デザインは人の心理を反映するため、世界経済の影響も間接的にデザインに影響を及ぼします。本年は2008年に発生したリーマンショックの重苦しい空気をはねのけるような、柔らかいロゴが見られます。また、ロゴに占める文字量の増加も特徴です。ビジュアルはメッセージに深みを持たせることができますが、頭の中で再解釈する必要があるため、混乱する経済状況下で忙しい人々にとっては最適ではない場合もあります。そこで、ミッションステートメントやキャッチフレーズは、素直にテキストで表現してしまおうという狙いがあるのでしょう。今回も海外のデザインWEBマガジン「LogoLounge」より【2009年のロゴデザインのトレンド】を紹介していきたいと思います。(Thank you Bill !! )※翻訳・編集・掲載許可をいただいています。
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2009年 流行したロゴマークたち
ロゴトレンド1 【写真で埋める】
ビジュアルブランディングに写真が使われる事は全く新しいことではありませんが、元々は物や風景の1ショットが多く使われていました。今では写真はベクターイメージとのハイブリッドとして、新たなジャンルを作り出しています。
テクノロジー的に言えば、これは何年も前に起きたことでした。しかし、グラデーション表現のおかげでロゴに混乱が生まれてしまったのです。AT&TとUPSのロゴがグラデーションの世界で生き残れるなら、残された私たちも同じ事ができるはずだと。
ここでは主に写真は背景やアイコンを埋める役割として存在していますが、グラデーション表現に溶け込んでいるようなロゴもあります。何年間も様々なグラフィックの模様で満たされて来たロゴを思い出してください。これはただ中身の違うロゴなのです。
1. El Paso, Galeria de Comunicacion, Lazar Greenhouses 2. TOKY Branding+Design, The Pulitzer Foundation for the Arts 3. APSITS, DIESEL 4. Big Communications, Joe Muggs Coffee
ロゴトレンド2 【秘密】
子供向け雑誌でも「ウォーリーを探せ」でも、どの世代にもそれぞれの「隠された絵を探せ」というようなパズルがあったはずです。何時間も見ていた絵の謎が解けた時の魅力と本能的な興奮は否定できません。一度それを見つけてしまったら、もう忘れる事はできません。この「わかった!」という瞬間が、ロゴデザインに隠された意味を見出す人に当事者意識を与えるのです。
Ronald J. Cala(図左上)は、手をつないで走っている2人の少女の手の中に白い鳩がいるロゴなど、思わず見ずにはいられないようなシルエットのロゴの作者として知られています。Duffy Partner(図右上)は、ガチョウとブラックバスが隠されたGander Mountainのロゴを作りました。何年も前、FedExのロゴに隠された矢印のおかげで、消費者がロゴに隠された絵を見つけることに熱心になり始めたのです。
1. Calacampania Studios, Calagraphic Design 2. Duffy & Partners, Gander Mountain 3. The Bradfor Lawton Design Group, REOC 4. Felixsockwell.com, New York Times
ロゴトレンド3 【大小の点】
点で構成されたロゴは珍しくありません。点が列やグリッド状に並べられていたり、ハーフトーンの模様で埋め尽くされているロゴはいくらでもあります。ここではユニークな特徴を持っているトレンドをご紹介して、どうしてこれらがここまで人気なのかを理解する必要があります。去年の「色盲」のトレンドは目立ちましたが、説明するのは難しいものでした。それは今年のトレンドの出発点だったのかもしれません。
これらのロゴの点は非常にランダムだということに注意してください。大きさや色に一貫性がないように見えます。前年度のトレンドの点は一致性を表していましたが、これらのロゴマークはむしろ個性を表しています。それと同時に、連鎖によって形を作っています。これらの点はただの友達ではなく、ルームメイトのようです。
1. Alin Golfitescu, www.humanware360.com 2. Thread Design, Head Count Asia 3. Blue Sky Design, International Filter Solutions 4. Lippincott, Zonik
ロゴトレンド4 【キャンディストライプ】
このトレンドは、積み重ねられたキャンディーやランダムに並べられたクレヨンのように子供の時の思い出を感じさせます。少しふざけた雰囲気が溢れていますね。様々な色のリボンが並べられているロゴデザインはとても鮮明ですが、それは虹の色の順番とは全く異なっています。
鮮やかなストライプは、背景となってイメージのシルエットにはめ込まれたり、共通のメッセージとして密集したりします。これらの色はコーポレートカラーの概念に変化をもたらしています。多様性が主導権を握っているのです。
1. ORFIK DESIGN, DVA SA 2. Liquid Pixel Studio, Delectable Chocolate 3. juancazu, camara de comercio de bogota 4.dache, Zipliner
ロゴトレンド5 【テキスト】
テキストとアイコンの組み合わせは新しいことではありません。しかし、新種が現れました。企業の名前だけではなく、ミッションステートメント、タグライン、時には場所さえも、背景の一部となるのです。
この簡潔なソリューションは場所を有効活用しているだけでなく、大きさに挑戦しています。文字が読めるくらいの大きさまでデザインが拡大されたとき、ロゴがうるさすぎないか?ロゴがちょうど良い大きさまで縮小されたとき、文字が消えてしまわないか?
