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企業のアイデンティティ

コーポレート・アイデンティティ(CI)とは?日本と海外での捉え方について


企業のアイデンティティ

コーポレート・アイデンティティ(CI)とは

コーポレート・アイデンティティという言葉よりも、略語の「CI(シー・アイ)」のほうを見たり聞いたりすることが多いかもしれません。

もし「CI」と聞いてブランドロゴを思い浮かべたなら、おおまかには合っていますが、正しくとらえていない可能性もあります。なぜなら、どんな場合でも「CI=ロゴ」であるとはかぎらないからです。

自分がどういう意味で「CI」を使っているのか、相手はどういう意味で「CI」と言っているのか、を意識することで、無駄な行き違いが避けられます。

また、ブランディングやロゴデザインをするときにも、より確信を持って方向性を決められると思います。

 

企業のアイデンティティとは?

アイデンティティ

「コーポレート」(corporate)は、企業とか会社という意味です。ですから、コーポレート・アイデンティティとは、「企業」のアイデンティティです。しかし、このアイデンティティという言葉は、なにかモヤっとさせます。

分野によって「アイデンティティ」(identity)の定義は異なります。自己同一性、自己認識、集団への帰属意識、などと説明されることが多いです。また、個性、 独自性、 主体性、自分らしさ、の意味で使われている場合もあります。

個人のアイデンティティとは、ざっくり言えば、「私が私であること」です。ですから、企業のアイデンティティは同じく「その企業がその企業であること」となります。「その企業らしさ」と考えるとわかりやすいかもしれません。

たとえば、トヨタがトヨタであること、ホンダがホンダであること、アップルがアップルらしくあること、グーグルがグーグルらしくあること。その根幹がコーポレート・アイデンティティです。

 

企業のアイデンティティと企業イメージの違い

企業イメージについて

企業らしさとはなにかを考えてみると、「企業イメージ」という言葉が思い浮かびます。企業のアイデンティティとイメージとは、どう違うのでしょうか。

「近代マーケティングの父」フィリップ・コトラー教授は、著書でアイデンティティについて次のように説明しています。

フィリップ・コトラー
フィリップ・コトラー教授

prof. Philip Kotler at Warsaw – Jack11 Poland(CC BY 3.0)

アイデンティティとは、企業がどのように自社や製品を特徴づけるのか、あるいはポジショニングするのかをいう

一方、企業イメージについては、こう述べています。

「イメージとは、大衆がその企業や製品をどのようにとらえるかである」

そのため、企業がコントロールできないさまざまな要因によってイメージは左右される、としています。

ですから、コーポレート・アイデンティティについて「その企業らしさ」と言うときには、大衆にどう見えるか?という企業イメージを意味しているのではありません。ここは注意が必要です。

アイデンティティとイメージの違いを認識することによって、企業と顧客とのコミュニケーションやマーケティングが理解しやすくなります。

 

コーポレート・アイデンティティを構成する要素について

コーポレート・アイデンティティを構成する要素については、いくつかの考え方があります。

三菱総研の「戦略CI」

1993年に三菱総合研究所が著した『三菱総研「戦略CI」ノート』では、コーポレート・アイデンティティが次の要素から構成されていると説明しています。

・マインド・アイデンティティ(MI)

・戦略アイデンティティ(SI)

・ビヘイビア・アイデンティティ(BI)

・ビジュアル・アイデンティティ(VI)

心理学をもとに個人のアイデンティティについても解説しています。アイデンティティが確立するには、「自分がなにものであるか」というセルフ・アイデンティティと、「自分が他者にどう思われているのか」というイメージ・アイデンティティが、「矛盾なく噛み合っている」必要があるという主張です。

三菱総研の定義では、企業のセルフ・アイデンティティを構成している要素は、企業が目指しているもの(マインド・アイデンティティ)、戦略(戦略アイデンティティ)、企業行動(広義のビヘイビア・アイデンティティ)です。

また、企業のイメージ・アイデンティティの要素は、従業員行動(狭義のビヘイビア・アイデンティティ)と視覚的印象の訴求(ビジュアル・アイデンティティ)としています。

日本では、1970年代にCIが導入されました。しかし、その多くがビジュアル・アイデンティティ(VI)偏重であったため、CIとは名前を変えてイメージアップすること、という認識が広まってしまいました。それが「日本のCIの持って生まれた不幸」であるというのが三菱総研の見解です。

興味深いのは、70年代・80年代に成功したVI的CI活動の多くは、CI活動以前に、VI以外のほとんどのアイデンティティは確立されていた、という指摘です。言いかえると、ビジュアル・アイデンティティの再構築だけをおこなったために、うまくいかなかったCI活動は少なくありませんでした。

CI=MI+BI+VI

近年では、コーポレート・アイデンティティを、企業戦略ととらえる考え方が広まっています。この考え方では、コーポーレート・アイデンティティの構成要素は、以下の3つです。

・マインド・アイデンティティ(MI)

・ビヘイビア・アイデンティティ(BI)

・ビジュアル・アイデンティティ(VI)

これは、先に紹介した三菱総研の考え方と共通したものがありますが、「CI=MI+BI+VI」という、ややすっきりとした構成になっています。

企業の理念がマインド・アイデンティティで、それに基づいた行動がビヘイビア・アイデンティティ、ロゴなど視覚的なデザインがビジュアル・アイデンティティです。つまり、企業の「理念」の統一「行動」の統一「視覚」の統一によって、独自性や特徴を市場や顧客に発信し、企業価値を高めようという戦略です。

 

