ポーランドの首都ワルシャワを拠点に活動しているPodpunktは、数々の受賞歴を誇る、意欲的なスタジオです。同スタジオは、デザイン界の巨匠ソール・バスの言葉「デザインとは視覚化された思考である」に深いインスピレーションを受けています。
経験豊富なデザイナー、マネージャー、プログラマーで構成されたチームが、独創的なアイデアを提供しています。戦略の立案、ブランディング、展示会、広告、プロダクトデザイン、UX/UIと、提供しているサービスは広範囲です。
Podpunktの姉妹会社にSuperskryptがあります。デジタルプロダクトに特化したソフトウェアハウスです。あらゆるプラットフォームとメディアを通じてモダンなデザインコンセプトを提供し、Podpunktを強力にサポートしています。
スタジオPodpunktの豊富な実績のなかから、とても印象的な食品関連プロジェクトを紹介します。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。( Thank you, Podpunkt! )
ジャングルのイラストで物語るコーヒー豆の魅力
ワルシャワを拠点としているコーヒー焙煎業者Karbowane Ziarnoのブランディングには、魅力的なイラストレーションがフィーチャーされています。
南米の農園から輸入したコーヒー豆を、個人や小規模ビジネス向けに直販してきました。ターゲットをコーヒー販売業者やカフェなどに拡げるために、ブランドの認知度を上げるのが、Podpunktへの依頼でした。
ジャングル探検にコーヒーを飲む喜びを重ねたブランドストーリー
南米といえば、まずアマゾンの熱帯雨林を思い浮かべます。ジャングルに足を踏み入れることは、心を踊らせ、五感を刺激する挑戦です。Karbowane Ziarnoが提供するコーヒー豆も、強い香りと独特の味で感覚を喜ばせてくれます。
また、密林探検にはリスクをともないますが、同じように、コーヒーとの出会いも一種の冒険です。コーヒー愛好家も探検家のように、おいしいコーヒーを発見するために冒険を続けています。
そこで、Podpunktは、グアテマラやブラジルのコーヒー農園の斜面でコーヒーが成長する物語をイラストにしました。
自然の豊かさと謎を秘めたエキゾチックなイラストは、画家アンリ・ルソーの密林を思わせます。コーヒーの花は、コーヒーの実のように赤く色づけされています。
イラストの細部を見るとパーツは幾何学的に描かれていますが、全体の印象は、複雑で有機的な印象を与えるのがおもしろいです。
クライアントのビジネスが小規模で、予算は限られていました。そのため、ブランディングの効果を求めて、このイラストを最大限に活用しました。
製品パッケージをはじめ、店舗のインテリアや備品、店員のユニフォーム、トートバッグなどの販促アイテム、パンフレットなど、さまざまなタッチポイントでイラストを活用し、ブランドストーリーを伝えています。
NFC技術利用でブランド体験をさらに深める仕掛け
NFC(Near Field Communication)とは、かざすだけで通信できる規格のことです。代表的なものに「FeliCa」があります。
FeliCaは、Suica、PASMO、楽天Edyなどで使われています。FeliCaとは規格が異なりますが、Apple Pay、Google Payや、クレジットカードのタッチ決済などもNFC技術によって可能になったサービスです。
今回のブランディングプロジェクトでは、NFC技術を組み込んだ販促ツールも開発しました。イラストが印刷されたツールにスマートフォンをかざすと、アマゾンの密林やコーヒー生産者のドキュメンタリー動画を瞬時に視聴できます。
これによって、ユーザーはコーヒー豆の生まれた環境をリアルに知ることができ、ブランドストーリーをより深く体験できます。
Art Direction: Emilka Bojańczyk / Podpunkt
Design: Zuzanna Charkiewicz, Aneta Lewandowska, Diana Makulska / Podpunkt
Illustration: Zuzanna Charkiewicz / Podpunkt
Animations: Ewa Najnigier-Galińska / Podpunkt
Photo: Krzysztof Kozanowski for Podpunkt
Business: Magdalena Dobruk / Podpunkt
食品ロスを減らせるアプリのブランディング
ポーランドで生まれたアプリ「Foodsi」は、レストランやカフェの余った食品を割安で買えます。食品ロス(フードロス)を減らすことを目的に開発されました。
レストランやカフェは、売れ残った商品をFoodsiに登録します。ユーザーは近くの店舗で、その食品を割安価格で購入できます。
2019年にワルシャワでスタートし、現在はポーランド国内の大都市でも利用可能です。また、食品に加えて、雑誌やコスメ商品、花なども扱われるようになっています。
「今のうちにお得な商品をゲット!」
ブランディングを手がけたPodpunktは、Foodsiのシンボルマークでビジネスコンセプトをストレートに表現しました。
リンゴをつかんでいる手をミニマリスティックに描いています。そこにサンセリフ系の書体で組んだロゴタイプを添えました。
ブランドのキャッチフレーズは「今のうちにお得な商品をゲット!」です。
アプリを紹介するアニメーションを見ると、ゲーム「テトリス」のブロックのように、さまざまな食品が画面の上から落ちてきます。これは、食品の廃棄を表現しているのでしょう。
すると、下から手がゴムのように伸びて、落ちてきたリンゴをキャッチします。その、リンゴとつかんだ手がシンボルマークに変わります。
ユーザーのアクションを促す長く伸びる手
