普段の生活空間を見まわしてみると、アルファベットがあふれていることにあらためて気づかされます。その中にかなりの割合で含まれているのは、企業や店舗、プロダクト、サービスのブランド名やロゴです。
この記事を読んでいるデジタル機器のロゴやブランド名もアルファベットで印字されていると思います。いま着ている服や休憩中の飲食店の名前にもアルファベットが使われているかもしれません。
・エルメスのロゴ / OceanProd – stock.adobe.com
親しんでいるいないは別にして、たとえば、Nestlé、Barilla、Hermès、Mercedes-Benz、Camper、BørneLundといったブランドは一度は目にしていると思います。
ロゴをデザインするためのテクニックやアイデア出しのヒントについては、さまざまなノウハウや考えほうがあります。この記事では、アルファベットにフォーカスして、ロゴづくりのためのヒントを紹介したいと思います。ひとつのアプローチとしてお読みください。
シンボルマークとロゴタイプ
アルファベットのロゴの前に、ロゴの基本的な構成と名称を整理したいと思います。
ロゴは、シンボルマークとロゴタイプに分けられます。
■シンボルマーク
・Appleのロゴ / Rixie – stock.adobe.com
シンボルマークとは、たとえばアップルのリンゴマークや、ヤマト運輸のクロネコのマークです。
■ロゴタイプ
・Googleのロゴ / Markus Mainka – stock.adobe.com
また、ロゴタイプは、グーグル(Google)やサントリー(Suntory)のように文字だけで構成されています。
シンボルマーク(symbol mark)は図形のマーク
シンボルマークは、ブランドマーク(brand mark)と呼ばれることもあります。文字を含まない、図形だけのマークです。日本の伝統的な家紋もシンボルマークの1種です。
シンボルマークの面白いところは、ブランド名がなくても、そのブランドのマークであると認識できるところです。リンゴや黒い猫やパンダをモチーフにしたマークを見て、アップル、ヤマト運輸、WWF(世界自然保護基金)だとわかるのはなぜでしょうか。
それは、わたしたちが覚えてしまっているからです。つまらない答えですみません。しかし、これが本質です。これまでにブランド名と一緒に何度も見たり聞いたりしたから、よく利用しているから、マークが印象的だから、昔からあるから、など覚えている理由はいろいろ考えられます。
少なくともひとつのことが言えます。ロゴからブランドを認識できるのは【成功しているビジネスや活動である】ということです。逆にいえば、ビジネスが成功すれば、シンボルマークは結果的に消費者に浸透します。プロダクトやサービスに消費者が満足感をおぼえたときに、そこに印象的で適切なシンボルマークがあれば、繰り返し利用するうちに、そのマークが要求を満たすための目印となっていきます。
■事業のコンセプトが分かるロゴ
・WWFのシンボル / Ricochet64 – stock.adobe.com
ヤマト運輸やWWFのシンボルマークは、事業や活動のコンセプトを非常に端的に表現しています。一方、アップルの場合は、コンセプトを表しているのはブランド名の方でした。
冷たいオフィス機器としてのコンピューターとは違う、パーソナルなコンピューターにふさわしい名前として創業者スティーブ・ジョブズが思いついたのです。リンゴが威圧感のない楽しくハツラツした印象をあたえるだろうとジョブズは考えました。それを図案化したのがアップルのロゴです。ブランドイメージが変わるにつれ、リンゴのデザインもアップデートされています。
ロゴデザインの巨匠ポール・ランド(Paul Rand)は「ロゴが事業内容を表す必要はない」と言っています。ランド氏が例にあげたのは、ラム酒ブランドのバカルディとファッションブランドのラコステです。
■事業内容を表現していないロゴ
・ラコステのロゴ / doganmesut – stock.adobe.com
それぞれコウモリとワニをシンボルマークにしています。その背景に興味深いストーリーはありますが、コウモリやワニに、プロダクトや事業内容との直接的な関係はありません。消費者がコウモリマークでバカルディラム、ワニでラコステ製品を思い浮かべれば、ロゴは目的を達成しているのです。
「ロゴの使命は、特色があり、おぼえやすく、明瞭であることだけです」(ポール・ランド)
リンゴのロゴを見てアップルを思い出しますが、リンゴとコンピュータ作りとの関係を見出すのはほとんど不可能ですね。
ロゴタイプ(logotype)は文字だけのマーク
ロゴタイプは、文字だけで構成されています。特定の書体と色で社名やブランド名、商品名などが示されます。程度の差はありますが、文字になんらかのデザイン処理がおこなわれることが少なくありません。
■書体をベースにしたロゴ
・ルフトハンザ航空のロゴ / Luis G. Vergara – stock.adobe.com
既存の書体がそのまま使われる場合や、カスタム書体で組まれることもあります。ドイツのルフトハンザ航空のロゴタイプは、書体ヘルベチカが使われていましたが、2018年にカスタム書体「Lufthansa(ルフトハンザ)」に変更されました。いずれも字形に対する派手な加工は加えられていません。
