの誕生へのオマージュかもしれません。
ところで、コカ・コーラのロゴの貼られたガラス容器や、シェーカー、ジガー、バースプーンなどカクテル用具も小道具として登場しています。コカ・コーラ社が、お酒を割るための「Coca Cola Mixer」という名前の割り材を一部の国や地域で発売しました。このCoca Cola Mixerは、一流のバーテンダーが、カクテルのために特別に調合したものです。
コカ・コーラ社の新製品とのタイアップ企画なのかどうかについては不明ですが、この『El Duende』誌のカバーは、アルコール類とほかの素材を混ぜてつくるカクテルが、ビジュアルのコンセプトの基となっています。
雑誌の80年代特集号のための表紙ビジュアルデザイン
カルチャーとライフスタイルをあつかう『Ocimag』誌の80年代特集号の表紙はかなりインパクトがあります。小動物の骸骨を女性が口に入れようとしているポーズで撮影されています。女性の衣装は80年代を彷彿とさせるレトロなデザインです。ジャギーなビットマップフォント的な文字やデザインパターンが、当時の雰囲気を出しています。
このビジュアルは、80年代に米国で製作されて大ヒットした『V(ブイ)』というSFドラマへのオマージュなのです。このドラマは、地球を侵略するためにおとずれたエイリアンと地球人との戦いを描いています。
当初は友好的だったエイリアンが、その正体を表したショッキングなシーンをもとに、I’m Blue I’m Pinkが作り出したのがこの写真です。
プロップスタイリストとは
日本では、一般に「スタイリスト」というと、衣装やヘアスタイリングなど、ひとを対象にしたファッション分野のプロのことを指します。いわゆる「ブツ撮り」用の演出を専門におこなっているプロフェッショナルとしては、フードスタイリストやインテリアスタイリストが広く認知されています。撮影用小道具も、こういった人たちがまとめて担当します。それ以外のカテゴリーの撮影の場合、セットをデザインして小道具を手配するのは、カメラマンだったり、グラフィックデザイナーだったりします。
小物を組み合わせて、アーティスティックな撮影用セットを組むクリエイターは、欧米ではプロップスタイリスト(prop stylist)と呼ばれ、ひとつの独立した専門職になっています。プロップスタイリストは、カメラのレンズを通した見え方を意識して表現するので、撮影についての知識が必要となります。
I’m Blue I’m Pinkの空間づくりは、プロップスタイリングから小規模な「建て込み」の領域まで及びます。アイデアから撮影までをトータルにコントロールしています。
I’m Blue I’m Pinkのマニフェスト
公式サイトでは、いかにもシュルレアリスティックなメインビジュアルが迎えてくれます。別のページには、「シュルレアリスム--触れられるデザイン」「洗練--遊び」「美--ものがたり」という3つのマニフェストが掲げられています。メインビジュアルのどの部分が、そのマニフェストを表現しているのかが動画で示されているのですが、BGMには意表をつかれました。
I’m Blue I’m Pinkの表現には奇抜なものもあります。しかし、マニフェストを踏まえて作品を見ると、いずれも、わかりやすく、楽しく、ストーリー性が盛り込まれていることがわかります。
design : I’m blue I’m pink ( Spain )
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