一歩足を踏み入れると広がる、外の雑踏を忘れさせるような非日常的な空間。そんなお店と出会った時、まるでテーマパークに来たようなワクワク感で心が満たされます。今回ご紹介するのは、ウクライナにある2つの飲食店のブランディングとロゴデザイン作例です。両店舗共に、重厚感のあるビンテージな装いが特徴的で、そこに居るだけで贅沢な時間が過ごせるようなイメージを抱かせます。飲食店は、ドリンクやフードのクオリティが重視されることはもちろんですが、そこに『居る』ことへの価値も、求められる大きな要素の一つです。
2店の全般的なデザイン、ブランディングを担当したのは、ウクライナで12年ブランディングを中心に広告に携わってきたVITAMIN Branding Agency。ネーミング・ロゴデザイン、企業戦略、広告デザイン、デジタル、動画とブランディングに関わるほぼ全ての工程を担う専門家集団です。彼らが作り上げたコンセプチュアルな世界観を、秀逸なロゴデザインと共にご紹介していきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you,VITAMIN Branding Agency! )
伝説の潜水艦をモチーフにしたビアパブのブランディング例
ウクライナにあるビアパブ「BUHAREST」。このパブは壮大なストーリーをバックグラウンドにデザインされた風変りなお店。そのロゴデザインも然ることながら、店内を構成する一つひとつの要素が丁寧に作り込まれ、別世界のような印象をもたらします。
架空のストーリーを重厚にするビジュアルデザイン
物語は、1907年大西洋ではじまります。気高い艦長Zenon Avramovich Bukhが率いる潜水艦「BUHAREST」は、大いなる探索に出発します。そこで見つけたのが、世界でもっとも幸せな人々が暮らす「ビール文明」。ビールのパイプラインが発達した都市に住まう人々は、幸福の万能薬「ビール」を愛飲していたと言います。この発見から100年以上経ち、彼らが忘れ去られようとした頃、艦長の子孫がやっとの思いで当時の潜水艦を復元させ、幸福の万能薬「ビール」の秘密を明らかにする時がやってきたのです。
このお店は、そんな仮想のストーリーをベースに作られた『潜水艦パブ』。本物のような潜水艦の入り口を潜って入る店内は、長い歴史を感じさせる重厚感と、冒険とロマンの香り漂う工夫を凝らしたな内装の数々。まるでパラレルワールドに踏み入れたかのような不思議な感覚が訪れる人に去来します。
潜水士をモチーフにしたロマン溢れるパブのロゴデザイン
しっかりとしたコンセプトに則ったこのお店のロゴデザインは、その雰囲気を継承し、丁寧な手描きで何案も考えられました。どの案も、海や潜水艦、そして壮大なストーリーと冒険を思わす、クラシックで深みのあるデザインが施されています。
そうしてそれらの案の中から選ばれたのが、上記の潜水士(潜水ヘルメット)をモチーフにしたロゴデザインです。未知の文明との遭遇というドラマチックな展開をデザインに反映したスチームパンク風の装飾が、背景にある物語を色濃く投影し、このお店のコンセプトを見事に体現しています。
ブランドカラーに則ったアイテム展開
黒・ゴールド・赤という重みのあるカラーがブランドカラーとして選ばれ、落ち着きと深みのあるグッズデザインを展開しています。
テーブルマットに描かれた、生き物を使った不可思議な機器や、用途不明の装置。ちょっぴり奇妙で面白みのあるイラストから深海の魅惑的な世界が垣間見られます。
潜水艦パブというテーマを色濃く反映した内装デザイン
店内のあちらこちらに走らせたパイプラインや、船室の窓を思わす分厚い丸窓。壁一面に描かれたビール文明のイラストや、各テーブルに設けられたモニター付きのビアサーバーなど、ストーリーの世界を忠実に表現した店内は、現実の世界との境界線がわからなくなるほどリアルに作り込まれています。
