1.はじめに
皆さん、こんにちは。弁護士の河本です。
前回までのコラムでは自分の知的財産権を守ためにはどうすればいいか、という視点で記事を書きました。その後の皆さんの反応を拝見しますと、多くの方から「自分の知的財産権が侵害された場合でも、相手が大きな会社だと泣き寝入りすることになるの?」というご質問を多く頂きました。
そこで、今回と次回の記事では知的財産権が侵害された場合の考え方について、私の意見を記載しようと思います。
2.知的財産権侵害とは?
知的財産権が侵害された場合とは、果たしてどのような状況なのでしょうか。
1つ、イメージし易いのは、デザイナーの皆様が創作するデザインです。皆さんがお仕事としてデザインする場合、当然どこかの会社から依頼を受けて制作すると思います。
私がよく聞くのは、個人でお仕事をしているデザイナーさんは、電話やLINEのやりとりだけで依頼を受け、制作をするという話です(当然、これが悪い!という訳ではありません。契約書があるに越したことはないですが、実際は契約書を作成するケースは多くはないでしょう)。
そうすると、契約で特に取り決めがない以上、制作物の著作権はデザイナーの皆さんに帰属することになります。
にもかかわらず、会社が完成されたデザインを無断で改変した、商品パッケージとして世に売り出した…となれば、これは翻案権(著作権法第27条)や譲渡権(著作権法第26条の2)侵害となり得ます。
前回までの記事で記載しましたが、著作権には財産的な価値があります。つまり、著作権侵害とは、自分の財産を侵害されたことに他ならないのです。
3.自分の財産が侵害されたらどうする?
では、自分の財産が侵害された、たとえば自分の車が壊されたという場合、皆さんは誰に何を言いますか?私だったら壊した相手に対して「壊れた車の価値分のお金を支払え!」って言いたくなります。
これと同様のことが著作権侵害にも当てはまります。
損害賠償請求と差止請求
つまり、自分の作品が無断で改編され、世に出回り、それが大ヒットした場合…「それによって発生した損害を賠償してよ!」と会社に対して請求できるのです。そして、この権利を【損害賠償請求権】といいます。
この損害賠償請求の他には、【差止請求】ということもできます。これは、無断で改変し、世に広める行為、つまり「著作権侵害行為をやめなさい!」という請求です。
4.泣き寝入りなの?~自分の作品にどれだけの思い入れがあるのか~
いかがでしょうか。著作権侵害行為に対して、デザイナー側は正当な権利を主張することができます。
ですが、私個人の意見を言えば(他の弁護士先生は違う意見を持たれるかも知れません。)、これらはあくまで「権利」です。つまり主張するかどうかは皆さんに委ねられており、主張にあたってはいくつかリスクもあります。
著作権侵害行為に立ち向かうリスクとは
大きなものでいえば、上でみてきた①権利の主張にあたっては、デザイナーの皆さんの方で著作権が侵害されたことの証拠を集める必要があります(損害の額等、一部「推定」規程もありますが、難しくなるので詳細は割愛します。)。この証拠集めというのは意外と難しく、一般の方が「これは決定的な証拠だ!」と思うものでも裁判の中で意外とそうでもないことがあります。
また、②依頼先に対して主張すれば、今後お仕事が来ない可能性があります。
③裁判は本人でも遂行できますが、弁護士を雇った方が専門的な戦い方ができる一方、弁護士を雇う費用も決して安くはないでしょう。
つまり、これらのリスクを踏まえても、なお自分が心血注いで生み出した作品が意図しない形で使われることを防ぎたいと思えば、侵害した相手に上記で紹介したような請求を行うことになります。費用対効果を考えて敢えて請求しないという選択もあるでしょう。後者の選択が、皆さんがいう泣き寝入り、という結果なのだと思います。
5.まとめ
この記事をご覧になった方は、私の意見をドライだなと思われたかもしれません。しかし、権利は+ではなく、ときにリスクもある、だからメリットとデメリットを正しく認識して使っていただきたいと思い、敢えてこの内容を記載しました。
ですが、費用対効果を考えて、敢えて権利を主張しない(正確には主張できない、だと思います。)方にとって、他に救済手段はないのでしょうか。次回は他の救済手段について触れていきたいと思います。
※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。
<プロフィール> 河本和寛(弁護士)
1989年生まれ。金沢大学を3年で卒業後、名古屋大学法科大学院に進学し、名古屋の地で弁護士となる。専門は企業法務、知的財産権及び交通事故紛争。また、弁護士1年目から全国各地の企業相手に講師として適正取引推進のための法律普及業務を行っている。
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