イベントの告知やキャンペーン、広告などのプレゼンテーションに欠かせないのはポスターやチラシです。古くからポスター・チラシは、環境を選ばず大衆に手軽に情報を伝える手段として利用されてきました。この紙媒体に並行して、近年ではインターネットの普及に伴い、Web上での案内やバナー広告、または大型スクリーンに映し出される告示など、デジタル化を駆使した多様なプレゼンテーションの方法が日進月歩の発展を見せ、グラフィックデザインの領域も益々拡張しています。
両者の伝達方法の相違は多々ありますが、情報を果てしなく取り込めるWebに比べ、紙媒体では、伝えたい的確な情報やコンセプト、またユーザーへのメッセージなどを限られたスペースの中で表現しなければならないため、おのずから洗練された構成や高いデザイン性を要求されるのが紙媒体の一番の特色です。 今日は、斬新な人目を引くデザインでポスターやリーフレットを多数制作しているデザイン事務所esh gruppa社の作品を一緒に見てみましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you,esh gruppa ! )
国際映画祭のブランディング事例
esh gruppa社は、ロシアの首都モスクワを拠点にしているグラフィックデザインスタジオです。 ブランディングプロジェクト、書籍やWebサイトデザイン、展示スペースの設計など、各々独自の視覚システムを開発しながら幅広いデザイン活動を展開しています。 このesh gruppa社は、『VOLNA RUSSIAN FILM FESTIVAL』のブランディングデザインを手がけました。
VOLNA RUSSIAN FILM FESTIVALはスペインのバレンシア州アリカンテ市で開催されたロシア語を基本とした国際映画祭です。スペイン地中海屈指のビーチリゾート地コスタブランカの中心都市であるアリカンテは、昔からロシア語を母国語とする人々が多数居住している地域。現代もなおロシア語圏外国人の居住数は増え続けています。映画祭主催のVolna機関は、ロシア映画を通して現代ロシア文化や芸術の振興と、ロシアとスペインの文化交流の発展をテーマにこのイベントを開催しました。
映画祭のロゴデザイン
はじめに、映画祭のグラフィック的シンボルであり各種媒体の基盤となったロゴマークを見てみましょう。
このロゴには二つのモチーフがベースとなっています。一つ目は「映画」をキーワードに用いられた映像を投影するのに欠かせないビームプロジェクター。もう一つは主催機関の名称であるVOLNAを意味する「波」。プロジェクターからの映写と大きくうなっていく波の両方をイメージさせる三角形の中に、『VOLNA』の文字を特殊なタイポグラフィーで構成して仕上げられています。
このロゴデザインはロシア色を全面に押し出していることが特徴ですね。三角形をベースとした斬新な構図や動きを感じさせる図柄、インパクトの強いタイポグラフィーなど、1917年のロシア革命を契機に大衆に広まった前衛芸術ロシア・アヴァンギャルドの流れを上手に現代的な表現に置き換えたデザインが施されています。
カラーリングについて
カラーリングに関してもロシア・アヴァンギャルドのテイストを採用しています。 当時ロシアの印刷技術は一部のカラーしか使用できないリトグラフ印刷が主流で、それを逆手にとり、限られた色を大胆に使ったグラフィック作品が数多く作られました。 esh gruppa社は、このリトグラフ印刷のスタイルを継承し、光線のごとく彩度の高い鮮やかなカラーリングをロゴデザインに登用。カラーリングからも「ロシア産」のイメージを強く感じさせ、同時に、高い赤と黄色のコンビネーションのロゴからは、「血と金の旗」と呼ばれるスペインの国旗を彷彿させるようなカラー展開を試みています。
ポスターやチラシデザインなどの展開
ロゴマークのデザインを基盤とし、様々な媒体が制作されました。その中でも注目なのは、ロゴを幾何学的にリズミカルに配置して出来上がったパターンです。三角形のロゴを大きさやカラーコンビネーションを変えながら構成した豊富なバリエーションパターンが出来上がり、ポスターやチラシデザイン、映画祭会場の展示スペースやWebサイトの背景にも使われています。
イベントのテーマを忠実に反映し、ロゴを基盤とし一貫したデザインポリシーでポスター・チラシ・リーフレット・布バックとあらゆる媒体へのデザイン展開を可能としたことが、このブランディングデザインの成功の秘訣と言えるでしょう。
イラストレーターとタイアップしたデザイン作品の企画事例
次に見て頂くのは、カードやステッカー、雑誌、ポスターなどの印刷物を作成するプロジェクト『PODAROK #1』です。
esh gruppa社の新しい試みとして始められたこのプロジェクトは、ロシアの若手イラストレーターたちとタイアップして行われるグラフィック企画です。テーマに沿ってイラストレーターたちの作品を数々の紙媒体のデザインに仕上げ、ギフト商品として販売していくという試みです。
第一回目のテーマは「お祝い」。お祝いをキーワードにしたイラストレーションが寄せられ、カードとステッカーが創作されました。
ポストカードデザイン
Natasha Dzhola & Bela Unclecat
Julia Popova & Timur Zima
Daria Litovchenko
Ksenia Turenko & Ivan Tretyakov
カードに描かれているのは、繊細な線で細かく描写されたものから、幾何学的に構成されたもの、手描きの跡が残るものと、様々なテイストのイラストレーションですね。それぞれが、赤・白・青色か赤・白・緑色の徹底したカラーコンビネーションで仕上げられているのも特徴の一つで、ここからも前述したロシア・アヴァンギャルドの影響を垣間見ることができます。
ステッカーデザイン
一方、ステッカーはモノクロームのイラストレーションで構成。
Natasha Dzhola & Timur Zima
Mila Silenina & Maria Yudina
お祝いやパーティーに欠かせない玩具やゲーム機器、プレゼントやケーキ、シャンパン、花など、数多くのアイテムが白地、黒地を背景に描き込まれています。まさに、うきうきするような楽しげな雰囲気が伝わってくるステッカーです。
これらのカードとステッカーのセットを入れた封筒に貼られたステッカーはこのプロジェクトのロゴマークです。レコード盤の様相にプロジェクト名PODAROKと参加イラストレーターたちの名前を表記した、おしゃれで洗練されたデザインです。
まとめ
esh gruppa社の紙媒体を主とした二つのプロジェクトを見てきました。 インターネットを使用することで必要な情報が簡単に手に入る昨今、紙媒体の必要性が少しずつ衰退しつつあるのが現状です。しかし、コンテンツをアップした後でも何度も修正可能なデジタル伝達とは異なり、一度プリントしてしまった後の修正は不可能な紙媒体の作成は、制作により一層の配慮が求められることから信頼の置ける情報発信方法としてまだまだ大きな価値を持っています。
また、今回のロシア・アヴァンギャルドの流れを汲んだデザインに見られるように、デザイナーの資質を端的にデザインに落とし込めるのも紙媒体の持つ特徴と言えるでしょう。 紙媒体の情報価値の素晴らしさやデザイン性の高さを今一度見直すべきかもしれません。
design : esh gruppa ( Russia )
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