『コンストラクションガイド(Construction Guide)』もしくは、『ロゴグリッド(Logo Grid)』という言葉を聞いたことがありますか。コンストラクションは設計や構成、ガイドはオブジェクトを配置する目安となる補助線、そして、グリッドは方眼紙などに用いられる規則的な格子状の線を意味します。「コンストラクションガイド」や「ロゴグリッド」の総称『グリッド・システム』は、スイス出身のグラフィックデザイナー、ヨゼフ・ミューラー・ブロックマン(Josef Müller Brockmann、1941—1996)が提唱したデザイン技法に起源を持ちます。縦横の線や円を基準としたガイドラインをベースに、図形や文字といった要素を配置することを指します。
感性に任せてフリーハンドで自由自在に形を形成するのとは異なり、一定の法則に従った線や円を利用して成形し、ガイドに沿って配置・レイアウトを施すという数学的アプローチを取り入れているロゴデザイン技法です。
グリッド・システムを使用したロゴの制作は、幾何学的なデザインテクニックであり、全てのロゴに対応のできるテクニックではありません。しかし、視覚的な調和を考慮しつつグリッド・システムを上手に利用することで、秩序と安定感を保つ美しいロゴを生み出すことが可能です。
ご紹介するのは、インド南部の産業都市コーチを本拠に活動を繰り広げるグラフィックデザイナー、Shibu PG 氏のロゴマークです。Shibu PG氏はこのグリッド・システムを巧みに使用して、動物をテーマとした斬新なシンボルロゴを多数制作しています。彼の作品を通して、グリッド・システムのメリットを検証してみましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Shibu PG! )
グリッドを活動した動物ロゴ制作例
まず最初は、ペンギンのロゴです。
クチバシの部分以外は全て正円と楕円を組み合わせて作られていますね。円・楕円のガイドライン以外の部分の羽や足・クチバシの先、また、それぞれの要素の接部など、各コーナーにも円の一部を使って丸みを帯びた様相に仕上がっています。基本的に線対称の形態を取った非常にシンプルなロゴデザインです。
こちらは正円と直線を使って形成された象のロゴです。
モチーフは象と吹き出しですね。吹き出しは、漫画などで人物のセリフを表現するために使われる形態。発言やメッセージを瞬時に連想させてくれる形であるため、会話をはじめとするコミュニケーションツールのロゴのモチーフとして使われやすいです。このロゴは、ソーシャルメディア系のコミュニケーション媒体のために作られたものなのではないでしょうか。
母鳥と二羽の雛鳥をモチーフとしたロゴです。
線対称型をベースとした安定感のある形態ですね。Illustrator を上手にコントロールして、制作が施される様子がビデオから伺えます。
『幾何学的ライオン』というタイトル。
まさにグリッド・システムそのものを表現したロゴデザインです。
一般的に「百獣の王」「ハンター」「凶暴」「タテガミ」というイメージが付き纏うライオンの外見・風体を極限まで抽象化し、幾何学的な直線と曲線で構成されています。ライオンの持つ『どう猛さ』は排除され、ある種マスコット的なテイストに仕上がっています。
カラーリングには赤茶系のグラデーションを採用。このグラデーションもライオンを認識させる効果を担っています。
こちらはイルカと馬の様相を組み合わせて作られたロゴデザインです。
ディメンションの異なる多数の正円を連ねて構成。塗り潰しが施されているイルカと余白の部分で形成される馬の形態との絡み合いが実に見事なロゴです。
こちらは『入浴する王様の象』のロゴ。
鼻から放出されて飛び散った水飛沫の形態は、王様を表す王冠とも連動しています。
「プールのカバ」という名称のロゴです。
このロゴデザインのポイントは、秩序と安定のある対称性の形態に小さな正円を挿入させることで、視覚的な安定性を乱しつつもアクセントのある形態に変換していることです。右下、左下に置かれた二つの円が無ければ、面白味が感じさせられない平凡な絵柄ですが、この二つの円の挿入によって微妙な動きを感じさせられるロゴとなっています。
名称『夜の作家』は、正円を並べて出来上がったシルエットから生まれました。
コウモリをモチーフとしたロゴデザインです。
切り抜かれた余白部分の形態はペン。コウモリとペンで、夜の作家を表現しています。
こちらのシリーズは、グリッド・システムを利用した線で構成されるロゴの実例です。
ツル、馬、ネコのそれぞれの持つ形態の特徴を、いずれもシンプルなモノラインのロゴで形成しています。ツルは優雅さを極めた一筆書きのようなテイスト、馬は認識できるぎりぎりのところまで抽象化されたもの、ネコはその敏捷性をイメージできる様相となっています。
こちらもモノラインで形成されたロゴ『フィッシュ・ハンター』です。
二匹のカワセミと、その絡みあいの部分から出来上がった魚がモチーフとなっています。
最後は『野生動物を救おう』というテーマを持つロゴです。
Shibu PG氏は野生動物救済のプロジェクトに参加し、その際に創作したロゴデザインです。野生動物を保護するための『手』が正円の構成で作られており、洗練されたグラデーションのカラーリングが施されています。
まとめ
グリッド・システムは、制作に必ずしも取り入れなければならない技法ではなく、デザイナーの中には使わない人もいるかと思います。出来上がる形態がきっちりしすぎてしまい、ユニークな発想が乏しくなる、または似たようなデザインになってしまう、という意見も聞かれます。
しかし、デザインに規則性を生み出し、微調整をする際のサポートとなるほか、視覚的に一貫性を持たせ、統一感のある形態を作るには大変効果的な技法です。Shibu PG氏の作品のように、グリッド・システムの長所を最大限に生かすことで、説得力のあるクオリティーの高いロゴデザインの制作に役立てていきたいものです。
design : Shibu PG ( India )
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