
日本の市町村の多くが、市町村章と呼ばれる独自のシンボルロゴを持っています。最近は似た物が多いという声も耳にしますが、市町村章には限られたスペースの中で市町村の個性を伝える工夫を凝らしたものも多数存在しています。
今回はその中から「カタカナ」をベースにしたデザインに絞って、各都道府県の素晴らしいロゴを紹介したいと思います。直線的なカタカナという文字をどのように魅せていくのか、そのテクニックと発想には舌を巻きます。
「カタカナ」をロゴに使う設計の特徴と難しさ
カタカナは、ひらがな・漢字・アルファベットと並ぶ日本語の文字体系の一つで、ロゴ設計においても独自の特徴があります。直線的で角張った形が多く、シャープな印象を作りやすい反面、丸みのある柔らかい印象は出しにくい性格を持ちます。
カタカナの形態的特徴は、いくつかあります。「直線が多い」(漢字より単純で、デザインの幾何学的処理がしやすい)、「文字数が少なくシンプル」(一文字あたりの情報量が少なく、シンボル化しやすい)、「現代的・モダンな印象」(漢字の伝統感、ひらがなの柔らかさと対比される)、「カタカナ語と紐付きやすい」(外来語・科学用語などのモダンな語感)、「字形のバリエーションが少ない」(アレンジの幅が漢字より狭い)。
カタカナロゴの設計の難しさは、いくつかあります。「個性を出しにくい」(直線的な形は他のロゴと似やすい)、「字形のバランスが崩れやすい」(一文字でも大きさや太さで全体の印象が変わる)、「読みやすさと意匠性のトレードオフ」(崩しすぎると読めない、読ませすぎると個性が出ない)、「漢字・ひらがな表記との関係」(『東京』『とうきょう』『トウキョウ』で印象が大きく違う)。漢字表記より親しみやすく、ひらがな表記より現代的な印象を作る、中間的な性格があります。
カタカナをロゴに使う際は、「直線をどう活かすか」「シンプルさをどう個性に変えるか」が腕の見せどころです。地域・企業・サービスの個性を、カタカナの限定された形で表現する設計の発想は、ロゴデザインの引き出しに加えておきたい観点です。
■ 北海道・東北地方

