弁理士の加藤です。今回のコラムでは前回のコラムの続き「商標登録出願をしたら…どうなるの?」について説明します。
内容が多くなってしまいましたが、少しずつでいいので読み進めてみてください。
最初に前回の復習です。
前回までは商標登録出願の願書を特許庁へ提出するまでの流れや手続きを4つのステップで説明していきました。
① 商標登録したい名称やロゴ(商標)の決定をする。
② その商標をしようする商品・サービスの特定をする。
③ その商標と類似する先行の商標がないか先行商標の調査をする。
④ 特許庁に対して商標登録出願の願書を作成する。
このステップに従って出願された願書は特許庁にてどのように取り扱われるのでしょうか?今回のコラムは特許庁に提出した後に特許庁で出願がどのように扱われるかを説明していきます。
特許庁では審査官が出願書類を1件1件審査しています。
商標登録出願が終わってしまったら、出願人は基本的に何もすることはありません。特許庁の審査結果の通知が来るまで待つことになります。
しかしながら、審査結果の通知までコラム執筆時の2020年3月の段階では約1年を要します。よく「何でそんなに時間がかかるのですか?」と質問があります。確かに長いですよね。
でもそれには理由があります。
年間約20万件前後の出願に対して、特許庁の審査官が1件ずつ登録可能かをチェックしているからです。審査官の方に審査の話を聞いたことがありますが、朝から晩まで必死になって審査をしているそうです。それだけ出願が多いということですね。
特に近年は審査期間が長い傾向にありますので、商標登録出願をする際に審査期間も考慮して出願されることを頭に入れておいて下さい。
また、この審査期間を短くする制度もあります。要件がありますが、【ファストトラック審査制度】や【早期審査制度】と言われる制度を利用することで、この約1年の審査期間を半年や約2ヶ月程度まで短縮することも可能です。(詳しく知りたい方は加藤までご連絡ください。)
では、実際に特許庁でどんな審査がされているかについて説明します。この審査は大きく2つあります。(1)方式審査と(2)実体審査の2つです。以下、それぞれの審査について説明していきたいと思います。
(1)方式審査で出願書類の記載内容をチェック
特許庁では先ず出願書類の形式(方式)をこの方式審査で行います。
具体的には、商標登録出願の書類に記載された【商標登録を受けたい標章】や【その商標が指定する商品や役務】、【出願人】、【代理人】、【費用】などが方式審査の対象となります。方式審査の中で出願書類の形式(方式)に何らかの不備が見つかった場合は、特許庁から出願人(または代理人)宛てに「補正指令書」が送られます。
補正指令で指摘された不備を『手続補正書』にて解決すれば、無事に実体審査に進めることができます。もし、手続補正書を提出しないと出願自体が却下されてしまいます。ご自身で手続きされる場合には注意して下さい。
(2)実体審査:出願しても登録にならない商標
方式審査を通過しても次の①~③に該当する商標は、登録を受けることができません。
① 自己と他人の商品・役務(サービス)とを区別することができないもの
② 公共の機関の標章と紛らわしい等公益性に反するもの
③ 他人の登録商標や周知・著名商標等と紛らわしいもの
これらについて簡単に説明していきますね。
①自己と他人の商品・役務(サービス)とを区別することができないもの
商標とは自他商品・サービスを区別する目的で使用するため、そもそも識別ができないような商標(名称やロゴなど)で権利を取得することができません。そのため、商標の実体審査では商標登録を受けたい商標自身が「識別性」があるか否かについて審査がされます。これが商標登録の審査の中で一番大きなウェイトを占めます。
具体的に「識別性」がない商標についてその類型をいくつか説明します。
一) 商品・役務の一般名称のみを表示する標章
商品又は役務の「普通名称」を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標です。
(例)指定商品「アルミニウム」に使用する商標として「アルミニウム」または「アルミ」を出願した場合
例の通り、普通名称なので「識別性」がそもそもないですよね。そのため、商標登録が認められません。
二) 商品・役務について慣用されている商標
「慣用されている商標」とは、もともとは他人の商品(役務)と区別することができる商標でした。しかし、同種類の商品又は役務について、同業者間で普通に使用されるようになり、もはや自己の商品又は役務と他人の商品又は役務とを区別することができなくなった商標のことをいいます。
(例)指定商品「清酒」に使用する商標として「正宗」を出願した場合
例の通り、同業者間で使用された結果として「識別性」がなくなってしまったため、これについても商標登録が認められません。
三) 単に商品の産地、販売地、品質等又は役務の提供の場所、質等のみを表示する商標
商品の産地、販売地、品質や、役務の提供の場所、質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標です。
例として…
・商品の産地、販売地…指定商品「菓子」に使用する商標として「東京」を出願した場合
・商品の品質…指定商品「シャツ」に使用する商標として「特別仕立」を出願した場合
・役務の提供場所…指定役務「飲食物の提供」に使用する商標として「東京銀座」を出願した場合
・役務の質…指定役務「医業」に使用する商標として「外科」を出願した場合
が該当します。産地や品質、提供場所、質などには「識別性」がありませんので、商標登録が認められません。
四) ありふれた氏又は名称のみを表示する商標
「ありふれた氏又は名称」を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標のことをいいます。「ありふれた氏又は名称」とは、例えば、電話帳において同種のものが多数存在するものをいいます。また、「ありふれた氏」に「株式会社」「商店」などを結合したものも「ありふれた名称」に含まれます。
(例)山田、スズキ、WATANABE、田中屋、佐藤商店
山田、スズキには「識別性」がないので商標登録が認められません。これらの商標に商標権という独占権を与えると、権利者の山田さん以外の山田さんが困ってしまいます。
五) 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
(例)仮名文字の1字、数字、ありふれた輪郭(○、△、□等)、ローマ字(AからZ)の1字又は2字
他にもありますが、代表的な例を紹介させていただきました。お分かりだと思いますが、例示した商標には「識別性」がないものばかりですので、これらの商標には商標登録が認められないことになります。
特許庁のHP にも同様の説明や他の例もたくさん書かれていますので、興味がある方はそちらもご覧ください。
…絶対に商標登録できないの?
