店先で商品を選ぶ時、大きな判断材料となるのがパッケージデザインです。事前にその商品の評判などの情報を知っている場合は、デザインの良し悪しよりも視認性が優先されますが、目当ての商品が決まっていない場合は、その場でパッケージのデザインや印象・書かれているコピーの内容などから得られる情報をトータルで判断し、その商品が購入するに値するかどうかの最終決断に繋がります。
ブラジルのフリーランスデザイナー Bea Janoni 氏は、女性らしい柔軟な発想と機能美を追求したシンプルでモダンなデザインセンスで、商品のロゴデザインやパッケージデザインを数多く手掛けています。彼女がデザインしたパッケージデザインは、どれもはじめにロゴデザインを作り、それを中心にビジュアル展開の裾野を広げていっています。どのようにして特徴を押さえたデザインが形作られていくのか、彼女のプロジェクトからいくつかピックアップして見ていきましょう。
※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Bea! )
環境保全の精神を伝えるオーガニックジャムのロゴ&パッケージデザイン作例
「Casa Dita」は、地元で生産されたフルーツを使って製造されたジャム。特徴的なのはその生産システムで、徹底して地場産の原料を使用し、地域の自然環境に配慮した生産体制が整えられています。
南米には太平洋岸森林と呼ばれる、同地域のアマゾンに次ぐ大森林地帯があります。かつては1億ヘクタールという広大な面積を誇っていましたが、ポルトガルの植民地化以降、相次ぐ開発で徐々にその面積が失われ、今日残っているのは傾斜地や環境保全地域のみといわれています。面積こそアマゾンには劣りますが、この森林に住む生き物たちの多様性は素晴らしく、遺伝子資源の宝庫と呼ばれています。近年、この森林の価値は見直され、森林を保全していこうという機運が高まっています。
そのムードに着目し、ジャムの生産と自然保護活動を結びつけたのが、この商品のセールスプロモーションです。
製品を生産するには、大きく分けて4つのステップがあります。まず一つめは、地元の生産農家や工場に連絡を取り、パートナーシップを結びます。次に生産者の土地に近い環境保全地域にフルーツの苗を植え、森林を元気に保ちつつ、自然な環境の中でフルーツの成長を見守ります。最後に収穫期がきたら手摘みで収穫しジャムに加工し出荷します。
森林を保全しつつ、地元企業を稼働させることで雇用や収入を生みだし、さらに、自然の中で育ったオーガニックフルーツを使い、高い品質の製品を提供するという自然の理に適ったシステムでCasa Ditaは流通しています。
このような生産システムを上のようなシンプルなイラストを用いわかりやすく解説し、手に取る消費者にも理解を促す仕組みづくりを進めています。オーガニック志向の消費者は多く、たくさんのオーガニック製品も販売されています。その中で一歩抜きに出るために、さらにその先にある「自然環境への配慮」を武器に競合製品との差別化を図っています。オーガニック志向の人は、自然環境の保全にも高い関心を持っている傾向があります。製品を消費しても、自然を大きく害しないというのは大きな製品特性となり、消費者心理にプラスに働く賢いブランディング戦略です。
商品のロゴデザイン
そして、その製品特性をあらわすためにデザインされたのが、こちらのロゴマークです。流れるようにやさしく、やわらかなイメージを持つスクリプト体で書かれた「Casa Dita」のロゴタイプ。まさに自然の流れに逆らわない、従順でありながらも力が抜けた、ストレスフリーな印象を与えるロゴデザインです。
商品のパッケージデザイン
そうしてできたロゴマークを使い、パッケージもデザインされています。フルーツの色や質感をありのまま伝える、クリアボトルにプリントされたロゴマーク。色は白一色でシンプルに配置されています。ロゴマークの下には、読みやすいサンセリフ体でフルーツの名前が印字され、その下に「大西洋の森のネイティブフルーツ」と書かれています。飾り気をあえて出さずシンプルに演出することで、ナチュラルな製品特性や信頼感をデザインを通し消費者に伝えています。
伸びやかなロゴデザイン、カッチリとしたフレーバー表記、枠で囲ったアイコン。この3つの要素で構成された正面デザインは、動と静のバランスが程よくとれており、安定感と躍動感の両方を感じさせます。
各種ブランディングアイテム
ナチュラル感漂う木製のPOPや麻紐を使ったタグなど、販促ツールも同様のコンセプトで統一されています。製品の封印に使われているシールには、生産システムの挿絵と同じシンプルなタッチで描かれたフルーツのイラストが添えられ、全体の雰囲気をよりやわらかなものにしています。
地場産きのこの良さを表現するロゴデザインとパッケージデザイン作例
日本でもよく見かける乾燥きのこは、ブラジルでも人気の高い商品。日本でも同じようなことが言えますが、国内でも生産されているにも関わらず、市場の多くを占めているのは、販売価格が安価な輸入品。ブラジルではチリ産や中国産が多く、国内製品のシェア率の低下に悩みを抱えていたようです。
そこに一石を投じたのが、国内メーカーの「HEIDEN」。国内生産のきのこが持つ、高い栄養価や品質、輸入品を輸送する際に発生する公害などの環境問題を取り上げ、ロゴやパッケージデザインを通じて、国内製品の良さをアピールしていくブランディング戦略を実践しています。
特徴的なロゴタイプデザイン
パッケージの正面に大きく弾むような手書き風スクリプト体で書かれている「shiitake seco」。ポルトガル語で「乾燥しいたけ」。余談ですが、ブラジルでも「椎茸」は「shiitake」として認知されています、日本人が移住と共に持ち込んだもので、今ではすっかりブラジル人の食卓には欠かせないものになっているそうですよ。
話は本題に戻りまして、このスクリプト体は、ラベル上部にあるブランド名「HEIDEN」のロゴタイプに付属しているタグラインから派生しています。タグラインには「地域のきのこ」という意味の「cogumelo regional」とあります。スタンプで押したようなざらついたハンドメイド感のあるブランド名の表記にハンドスクリプト体のタグライン。親しみとぬくもりを感じるロゴデザインですね。
各種ブランディングツールのデザイン
この人の手の温かさを感じるロゴデザインは、チラシやペーパーバッグなどの他のツールにも生かされています。色はナチュラルなクラフトをベースに、きのこらしいブラウンの濃淡で展開し、全体にやさしくエコロジーなイメージでデザインされています。チラシには、地域で栽培するきのこを使用するメリットを、環境的なポジションと品質や栄養の面からわかりやすくアプローチする内容になっています。きのこの絵柄を用い、お洒落でキュートなデザインが、ロゴマークやパッケージデザインとマッチし、ブランドの魅力をより高めていますね。
まとめ
2つの作例を紹介しましたが、どちらも環境保全に配慮した商品であることから、やさしくナチュラルな印象が際立つデザインでしたね。しかし、その表現方法はそれぞれに異なり、同じテーマを持っていても商品の特性を生かしたデザインが個々に成立しています。
商品やブランドのイメージを形にする際、その魅力となるコンセプトを思い描きロゴデザインを起こすことはとても重要なことです。作例を見てわかる通り、ビジュアル戦略はロゴデザインを基点に展開していくことが大変多いからです。またその逆も然りで、ロゴデザインをする時、パッケージやツール展開を見据えながらデザインを考えていくのも効率的です。いずれにしても商品が存在する場合、ロゴデザインとパッケージデザインは切り離すことのできないもの。さまざまな展開を見据えてロゴをデザインしていくのも、ロゴデザイナーの仕事の一つですね。
design : Bea Janoni ( Brazil )
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