今年、文字は今までで最も重要なロゴマークの一部となりました。良い意味でナイーブさを感じさせるメッセージには心地よい簡潔さがあります。
1. Chris Rooney Illustration/Design, Heavenly Ski Resort2. Bryan Cooper Design, Tulsa Glassblowing Studio 3.Sussner Design Company, saint barts 4. GDNSS, cheapairlines.com
ロゴトレンド6 【コーティング】
装飾しすぎのロゴは時に消費者の感覚を鈍らせるときがあります。これらのロゴデザインは確実に消費者の目を引き、その特徴的なテクスチャーはロゴを完成させるのです。
このトレンドでは、大きさが成功の鍵となります。小さ過ぎたり文字が多すぎたりするものは、その美しさに関係なく、消えてしまいます。これらのロゴには古くさい模様ではなく、コンテキストと立体感を与える視覚的なメッセージが使われています。何層にも重なるデザインは、もう一度見る価値があります。
1. Mattson Creative, Career Artist Management 2. cogu design, Yvonne Coutinho 3. Graphics & Designing Inc., MTK 4. Jobi, Sam and Shahir Ahmed
ロゴトレンド7 【モノローグ(台詞)】
ここでは言葉が新たな意味を持ち、お互いに消費者の注意を引こうと競争しています。4年前にLandorがYWCAのロゴを再定義した時、企業の名前よりもミッションが目立ち、全ての文字がHelvetica書体で作られました。
力強い言葉には重みがあります。プロも素人も同じシステムを使って主張することができるなら、メッセージが世間に効率的に届く確立も何倍にもなります。これらのシステムを、簡単に結びつけることができる部品や欠片として考えてみましょう。この気取らないソリューションは、邪魔するものを除去してくれます。
1. Airside, Airplot 2. Wolff Olins, Macmillan Cancer Support 3. Base, Greene Hill Food Co-op 4. Base, Greene Hill Food Co-op, Lockup Variation
ロゴトレンド8 【ドイリー】
レースのドイリー(食卓で使う下敷き)をモチーフにしたロゴマークは、何年か前の花のモチーフと装飾されたロゴの最新バージョンです。その繊細な細工は、普通なら固いはずのロゴの周りに柔らかい繭のようなイメージを作ります。核は文字やシンボルで、その周りにレースをシルエットが取り巻いているシンプルなものが多いです。
堅さと繊細のバランスが、頑丈なのに親しみやすさを持った存在を表しています。これは人間の柔らかさと壊れやすさを表した以前のトレンドの延長線上にありますが、シルエットを使ったロゴは少なくなってきています。幾何学的な模様とオーガニックな装飾が組み合わさったことが、違いを生んだようです。
1. Iperdesign, Inc., splurge dessert 2. R&R Partners, Harrah’s 3. Diagram, Eligiuz 4. Gesture Studio, Isaias Gil
ロゴトレンド9 【反転・回転】
Dan Brownの「天使と悪魔」の公開の年に、逆さまのロゴがやってきました。私はベテランデザイナーであるJohn Langdon氏に連絡し、上下逆さまになっても同じになる言葉の作品を作ってもらいました。この作品は物語の鍵となり、ベストセラーはこのコンセプトを世に知らしめました。
180度回転しても原点に戻ってくる作品には魔法がかかっています。鏡に映してもそのままの作品もありますが、他の作品は回転のみです。どちらにせよ、消費者参加型のこれらのロゴデザインは企業と消費者の間に密接な関係をもたらします。
1. MINE, Scheyer/SF 2. Pearson Education Ltd, Pearson Education 3. NOT A CANNED HAM, Graco 4. Roy Smith Design, Shaun Saxon Photograph
ロゴトレンド10 【モザイク】