北海道 留萌市 : 「ル」を菱形に図案化したロゴ。

北海道 根室市 : 「ネ」と6つの「ロ」を組み合わせたロゴ。

北海道 久遠郡 : 「セ」を北海道の地形として意匠化し、オレンジの丸は久遠郡の位置を示している。

青森県 北津軽郡 板柳町 : 「イ」をリンゴの形と組み合わせたロゴ。

岩手県 九戸郡 軽米町 : 上部に「カ」下部に「ル」を図案化し、空白のスペースの形状を「米」に見立てたロゴ。

宮城県 伊具郡 丸森町 : 「マル」を円形に図案化したロゴ。

秋田県 男鹿市 : 「オガ」をエンブレム調に図案化したロゴ。

山形県 尾花沢市 : 「オ」を象ったロゴ。市の和と飛躍的な発展を象徴。

福島県 双葉郡 浪江町 : ひらがなの「な」とカタカナの「ミエ」を図案化。円が「な」、左右の翼が「ミ」、中の白地部分が「エ」になっている。
■関東地方

茨城県 稲敷郡 阿見町 : 3つの「ア」を組み合わせたロゴ。アが3つなので、「アミ(阿見)」。

栃木県 鹿沼市 : 「カ」をベースに六芒星に図案化。さらに、「ヌ」と「マ」に細分化されている。

群馬県 藤岡市 : 「フ」を左右対象にレイアウトした中に、岡をモチーフにした曲線をデザイン。「フ」が二つ+岡で、藤岡市となる。また全体で漢字の「岡」にも見える。

埼玉県 朝霞市 : 「アサカ」を組み合わせ、飛鳥をイメージしたロゴデザイン。

千葉県 袖ヶ浦市 : 「ソデ」を円形のロゴにしたもの。公募デザインから選ばれています。

東京都 練馬区 : 「ネ」と馬の蹄を組み合わせたロゴ。

東京都 葛飾区 ; カタカナの「カ」と漢字の「チカラ」、双方の意味を持つロゴ。

東京都 墨田区 : 3つの「ス」を組み合わせたロゴ。

神奈川県 横須賀市 : 「ヨ」と左右反転した「コ」を組み合わせたモチーフを、船の羅針盤と組み合わせたロゴ。
■中部地方

新潟県 阿賀野市 : 「ア」を意匠化したロゴ。

富山県 朝日町 : 三つの「ア」を円形に組み合わせ、朝日を表現したロゴ。

石川県 河北郡 津幡町 : 「ツバ」をエンブレムにしたもの。

福井県 鯖江市 : 「サ」を図案化したロゴ。

山梨県 都留市 : 「ツル」を組み合わせ、図案化したもの。

長野県 木曽町 : 「キ」を立体的に表現したロゴ。

岐阜県 養老郡 養老町 : 養老を「ヨーロー」と表現し、それを家紋風にしたロゴ。

静岡県 裾野市 : 「ス」を5つ組み合わせ、5つの富士山に見立てたロゴ。

愛知県 小牧市 : 「コマキ」をエンブレム化したもの。
「自治体ロゴ」が果たす役割と、企業ロゴとの違い
自治体のシンボルロゴは、企業ロゴとは違う独自の役割を持っています。両者の違いを理解すると、自治体ロゴならではの設計の方向性が見えてきます。
自治体ロゴの主な役割は、いくつかあります。「住民のアイデンティティの象徴」(その地域に住む人々の誇り)、「行政文書・公式書類への使用」(正式な公的シンボル)、「観光・ブランディングの中心」(地域外への発信)、「歴史・地理的特徴の象徴」(地域の自然、産業、伝統の表現)、「公共施設・備品への展開」(庁舎、車両、看板、職員のIDなど)、「他自治体との識別」(同名・類似名の地域との区別)。
企業ロゴとの主な違いは、いくつかあります。「ターゲットの幅が圧倒的に広い」(住民全員+観光客+他地域の人々)、「年代を問わない普遍性が必要」(子供から高齢者まで誰もが理解できる)、「政治的中立性」(特定の党派色や宗教色を避ける)、「変更が難しい」(住民の合意形成が必要、ロゴ変更が政治的議論になる)、「地域の歴史・地理を反映する責任」(自然、特産物、歴史的遺産など)、「公的な権威の象徴」(正式な公印としての機能)。
自治体ロゴを設計する立場でなくても、「公的な機関のロゴはどう作られているか」を理解しておくと、企業ロゴ・施設ロゴ・団体ロゴの設計でも応用が効きます。「誰のためのロゴか」を意識する基本姿勢は、ロゴ設計のあらゆる場面で活きる発想です。
■近畿地方

