2020年12月2日(現地時間)、米国ケロッグ社が同社のポテトチップスのブランド「プリングルズ(Pringles)」のロゴをリニューアルしました。
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自宅で過ごす時間がこれまでよりも長い2020年、ついスナック菓子に手が伸びてしまうひとも多かったのではないでしょうか。ポテトチップスはその代表格といって良いでしょう。パーティーサイズの大袋が店頭に増えたようにも感じます。味付けに工夫を凝らしたさまざまな新製品や期間限定品が各社から次々と発売されています。その中には大幅に売上を伸ばしたブランドもあるようです。
ポテトチップスには、ジャガイモをスライスして揚げたり焼いたりするタイプと、ジャガイモをペースト状にして成形するタイプがあります。後者の代表ブランドのひとつが、パッケージにヒゲのキャラクターが印刷されているプリングルズです。2009年から使用されていた先代のデザインがどのように変更されたか見てみましょう。
発売当初から一貫して使われてきたプリングル氏のロゴデザイン
プリングルズを開発して発売したのは、洗剤や化粧品などでも有名な米国のプロクターアンドギャンブル(P&G)社です。たっぷりとした口ひげと蝶ネクタイが特徴的な男性キャラクターは、最初から使われていました。彼の名前はJulius Pringles(ジュリアス・プリングルズ)です。ミスタープリングル(Mr. Pringle)とかミスターP(Mr. P)と呼ばれることもあります。
1967年の発売当初は、プリングルのポテトチップスという意味で、「Pringle’s」というアポストロフィの入った表記だったそうです。また、70年代なかばには「ジャガイモをスライスしていないプリングルズはポテトチップスとは言えない」という訴えが競合他社から出され、米国食品医薬品局がそれを認めました。そのためプリングルズは「chips(チップス)」ではなく「crisp(クリスプ)」という単語を使っています。
ほおの赤い初代と2代目プリングル氏のロゴ
今回リニューアルされたロゴの前に歴代ロゴを比べたいと思います。
ロゴの移り変わりを見る(外部サイト)
Pringles – Logopedia, the logo and branding site
初代ロゴは、正面を向いたプリングル氏の大きな黒い蝶ネクタイに、ブランド名がレイアウトされていました。いかにも60年代という手書きレタリング風の書体です。顔の輪郭は横長の楕円形で、髪も目もヒゲも同じ赤茶色です。ほおが赤いのが印象的です。
1986年に登場した2代目では、ブランド名からアポストロフィ「’」が取れて現在まで続く「Pringles」に変更されました。プリングル氏の輪郭は真円に近くなり、目が黒丸に変更され眉が加えられています。髪とヒゲの色も少しダークに変更されています。ブランド名はサンセリフ系のレタリングで、色も少しオレンジ寄りです。
ほおの赤みがとれてすっきりした3代目のロゴ
3代目のプリングル氏は1996年に登場しました。輪郭はわずかに横長の楕円形です。ほおの赤みは描かれることはなく、毛はライトブラウンになりました。以前にくらべるとずいぶんモダンですっきりした印象です。ワードロゴの色は初代に近い明るい黄色に変更されました。蝶ネクタイの形とともにシャープで力強いデザインです。
90年代なかばになると、米国内での売れ行きが右肩上がりに増えていきました。そのためP&Gは海外への進出を決め、欧州、南米、アジアに市場を求めました。それぞれの市場に合わせて多様なフレーバーを開発し、現在の世界中での人気につながっています。業績の好調さが3代目プリングル氏の表情にも反映されているように感じます。
ワードロゴとネクタイが分かれ大きくイメチェンした4代目と5代目のロゴ
2009年にはプリングル氏の風貌は大きく変わります。ワードロゴがネクタイから分離され、ネクタイは小さく赤いものになりました。顔の向きと髪型も違います。眉はなくなりました。イラストのラインは太さに強弱がついてアメコミ風のタッチです。ワードロゴも曲線に沿って動きのある構成になっています。赤とオレンジで背景も追加されました。目に光が入れられ、従来のロゴにはない生き生きとした表情をしています。このロゴが使われていた2012年にP&Gが食品事業から撤退し、ケロッグ(Kellogg’s)社が事業を引き継ぎました。
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2019年のバージョンは、4代目をベースとしながら、ラインやグラデーション、ワードロゴの書体など、全体的に少し柔らかいトーンで仕上げられています。赤い背景はなくなりました。ヘアスタイルもちょっとオシャレです。ワードロゴには軽くグラデーションとハイライトが加えられています。
顔のパーツをシンプルにした新しい顔
