2020年12月9日(現地時間)に米国パントン(Pantone)社が2021年の色「カラー・オブ・ザ・イヤー 2021」を発表しました。2021年を表す色は、グレーとイエローのコンビネーションです。
PANTONE17-5104(アルティメット・グレイ)とパステルイエローのPANTONE 13-0647(イルミネイティング)は、「永続的な強さと希望のメッセージを伝える色の組み合わせ」であるといいます。COVID-19の影響をはね返して、ふたたび活気にあふれた日常と社会を取り戻すことへのエールとも受け取れます。
グレーとイエローが2021年の色
2021年の色のひとつ、PANTONE17-5104は「Ultimate Gray(アルティメット・グレイ)」という名前がついた無彩色です。名前を訳すと、”究極のグレー”といった感じです。由来はわかりませんが、ライトグレーでもダークグレーでもなく、「グレー」と言えばズバリこの色だ、ということで命名されたのかもしれません。
欧米でのある調査によると、グレーは中立・同調・退屈・不確実・老齢・無関心・謙虚といった概念とよく結び付けられているそうです。その調査では、好きな色としてグレーをあげるのはわずか1パーセントでした。ほかにもグレーには、クール・都会的・高級といったイメージもあります。
もうひとつのPANTONE 13-0647は「Illuminating(イルミネイティング)」という名前のイエローです。名前の意味は、照らす・明るくする、という意味です。照明や電飾などの「illumination(イルミネーション)」と関連があります。パントンが選んだこちらのカラーも黄色の代表ともいえる色合いです。
グレーに比べると、イエローは国や文化によって、象徴するものや受ける印象、意味合いが異なります。欧米では、楽しさ・ユーモアなどとも関連づけられ、暖かみ・喜び・希望をあらわします。一方で、裏切りや嫉妬・臆病を意味することもあります。中国などアジアでは、幸福や反映の意味を持ち、皇帝や貴族につながる色です。(中国では黄色はセクシーな色でもある。日本のピンクや紫に近い。)
国や地域による文化の違いの例としてよく引き合いに出されるのが太陽の色です。国旗や天気のマーク、歌詞などで見られるように、日本では太陽の色といえばまず赤色です。一方、欧米でもっとも一般的な太陽の色は黄色です。PANTONE 13-0647の「イルミネイティング」という名前は、こういう文化的背景を踏まえると少し違うニュアンスでとらえられます。たしかに電球などの色をイラストで描くときは日本でもイエローを使うことが多いですが、電球と太陽では輝きが違います。
ふたつの色を組み合わせた意味
それでは、どちらか1色ではなく、2色を2021年の色としたのはなぜでしょう。
発表されたグレーを見たとき、新型コロナ禍に苦しむ現状と結びつけたひとが多いかもしれません。まだはっきりとした収束が見えないなかでの不安を表現するのにグレーは適していると思えるからです。それに対してイエローは、トンネルの先の明かりを表しているように受け取れます。つまり、厳しい状況のなかでの希望の光のようです。
しかし、これだとグレーは苦しみや惨状・不安の象徴ということになってしまいます。これを2021年のカラーとして発表するというのは妙な感じです。アルティメット・グレーにパントン社はどのような意味を込めたのでしょうか。
アルティメット・グレーについて、パントン社は「永続的でしっかりした基盤をもたらす、強固で信頼できる要素を象徴」しているとしています。浜辺の小石などなどのように、自然のなかで風雨にさらされたモノたちの色であり、「時の試練に耐える能力」を示しているというわけです。新型コロナにもたらされた陰鬱な気分を表しているのではありません。
また、イルミネイティングについては、「いきいきと輝く明るく元気なイエロー」であり、「太陽の力に満ちたあたたかいイエロー」であると説明しています。
パントン社のカラー・オブ・ザ・イヤーを発表したプレスリリースには、「辛抱強さと高揚感をもたらす、強さと希望に満ちたメッセージを伝えるカラーのマリアージュ」とあります。
パントン・カラー研究所(Pantone Color Institute)のエグゼクティブ・ディレクターLeatrice Eiseman氏は、今回の2色の組み合わせを次のように紹介しています。
「揺るぎないアルティメット・グレイと活気のあるイルミネイティングがひとつになることで、不屈の精神に裏打ちされた前向きな姿勢、というメッセージを表現しています。実用的で堅実であると同時に、楽観的でホッとさせてくれる2色の組み合わせが、立ち直る力と希望を私たちに与えてくれるのです」
2021年の色をモチーフにしたビジュアル例
Adobe Creative CloudのYouTubeチャンネルでは、パントンの2021年の色と同様にイエローとグレーを基調としたイメージが紹介されています。AdobeのフォトライブラリーであるAdobe Photostockからセレクトされたものです。
イエローのターバンを巻いたポジティブな表情の女性のバストショット、黄色い路面表示、黄葉を背景にしたグレースーツの男性、グレーで統一されたセッティングの中のレモンや黄色い花、イエローとグレーで構成されたイラスト、黄色い調度品を配置したモノトーンのインテリアなどがあります。これらのさまざまなシチュエーションのイメージが、2021年の色にインスピレーションを得たビジュアル表現の可能性を示しています。
カラー・オブ・ザ・イヤー 2021をどう活用するか
パントン社のメッセージを受け止めたうえで、この2色をどう活用できるでしょうか。
パントン社のプレスリリースやパントン・ストアには、使い方が例が紹介されています。アパレル製品やファッション雑貨のカラーバリエーションとして、美容業界向けにはヘアやネイルでの活用などの提案があります。インテリアでは、壁の色と家具やドアなどでのアルティメット・グレーとイルミネイティングの組み合わせで活気が生まれることが期待されています。
このようにプロダクトのカラーバリエーションや、定期・不定期にカラーデザインが変更されるインテリアなどでは、すぐに活用のアイデアが得られるでしょう。しかし、企業やブランドのロゴデザインをカラー・オブ・ザ・イヤーに合わせて毎年変更するということは、ブランディングの面からも現実的ではありません。