■手書きの署名等をベースにしたロゴ
・エディー・バウアーのロゴ / JHVEPhoto – stock.adobe.com
レタリングやカリグラフィ、手書きの署名をベースにして、ほかにない独特のデザインが生み出されるケースもあります。たとえば、コカ・コーラやディズニー、エディー・バウアーのロゴです。
ロゴ(logo)は総称
英語の「logo」は、もともと「logotype」の略称でした。文字を図案化したブランド名や社名のことをロゴタイプまたはロゴといいました。現在では、シンボルマークとロゴタイプを組み合わせたデザインや、エンブレムや盾の形にアレンジしたデザイン、シンボルマークだけのデザインも含めて、総称として「logo」が使われています。
ロゴの呼び方については、英語圏と日本語で少しズレがあるようです。日本語では、いま説明したシンボルマークとロゴタイプの組み合わせを「ロゴマーク」といいますし、ロゴタイプを指してロゴマークということもあります。しかし、このロゴマークということばは和製英語です。
ややこしいことに、近年は英語圏でも、ロゴのシンボルマーク(ブランドマーク)のことを「logo mark」というケースも出てきているようです。いずれにしても、海外のデザイナーや外資系クライアントとのコミュニケーションでは、行き違いがないよう注意が必要でしょう。
この記事では、英文字のアルファベットを使ったロゴを対象にしているということもあり、英語圏での呼び方で進めます。
なぜロゴでアルファベットを使うのか
さて、前置きがかなり長くなってしまいましたが、英文字のロゴについて見ていきましょう。まず、わたしたちが日本国内で目にするロゴが、アルファベットで組まれているのはなぜなのかを考えてみます。
おおよそ次のような理由が考えられます。
1. 海外ブランドだから
2. グローバルブランドだから
3. インバウンド市場がターゲットだから
4. 企業名・ブランド名だから
5. ルーツが外国だから
6. 英文字のほうが見やすいから
7. ドメイン名だから
8. その他
上記のほとんどは、ロゴデザインそのものというよりも、ブランディングやマーケティングの領域のことがらです。しかし、ブランドの背景として把握しておくことで、ロゴデザインの方向性を決める助けとなります。なお、ひとつのブランドがアルファベットを選択した理由は、ひとつだけとは限りません。
1. 海外ブランドだから
これは特に説明はいらないと思います。自動車メーカーやハイファッションブランドから、デジタル機器、アプリ、家電、アルコール飲料、食料品、日用品まで、あらゆるブランドやプロダクトが海外から日本市場に導入されています。
企業ブランドからプロダクトのパッケージまで、わたしたちが目にするロゴは、生産国やグローバル市場で使われているものと同じデザインであることが多いです。
2. グローバルブランドだから
日本を拠点とする企業やプロダクトやサービスが、グローバル市場に参入している場合は、アルファベットのロゴを掲げることが一般的です。日本市場と海外市場で同じデザインのロゴを使っているケースもあれば、異なるデザインのものを使い分けているケースもあります。
国外の企業との取引の多いB2Bブランドのほぼすべてが英文字ロゴを持っています。まだ実績がないが、いずれはグローバル市場に参入するつもりであるというスタートアップ企業のロゴも英文字でしょう。特定の地域や国の市場向けに、アルファベット以外の文字のロゴが使われることもあります。
3. インバウンド市場がターゲットだから
コロナ禍によって大きなダメージを受けましたが、インバウンド市場は2019年まで拡大し続けました。これから復活することが期待できますし、観光立国を目指している日本にとっては、重要なマーケットのひとつであることに変わりはないでしょう。
既存の日本語ロゴに、アルファベットがルビのように添えられているようなものから、海外からの消費者向けに、専用のあたらしいデザインが作られるケースもあります。
4. 企業名・ブランド名だから
2002年(平成14年)に商業登記規則が改正され、会社名にアルファベット(ローマ字と一部の記号)が使えるようになりました。たとえば、首都圏を中心にディスカウントストアなどを展開しているオリンピックの商号は「株式会社 Olympicグループ」です。
電気通信会社のKDDI株式会社も2002年にアルファベットの社名に変更しています。また、NTTドコモも、以前の商号「エヌ・ティ・ティ・ドコモ」が2013年に変更されたものです。このように、商号自体がアルファベットで登録されているケースは、今後増えるかもしれません。
5. ルーツが海外だから
ルーツを示すためにアルファベットが使わるケースです。日本国内のローカルなビジネスであっても、たとえば、イタリア料理やフランス料理のレストランのロゴでは多く見られます。英文字にかぎらず、飲食店では、ハングル文字や中国語、タイ語、ペルシャ語など、料理の生まれた国や地域の文字を使って本場の味をアピールすることは珍しくはありません。
音楽関連のロゴデザインでも、音楽のジャンルが生まれた地域の言語で作られることがよくあります。アルバムのアートワーク、フライヤー、グッズなどで使われるアーティストのロゴもそうですし、イベントのタイトルなどにも見られます。