Today on Brand New (Noted): New Logo and Packaging for @Pringles https://t.co/fRZHIgrgZ1 pic.twitter.com/uVpliDleoK
— UnderConsideration (@ucllc) December 7, 2020
さて今回リニューアルされたプリングル氏の顔はとてもシンプルなものです。全体的な構成は基本的に5代目を踏襲しながら、表情が大胆に作りなおされました。プリングルズは英語で「glow up」 – “あか抜けてカッコよくなった” と表現しています。
プリングル氏の特徴はヒゲと目と見定め、それ以外は顔のアウトラインさえ取り去られました。センター分けの髪の毛もなくなっています。さらに、ヒゲはブラウンではなく黒ベタにされ、目の光もなくなりました。あらたに眉が追加されています。
新しいシンボルが白地で使われるときには、輪郭線がないためヒゲと目と眉だけが描かれ、過去の顔とはかなり違った印象になります。一方、パッケージなど色地をバックにしたときは、白い楕円形の顔の輪郭を見ることができます。このとき眉が5代目の髪の毛の位置にあるため、パッと見たときに先代の顔に少し近づいて見えますが、これは偶然なのか意図的なものか気になります。
新しいプリングル氏の顔は、ロゴマークやアプリアイコンなどの最近の大きな流れである「フラットデザイン」を思わせますが、ワードロゴは太いアウトラインに囲まれ、微妙なグラデーションもそのままです。
独特の筒状パッケージデザインをとりまく事情
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プリングルズのポテトチップス(クリスプ)は、成型されたものなので1枚1枚すべてが同じ形をしています。そのためタテにきれいに積み重ねることが可能で、筒状の缶パッケージの中にもその状態で重ねて出荷されます。
整然と揃えられているため袋入りの製品よりもコンパクトで、缶の中でチップスが砕けることもなく、しかも密封されているのでいつでも新鮮、特徴が初期のテレビCMでも盛んにアピールされていました。
ところが近年、このプリングルズのもうひとつの顔でもある缶パッケージに対する不満の声が出始めました。プリングルズの缶を構成しているのは、金属の底、アルミ箔をコーティングした厚紙、金属のトップシール、プラスチックキャップですが、分別が難しくリサイクルに向かないという主張がなされました。英国のリサイクル事業のグループからは「リサイクルの敵」とまで言われてしまいます。
これを受けてケロッグ社は、今年の秋から英国で、再生紙を使ったリサイクル可能な新しいパッケージを試し始めました。
ですから、プリングル氏のリデザインは、デジタル化を主な目的にミニマルデザインやフラットデザインを進めている自動車業界やIT企業などとは少し事情が異なるようです。ケロッグ社は、プリングルズチップス(クリスプ)のフレーバーに合う新しいパッケージデザインを2年間調査・検討してきたといいます。プリングル氏の化粧直しは、この調査を経た総合的なブランディング刷新の一環なのです。
【参考資料】
・Pringles® Stacks The End Of 2020 With New, Refreshed Brand Look And Feel (https://www.prnewswire.com/news-releases/pringles-stacks-the-end-of-2020-with-new-refreshed-brand-look-and-feel-301183208.html)
・Pringles Logo Redesign: Kellogg’s Gives Mr. Pringle a Fresh New Look – Thrillist (https://www.thrillist.com/news/nation/kelloggs-pringles-logo-redesign)
・Pringles® (https://www.pringles.com/us/home.html)
・Pringles – Logopedia, the logo and branding site (https://logos.fandom.com/wiki/Pringles)
・The Pringles Tube Has Had A Major New Redesign And It’s Eco-Friendly – LADbible (https://www.ladbible.com/news/food-the-pringles-tube-has-had-a-major-new-redesign-and-its-eco-friendly-20200911)
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