1.はじめに
皆さん、こんにちは。弁護士の河本です。
前回、著作権は売り買いできますよ(財産的価値がある)というお話を書かせていただきましたが、思いの外皆さんからの反応が良かったので、今回も著作権の売り買いに関するコラムを書こうと思います。
さて、前回、著作権というものは大きく分けて①財産権としての著作権と②著作者人格権の2つに分けられ、売り買いの対象になるのは①の財産権としての著作権だと申し上げました。では、実際に①財産権としての著作権を売る際には何に気をつけるべきなのか、また②著作者人格権には何の意味があるのでしょうか。
2.著作権を売る(譲渡する)際の注意点~契約書~
実際に著作権を売り買いする際には、通常、契約書にて取り決めを行います。この契約書の記載の中でも、特に気を付けるべきポイントがあります。
一口に著作権と言っても様々な権利がある
それは、どの著作権を譲渡するのか? という点です。といいますのは、前回のコラムでも書きましたが、①財産権としての著作権には【複製権(コピーを作っても良い権利)】や【譲渡権(売っても良い権利)】等々、実に様々な権利が含まれています。
そして、その中には【翻案権(著作権法第27条。元の著作物に修正を加えてよい権利)】や【二次的著作物の利用権(著作権法第28条。二次的著作物を無断で使用されない権利)】という2つの特殊な権利があります。この2つの権利は一体何が特殊なのでしょうか?
この2つの権利は、たとえ契約書に「全ての著作権を譲渡します」と書かれていても、「著作権法27条と28条の権利も含まれます」と書かれていなければ、この2つの権利は依然としてデザイナーの皆さんの元に残ることが推定されます。
逆に言えば「この2つの権利を含む全ての著作権を譲渡する」という内容だと、デザイナーの皆さんの手元には財産権としての著作権が残らないということになります(ちなみに、2つの権利を契約書で明記したかどうかに関しては、とあるゆるキャラをめぐる裁判でも問題となりました)。
そして、この2つの権利は、そうですね…たとえば、皆さんが生み出した著作物を他人が勝手に改変したりすることを止めることができます。つまり、自分の著作物の形、これを意図しない形での改変から守ることができるのです。
いかがでしょうか?この2つの権利の重要性、ひいては売ってしまっても良いのかどうか…契約書の確認の重要性を少しは感じていただけたのではないでしょうか?
3.著作者人格権って何?
ここで話は変わって、著作者人格権を説明します。この著作者人格権は➀公表権、②氏名表示権、③同一性保持権という3つの権利で構成されます。たとえば、自分の作品が意図せず改悪され、自分の人格が傷ついたときには同一性が保たれていない、ということで「同一性保持権の侵害だ!」と相手に主張することができるのです。
そして、この著作者人格権は売り買いができませんので、財産権としての著作権を売ったとしても、デザイナーの皆さんの手元には残るわけです。
そうすると、勘のいい方は「…おや?」と思われたかもしれませんね。
そう、【著作者人格権のうちの同一性保持権】と【財産権としての翻案権】は同様の性質を有しているのです。ですので、たとえば【翻案権(元の著作物に修正を加えてよい権利)】は企業に売ったけど、【著作者人格権としての同一性保持権】は皆さんの手元に残っている、という事態が生じます。
しかし、これだと企業は何のために翻案権を買ったのかが分かりません。
このような矛盾する事態を避けるため、契約書には「この著作物について、著作者人格権を行使しない」という著作者人格権の不行使特約が盛り込まれることがあります。
この条項があるとデザイナーの皆さんは著作者人格権の行使を制限されてしまうわけです。
4.まとめ
このコラムを読んで下さっているデザイナーの皆さんは、自分が著作権を譲渡する場面で契約書のどのような部分に気を付けなければいけないのか、イメージできましたでしょうか。生み出したデザインを使って新たなビジネスの展開を考えている場合、著作権を譲渡する契約書の内容は精査するべきでしょう。
※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。
<プロフィール> 河本和寛(弁護士)
1989年生まれ。金沢大学を3年で卒業後、名古屋大学法科大学院に進学し、名古屋の地で弁護士となる。専門は企業法務、知的財産権及び交通事故紛争。また、弁護士1年目から全国各地の企業相手に講師として適正取引推進のための法律普及業務を行っている。
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