エ・プルリブス・ウヌム( 意味「数多くから、一つへ」アメリカ合衆国の国章の図柄の一部としてリボン状の装飾の上に書かれている言葉) このモットーはこれらの素晴らしいカラーモザイクをより明確にしてくれます。様々なピクセルが部屋中に溢れすぎて、境界線が無くなってしまったかのようです。隣り合う色は共通の境界線で交わり、視覚的なメッセージの表現を手伝う形を埋めています。このソリューションはモノクロの世界で生きる事を予期されていたロゴにとっては嬉しいことです。
2003年にAltria (アルトリアグループ)のカラフルなグリッドのロゴによってこのトレンドは始まりました。当時、それを多様な印刷機器で複製するのには費用がかかりました。テクノロジーの進化とRGB環境を重視する企業が増えたことから、このロゴコンセプトの再評価と復活へと繋がったのです。
1. Team Y&R, Khalid Bin Haider Group 2. Kommunikation & Design, Gartenwelt Manz 3. dache, webmynd 4. NATIONAL Public Relations, Greater Montreal
ロゴトレンド11 【連続・反復】
経済も政府も、そして個人も皆、社会に「更なる透明感」を求めています。金融部門だけではなく企業全体が、全身検査の準備のために体と製品をごしごし洗っているのです。本当に視覚的に透明なものを求めているのではないのですが、それでもデザイナー達は消費者が理解できる比喩的なコンセプトをロゴマークに使って来ました。
連続的な段階による動きの描写と透明感が合わさったロゴは、新たなトレンドのジャンルです。変わりゆく鮮明な色でストップモーションのような段階が構成され、静止画の中にプロセスを表しています。この段階的な色で動きを表現することによって、四季を通じた時間の流れや、気温の変化、あるいは混沌ではなくただ秩序と調和を表す七つの色の変化などのコンセプトをより明確にしています。
1. Gardner Design, BiTemp 2. RedBrand, LexPro 3. metaforma design, RACE research for an alternative and clean energy 4. Schwartzrock Graphic Arts, Design Center
ロゴトレンド12 【リサイクルマーク】
「リサイクル」は、もう消費者や世間をなだめる呪文ではなくなりました。もう10年以上にわたって、企業は製造と企業活動をエコロジーだと言い張って来ました。持続可能性への更なる関わりが必要になった今、企業がただの副産物ではなく真剣にビジネスとしてエコと関わるようになりました。
40年前にContainer Corporation of Americaによって作られた世界共通のリサイクルマークは、何年にもわたって製品や企業を美しく飾ってきました。これらのマークは目立たない容器の底から、徐々にパッケージの最も目立つ所へとそのポジションを向上させてきたのです。
この3つの矢印が書かれたリサイクルマークはパブリックドメイン(広く多くの人が自由に利用できる状態)でしたが、今はロゴとして再認識されています。デザインはそれぞれ著しく異なります。矢印が企業の関連する模様で埋められたり、矢印の一つが環境を表す製品に取り替えられたりします。このシンボルのロゴデザインとして再利用は、デザイナー達がリサイクルマークをリサイクルする技術をマスターしたということです。
1 .rylander design, Refabric, Inc. 2. Tyme Inc., Office Depot 3. BrandBerry, non-commercial 4. Kevin France Design, Inc., VF corp
ロゴトレンド13 【たんぽぽの綿毛】
あなたがいくらたんぽぽのことを馬鹿にしても、この植物の繁殖能力は否定できません。一輪のたんぽぽから生まれたパラシュートをまとったような何百もの種は、ほんの少しの風の動きで完全な侵略を可能にするのです。この狡猾なプロセスを知っていても、たんぽぽを摘んで息を吹きかけてみたことがない人はいないでしょう。
この私たちのたんぽぽとの密接な関係は、ロゴに最適なメッセージを与えてくれます。視覚的に目立ち、特にいくつか飛んでいる様子があればとてもわかりやすいですね。それは、増殖し続けるがために入りきらないアイデアに類似しています。飛んでゆく種の一つ一つが、それぞれの種が辿り着く場所も育つ場所も自然にまかせ、それぞれ異なる道をすすむことを具体化しています。グラフィックの観点から見れば、これは至る所にあるので演出の仕方は幅広く、決して文字通りではありません。自由というアイデアを売るものなのです。
