仏ルノー(Renault)が、2021年3月11日(現地時間)に公開された公式ページの記事とYouTube動画で、ダイヤモンドロゴのリニューアルを公表しました。1925年に登場したダイヤモンドロゴは、少しずつデザインを変えながらも、一貫してルノーのシンボルマークとして世界中に浸透しています。
Today on Brand New (Reviewed): New Logo for Renault https://t.co/FHOusE1b3i pic.twitter.com/8voVH5Fu7W
— UnderConsideration (@ucllc) March 18, 2021
2015年から使われてきた先代のメタリックな3Dロゴ(左)は、今回のリニューアルでフラットでミニマルなデザイン(右)になりました。新しいロゴは、2022年に発売されるルノー車から順次装着され、2024年までにすべてのモデルが新ロゴに変わるとしています。
太いラインでダイヤモンドを表現したロゴ
Björn Wylezich – stock.adobe.com
2015年から使われてきた先代のロゴは、メタリックな光沢と立体感が与えられています。自動車のフロントに実際に装着されているエンブレムを再現した、スキューモーフィズム的ロゴです。また、リボンで作ったようなデザインは、どことなくメビウスの輪を連想させます。
Renault has unveiled a new op art-style logo that harks back to the 70s https://t.co/h423tmJ0kc pic.twitter.com/BU6xNxGxYD
— Creative Review (@CreativeReview) March 22, 2021
これに対して新しいロゴは、伝統のダイヤモンドを2本の太い線で表現した完全なフラットデザインとなっています。ふたつのダイヤモンドが、知恵の輪のようにからみ合っているようにも見えます。マウリッツ・エッシャーの不思議な版画作品を思い起こすひとがいるかもしれません。
ルノーのデザイン・ディレクターGilles Vidal(ジル・ビダル)氏は、2つのダイアモンドが互いに影響しあって、フラットなロゴに動きを与えているというふうに説明しています。
「ひとつのダイヤモンドがもうひとつに回り込むことで、動きが生まれ、互いに影響し合い、補完し合います。人々の関心を引くこれらの価値を新しいデザインで伝えたいのです」(Gilles Vidal氏)
先代のロゴは「Passion for life」というタグラインとともに登場しました。同じダイヤモンドを継承していますが、先代と新ロゴでは、視覚的な面だけでなく、ロゴに込められたメッセージが異なっているようです。
「これまでよりももっと象徴的で、シンプルで、意味のある、真に時を超えた印になるように見直しました」(Gilles Vidal氏)
静かなリニューアル
今回のリニューアルのアナウンスメントは、どちらかといえば地味です。これといって派手な告知キャンペーンもおこなわれていません。新デザインのエンブレムを装着したモデルが市場に導入されるのが2022年からということもあるでしょう。公式サイトではまだ使われていません。
今回のロゴリニューアルのアナウンスの前に、新ロゴはすでに公開されていました。2021年1月に公表された新型EV「ルノー5(サンク)プロトタイプ」の個性的なフロントには新しいデザインのエンブレムが輝いていました。
電気自動車であることの証明であるかのように、どのブランドであってもエンブレムが点灯するものが多いようです。「ルノー5プロトタイプ」のエンブレムも光っている様子が動画で確認できます。夜間や暗所ではEVのエンブレムが点灯するのがこれからのスタンダードになるのであれば、エンブレムやロゴのデザインには、従来とは異なるアプローチが必要になるのでしょう。
ロゴリニューアルを説明する動画の中で、デザイン・ディレクターのVidal氏が興味深いことを言っています。ルノー5プロトタイプが新ロゴを装着した初めてのモデルだったのですが、ロゴについて驚くほど熱狂的なフィードバックが得られたので、そのデザインで進めることを決断したというのです。つまり、ルノー5プロトタイプ発表時には新しいロゴとしては確定してなかった可能性があります。もしかすると、それがロゴ差し替えが徐々におこなわれる理由かもしれません。
ルノーフランス(Renault France)の公式YouTubeチャンネルや、Facebook、Twitter、Instagramのアイコンは新しいロゴに置き換わっています。
先代ロゴは、ダイヤモンドのシンボルマークとワードロゴの組み合わせでした。リニューアル後のワードロゴがどうなるのかについてはまだアナウンスがありません。ひょっとすると、これについても現在検討中なのかもしれません。
ダイヤモンドロゴの登場は1925年
・Louis Renault en 1918 / Wikipedia
1898年のクリスマスに、ルイ・ルノー(Louis Renault)が自らが設計して組み立てたプロトタイプを運転して、パリのモンマルトルの急坂を駆け上ってみせました。その走りを見た友人たちは自分用の車を作ってくれるようルイに発注します。
そこで、ルイは兄弟と一緒にルノー社の前身であるルノー兄弟社(Société Renault Frères)を設立しました。これがルノーブランドの誕生です。ルノー兄弟社のロゴは1900年に登場します。ルノーのRをふたつ使ったアール・ヌーヴォー様式のモノグラムでした。しかし、このモノグラムは車のエンブレムとしては装着されてはいません。
o1559kip – stock.adobe.com
