毎日何気なく目にしているロゴマーク。文字だけで構成された「ロゴタイプ」のみのマークや、絵柄にあたる「シンボルマーク」とロゴタイプを組み合わせたマーク、中には、シンボルマークだけで機能するように設計されたロゴマークもあります。ロゴマークの構成のうち、もっとも多いのが、シンボルマークとロゴタイプの組み合わせ。ロゴタイプが付属しているおかげで、どこのブランドのシンボルマークなのか知らない人にとっても認識しやすい構成です。
しかし、ロゴマークの中で、印象に残りやすいのは、絵柄であるシンボルマークの部分。ここにインパクトがあれば、企業やブランドの詳細を知らなくても「あのマークのブランド」として見る人の記憶に残ることでしょう。
ヨーロッパ南東部、バルカン半島に位置するモンテネグロ。ロシアとヨーロッパの間にあるこの国で、デザイナー Dmitry Lepisov 氏は活動しています。のんびりとした国民性で知られるこの国ですが、Dmitry Lepisov氏のデザインは、いくつものアイデアスケッチからこれぞという形を導き出す、綿密で戦略的なデザイン。彼の考えるシンボルマークは、どれも力強くインパクトを残します。西の文化と東の文化が混ざり合うモンテネグロで生み出された印象深いロゴデザインの数々を考察していきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Dmitry! )
モーターオイルを製造販売するメーカーのロゴデザイン ――「synro」
「synro」は、高品質のモーターオイルと工業用潤滑油を製造し、全世界に販路を広げようとしている新しいブランド。商品とブランドを世の中に知ってもらうため、明確なブランドアイデンティティとビジュアルアイデンティティを求めていました。
工業製品は一般にはなじみの薄い商品。唯一、一般ユーザーに向けて発売するのが自動車用モーターオイルですが、すでに市場には競合ブランドが複数あり、それらの製品とどのように差別化するのかが最初の課題でした。
そこで、はじめに取り組んだのが、競合の動向を探るマーケティングリサーチです。
競合ブランドがどのようなビジュアルを用い、ユーザーとコミュニケーションを図っているのか。どのように自社製品のイメージを伝えているのか。それらの潮流を推し量るため、各社のロゴマークを集めて視覚化する「Moodboading」という手法を取り入れています。
次の段階では、自社ブランドをどのようなイメージで伝えたいのか、いくつかのキーワードを用意し、そこからイメージするカタチと結びつける「Mindmapping」で方向性を模索します。
ブランドを知ってほしいターゲットを定め、さらに深く細かくイメージを言葉にしていきます。
例えば、
製造→モーターオイル・工業用潤滑油→信頼→分子構造シンボル→六角形
製造→モーターオイル・工業用潤滑油→パワー→暖色
などというように、言葉と視覚イメージを結びつけデザインの具体的な方向性を探ります。
そこから導き出されたキーワードが、渦巻のようなモーターの回転をあらわすシンボルと、ブランド名の頭文字である「S」、製品の特性をあらわす分子構造をモデルにした六角形。
言葉と視覚イメージがある程度絞り込めてきたら、縦軸と横軸に他の候補キーワードも一緒にいくつか並べ、2つのワードが交差するポイントに連想されるビジュアルをスケッチする「The idea generating matrix」という手法を使い、ブランドイメージに適したシンボルマーク候補を手描きで何通りも描いていきます。
このメソッドの優れた点は、言葉のマトリクスを使うことで、デザイナーの持つ想像力の壁を越え、通常のアイデアラッシュでは気がつかないような図柄を導き出せる点です。
マトリクスの中からスケッチをいくつかピックアップし、ロゴタイプと一緒にベクターデータで描き起こし、仕上がりを比較します。
この時点で、クライアントに提案するため、候補を3点くらいに絞ります。
選ばれた3つの候補を、実際にロゴとして採用した場合を想定したモックアップを作成し、最終選考にかけます。
最終的に選ばれたのは、一本のラインで構成された六角形の中に「S」の文字をあらわした、シンプルで力強いシンボルマーク。付属するロゴタイプはシンボルマークに合わせてオリジナルの文字が作成されました。
プレゼンテーションで使われたデザインを、より綿密に狂いなく仕上げるため、ロゴグリッドを使い、角度や太さのバランスを均整にとっています。太く、強く、ミニマルなこのデザインは、どのような用途でもイメージを崩すことなく使用することができ、高い技術を持った信頼できるブランドであることをあらわしています。
最後に、シンボルマークとロゴタイプの位置関係や大きさの比率の最終調整が行われ、カラーパターンと合わせて、ロゴデザインの使用ルールであるレギュレーションが設定されます。