季節やモデルチェンジ、ラインナップ刷新などのタイミングで、基本デザインのリニューアルが求められるキャンペーンやプロモーションなどでは、活用の可能性があります。たとえば、キービジュアルの要素の色を決める際に、これといって決定的な根拠が見つからない場合などには、今年の色を採用するというのは、クライアントも納得しやすいでしょう。
もし、コーポレートアイデンティティとのかねあいで、イエロー以外の色を使わざるをえないときでも、グレーとブランドカラーを組み合わせるというオプションを提案できます。グレーはどの有彩色との組み合わせでも、その色を引き立たせてくれます。なぜグレーなのかを問われた場合は、パントン社がアルティメット・グレーに込めた、永続性・不屈・信頼というコンセプトが受け入れてもらえるかもしれません。
さらにグレーもイエローも使えないケースでは、堅実さや強さ・信頼性と明るさ・楽観主義・前向きというメッセージを別の色の組み合わせで表現するというアプローチもあります。
アルティメット・グレイとイルミネイティングを色指定するヒント
ここから少し専門的な内容になりますが、パントンの色見本帳には用途別に、グラフィック・印刷向け、ファッション・インテリア向け、プラスチック・プロダクト向けの3種類があります。
カラー・オブ・ザ・イヤー 2021のPANTONE 17-1504 Ultimate GrayとPANTONE 13-0647 Illuminatingは、「パントン ファッション、ホーム + インテリア・コットン・チップセット(PANTONE Fashion, Home + Interiors Cotton Chip Set)」に収録されているカラーコードと色です。Tシャツ、キャップ、トートバッグといったプロモーション用グッズや、布製のパッケージなどをデザインするときには、こちらの色がそのまま利用できます。
ウェブサイトや紙への印刷で利用したいときは、Pantone Connectを参照するとさまざまな情報が得られます。
「Color of The Year 2021」に掲載されているカラーチップをクリックするとメニューボックスが表示され、アルティメット・グレーは「sRGB 147 149 151」「Hex #939597」、イルミネイティングは「sRGB 245 223 77」「Hex #F5DF4D」であることがわかります。
紙に特色印刷する場合は、それぞれに最適なグラフィック・印刷向けのカラーチップとして、アルティメット・グレーは、PANTONE Cool Gray 7 C、イルミネイティングは、PANTONE 106 CとPANTONE 113 Cが示されています。
プロセス印刷する場合は、上記の情報に基づいてAdobe PhotoshopやAdobe IllustratorでCMYK値を確認したうえで、印刷に詳しいデザイナーや印刷会社の担当者に相談することをおすすめします。
2016年のカラー・オブ・ザ・イヤー
パントン・カラー研究所がカラー・オブ・ザ・イヤーの発表を始めたのは、2000年の色からです。それ以降は毎年、年末に翌年の色をひとつ決めてきました。ところが2016年には、初めてふたつの色が選ばれました。パステルピンクのPANTONE 13-1520 Rose Quartz(ローズ・クォーツ)とパステルブルーのPANTONE 15-3919 Serenity(セレニティ)です。
抱きしめてくれるような温かみのあるローズ・クォーツと穏やかに落ち着いたセレニティー。この2色は、ストレスに満ちた日常のなかで、精神の充足と幸福をひとびとが求めていることを踏まえて決められました。パントン・カラー研究所は、ローズ・クォーツとセレニティが「人と人とのつながりを表し、健康的で平穏な気持ちにさせてくれる」と述べていました。
さらに、従来の1色ではなく2色が選ばれたことには、「性の平等」というメッセージが込められていました。男女平等を求める動きは世界的に進められています。新しい世代はステレオタイプな考え方から開放され、色に対する考え方や色による表現は、ますます自由になっています。特にファッションの世界では性別を問わなくなってきていて、以前に比べると男女の境界はあいまいです。
2016年のカラー・オブ・ザ・イヤーで、この重要なトレンドを表現するためには、2つの色を同時に発表するということが必然だったのです。
パントン2016年の色や2021年の色のように、単色よりも2色の組み合わせの方が、ぐっとバリエーションが増えるわけですから、ロゴデザインなど、ブランディングでもこのアプローチがとられています。
ちなみに、ピンクが女性または女の子の色と考えられるようになってから、まだ100年も経ってないそうですよ。
2011年から2020年までのカラー・オブ・ザ・イヤーをポップカルチャーとともに振り返る動画
【参考資料】
・Pantone Color of the Year 2021 / Introduction | Pantone (https://www.pantone.com/articles/press-releases/pantone-reveals-color-of-the-year-2021-pantone-175104-ultimate-gray-and-pantone-130647-illuminating)
・Pantone Reveals Color of the Year 2021: PANTONE® 17-5104 Ultimate Gray and PANTONE 13-0647 Illuminating | Pantone (https://www.pantone.com/articles/press-releases/pantone-reveals-color-of-the-year-2021-pantone-175104-ultimate-gray-and-pantone-130647-illuminating)
・Pantone Chooses Pandemic Gray and Bright Yellow for 2021 Colors – ARTnews.com (https://www.artnews.com/art-news/news/pantone-gray-yellow-pandemic-colors-2021-1234579124/)
・パントン・カラー・オブ・ザ・イヤー 2021 (https://www.pantone-store.jp/coy2021/index.html)
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