今回ご紹介したいのは、ヨーロッパを中心に世界で活躍しているグラフィックデザイナーAlex Tass さんと彼が共同オーナーを務めるユートピアブランディングエージェンシーの作品たちです。彼らの作品の特徴は、まずその色使いと美しさにあります。デジタルコンテンツが欠かせない時代だからこそますます映えるその美しさは、まるでライトテーブルに乗せられたガラス細工のように、あざやかに輝く透明感を持ち合わせた色彩。しかしながらCMYKの世界でも十分機能するよう設計された巧みなデザインです。
脳科学者の茂木健一郎氏などが提唱する「アハ体験」をご存知でしょうか。ひらめきや気付きの瞬間に「あっ!」と感じることで脳を一瞬で活性化させ、世界の見え方が一変するという体験です。ロゴデザインは、時にそのような効果を手軽に体験させることができる媒体です。これから紹介する彼らのデザインにも数々のイメージが隠されており、発見したときに喜びをもたらすハッピーなカラクリが仕掛けられています。それでは、美しさと驚きに満ちたロゴデザインの数々を見ていきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Alex and Utopia branding agency!)
センスの良さがモノを言う、色使いが要のロゴデザイン
ロゴデザインのセオリーとして、「色数は極力絞る」というのが一般的でした。ロゴをさまざまに展開する場合の汎用性や、企業のイメージを固定したい場合などその理由はさまざまです。理由の一つとして、何色も色を使うことでデザインのイメージが散漫になってしまうということも挙げられるでしょう。Alex Tass氏は実に巧妙な色使いで、ブランドイメージを構築することを得意としています。彼が作り出すカラフルなロゴデザインの一例をご覧ください。
とある金融プロジェクトのロゴで、「E」と「C」のモノグラムでロゴをデザインしています。同じ色味でも明度や彩度をうまくコントロールすることで、絵柄に奥行きを持たせていますね。また、三角形のパーツの配置の仕方で角度と方向性を持たせ、そこにグラデーションでカラーを乗せていくことで進行と上昇を見事に表現しています。
モバイル向けゲームコンテンツを制作している会社「Delve」のロゴマークです。このシンボルも頭文字「D」をあらわしながら、多面性のある「ゲーム」という分野を多色使いで表現しています。ベースとなる4色で構成されているダイヤ型のパーツは、グラデーションを使うことでゲームでは欠かすことの出来ない立体感を、上下を挟むオレンジの三角形は右方向への進行を表現し、動きのあるロゴデザインに仕上げています。
「C」の文字をデザインしたシンボルマークです。ここ数年、アプリケーションの発達に伴いすっかり定着した透明効果を用いた「重なり」の表現。透過性をもった色同士が重なることで新たな色相を生み、また図形の重なりで見える「ねじれ」もデザインに面白みを与えています。
クラウドファンディングで運営される医療研究プロジェクトのロゴデザイン。緑・赤・黄の3色のグラデーションで作られたスプーンのような形が、1点を中心に交差しているように見えますが、よく見ていくと3パターンの造形が重なっているのがわかります。まず中心に六芒星、三つまたのプロペラのようなマークが大小1つずつ。図形を透過して生まれたこのシンボルデザインはいつまで見ていても見飽きない不思議なロゴデザインです。
このシンボルデザインは、自然界にある有機的な事象、炎や液体、香り、流れなどを抽象的に表現しようとした試みです。色と形、それらの重なりで表現されたこの造形は、まるで生き物のようなファジーなバランスで成り立っています。
文字や要素を掛け合わせ複合的にデザインする、モノグラムのロゴマーク
モノグラムとは、2つ以上の文字や要素を組み合わせてできた記号・デザインを指します。上記2例はどちらも「A」と「スター」をモチーフにデザインされたモノグラムのロゴデザインです。紫をバックに黄色で描かれたデザインは、2つの要素のほかに「翼」も含まれており、非常に正義感溢れるヒーロー然としたイメージに仕上がっています。もう1つの作例は、中心のオレンジ色のスターから何枚もの光の扉が開くように展開し、それぞれが重なり合い全体像を成すことで、文字「A」を象っています。光と色彩を巧みに掛け合わせた、未来を感じさせるロゴデザインです。同じ2つの要素を表現していてもコンセプトが違うと全く異なるデザインが出来あがります。
