Hachetresele Studioは、2004年に創業し、アルゼンチン大統領に命名された、南アメリカトップクラスのクリエイティブスタジオ。
マーケティングから広告全般のデザインを手掛けるこのスタジオの、目を見張るような革新的なアイディアと、独自のエッジの効いたデザインは世界的にも注目を集めており、国内外問わず活躍の場を広げています。クライアントの幅も広く、教育・建築・商業サービス等ジャンルを問わずプロジェクトを展開しています。今回はそんな彼らの仕事の中から、ロゴデザインを中心にしたプロジェクトをピックアップしてご紹介したいと思います。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Hachetresele Studio! )
建築ユニットを扱う企業のロゴデザイン作例
「VIMOD」は、建築用のコンテナやユニットを製作している企業及びブランド名。新たなロゴマークは、彼らの扱うユニット工法のモジュールデザインに基づいており、シンプルでありながら、製品そのものをモデルにし抽象化したロゴデザインです。
木材を材料に作り上げていくユニットと同様に、「VIMOD」の「V」を木材で組んだ構造物を想定し設計・構築されています。このシンボルマーク「V」は、シンプルでありながらも、独自の技術を扱い表現することで、ブランドのアイデンティティそのものを要約し、企業の姿を映す、リアリティーと美の両方を兼ね備えたフォルムなのです。
ロゴタイプについて
木製の「V」をシンボルマークに、それに合わせたロゴタイプが考案されています。木組みを思わせるクラフト感のあるオリジナル書体は、シンボルマークの雰囲気と調和し、ブランドが手掛ける構造体のイメージを彷彿とさせます。
ロゴを中心としたアイテムの展開
デザインされたロゴマークをベースに、ステイショナリーやwebデザイン、SNS動画などさまざまなプラットフォームでビジュアルツールが展開されています。モノトーンと鮮やかなブルーグリーンの組み合わせが、シンプルなデザインをソリッドに美しく見せているのが印象的です。
構造や技術を紹介するパンフレットは、先ほどのツール類とはまた違うビビッドなイエローとクラフト紙のテクスチャーでデザインされています。シンボルマークの構造を例に挙げわかりやすく解説することで、企業が手掛けるプロジェクトの全貌が見えてくるという面白い仕掛けが施されたパンフレットです。デザインを眺めているだけでもユニークで興味をそそられる斬新なつくりです。
ロゴデザインを単なるビジュアルで終わらせず、実用的な価値を与えたところにこの作例の面白さがあります。
“家族”をモチーフにした建築事務所のロゴデザイン作例
建築事務所「LBL」のロゴデザインは、非常にユニークな手法で制作されました。「家」を考える上で主役になるのは、そこに住まう「家族」。この家族をデザインの基盤とし、制作がはじまります。
家族の構成として、母親・子ども・父親の3人を基本の単位とし、それを図形に置き換えます。母親=○、子ども=□、父親=△とあらわし、さらにそれらの図形を重ね合わせ、デザインを起こすためのグリッド・システムを構築します。
出来上がった基本のグリッドをつなぎ合わせ、そのラインをベースに「LBL」のロゴマークがデザインされました。
コンセプトを元にグリッドをつくるという発想は、非常に驚きをもたらす手法です。グリッドは本来、美しく狂いのないデザインをするために、幾何学的な手法を用いデザインのベースラインを描く技法です。決して、デザインのコンセプトをあらわすための技法ではないのですが、このようにロゴデザインのプロセスに登場し、プレゼンテーションされては、クライアントも驚きとともに納得してしまうのではないでしょうか。何しろ、コンセプトをベースにしていることには間違いないのですから。
家族をベースにデザインされたシンボルマークは、芸術性と奥行を感じさせる見事にバランスがとられた図柄です。ユニークな導入法だけでなく、グリッド・システム本来の利点も十分に活かしてデザインされたロゴマークは、“さすが”と言わしめる仕事ぶりです。
ロゴマークのデザインをベースに、ツール各種やポスター、webサイトなどが共通のビジュアルで制作されました。ロゴマークの中でも一際存在感の大きい“○”がデザインのアクセントとして生きる、スタイリッシュでミニマルなデザインが、質の高い建築技術をイメージさせる効果的なデザイン例です。
“伝統”と“今”が交錯するアパレルブランドのロゴデザイン作例
ポルトガルにある石畳が美しい歴史ある街に、アパレルブランド「BAIRRO ALTO Clothing」はあります。
街並みは伝統を色濃く残すクラシックな雰囲気ながら、街行く人々はお洒落な若者が多く、まさに“伝統”と“今”が息づく場所。この街で若者向けにファッションをリリースするブランドとして相応しいロゴマークとは一体どのようなデザインなのでしょうか。
発想のベースとなったのは歴史を感じさせる数々のアイコンたち。これらのクラシックなアイコンを現代風にアレンジし、ブランドのもつ雰囲気をプラスすることで、「BAIRRO ALTO Clothing」のロゴマークは生まれました。
モチーフはドラゴン。メンズ衣料らしく威厳と強さをイメージさせる図柄です。古くから使われてきたモチーフですが、イラスト全体を、ドラゴンでもあり文様のようにも見せ、シャープなメリハリをつけて現代の感覚とオリジナリティを見出しています。
タグやワンポイントとなったとき、そのデザイン性の高さがよくわかります。ただのシンメトリーではなく、微妙に違いを出した緻密な設計にこだわりを感じさせます。
街の風景と合わせたときにしっくりとくるロゴマークの雰囲気。そこにさりげなく存在するブランドウェア。すべてが調和されるように計算されたビジュアルが、ブランドと街、人を繋ぎます。
自由を愛するスケートボードショップのロゴデザイン作例
スケートボードショップ「Valentino Skateshop」のロゴデザインは、イギリス生まれの犬種「ブルテリア」をモチーフにデザインされています。ブルテリアは元々闘犬として交配され生まれた犬種。屈強な体と鋭敏な身のこなしで闘犬界のトップレベルまで登りつめた犬種ですが、現在ではそのユニークで愛嬌のある容姿からペットとして人気を博すようになりました。
この犬をマスコットキャラクターに選んだ「Valentino Skateshop」は、ルールに縛られない自由な都会生活者に向け発信されるスケートボードブランド。ブルテリアの個性的なフォルムと闘争的本能を持ち合わせたキャラクターが、紳士的でありながら遊びゴコロを忘れない都会の大人たちに重なります。
ブルテリアのシルエットにハンドスクリプトで描かれたロゴタイプ。そして、それを色付けるのはソリッドなモノトーンとテクスチャー。通常ロゴマークは、シンボルマークやロゴタイプの書体、カラーなどを指定しレギュレーションを設定するものですが、「Valentino Skateshop」のロゴマークは、カラーだけでなく、表現の手段としてその材質までを指定するという珍しい手法を使っています。
素材同士を組み合わせることで生じる、不確定なざらつき。これこそが、ブランドが伝えたい”個々の自由な精神”を表現するもの。時流や年齢、性別などの型にはまらない、スケートボードを愛するすべてのフリーダムな人々へ向けられたコンセプトのカタチなのです。
まとめ
目の付けどころが違う、斬新かつ大胆な発想の数々はデザイナーにとって刺激的なものだったのではないでしょうか。既存のルールに縛られないというのは、常識の枠組み以上のグローバルな視点があるからこそできる考え方。それに必要なのは、闇雲なアグレッシブさではなく、膨大な知識と確かな技術力、そして一匙のユニークさなのかもしれません。
design : Hachetresele Studio ( Argentina )
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