
コーポレート・アイデンティティ(CI)とは

コーポレート・アイデンティティという言葉よりも、略語の「CI(シー・アイ)」のほうを見たり聞いたりすることが多いかもしれません。
もし「CI」と聞いてブランドロゴを思い浮かべたなら、おおまかには合っていますが、正しくとらえていない可能性もあります。なぜなら、どんな場合でも「CI=ロゴ」であるとはかぎらないからです。
自分がどういう意味で「CI」を使っているのか、相手はどういう意味で「CI」と言っているのか、を意識することで、無駄な行き違いが避けられます。
また、ブランディングやロゴデザインをするときにも、より確信を持って方向性を決められると思います。
企業のアイデンティティとは?

「コーポレート」(corporate)は、企業とか会社という意味です。ですから、コーポレート・アイデンティティとは、「企業」のアイデンティティです。しかし、このアイデンティティという言葉は、なにかモヤっとさせます。
分野によって「アイデンティティ」(identity)の定義は異なります。自己同一性、自己認識、集団への帰属意識、などと説明されることが多いです。また、個性、独自性、主体性、自分らしさ、の意味で使われている場合もあります。

個人のアイデンティティとは、ざっくり言えば、「私が私であること」です。ですから、企業のアイデンティティは同じく「その企業がその企業であること」となります。「その企業らしさ」と考えるとわかりやすいかもしれません。
たとえば、トヨタがトヨタであること、ホンダがホンダであること、アップルがアップルらしくあること、グーグルがグーグルらしくあること。その根幹がコーポレート・アイデンティティです。
CIは「ロゴを変えること」ではなく「企業の振る舞い全体を設計すること」
CIというと「ロゴをリニューアルすること」と同義に捉えられがちですが、本来のCIはロゴ(VI:ビジュアル・アイデンティティ)だけでなく、MI(マインド・アイデンティティ:企業理念)やBI(ビヘイビア・アイデンティティ:行動規範)を含む、企業の存在そのものの再定義です。
制作の現場で感じるのは、「CIを見直したい」というご相談の多くが「ロゴを新しくしたい」という話に終始してしまうことです。しかし、ロゴだけ変えても社員の名刺やメールの署名、社内の掲示物、接客の言葉遣いが以前のままでは、「変わった」という印象は社外に伝わりません。
CIの刷新は、ロゴのデザイン変更をきっかけに「名刺、封筒、社用車、ユニフォーム、Webサイト、社内掲示物」まで含めたすべてのタッチポイントを一括で更新してこそ効果を発揮します。ロゴのリニューアルは、CIプロジェクトの「入口」であって「ゴール」ではありません。
企業のアイデンティティと企業イメージの違い

企業らしさとはなにかを考えてみると、「企業イメージ」という言葉が思い浮かびます。企業のアイデンティティとイメージとは、どう違うのでしょうか。
「近代マーケティングの父」フィリップ・コトラー教授は、著書でアイデンティティについて次のように説明しています。

prof. Philip Kotler at Warsaw – Jack11 Poland(CC BY 3.0)
「アイデンティティとは、企業がどのように自社や製品を特徴づけるのか、あるいはポジショニングするのかをいう」
一方、企業イメージについては、こう述べています。
「イメージとは、大衆がその企業や製品をどのようにとらえるかである」
そのため、企業がコントロールできないさまざまな要因によってイメージは左右される、としています。
ですから、コーポレート・アイデンティティについて「その企業らしさ」と言うときには、大衆にどう見えるか?という企業イメージを意味しているのではありません。ここは注意が必要です。
アイデンティティとイメージの違いを認識することによって、企業と顧客とのコミュニケーションやマーケティングが理解しやすくなります。
CIの設計範囲は「制作物の数」ではなく「タッチポイントの数」で考える
CI構築を「ロゴ・名刺・封筒を整える作業」と捉えてしまうと、見積もりや工程設計で実態とずれが生まれます。CIは制作物の集合ではなく、「企業がお客様や社外と接する全ての場面(タッチポイント)」をどう統一していくか、という設計です。
タッチポイントは想像以上に多岐にわたります。Webサイト、メール署名、SNSプロフィール、提案書のテンプレート、契約書、領収書、社員のユニフォーム、店舗の看板、製品パッケージ、納品書、社用車のラッピング。これら全てで「同じ印象」を出せているかが、CIの効果を大きく左右します。
CIを始めるときは、最初に「お客様や取引先が、当社と接する場面を全部書き出す」というワークから始めるのがおすすめです。リスト化してみると、ロゴ刷新だけでは不十分で、運用ルール(色の使い方、フォントの種類、写真のトーン、文章の口調まで)を整える必要があることが見えてきます。
コーポレート・アイデンティティを構成する要素について