1. Ulyanov Denis, linkeeper 2. RedBrand, Barberschool 3. LaMonica Design, Morningstar Communications 4. Courtney & Company, IMC Group
ロゴトレンド14 【コンパス】
円はデザインの構成ブロックであり、モルタルのようなものです。円をシンボルとして見ると、それは永遠や命のサイクル・地球・中心とバランス・完璧さ・車輪と動き、その他あなたが定義したいもの全てを表現できるマルチなアイコンです。しかし純粋な円は複数の意味を持たせることが難しいです。
この理由から、新たなビジュアルの領地の探索を試みる円はなかなか見つかりませんでした。しかし、これらの円は移行を描写しています。それがMindShareによるMoving Brands(図左下)のロゴのように色が回転しているようなロゴでも、色が移行してゆくMTK(図左上)のロゴでも、そこには回転と動きが表されています。制作プロセスの発展は、デザイン表現の改革へと繋がります。
1. Porkka & Kuutsa Oy, Central Union of Agricultural Producers & Forest Owners 2. FutureBrand, MasterCard Worldwide 3. Moving Brands, Mindshare 4.Gardner Design, PBA Architects
ロゴトレンド15 【薄く柔らかい】
進化が最もめざましいのは、おそらく二つの種が壁を超えて新たな種を作り出すときでしょう。以前の2つのロゴトレンド、透明なロゴとぼやけたロゴが合わさってここ数年で進化しました。ここでは二つの要素がうまく混じり合って、動きや要素の混合といったコンセプトを表しています。
透明感は、企業のプロセスがクリアで公開されているものだということを表します。また、まだ新しいものとして存在するので消費者に取っては見ていて楽しいのです。ぼやけたりピントがずれている部分は、視覚トリックのような働きをします。
1. Michael Freimuth Creative, Tone Animation, LLC. 2. Roy Smith Design, Hooke Laboratories 3. Roman Kotikov, Soft cafe 4. Alin Golfitescu, mobilink pakistan
その他のロゴトレンド
上では紹介されなかったけれど、やっぱり紹介しておきたいその他の今年のトレンドたち。
ピープショー(覗き見えるデザイン):グラデーションのある画像がイメージを埋める役割として使われています。
Wrijfhout, Clq.nl – City of Delft
サイコシス:サイケデリックな線と模様が使われた形の新しい種類です。
Valhalla | Design & Conquer , Adio Shoes
刺繍:点線や刺繍など様々な呼び方がありますが、どれもハンドメイド感を与えるものです。
Squires and Company, Chico’s
ステンドグラス:鉛の部分が白くなったステンドグラスのような色のモザイクが使われています。
R&R Partners, Harrah’s
立体カール:未だに立体的なリボンはたくさん見られますが、これはそこから脱却したものと言えます。これらのリボンは文字やロゴの全体といった新たな形や図形を作り出しています。
Gardner Design , Surency
色付きリング:色鮮やかで透明な輪っかが重なって、様々な色を生み出しています。
Martin Jordan , Ministry of Education, Youth and Sports Brandenburg
ケルト族風:とても幾何学的なのにハンドクラフト感のある形が見られます。ケルトの文字や結び目のように節やセリフがあり、ユニークでありながら洗練されています。製造されたものと手作りのものの素晴らしいバランスを持っています。
Karl Design Vienna, Burmahlife Austria
参考 : LogoLounge ©2009 Logolounge Inc.
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