スポーツシャツのカスタムデザインプロジェクトのロゴマークです。シンボルになっているきれいに折りたたまれたシャツ。よく見ると曲線と直線で描かれた不思議な柄。そうこれは、「CAMITALY」の「C」と「I」をあらわしています。イニシャルをシャツの柄にしてしまう発想に脱帽です。小粋でお洒落なデザインに思わずにんまりしてしまう、ハイセンスなロゴデザインです。
クラウドサービスの広がりによって瞬く間に世間に広がった「雲」のシンボル。一見するとこの雲のシンボルはそれらの一端にすぎないように見えますが、実は社名のイニシャル「C」と「S」で形作られた雲なのです。ありふれた記号をオリジナルの造形物に変える優れたロゴデザインの実例です。
「デリバリーエキスプレス」という配送会社のリ・ブランディング(ブランドイメージの再構築)ロゴリニューアル例です。書類やギフト、レストランまで幅広い分野で配送を行っている企業のロゴらしく、どんなものでも迅速に届ける「翼」をシンボルとし、頭文字「D」と「E」でそのかたちを作り上げています。軽やかで躍動的なイメージをもつ黄色と、堅実的な印象を与える安定の黒でバランスのとれたデザインに仕上げています。
発見する喜びを与える、幾通りものイメージたち
「エイリアンツアーズ」。名前の通り、グリーンの宇宙人の顔がまず目を引く1つ目のビジュアル。そして「ツアーズ」から派生するマップピンというイメージが2つ目のビジュアルです。マップピンとして見た時、エイリアンの目の部分は双葉のように見え、グリーンのマップピンと相まってエコなイメージに見え出します。全く異なる2つのイメージを共有する大変ユニークなデザイン例です。
これは建築関連プロジェクトのロゴデザインです。建築をイメージさせる立体構造物のようなシンボルとロゴタイプで構成されています。このシンボル、左側の側面が小文字の「a」を模していることに気付かれたでしょうか?立体的な構図として見た時、完全にこの「a」は姿を消していますが、先入観を捨て二次元的な線として見た時、はじめて「a」は姿をあらわすのです。
SNSアプリ「Friend Chain」のロゴデザインです。オンライン上でのコミュニケーションのシンボルとして、リンクをあらわす「チェーン」がキービジュアルとなっています。中央にあるチェーンのバックにはスマートフォンの形が描かれ、デバイスとアプリの関係性を視覚化しています。好奇心や知性、活力をあらわす明るいイエローは「活発な交流」を感じさせ、補色の紫でロゴを配置することで全体を引き締めています。そして最後に隠された絵柄、眼鏡をかけてにっこり微笑むユニークなキャラクターです。無機質になりがちなデジタルコミュニケーションに親しみを感じさせる心憎い演出です。
「Kins」というイベント用アプリのロゴマークデザインです。「n」の文字に3通りのイメージが託されています。一つ目は、2つのドットを目に見立て、下から顔を覗かせる「頭」のイメージ。斜めに傾いた「S」の文字が手のようにも見えます。二つ目は、2つのドットを頭に見立て、「2人の人間が手をつないでいる」イメージ。そして三つ目は、180°回転させて見る「スマイル」のイメージ。このように、ロゴタイプにアクセントを加えることでイメージに広がりをもたせることができます。やわらかな曲線を意識して作られた書体が楽しげな印象をさらに強めていますね。
カラフルな点と線で構成されたこのシンボルマーク、最初に何を見つけられましたか?多くの方がまずは「T」の文字を見つけられたのではないでしょうか。ロープをつなぎ合わせて作られたようなフラットな文字です。そしてその次に見つけられるもの、「紙飛行機」に気づきましたか?これは同じ点と線を使いながらも遠近法を用いて図形を表現しています。最後にもう一つ。紫、青、緑の線で表されている上向きの矢印。企業名のイニシャルを象りながら、上昇や前進を意味する紙飛行機や矢印を組み込んだ贅沢なロゴデザインです。隠された秘密を知ると思わず誰かに伝えたくなるのは人間の性(さが)。それを巧みに利用しているロゴデザインは「口コミ」というマーケティング戦略を備えた優れたロゴデザインといえるでしょう。