コーポレート・アイデンティティを構成する要素については、いくつかの考え方があります。
三菱総研の「戦略CI」
1993年に三菱総合研究所が著した『三菱総研「戦略CI」ノート』では、コーポレート・アイデンティティが次の要素から構成されていると説明しています。
・マインド・アイデンティティ(MI)
・戦略アイデンティティ(SI)
・ビヘイビア・アイデンティティ(BI)
・ビジュアル・アイデンティティ(VI)
心理学をもとに個人のアイデンティティについても解説しています。アイデンティティが確立するには、「自分がなにものであるか」というセルフ・アイデンティティと、「自分が他者にどう思われているのか」というイメージ・アイデンティティが、「矛盾なく噛み合っている」必要があるという主張です。
三菱総研の定義では、企業のセルフ・アイデンティティを構成している要素は、企業が目指しているもの(マインド・アイデンティティ)、戦略(戦略アイデンティティ)、企業行動(広義のビヘイビア・アイデンティティ)です。
また、企業のイメージ・アイデンティティの要素は、従業員行動(狭義のビヘイビア・アイデンティティ)と視覚的印象の訴求(ビジュアル・アイデンティティ)としています。
日本では、1970年代にCIが導入されました。しかし、その多くがビジュアル・アイデンティティ(VI)偏重であったため、CIとは名前を変えてイメージアップすること、という認識が広まってしまいました。それが「日本のCIの持って生まれた不幸」であるというのが三菱総研の見解です。
興味深いのは、70年代・80年代に成功したVI的CI活動の多くは、CI活動以前に、VI以外のほとんどのアイデンティティは確立されていた、という指摘です。言いかえると、ビジュアル・アイデンティティの再構築だけをおこなったために、うまくいかなかったCI活動は少なくありませんでした。

CI=MI+BI+VI
近年では、コーポレート・アイデンティティを、企業戦略ととらえる考え方が広まっています。この考え方では、コーポーレート・アイデンティティの構成要素は、以下の3つです。
・マインド・アイデンティティ(MI)
・ビヘイビア・アイデンティティ(BI)
・ビジュアル・アイデンティティ(VI)
これは、先に紹介した三菱総研の考え方と共通したものがありますが、「CI=MI+BI+VI」という、ややすっきりとした構成になっています。
企業の理念がマインド・アイデンティティで、それに基づいた行動がビヘイビア・アイデンティティ、ロゴなど視覚的なデザインがビジュアル・アイデンティティです。つまり、企業の「理念」の統一、「行動」の統一、「視覚」の統一によって、独自性や特徴を市場や顧客に発信し、企業価値を高めようという戦略です。
CIガイドラインは「禁止集」より「事例集」のほうが浸透する
CIを構築したあとに直面するのが、「ガイドラインを社内に浸透させる」という課題です。よくあるのが、「ガイドラインを作って配布したのに、誰も使ってくれない」「いつのまにかフォントや色がバラバラに戻っている」という事態です。
原因のひとつが、ガイドラインを「禁止リスト」として書いてしまうことにあります。「◯◯してはいけない」「△△は使わないでください」というトーンで書かれていると、読み手は内容を読むのが面倒になり、結局ガイドラインを参照せずに自己流で作ってしまう、という流れに陥ります。
代わりに、「事例集」として整えるアプローチがあります。「企業ロゴはこの場面ではこう使う」「社内資料はこのテンプレートを使う」「メール署名はこのフォーマットで」というように、具体例ベースで「使えるパターン」を示すと、読み手は迷わずに済みます。NG事例も、「これはダメ」だけで終えるより、「こうしましょう」という代替案とセットで示すと、行動につながりやすくなります。ガイドラインは「読み物」より「使うツール」として設計する、という視点が浸透の差を生みます。
デザイン、行動、コミュニケーション

ほかの地域や国では、構成要素については、考え方が少し異なります。以下の3つの要素が挙げられることが多いようです。
・コーポレート・コミュニケーション
・コーポレート・ビヘイビア
・コーポレート・デザイン
コーポレート・コミュニケーション(corporate communication)とは、企業内外の関係者や顧客とのコミュニケーションです。広告やPR、プレスリリース、投資家向け情報などがふくまれます。
コーポレート・ビヘイビア(corporate behavior)は、企業の価値観や社会的責任を行動によって示すことです。環境保全のための製造工程見直しとか、難民の雇用といったことも、企業のふるまいの実例となります。
コーポレート・デザイン(corporate design)は、企業のビジュアル・アイデンティティを示す視覚要素すべてです。企業名、ロゴ、ブランドカラー、キービジュアル、タイポグラフィ 、ウェブサイト、オフィスや店舗のデザインなど多岐にわたります。
やはり、コーポレート・アイデンティティをビジュアル・アイデンティティと同じとみなすのは誤りであると説明されることが多いです。この点は、海外でも日本国内でも同じです。
なお、日本国外では、コーポレート・アイデンティティ(corporate identity)をCIと略すことはあまり一般的ではありません。PAOS(パオス)の創業者、中西元男氏が、2010年に著した『コーポレート・アイデンティティ戦略―デザインが企業経営を変える』には、「Corporate IdentityをCIと略したのは日本における現象」という記述があります。
一方、日本企業が進出して経済発展を支えた、アジアをはじめとする国々では、日本と同じく「CI=MI+BI+VI」という考え方も受け入れられているようです。
狭義のコーポレート・アイデンティティ