はじめてフロントにロゴが掲げられたのは1923年です。自動車のフロントグリルのような円形のデザインですが、これは吸気口ではなく、ホーン(警笛)のための開口部でした。ホーンをフロントに設置することが当時の法律で決められていたからです。
art_rich – stock.adobe.com
OceanProd – stock.adobe.com
1925年に、その輪郭がひし形に変更されてダイヤモンドロゴが生まれました。そのころのルノー車の外観は、ボンネットの中央に折り目が入っているようなデザインでした。そのフォルムにマッチするように直線的な輪郭に変更されたのです。それ以降のロゴも、トランプのダイヤのようなフォルムはキープしつつ、さまざまなデザイン変更がおこなわれました。その数は現在まで10回を超えます。
アーティスティックな1972年版ダイヤと「ルノー5」
ルノー5 : Wolfgang – stock.adobe.com
今年公開された新型EVのプロトタイプには「5(サンク)」の名前が付けられています。これは1972年に発売が開始され、大成功をおさめた名車「5(サンク)」にちなんだものです。「ルノー5」の発売と同時にロゴもリニューアルされました。
1972年版のロゴデザイン (via Wikipedia)
1972年版のデザインは、それ以降のロゴのベースとなるものでした。それ以前のロゴの中央にレイアウトされていたブランド名は取り去られました。そして、直線で構成された力強いデザインである点は、今回の新しいロゴマークと共通しています。
このロゴを生み出したのは、パリで活動していたハンガリー出身のアーティストで「オプ・アートの父」と呼ばれる、ヴィクトル・ヴァザルリ(Victor Vasarely)です。
Victor Vasarelyの作例 : cityanimal – stock.adobe.com
ヴァザルリは、1950年代から錯視効果を利用した幻惑的な幾何学的な作品を制作し始めます。1965年のニューヨーク近代美術館(MoMA)での展覧会で高く評価されました。「オプ・アート(op art)」は、オプティカル・アート(optical art = 光学的アート)という言葉からの造語です。1968年に開催されたメキシコ五輪のポスターもオプ・アートの代表的な作品のひとつです。
新戦略「Renaulution(ルノーリューション)」
ルノーは2021年1月に新戦略「Renaulution(ルノーリューション)」を発表しました。戦略は3つのフェーズに分けられ、2023年までを「復活」、2025年までを「リノベーション」、2025年以降を「レボリューション」と定義しています。グループ・ルノー(Groupe Renault)のCEO、Luca de Meo(ルカ・デメオ)氏は次のように述べました。
「私たちはハイテク技術をあつかう自動車会社から、自動車をあつかうハイテク企業に変わります」
自動車業界は100年に1度と言われる大変革期を迎えていると言われています。そのうねりは「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared/Service(シェア/サービス)」「Electric(電動)」の頭文字から「CASE」と呼ばれています。欧州最大の自動車製造グループであるグループ・ルノーもこの大きな波に逆らうことはできません。
デザイン・ディレクターのVidal氏は新ロゴのデザインについてこう述べました。
「ブランドの遺産を再認識してもらうことと、新時代へ歩みを進めること、つまり未来のシンボルとのバランスの問題です。スタイルを変更した今回のダイヤモンドは、ルノーが足を踏み入れようとしている『新しい波』を完璧に表現しています」
【参考資料】
・New Renault logo: a Renaulution for the diamond – Groupe Renault (https://group.renault.com/en/news-on-air/top-stories-2/a-renaulution-for-the-diamond/)
・Renault unveils new geometric logo in “timeless” rebrand | Design Week (https://www.designweek.co.uk/issues/15-21-march-2021/renault-new-logo/)
・Renault has a new logo (but no one seems to have noticed) | Creative Bloq (https://www.creativebloq.com/news/renault-logo)
・Renault Logo | evolution history and meaning (https://1000logos.net/renault-logo/)
・Renault Logo History: 117 Years of Brand Identity – Logo Designer (https://www.logo-designer.co/renault-logo-history-117-years-of-brand-identity/)
・120 years of brand identity – Groupe Renault (https://group.renault.com/en/news-on-air/news/120-years-of-brand-identity/)
・Victor Vasarely | Op-art.co.uk | Op-Art.co.uk (http://www.op-art.co.uk/victor-vasarely/)
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