2020年以降、世界を激変させた新型コロナウイルス(COVID-19)の流行は、私たちのようなデザイン事務所にとっても、決して他人事ではありませんでした。デザイン、広告、印刷をはじめとするクリエイティブ関連の業種は、リアルな対面コミュニケーションに依拠する部分が少なくありません。特に、展示会やフェス、コンサート、講演会、スポーツイベントなど、”集まること”を前提とした催しが次々と中止・延期へと追い込まれ、その影響はイベント告知用のポスターやパンフレット、会場サインやブース装飾など、私たちが日々手がけていた業務領域に直接的なダメージを与えました。
「デザインは価値を生み出す手段であり、社会や人々を繋ぐ潤滑油である」と私たちは考えています。しかし、世の中に人が集まる機会が激減すると、そうした場所での情報発信やブランディング手段としての印刷物・広告物も需要が大幅に萎んでしまいます。変化を余儀なくされたこの数年の中で、私たちは改めて、デザインがどこで、誰に、どのように作用するのかを見つめ直す必要に迫られてきました。
印刷・広告業界への影響とデジタルへのシフト
広告・印刷業界は、コロナ禍によって大きな再編の波が訪れています。もちろん、デジタル広告やオンライン販促に強みを持つ会社は、コロナ禍によるオンラインシフトが追い風となる局面もあるでしょう。EC(ネット通販)の隆盛や、オンラインセミナー、ウェビナー、ライブストリーミングイベントが拡大する中で、デジタルクリエイティブを活用したデザインワークが求められる機会は確実に増えています。
しかし、それでも業界全体が素直に浮き足立つわけではありません。デジタル分野にシフトするには、それなりのノウハウ蓄積や専門スタッフの確保、ツール類の整備、顧客教育など、多くのステップが必要です。また、BtoB領域では対面展示会が主戦場であったり、紙媒体でのブランド訴求が企業文化に根付いていたりするケースもあり、そう簡単にはオンライン一本には切り替えられない事情も存在します。
私たちが接するお客様の中にも、懸命に新しい販促の形を模索している企業が少なくありません。かつてイベントを軸に展開していた販促物は、一部がオンライン展示会用のデジタルカタログやダウンロード用PDF、動画コンテンツ制作へと転換される動きも出ています。しかし、その変化にはコストや手間が伴い、すべてがスムーズに置き換えられるわけではありません。
私たちの仕事の現状と学び
こうした状況を受けて、私たちも今一度「この仕事は、これほどまでにイベント・催しに支えられていたのか」と改めて感じています。展示会、講習会、地域のフェアや商談会、各種セミナー、芸術イベント、舞台公演…数えきれないほどの人々が集う機会に合わせて、告知ポスター、パンフレット、チラシ、ノベルティ制作等を行い、多くのデザインを世に送り出してきました。コロナ禍により、それらの需要が忽然と消え去った時、「集まる」という行為がいかにデザイン産業を下支えしていたかを痛感するに至ったのです。
しかし、私たちは幸いなことにイベント以外のジャンルで継続的な案件をいただいており、それによって事務所としての日々を繋ぐことができています。企業ブランディングやパッケージデザイン、冊子制作、Webサイト用のバナーデザインやアイコン制作、社内報のリニューアルなど、直接イベントと関係しない分野は依然として需要があり、そうした案件のおかげでなんとか安定感を保っています。
お客様への想いとイベント業界の現状
とはいえ、私たちの心が向かう先は、やはりイベントに関わっていたお客様方です。専業でイベント企画・運営を行っている方や、ライブパフォーマンスを生業とするアーティスト、舞台関係者、ステージの照明・音響スタッフ、会場設営会社、展示ブースデザイナー、物販に携わる方々——これらの方々は、自らの持ち場をコロナ禍によって大幅に制限され、多くの場合、「他の選択肢」を容易には見つけられない状況に置かれました。
イベントとは、単なる販促や集客ツールではありません。その場には多様な人間ドラマがあり、そこで働く人々の生活基盤があり、参加する人々の心の栄養とも言える「感動」があります。リアルな場での熱気、華やかな演出、出会いや交流、そして一瞬の輝きに包まれる非日常的な空間——それらすべてが、コロナ禍では「密」を避けるべきタブーとして扱われてしまいました。
私たちはお客様の作品や企画、イベントそのものを彩るためにデザインを尽くしてきましたが、その土壌が一気に揺らいだ今、彼ら彼女らがどれほど厳しい思いをしているかを考えると、胸が苦しくなります。「なぜこんな事態になってしまったのか」「いつになれば再び華やかに人が集い、声を上げ、笑い、感動する場が戻るのか」そんな問いを抱きながらも、なすすべもない日が続きました。
デザインが果たすべき新たな役割と祈り
では、私たちはこの状況をどのように受け止め、これから何ができるのでしょうか。コロナ禍を経て、デザインの在り方も変わろうとしています。今後は、オンラインとオフラインを補完し合う形で、ユーザーがどこにいても情報と感動が受け取れるようなコミュニケーション設計が求められるかもしれません。
リアルイベントが徐々に復活していくにしても、感染症対策や安全性を担保しながらの開催がスタンダードになる可能性があります。そうした中で、デザインは「人と場をつなぐ新たな導線」を創り出す役割も担えるはずです。たとえば、事前予約システムと連動した美しい案内ツール、オンライン・オフライン双方で楽しめるハイブリッド型イベント用のビジュアルガイド、あるいは密を回避しながらも一体感を生み出す新しいアイディアなど、これまでにはない発想が求められています。
私たちは、お客様が新たな時代を切り開く瞬間に力添えできるよう、今のうちから準備と研究を重ねる所存です。まだまだ苦しい時期は続くかもしれませんが、いつか再び、魅力的な催しが街を彩り、観衆が昂揚感に包まれる日が必ず戻ってくると信じています。その日には、今までよりも一層洗練されたクリエイティブ、工夫を凝らした表現手法で、人々の心を揺さぶるデザインをお届けできるようになっていたいと思います。
制限され、試され、そして模索し続ける日々が「価値ある経験」として未来を拓く糧になることを願ってやみません。これまで当たり前だったものが非日常になってしまった今だからこそ、当たり前の日常の尊さを再確認し、私たちデザイナーも、その日常を一層豊かに彩るために奮闘する決意を新たにしています。
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