一方で、先に述べたビジュアル・アイデンティティの定義が、そのままコーポレート・アイデンティティとして理解、説明される場合もあります。コーポレート・アイデンティティを体現している「記号」または「ツール」を、「コーポレート・アイデンティティ」「CI」と呼んでいるわけです。
この場合、主に以下のようなアイテムが対象となります。
・ロゴデザイン
・書体やフォント
・キービジュアル
・スタイルガイド
このケースでは企業ではなく、事業や製品・サービスのブランドのビジュアル・アイデンティティに対しても、「CI」という言葉が使われることがあります。また、企業に対してはCI、それ以外についてはVIと使い分ける人もいます。
コーポレート・アイデンティティとブランディング

市場が変化するにつれ、マーケティングも進化してきました。それにともなって、コーポレート・アイデンティティとブランディングの考え方も変わってきています。
自社の製品やサービスを他社と区別してもらうために、社名やロゴが大きな役割を果たしていた時代は、コーポレート・アイデンティティが重視されていました。
日本で「CIブーム」と言われるような現象が起こっていた80年代には、バブル経済ともあいまって、ハイファッションブランドが市場にあふれていました。このため、「ブランド」と聞いて、高級ブランドを思い起こすひとが増えたのです。たとえば、「ブランドもの」という表現です。
このことが原因のひとつとなって、現在でも、ブランディングの重要性を説明された事業のオーナーが「うちはそんなに高級な商品をあつかっていないから」と誤解するようなことが起きています。
市場が飽和状態になり競争が激しくなると、企業主体のマーケティングから、顧客の価値観や関心を重視するマーケティングの時代に変わります。ブランディングということばが使われはじめたのは、90年代からです。

現代では、コーポレート・アイデンティティは、ブランディング戦略の一環としてとらえられています。
コーポレート・アイデンティティとブランディングの違いは、簡単にまとめると以下のようになります。
・コーポレート・アイデンティティとは、消費者にどう見られたいか、という企業の視点から発信される情報。
・ブランディングの目的は、企業・商品・サービスの価値を、消費者に認めてもらい、ファンになってもらうこと。
コーポレート・アイデンティティの定義や要素については、さまざまな考え方があります。共通して言えるのは、ブランディングの核または出発点として、現在でもコーポレート・アイデンティティが重視されていることです。
CIの効果は「お客様への発信」より「社員の意識統一」に表れやすい
CIを「お客様向けのブランド統一」として捉えがちですが、実は最も効果が大きいのは「社員自身が会社を理解し、同じ方向を向く」という内部効果のほうだったりします。
社員が自社の理念や強み、提供価値を自分の言葉で語れるようになると、提案や接客、SNS発信、採用面接など、あらゆる場面で一貫したメッセージが伝わるようになります。逆に、社員自身が自社のアイデンティティを掴めていないと、外部発信もブレやすく、お客様から「結局この会社は何を大事にしているのか分からない」と受け取られてしまいます。
CIプロジェクトの成果として、ロゴリニューアルやWeb刷新が目に見える成果物として残りますが、本当の効果は「社員が自社を語れるようになる」「採用で求める人材像と実態が揃う」「メンバーのブレがなくなる」といった、内部の変化として現れることが多くあります。CIの設計に取り組むときは、「最終的に社内にどう浸透させるか」をプロジェクトの一部として組み込むと、投資効果がより大きく出てきます。
【参考資料】
・中西 元男 著『コーポレート・アイデンティティ戦略―デザインが企業経営を変える』、誠文堂新光社
・三菱総合研究所 著『三菱総研「戦略CI」ノート -成熟市場への企業革新』、PHP研究所
・中村 正道 著『ブランディング』(日経文庫 1417)、日本経済新聞出版社
・山口 義宏 著『デジタル時代の基礎知識「ブランディング」 -「顧客体験」で差がつく時代の新しいルール』(MarkeZine BOOKS)、翔泳社
・小山田 育 著『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと -世界に通用するデザイン経営戦略』、クロスメディア・パブリッシング
・フィリップ・コトラー 著、恩藏 直人 監修、月谷 真紀 翻訳『コトラーのマーケティング・マネジメント ミレニアム版(第10版)』株式会社ピアソン・エデュケーション
・What is Corporate Identity? | Content Marketing Glossary | Textbroker (https://www.textbroker.com/corporate-identity)
・What Is Corporate Identity? – Importance, Elements, & Examples | Feedough (https://www.feedough.com/what-is-corporate-identity/)
・Corporate identity – Wikipedia (https://en.wikipedia.org/wiki/Corporate_identity)
・コーポレートアイデンティティ – Wikipedia (https://ja.wikipedia.org/wiki/コーポレートアイデンティティ)
・コーポレートアイデンティティ(CI)とは?企業のブランド戦略に欠かせない構成要素や事例とともに解説 | ボーグル (https://bowgl.com/corporate-identity/)
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