ちょっと専門的に話になりますが、上記の商標は「絶対に商標登録できないのか?」と言われると、実は商標登録が認められる場合があります。
これまでの例で「識別性」がないため商標登録が認められないと説明してきました。ですので、その「識別性」がある商標であれば商標登録が認められます。
「識別性」を有する商標とする方法として、以下の方法があります。
特殊なレタリングにしてロゴ化することや、別の言葉と組合せて造語にすることで「識別性」が認められれば商標登録となります。
また、商標を使用することにより、需要者が自他商品・サービスを区別できる「識別性」を有する場合にも商標登録が認められます。この例としてヤクルトの包装容器がありますが、この需要者の「識別性」の要件は相当ハードルが高いと言われています。
②公共の機関の標章と紛らわしい等公益性に反するもの
①では、商標の「識別性」が問題になりましたが、次は「公益性」の観点です。「公益的」に認められない例は何となくわかると思います。商標法ではこれらがきちんと法律で規定されています。
もし、デザインされる方もデザインの際にこれらの点も踏まえて創作されると良いと思いますので、長くなりますがこれらの類型をいくつか説明しておきます。
一) 国旗、菊花紋章、勲章又は外国の国旗と同一又は類似の商標
国旗や菊花紋章と類似するもの含まれ、勲章には大勲位菊花章や桐花大綬章、旭日章など、褒章には紅綬褒章 緑綬褒章 黄綬褒章などが該当します。
(例)国旗、菊花紋章
二) 外国、国際機関の紋章、標章等であって経済産業大臣が指定するもの、白地赤十字の標章又は赤十字の名称と同一又は類似の商標等
外国の記章や紋章、監督用又は証明用の印章が該当します。
(例)国際原子力機関 赤十字、ジュネーブ十字、赤新月、赤のライオン及び太陽
三) 国、地方公共団体等を表示する著名な標章と同一又は類似の商標
「国」とは日本国を、「地方公共団体」とは地方自治法にいう都道府県及び市町村並びに特別区等を言います。
(例)都道府県、市町村、都営地下鉄の標章
四) 公の秩序、善良な風俗を害するおそれがある商標
商標自体がきょう激、卑わい、差別的なもの、他人に不快な印象を与えるようなもののほか、他の法律によって使用が禁止されている商標、国際信義に反する商標など、公序良俗を害するおそれがあるものです。
特許庁のHP にも同様の説明や他の例が記載されていますので、興味がある方はそちらもご覧ください。
③他人の登録商標や周知・著名商標等と紛らわしいもの
③は他人の登録商標等と比較した自分の商標の「識別性」になります。①では、商標自体の「識別性」でしたが、その点が他人の登録商標等と比較する点で異なります。
基本的に商標には「識別性」が求められますので、他人の使用する商標、他人の氏名・名称等と紛らわしい商標は登録を受けることはできないのが③の要件が設けられている理由です。
一) 他人の氏名、名称又は著名な芸名、略称等を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)
ここでいう「他人」とは、現存する自然人及び法人(外国人を含む。)を指します。
(例)国家元首の写真やイラスト、著名な芸能人、スポーツ選手等
二) 他人の登録商標と同一又は類似の商標であって、指定商品・役務と同一又は類似のもの
「一商標一登録主義」及び「先願主義」に基づくものです。商標登録とならない一番の理由がこれになります。
商標登録の要件は「識別性」と「公益性」です。特に「識別性」の要件では商標自体の「識別性」と他人の登録商標との比較で「識別性」があるかがポイントになっています。
この部分も特許庁のHP に同様の説明や他の例が記載されていますので、興味がある方はそちらもご覧ください。
まとめ
特許庁では商標登録出願された書類を審査官が1件1件審査(方式審査と実態審査)をしています。コラム執筆時の2020年3月の時点では、出願から審査結果の通知まで1年以上の期間を要してしますが、権利発生の信頼・信用、取引の安全を担保するためしっかりと審査がされているとご理解いただければ幸いです。
また、この登録要件を満たさない場合には、特許庁から補正命令書や拒絶理由書の通知がされます。逆に、全ての登録要件を満たす場合には、特許庁から登録査定の通知があります。その対応については別のコラムや別の機会で紹介したいと思います。
今回のコラムはとても長くなってしまいましたが「商標登録出願をしたら・・・どうなるの?」の内容で書かせていただきました。直ぐに必要な知識ではないかもしれませんが、商標の登録要件が気になった際に確認しに来てください。もしやり方などがわからない質問したいなど疑問点がありましたら、加藤まで遠慮なくご連絡いただければ幸いです。
※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。
<プロフィール> 加藤拓司(弁理士)加藤国際特許事務所 代表
大学卒業後に一般企業でSE(システムエンジニア)として勤務中に弁理士資格を取得して独立起業。現在、主に中小企業向けに起業や新規事業の立ち上げの支援や商品・サービス企画段階で知的財産権を活用したアドバイスを行う。趣味は音楽鑑賞や旅行、サイクリング、妻と娘1人、名古屋市在住。
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