皆さまはデザインのワークショップに参加されたことがありますか。
様々な人たちが主体的に参加し、専門家の助言を得ながら積極的な意見交換や協働体験を通じて新しい創造と学習を生み出す場がワークショプです。講師からの一方的なレッスンを受講する講義やセミナーとは違い、共に作業することで実践的な知識や技術を学び受けることができるのが特色です。近年は、あらゆる分野でバラエティ豊かなプログラムを設けたワークショップが至るところで行われています。デザイン活動を軸としたワークショプも少なくありません。
デザインのワークショップといえば、参加者がチームに分かれ、研究・課題テーマに沿ってチームメイト同志でアイデアや意見をブラッシュアップしていく形態が一般的です。知らないデザイナーたちとの討論や専門家のアドバイスにより、個人だけでは辿り着けない発想やデザイン思考を吸収することが出来、ワークショップで得た体験が、スキルの向上に役立てたり、後の創作活動にポジティブな影響を及ぼしたりすることも多々あります。 世界には沢山の興味深いデザインワークショプが開催されています。 今日は、独自なタイポグラフィーの作成を課題としたヨーロッパで行われた一風変わったワークショプの事例をご紹介しましょう。
今回紹介するのは、スペインのバルセロナに拠点を持つ Brigit Palma 氏とオーストリアのウイーンで活動する Daniel Triendl 氏の二人のグラフィックデザイナーによって開催されたワークショップです。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Brigit & Daniel ! )
二人のプロフィール
オーストリアの都市ザルツブルクにある大学 Fachhochschule Salzburg Universityのマルチメディアアート科でデザインを一緒に学んだ二人は、その後各々の出身のバルセロナとウイーンにそれぞれグラフィックデザインスタジオを開設。活動拠点が離れた場所であるのにも関わらず、プロジェクトのコラボレーションを行ってこられたのは、もともと二人のデザインに対する考え方が類似している点と、Adobe社のCreative Cloudシステムによるものだと、インタビューの中で語っています。
コラボレーション作業に掲げられたのは、英字アルファベットを基本とする新しいタイポグラフィーの制作です。各アルファベットをモジュールグリッド上に配置しながら、幾何学的にパーツを組み合わせ、操作することで一つずつの文字を制作するという作業は、プロジェクトのファイルを共有することより行われました。Palma氏がひとつのフォルムを形成する最中、Triendl氏は配色やディテールなどの別の作業を行ない、リアルタイムで迅速なデザインコミュニケーションが遂行され、ファイルの内容は絶えず書き換えられていたそうです。今までにないデジタル環境を駆使したこの作業方法は、お互い、相手が何を思い付くのか、どんなアイデアで作品が作り変えられて行くのか、ある種のデザインゲームのようにとても刺激的で興味深い作業であったようです。
ワークショップについて
Palma氏とTriendl氏の両者がCreative Cloudシステムを使ってデザインしたプロセスと同じ体験を学生や若手のデザイナーたちにしてもらうという目的で開催されたのが、このModular Letteringのワークショップです。
2017年の春から夏にかけて、Adobe Deutschland社と国際的で創造的なコミュニティを推進し各種のイベントを運営するForward Festivals社の協賛により、ドイツ、オーストリア、スイスでそれぞれ20人から30人の参加者を対象に行われました。
課題は、Palma氏とTriendl氏によってあらかじめ用意されたモジュールを利用し、オリジナルなタイポグラフィーを作成すること。グラフィック的な演出による幾何学要素の回析・展開と創造性の向上がタイポグラフィーのデザインコンセプトに掲げられました。
シンプルなモジュールグリッドに基づいた幾何学形態から、ワークショップの参加者たちはAdobe Creative Cloud ライブラリーの豊富なマテリアルを利用しながら、様々な図形やパーツを制作・切り抜き・貼り付け・再加工などの作業を開始します。参加者の作り上げるデザインにPalma氏・Triendl氏がアドバイスをしながら関与し、リアルタイムで更新されます。このやり取りを繰り返すことにより次第に各文字のタイポグラフィーのデザインを完成させる、というのがこのワークショップのプロセスです。
作品のディテールを見てみましょう。 長方形のモジュールグリッド上に配置されるのは正円と直線です。その一部を使い、カラーリングを施しながら基本のタイポグラフィーとなる各アルファベット26文字を構成します。
その後、各自のアイデアやインスピレーションから図柄に落としたアルファベットの構成パーツを生み出していきます。この作業の特徴は、ある人が「A」文字のある部分をデザインしている瞬間に別の人は「A」文字の別の部分をデザインする、というコラボレーションの形ですね。複数の人たちが同時に作業を展開し、各自が作成したパーツをランダムに組み合わせることで、時間と共にひとつの文字がどのような形態へと発展していくのか、リアルタイムでその進行を把握することができるシステムです。
パーツの図柄のモチーフには、ワークショップ開催地であるドイツ、オーストリア、スイスを象徴する事柄・事象や、それぞれの地域のデザイン言語やスタイルが採用されたそうです。
各々のカラーリングやパーツの図柄のバッティングを防ぐため、また、アルファベット26文字を全体に見渡した際の類似性を避けるため、参加者とPalma氏・Triendl氏の共有ファイル上でのやり取りが何度も繰り返され、最終的にオリジナル性に富んだカラフルでユニークなタイポグラフィーが仕上げられました。
ワークショップの最後には、完成したタイポグラフィーの発表と講評があり、各参加者には自分の担当した文字を印刷したハガキが渡されました。
まとめ
今回のワークショップの注目点は、複数のデザイナーが同時に一つのものを作り上げるコラボレーションの形態とその可能性にあります。
ワークショップを担当したBrigit Palma氏は、次のように語っています。
「他人と一緒に働くことは楽しい反面、難しい要素も多々あります。特にデジタルの世界では、誰もが自分のコンピューターを持ち、誰もがそれぞれのプロジェクトを一人でこなすことができる現在、他の人と一つのものを創り上げるという思考は稀有になりがちです。しかし、Creative Cloudを使いプロジェクトのファイルを共有し、複数のアイデアを瞬間的に流暢に交わしながら、個人では生み出せない新しいデザインの可能性を持っているのがこのコラボレーションの長所です。このワークショップに参加した方々は、その長所を実感することができたことと思います。」
created by : Brigit Palma, Daniel Triendl ( Spain )
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