イラストを記号化する、ピクセルアートのシンボルデザイン
シンボルにイラストを使う例は多々ありますが、ピクセルアートを使うとよりシンボリックに表現することができます。加えて、昔のビデオゲームのようなレトロ感やシンプルさゆえの愛らしさも手伝い、愛着の湧く楽しい印象に仕上げることができます。
上のロゴデザインは、バッキンガム宮殿に侍るガードマンをモチーフにデザインされました。色の順序と縦長のフォルムが直線的に記号化され、まるでレゴブロックのような楽しさを感じさせます。
おわかりでしょうか?このデザインは「巻き寿司」をピクセルアートで描いたものです。ドットで表現することの目的の一つには「単純化」がありますが、この寿司の断面は細かな濃淡もドットで表現しており、シンプルさと緻密さを併せ持つ不思議な味わいです。こうした表現の工夫も興味を引く絵作りの方法の一つです。
2つのチェスクラブのロゴデザインです。シンプルに仕上げられているシンボルマークは、チェスボードをモチーフに描かれたピクセルアートです。上の「PANDA CHESS club」は名前の通り、白黒のチェス盤でパンダの顔を描いており、下の「CASTLE CHESS club」は城の塔をあらわしています。チェス盤の色形と余白をいかして描かれたとてもユニークなデザインです。こうしたシンプルながら面白みに溢れたデザインは記憶に残りやすく、覚えやすいロゴデザインといえます。
企業イメージを視覚化する、カスタムメイドのタイポグラフィー
ソフトウェアの開発、管理、コンサルティングを担う企業のロゴデザインです。正方形をベースとする文字のデザインは、ファイルや書類のアイコンを彷彿とさせ、整然と並ぶ様は、行き届いた管理やロジックな印象を持たせます。
エレクトリックミュージックのイベントのために作られたロゴデザインです。直線のみで描かれた尖った印象の文字に、稲妻のマークが重なり、重なっている部分は文字色が反転するようになっています。電子音楽のもつビビットでアグレッシブなイメージを効果的に伝えるロゴデザインです。
数学や経済学の高校生向け教育プロジェクトのロゴデザインです。数学も経済学も数多くの要素から成り立っており、それらを集積、構築した上で一つの問題を解いたり、理論を導きだすことができます。難しくなりがちなテーマを色鮮やかに作り上げたのは、そうした学術的な繋がりや、学びの出発点である「好奇心」を表現するためです。また、角のない透明感のあるゴシック体で描くことで親しみやすさ、軽快さ、楽しさをイメージさせています。
温度をデザインする有機的なロゴマーク
「38°」体温より少し熱いその雰囲気を見事に伝えるロゴデザインです。ベースは温かみのあるオレンジで、3~8~°までつながる一連のラインを赤みの増した朱色で描き、斜め右方向へ連なることで温度が上昇する感覚をイメージさせることができます。また、同径の5つの円をモチーフとすることで、均整のとれた美しいプロポーションに仕上がっています。
折り紙をコンセプトにしたロゴデザイン
我々日本人には馴染みの深い「折り紙」。このメールサービスのロゴデザインはまさにその折り紙をモチーフにしています。折り紙は海外のクリエイターに様々な影響を与え、そのデザインの中にもしばしば登場しています。折り紙はペーパークラフトとは違い、1枚の紙から作られる独自の発想、日本の伝統、緻密さ、丁寧さなどのイメージを持っており、珍しさだけではない繊細なイメージを与えることができます。ゆえに、このメールサービスという思いを届けるような業態には非常にマッチしており、封筒とハートというダブルミーニングのシンボルは計算の上に成り立つ素晴らしいロゴデザインといえるでしょう。
いかがでしたでしょうか。どのロゴデザインにもちょっとしたアイデアが忍ばされており、驚きと共に記憶に残るものが多くあったのではないでしょうか。また、近年のロゴデザインのトレンドも多く取り入れられており、時代性を加味しつつ独創的で美しいロゴづくりが印象的でした。是非これからのロゴデザインの参考にしてみてください。
Designer : Alex Tass ( Europe / Maldives )
・この記事は制作者に許諾を得て掲載しています。
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