ギリシャのBeetroot Designは、クリエイティブな分野の各エキスパートたちが集まり、専門家たちで構成されたデザインオフィスです。毎年多くのデザインアワードを受賞し、国内外問わず世界中のクライアントと仕事をしています。その活動の幅は広く、ポスターやチラシなどの紙媒体をはじめ、パッケージデザインやwebデザイン、アプリケーションやキャンペーン、インスタレーションや立体造形物、店舗デザインなど、「表現」と名のつくことならほぼ全てを守備範囲とする、オールマイティーなデザイン集団です。
今回ご紹介するのは、彼らが手掛けたポスターデザインについてです。ポスターデザインといってもその表現方法は実に多彩。Beetroot Designの中だけで見ても、写真による表現やイラストレーションによる表現、また画像加工やタイポグラフィなど各分野を掘り下げていけば数えきれないほどのパターンが存在します。今回はその中でも、平面でありながら立体感を感じさせるペーパークラフトのように作り込まれた2つのポスタープロジェクトをご紹介します。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Beetroot Design! )
コラージュのように見せるドラマチックなポスターデザイン
ギリシャのOnasis Cultural Centerとコラボレーションし、2015年~2016年に渡ってセンターで開催されるイベントのプロモーションを担当することになりました。プロモーションは、ポスターやカタログ、季刊誌などの印刷物や、ビデオやアプリケーションなど多岐に及びましたが、イベントごとのビジュアル・アイデンティティを定めることで、メディアが変わっても共通のアイデンティティを使用し、イメージを同一のものとして展開することを可能にしました。
デジタルらしさを感じない、温もりのあるポスターデザイン
20種類以上制作されたポスターの中でも印象的なのは、紙を切り貼りして作ったようなクラフト感のあるメイングラフィックを扱ったものです。質感のある紙を切り抜き、それらを重ね付けてコラージュしたかのようなデザインは、中には実際に手作りしたものもあったそうですが、ほとんどがコンピューターグラフィックによるもの。パソコンで制作したイラストを元に、影をつけ、背景の画像とレンダリングすることでまるで手作りした作品のようなリアリティーが生まれます。
多少なりとも画像加工に携わったことがある方ならわかるかもしれませんが、オブジェクトに影を付け立体感を出すことはそう難しいことではありません。デザインのちょっとしたアクセントにそのような加工を施すことは初心者でもできることです。しかしながら、彼らの制作したポスターのように、本物のクラフトと見紛うような作品ともなると話はまったく別の次元です。画像加工は手を加えれば加えるほど『自然』から遠くなってしまいがちです。強調や変換は容易にできても、自然に見せることは意外に難しく、どこか人の手を感じるものになってしまいます。そこを、加工なのか撮影なのか区別がつかないほどのクオリティで仕上げるというのは、並大抵な技術力でできることではありません。
紙の特徴を捉え、驚きのあるデザインに
そして、特筆すべきはその表現力の豊かさ。イベントや舞台の内容を示唆するビジュアルの造り方が非常にドラマチックで、見る側の想像力を掻き立たせます。同じカットアウトを用いた表現であっても、その重ね方、切り抜き方、見せ方は千差万別で、奥行があるが故に表現の幅も広がり、平面だけでは表現しづらい物事の関係性をユニークに大胆にデザインすることができます。
物語を想像させるこうしたポスターの演出は、演劇などの舞台イベントの告知には相応しいデザイン方法なのではないでしょうか。
博物館販売店の創立35周年を記念するポスターデザイン
ギリシャのベナキミュージアムは、国内有数の重要な資産を収蔵する国内で最古の博物館。その博物館の中にある施設の中で、記念品や工芸品、出版物等を扱う販売店はこれまで多くのギリシャのクリエイターを支えてきました。このポスターは、販売店の35周年を記念し、Beetroot Designが依頼を受け制作したものです。コンセプトは、販売店の35年間の歩みとギリシャのデザイナーとの関わりについてです。そこで、「35」という数字をベースにし、これまでデザイナーたちが造り、ショップを通じて世の中に発表していった作品たちを散りばめていくことにしました。
ポスターは全部で3種類。どれも「35」をベースにしていることには変わりませんが、それぞれ書体やカラーに変化をもたせ、雰囲気を変えています。
このポスターは、細めのサンセリフ体を用い、カラーはゴールドやシルバー、ホワイトなどシックで伝統を感じるようなデザインに仕上げています。人型の工芸品や植物をモチーフにしたような装飾品などが散りばめてあります。テーマは歴史と工芸といったところでしょうか。
2つめのポスターデザインは、エレガントなフォルムをもつセリフ体をベースに、グレーとブルーを基調に動物や生き物を象ったモチーフが多数見られます。生き物や命をテーマに、モビールやオブジェなどの作品をイメージしているのではないでしょうか。
そして最後の作品は、太めのサンセリフ体をベースに、抽象的な図形がレッドやブラウン、イエローなど暖色系の色でまとめられています。現代的なアートをテーマに、絵画やポストカードなどの作品たちを散りばめているのかもしれません。
どのポスターも、数字と作品たちのコラボレーションを立体的に表現し一枚の絵に収めています。35周年という節目に相応しく、賑々しくも歴史を感じられる層の厚いポスターデザインに仕上げられています。
まとめ
立体的な表現のポスターは、技術面が未熟であったり表現力がいま一つだと、安っぽい仕上がりになってしまう場合があります。影をつけるエフェクトは、容易かつインパクトがある手法のため、デザインをする上では定番ともいえる方法の一つです。しかしながら、今回取り上げたBeetroot Designのように、熟練した技術と高い表現方法があれば、ただの影というわけではなく、こんなにも斬新で奥深いデザインとなるのです。彼らのデザインを参考に、立体表現の在り方を今一度考えてみるのもいいかもしれません。
design : Beetroot Design ( Greece )
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