三重県 尾鷲市 : 「オ」と「鷲」のモチーフを組みあわせたロゴ。

三重県 熊野市 : 「クマノ」を熊野市の自然と組み合わせてロゴ化。紺色は熊野灘の波、水色は清流、緑は熊野古道(山々)を表現。

滋賀県 彦根市 : 亀の甲を模したデザインの右半分が「ヒ」、左半分が「コ」、真ん中が「ネ」を図案化したものになっている。

京都府 福知山市 : 9つの「フ」(=フク)で構成された六芒星のロゴ。

大阪府 豊中市 : 4つの「ト」(=トヨ)で漢字の「中」を表現したロゴ。

兵庫県 神戸市 : 旧読みの「カウベ」の「カ」をモチーフにしたロゴ。

兵庫県 美方郡 加美町 : 上部の緑と水色が「カ」、下部の川で「ミ」を表現。

奈良県 大和高田市 : 「タカダ」を組み合わせ図案化したロゴ。

和歌山県 日高郡 由良町 : 上部が「ユ」下部が「ラ」になっており、それを円形で表現。
■中国地方

鳥取県 八頭郡 智頭町 : 「チ」と杉の木のモチーフを組みあわせたロゴ。

島根県 八束群 東出雲町 : 「ヒ」と出雲の「雲」のモチーフを組み合わせたロゴ。※現在は廃止

岡山県 倉敷市 : 「クラ」を組み合わせて円形に仕上げたロゴ。

広島県 大竹市 : ふたつの「オ」を組み合わせ、竹をイメージさせる節を加えたロゴ。

山口県 阿武郡 阿武町 : 渦巻き状のデザインの中に「ア」「ブ」を配したデザイン。
■四国地方

徳島県 名西郡 神山町 :図案化した「カ」で、鮎喰川を表現したロゴ。

香川県 仲多度郡 まんのう町 : 「マ」を円形に図案化したロゴ。

愛媛県 越智郡 伯方町 : 「ハカタ」を組み合わせた円形のデザイン。※現在は廃止

高知県 須崎市 : 「ス」を型波頭状に図案化したロゴ。
■九州地方

福岡県 久留米市 : 「ル」を周囲に9つ配置(=クル)、中心に米を組み合わせたロゴ。

佐賀県 伊万里市 : 「イマリ」の3つの文字を組み合わせたロゴ。

長崎県 佐世保市 : 「サセホ」の文字をを家紋風に組み合わせたロゴ。

熊本県 菊池郡 菊陽町 : 「キ」と平和の鳥を図案化したもの。

大分県 宇佐市 : カタカナの「ウ」とひらがなの「う」を図案化したデザイン。

大分県 東国東群 安岐町 : 5つの「ア」で囲んだセンターに「キ」を配したロゴ。

宮崎県 国富町 : 3つの「ト」を組み合わせ「富」を、全体のイメージは漢字の「国」をモチーフにすることで、「国富」を表現。

鹿児島県 姶良市 : 「ア」と無限を象徴する印「∞」と鳥のモチーフを組み合わせたロゴ。

沖縄県 那覇市 : 「ナ」と「ハ」を円形に組み合わせたロゴ。
「文字をシンボル化する」設計の応用範囲
紹介事例のような「文字をシンボル化する」設計手法は、自治体ロゴだけでなく、企業ロゴ、施設ロゴ、ブランドロゴで広く使われる手法です。文字とシンボルの境界を曖昧にする設計の引き出しを持っておくと、ロゴ設計の表現の幅が広がります。
文字をシンボル化する手法は、いくつかあります。「字形を抽象化して図形にする」(カタカナ『ヒ』を山に見立てる、など)、「文字の一部を風景・物体に置き換える」(『口』の中に建物を入れるなど)、「複数の文字を組み合わせて新しい形を作る」(イニシャルを重ねて1つの形に)、「文字を立体化・装飾する」(文字に陰影や質感を加える)、「文字と地域の象徴を融合する」(文字+海、文字+山などの統合表現)、「文字を反復・パターン化する」(同じ文字の組み合わせで模様を作る)。
シンボル化のメリットは、いくつかあります。「文字としての可読性とシンボルとしての記憶性を両立できる」、「文字数が少なくてもデザイン的な厚みが出る」、「他のロゴとの差別化がしやすい」、「縮小しても認識される」、「ストーリー性・地域性を埋め込める」、「フォントだけのロゴより個性が出る」。
シンボル化の判断軸は、いくつかあります。「シンボル化しても文字として読めるか」(読めなくなるとロゴとして機能しない)、「シンボル化の意味が伝わるか」(『なぜそうしたか』が分かる必然性)、「縮小・拡大に耐える形か」(細部が潰れないシンプルさ)、「使用媒体に適しているか」(印刷、Web、立体物など全てで機能するか)。
文字をシンボル化する設計は、ロゴデザインの中でも創造性が問われる領域です。紹介事例のような自治体ロゴは、限られた制約の中で工夫を凝らした参考例の宝庫として、ロゴ設計のインスピレーション源になります。
以上、47都道府県の「カタカナ」を用いたロゴの中から、ピックアップさせていただきました。根室市のように「ロ」を6つならべて「ムロ」を表現したり、ちょっと洒落のきいたデザインも面白いなと思いました。
市町村章の起源とも言える「家紋」の発祥と発展については、以下の記事をご覧いただけますと幸いです。
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