デザイン、行動、コミュニケーション

CIの構成要素とは

ほかの地域や国では、構成要素については、考え方が少し異なります。以下の3つの要素が挙げられることが多いようです。

・コーポレート・コミュニケーション

・コーポレート・ビヘイビア

・コーポレート・デザイン

コーポレート・コミュニケーション(corporate communication)とは、企業内外の関係者や顧客とのコミュニケーションです。広告やPR、プレスリリース、投資家向け情報などがふくまれます。

コーポレート・ビヘイビア(corporate behavior)は、企業の価値観や社会的責任を行動によって示すことです。環境保全のための製造工程見直しとか、難民の雇用といったことも、企業のふるまいの実例となります。

コーポレート・デザイン(corporate design)は、 企業のビジュアル・アイデンティティを示す視覚要素すべてです。企業名、ロゴ、ブランドカラー、キービジュアル、タイポグラフィ 、ウェブサイト、オフィスや店舗のデザインなど多岐にわたります。

やはり、コーポレート・アイデンティティをビジュアル・アイデンティティと同じとみなすのは誤りであると説明されることが多いです。この点は、海外でも日本国内でも同じです。

なお、日本国外では、コーポレート・アイデンティティ(corporate identity)をCIと略すことはあまり一般的ではありません。PAOS(パオス)の創業者、中西元男氏が、2010年に著した『コーポレート・アイデンティティ戦略―デザインが企業経営を変える』には、「Corporate IdentityをCIと略したのは日本における現象」という記述があります。

一方、日本企業が進出して経済発展を支えた、アジアをはじめとする国々では、日本と同じく「CI=MI+BI+VI」という考え方も受け入れられているようです。

 

狭義のコーポレート・アイデンティティ

狭義のコーポレート・アイデンティティ

一方で、先に述べたビジュアル・アイデンティティの定義が、そのままコーポレート・アイデンティティとして理解、説明される場合もあります。コーポレート・アイデンティティを体現している「記号」または「ツール」を、「コーポレート・アイデンティティ」「CI」と呼んでいるわけです。

この場合、主に以下のようなアイテムが対象となります。

・ロゴデザイン

・書体やフォント

・キービジュアル

・スタイルガイド

このケースでは企業ではなく、事業や製品・サービスのブランドのビジュアル・アイデンティティに対しても、「CI」という言葉が使われることがあります。また、企業に対してはCI、それ以外についてはVIと使い分ける人もいます。

 

コーポレート・アイデンティティとブランディング

ブランディング

市場が変化するにつれ、マーケティングも進化してきました。それにともなって、コーポレート・アイデンティティとブランディングの考え方も変わってきています。

自社の製品やサービスを他社と区別してもらうために、社名やロゴが大きな役割を果たしていた時代は、コーポレート・アイデンティティが重視されていました。

日本で「CIブーム」と言われるような現象が起こっていた80年代には、バブル経済ともあいまって、ハイファッションブランドが市場にあふれていました。このため、「ブランド」と聞いて、高級ブランドを思い起こすひとが増えたのです。たとえば、「ブランドもの」という表現です。

このことが原因のひとつとなって、現在でも、ブランディングの重要性を説明された事業のオーナーが「うちはそんなに高級な商品をあつかっていないから」と誤解するようなことが起きています。

市場が飽和状態になり競争が激しくなると、企業主体のマーケティングから、顧客の価値観や関心を重視するマーケティングの時代に変わります。ブランディングということばが使われはじめたのは、90年代からです。

現代では、コーポレート・アイデンティティは、ブランディング戦略の一環としてとらえられています。

コーポレート・アイデンティティとブランディングの違いは、簡単にまとめると以下のようになります。

・コーポレート・アイデンティティとは、消費者にどう見られたいか、という企業の視点から発信される情報。

・ブランディングの目的は、企業・商品・サービスの価値を、消費者に認めてもらい、ファンになってもらうこと。

コーポレート・アイデンティティの定義や要素については、さまざまな考え方があります。共通して言えるのは、ブランディングの核または出発点として、現在でもコーポレート・アイデンティティが重視されていることです。


【参考資料】
・中西 元男 著『コーポレート・アイデンティティ戦略―デザインが企業経営を変える』、誠文堂新光社
・三菱総合研究所 著『三菱総研「戦略CI」ノート -成熟市場への企業革新』、PHP研究所
・中村 正道 著『ブランディング』(日経文庫 1417)、日本経済新聞出版社
・山口 義宏 著『デジタル時代の基礎知識「ブランディング」 -「顧客体験」で差がつく時代の新しいルール』(MarkeZine BOOKS)、翔泳社
・小山田 育 著『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと -世界に通用するデザイン経営戦略』、クロスメディア・パブリッシング
・フィリップ・コトラー 著、恩藏 直人 監修、月谷 真紀 翻訳『コトラーのマーケティング・マネジメント ミレニアム版(第10版)』株式会社ピアソン・エデュケーション
What is Corporate Identity? | Content Marketing Glossary | Textbroker (https://www.textbroker.com/corporate-identity)
What Is Corporate Identity? – Importance, Elements, & Examples | Feedough (https://www.feedough.com/what-is-corporate-identity/)
Corporate identity – Wikipedia (https://en.wikipedia.org/wiki/Corporate_identity)
コーポレートアイデンティティ – Wikipedia (https://ja.wikipedia.org/wiki/コーポレートアイデンティティ)
コーポレートアイデンティティ(CI)とは?企業のブランド戦略に欠かせない構成要素や事例とともに解説 | ボーグル (https://bowgl.com/corporate-identity/)

 

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