シンボルマークから波紋のように広がる六角形の輪。それはまるで、このブランドを中心にエネルギーの波が広がっていくかのように見えます。工業用潤滑油やモーターオイルという、機械を動かすことに欠かせない製品を作るブランドとして、エンジンの駆動力の源となる「力強さ」を体現したこのシンボルマークは、自社のコーポレートアイデンティティの要となりました。
B to Bのコンサルタント会社のロゴデザイン ――「Relate」
「Relate」は、企業の戦略的成長プランを担う、B to Bのコンサルティング会社。
企業のCEOやマネージャーなどから問題点をヒアリングし、顧客の会社をより良い方向へ導くのがRelateの使命です。Relateのブランディングイメージを構築するにあたり、まずは競合企業のブランド戦略をリサーチするのが、最初のステップとなります。
数々のイメージの中から、どのようなワードがブランドをあらわすのに適しているかを選定し、ワードとイメージをつなぐMindmappingを行います。
そこから浮かび上がってきたのは、
「マーケティングの目的」をあらわす「的」、「要素」をあらわす「ブロック」、「信頼」をあらわす「モノリス」、「個別アプローチ」を象徴する「クライアント象」、「コンサルティング」をあらわす「吹き出し」、「戦略的」なイメージを指す「パス」の6つのイメージとワード。これらの要素を使い、次の段階へと進みます。
キーワードから浮かんだイメージと会社名の頭文字「R」とを合わせた、いくつものスケッチが描かれ、そこから選ばれた6つの候補がベクターで作成されます。
さらにそこから選ばれたのが、「吹き出し」「クライアント」「的」をモチーフにした3つのデザイン。その3点のデザインをモックアップでプレゼンテーションし、ロゴマークの原型が最終決定されます。
基本的なカタチが決まったのち、いくつかの書体のイメージが検討され、最終的なブラッシュアップへと進んでいきます。
決定したのは、「R」と吹き出しを合体させたデザイン。知的さをイメージさせる深いブルーをロゴカラーに、コミュニケーションを想像させるシンボルマークを形作っています。「R」の空白部分を吹き出しの形に置き換えるというユニークな発想は、既成概念に捉われない自由な発想で有意義な提案をするRelateのコンセプトを見事に体現しています。
また、シンボルマークにはならなかったキーワードやイメージを使い、ブランドをビジュアル表現するデザインパターンも作られました。シンボルマークを中心に、クライアントや吹き出し、発想やひらめきを想起させるモチーフやベクトルなどをパスで繋ぎ、それぞれの関係性を図式化しています。
人と企業、企業と企業、さまざまな繋がりの中でビジネスを展開するRelateを象徴する、このデザインパターンは、動くロゴマーク「ダイナミックロゴ」やweb、パンフレットや名刺などのグッズなどに幅広く展開し、Relateが伝えたいブランドイメージをさらに大きく広げました。
複数のイメージを重ねたビデオサービスのロゴデザイン ――「Bandini Videos」
最後にご紹介するのは、イギリスのビデオサービスのブランド「Bandini Videos」です。
解説を目的としたハイクオリティな動画を制作する「Bandini Videos」は、ブランドの特徴をビジュアルで表現するシンボルマークを求めていました。
アイデアの元となったのは、ブランドのイニシャル「B」と、解説をイメージさせる「吹き出しマーク」、そして再生ボタンをあらわす「三角形」の3つのモチーフです。
「B」をベースに、中心の重なり部分を立体的に交差させることで三角形を作り、Bの下部に鋭角な突起を付けることで吹き出しを表現しました。グリッドを引き、角度やサイズのバランスを取ることで、複数のモチーフを合わせながらも、安定したプロポーションを実現しています。
ロゴカラーは、ピンクからオレンジ、オレンジから赤へ遷移するグラデーションを採用。近頃のロゴデザインのトレンドにも挙げられる手法で、今っぽさを感じさせます。
最後に、シンプルでスタイリッシュな幾何学系フォントでロゴタイプが作成されシンボルマークの横に添えられています。比較的POPなデザインであるシンボルマークに対し、スタンダードなロゴタイプを合わせることで、ブランドの安定感や信頼性を補足する効果が期待できます。
まとめ
Dmitry Lepisov氏が作り出すシンボルマークはどれも印象的で力強さを持っています。その理由は、最終的なデザインに至るまでのプロセスの細かさにあるのではないでしょうか。
いくつもの案を検討し、カタチにし、もっとも適したものを見つけ出す。
ロゴデザインは、ブランドの印象を決定づける大きな要因です。また、はじめてブランドとコンタクトする入口にもなります。ロゴの持つ大きな役割を理解しているからこそ、Dmitry Lepisov氏は、慎重で確実な方法を選んでいるのではないでしょうか。
design : Dmitry Lepisov ( Montenegro )
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