この他に類を見ないビアパブ「BUHAREST」は、ウクライナのコンセプチュアル・デザインのフラッグシップ店舗として企画・設計されました。このお店が成功を収めることで、こうした形態の店舗がウクライナに増えていくのかもしれませんね。
世界遺産の中にあるラグジュアリーなレストランのブランディング例
レストラン「Cabinet」は、ウクライナのLvivという街の、世界遺産に指定された歴史地区にあります。Lvivはウクライナ文化の中心地ともいわれ、多くの美術館やギャラリーが立ち並び、文化的なイベントが通年行われています。また、コーヒーの愛好家が多く、カフェの数も他の都市に比べて多いそうです。「Cabinet」も実は、もとはカフェとして長く営業していたお店。しかしながら、店舗の老朽化に伴い時代に取り残され、次第に客の足も遠のき始めていました。
2016年の終わりごろ、そんな「Cabinet」に転機が訪れます。Vitamin Branding Agencyの手によってレストランとして蘇ることになったのです。これまでのように、居心地よく思い思いに時を過ごせる場所であることは変わらずに、よりラグジュアリーに格式高く、洗練されたスペースに生まれ変わりました。
提案ロゴの変遷 (GIF)
レストランは、歴史のある建物をそのまま利用し、主にインテリアやメニュー、ビジュアル・アイデンティティを変えることで今までとはまったく別の店舗に変化を遂げました。
この新しい店舗に相応しいロゴデザインも、リニューアルとともに考案することになり、たくさんのアイディアを元に、新生「Cabinet」を表現するデザインが選ばれました。シンボルマークになったのは、この店を象徴するようなインテリアのイラスト。本棚と味のある照明、そして丸テーブルとコーヒー。店内を知る人も知らない人も、「Cabinet」という店のイメージを正しく受け取れる、店の雰囲気を凝縮したようなロゴマークです。外枠からはみ出た本棚の脚が、まるで吹き出しのような形をとっており、ロゴタイプとの連帯感を強めています。英字で書かれたロゴタイプは、サンセリフ書体を使っていますが、独特のカーブや丸みがクラシックで洒落た印象をもたせる品のあるロゴタイプに仕上げられています。この英字のロゴタイプの他にも、ロシア地方で使われるキリル文字のロゴタイプも作られており、使用場面により使い分けているそうです。
ブランドカラー
また、ブランドカラーは、気品と温かみのある落ち着いたカラーが選ばれました。ダークブラウン、ベージュ、ゴールド、ナチュラルブラウンの4色が基本のパレットです。これらの色は、ブランドコンセプトに則したものであるとともに、カフェの定番である、コーヒー、チョコレート、ミルクといったメニューのカラーとも関連付けて選ばれています。
ロゴとブランドカラーを活用したアイテムの展開
ショップカードやテイクアウト用のカップやボックス、マグカップなど様々なツールが、決められたビジュアル・アイデンティティの元で制作されました。どれも、Cabinetのイメージ通り、新しくも伝統を感じるデザインです。
まるでお城の中にある図書室のような、静けさと品格のある店内は、別の時代の時が流れているような不思議な空間です。ハイクラスの寛ぎを追求したこのお店でゆっくりといただくコーヒーは、一体どんな味がするのでしょう。
まとめ
どちらの店舗もしっかりとしたコンセプトのもと、妥協を許さないクリエイティブワークにより、素晴らしい完成度でかたちになっています。アートの領域にほぼ近いブランディング例と言えるのではないでしょうか。ロゴデザインについても同様で、手書きでイメージに近い図案を何案も書き出し、そこからブラッシュアップして完成させていく様子には、並々ならぬこだわりを感じました。一切手を抜かず、依頼者の理想のかたちを追求していく姿勢に、独自の美学を感じる素晴らしい仕事です。
design : VITAMIN Branding Agency ( Ukraine )
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