このギューンと伸びる手をみると、人気マンガの主人公を思い出すひとがいるかもしれませんね。手でつかむ、という描写は、アプリでお得な食品を手に入れましょう、というユーザーのアクションを促すメッセージとなっています。
手が伸びて、ロゴタイプの文字のひとつをつかむ…という行為が、キービジュアルのモチーフとなっています。「f」「o」「i」といった文字を、上から、下から、横から伸びた手がつかむイラストを使った広告ビジュアルは、とてもミニマルなデザインです。
これは、無駄をなくすというブランドのミッションにもマッチした表現であると言えるでしょう。
Design: Diana Makulska / Podpunkt
Animations: Zuza Charkiewicz / Podpunkt
大切にニワトリを育てるタマゴ農場のブランディング
ポーランド南西部でタマゴ農場Kotlina NaturyのブランディングをPodpunktが手がけています。
Kotlina Naturyブランドのタマゴは、自然豊かな環境の中でのびのびと暮らすニワトリたちが産む高品質の商品です。Podpunktが作り上げたビジュアルアイデンティティは、その自然環境がもとになっています。
大自然のなかでのびのびと暮らすニワトリたち
このKotlina Naturyがニワトリを育てているのは、チェコとの国境となっているスデーティ山地の谷間に広がる草原です。
Kotlina Naturyのニワトリは、ケージではなく、基本的には放し飼いされています。放牧地、または自由に歩き回れる広い鶏舎で、最高級の飼料を与えられて育てられています。Kotlina Naturyの公式サイトには次のような文言があります。
「私たちはニワトリの健康に気を配り、本当の『健康カプセル』を生み出しています」
豊かな自然環境を表現したイラスト
Kotlina Naturyのパッケージデザインは4種類です。それぞれ、ベージュ地にルビンレッド、明るいグリーン地にインクブルー、アイボリー地にダークブルー、淡い青地にダークグリーンで印刷してあります。
一見するとパッケージは色使いが異なっているだけのようです。しかし、背景のパターンもそれぞれ異なる4種類のイラストが使われています。
この4つのパターンが表現しているのは、Kotlina Naturyのニワトリが過ごす草原です。養鶏場を囲む自然環境を4つの層に分けて、それぞれをイラストで描いています。穀物と砂の層、密生した草の層、背の高い新芽の層、山を背景とした背の高い草の層です。
イラストには、ニワトリやタマゴ、しっぽ、足跡などが隠されています。
Kotlina Naturyの販売しているタマゴは4種類あります。有機飼料で育てられる放し飼いのニワトリの有機卵。この有機卵のうち、ポーランド原産のグリーンレッグ種のタマゴ。タマゴを産むとき以外は放牧地で放し飼いされるニワトリのタマゴ。ワラを敷いた鶏舎で暮らすニワトリのタマゴです。
各パッケージは、この4種のタマゴに割り当てられています。
イラストのモチーフはさまざまなメディアで展開
パッケージの背景に使われているイラストレーションは、ほかのメディアや販促ツール、備品でも使われています。
ランチョンマットやエプロン、皿、アプリなどで、パッケージと同じようにレイアウトしたり、一部を拡大したり、エレメントのひとつを取り出して動かすなど、さまざまに活用。一貫性を保ちながら、豊かなバリエーションが生まれています。
最初のリブランディング以降も、Podpunktはビジュアルアイデンティティシステムのメンテナンスを続けています。ブランディングの一貫性を維持し、ブラッシュアップすることが目的です。
たとえば、あとから追加されたビジュアルアイデンティティには、ビジネスカードなどの印刷物に採用された、シンプルなタマゴのシルエットがあります。
モダンなセリフ書体で組んだKotolina Naturyのロゴタイプは、「o」の文字がタマゴのシルエットになった、微笑ましいデザインです。ビジネスカードやステーショナリでは、このタマゴのシルエットをエンボス加工して、メインビジュアルとしました。使われている紙には、タマゴの殻を思わせる質感のものが選ばれています。
アニマルウェルフェアという取り組み
欧米では、ストレスの少ない健康的な環境下で動物を飼育する「アニマルウェルフェア」という考え方が広がっています。対象は、家畜やペット、実験動物、動物園の動物などです。日本では「動物福祉」と訳されています。アニマルウェルフェアの考え方は、1960年代の英国が始まりです。
適切な飼育環境は動物の健康を促進し、ストレスや病気を減少させるため、生産性の向上や安全な畜産物の生産にもつながると考えられています。
欧州では、アニマルウェルフェアの法整備が進んでいます。英国では2006年に動物保護法が制定され、2018年には屠殺場への監視カメラ設置が義務化されました。フランスでも2021年の法律改正で、ペットショップでの犬猫販売禁止や動物虐待の罰則強化が導入されました。
欧州以外でも、台湾で2021年に採卵用アヒルのバタリーケージ(小さな金網)使用が禁止され、卵の飼育状況を示す表示が義務付けられました。
Design & Art direction: Emilka Bojańczyk / Podpunkt
Illustrations: Emilka Bojańczyk, Zuza Charkiewicz / Podpunkt
Photos: Kotlina Natury / © Aktiw Sp. z o.o.
Photographer: Krzysztof Kozanowski
Animations: Wojtek Waydel / Superskrypt, Zuza Charkiewicz / Podpunkt
Semi Custom font & logo consultants: Latinotype
design : Podpunkt (Warsaw, Poland)
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