チョコレート、アイスクリーム、チーズなど、日本の社会に受け入れられてかなりの時間がたったプロダクトでも、ブランドが消費者に伝えたいメッセージによっては、アルファベットのロゴがパッケージを飾っています。衣料品分野にも同じことが言えるでしょう。
6. 英文字のほうが見やすいから
社名やブランド名が漢字の場合、離れた場所から見たり、画面で小さく表示されると、細かい部分が判別しにくくなりがちです。アルファベットは構造がシンプルですから、視認性の点では有利です。
漢字の読みが難しい名前の場合も、ローマ字表記にしてデザインすることで、消費者におぼえやすいブランドロゴができます。また、名前が長い場合、ローマ字表記の頭文字をブランドのロゴとすることも少なくありません。
7. ドメイン名だから
ウェブサイトは、ユーザーとのタッチポイントのひとつとしていまや必須のアイテムです。ブランド名とドメイン名が一致しているほうが、SEO的には有利とされています。一般にドメイン名は、アルファベットと記号で構成されていますので「それをそのままブランド名にしてしまおう」という考え方もあるでしょう。
通常はブランド名が先に決まっていて、それからドメインを取得する…という順番です。しかし、希望のドメイン名がますます取りにくくなっているようですので、ビジネスやサービスにマッチしたドメイン名を先に取得してしまう、ということが新規ビジネスでは増えるかもしれません。
8. その他
上記以外にも、ロゴにアルファベットを使う理由がいくつか考えられます。
グローバルブランドと競合している場合、海外ブランドの雰囲気を演出する目的で英文字のロゴが使われる場合があります。そうすることで、同じカテゴリーのプロダクトやサービスであることをアピールするためです。
もしかすると、マーケティング調査の結果、漢字やかなよりも消費者の評価が高かったのかもしれません。または、欧米の文化や輸入品への関心が高い層をターゲットとしているプロダクトである可能性もあります。
プロダクトのペットネームやカテゴリー名で多いのは、製品そのものに印字したときの見え方が理由である場合です。漢字やかなに比べて英文字のほうがプロダクトデザインとの親和性が高いという判断です。それは、市場調査、テストマーケティングなどの結果に基づくこともあれば、慣れや主観に基づく選択の場合もあるでしょう。
漢字、ひらがな、カタカナによるロゴデザインが一般的な分野では、差別化のためにアルファベットが選ばれることもあります。たとえば、和服のブランドが日本市場向けに英文字のロゴを掲げているとき、特別なメッセージが発信されています。
純粋にグラフィック素材としてアルファベットがデザインされるケースも少なくありません。その場合、ブランディングやマーケティングよりも、視覚的な印象が優先されていることが多いようです。
ラテン文字とラテン・アルファベット
・Barillaのロゴ / Алексей Филатов – stock.adobe.com
記事の冒頭で紹介したブランドをもう一度見てみましょう。
Nestlé(ネスレ)、Barilla(バリラ)、Hermès(エルメス)、Mercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)、Camper(カンペール)を紹介しました。これらのブランドは、それぞれフランス語(スイス)、イタリア語、フランス語、ドイツ語、スペイン語(マヨルカ語)です。
Nestlé(ネスレ)のロゴの最後の「e」の上にあるのは、装飾のためのバーではありません。これはフランス語の表記で使われる記号です。これのありなしで発音が変わったり、意味が変わったりします。
このように、ヨーロッパの言語には、英語のアルファベットに、「é」「è」「ä」「ö」 「ç」のように特別な記号が付けられることがあります。また、英語にはない「ß」「ñ」「æ」「ø」「å」といった文字がアルファベットに含まれる言語も少なくありません。
わたしたちのまわり、とくにブランドのロゴには、英語だけでなく、さまざまなヨーロッパの言語が使われています。この記事のタイトルで「英文字」と書きましたが、ヨーロッパ各国の言語を含めて、「ラテン文字」と言うほうが正確です。また、記事中の「アルファベット」も「ラテン・アルファベット」を指していると読み替えてください。
ローマ時代の文字をベースに発展したラテン文字は、ヨーロッパの多くの国や地域で使われています。植民地としての歴史を持つ、アジア、アフリカ、南北アメリカ大陸、オセアニアにも、公用語がラテン文字で書かれる国々が多くあります。
ところで、記事の最初のほうで紹介したBørneLund(ボーネルンド)は、日本の玩具会社です。こどもとあそびに関するデンマークの考え方に感銘を受けて起業されました。ブランド名は、「子供」と「森」のデンマーク語を組み合わせたものです。
・ハーゲンダッツのロゴ / wolterke – stock.adobe.com
ちなみに、世界的なアイスクリームブランドHäagen-Dazs(ハーゲンダッツ)は、米国で創業しました。酪農の国であるデンマークを思い浮かべるような響きと文字をねらって作られた造語です。デンマーク語風の「Häagen」と「Dazs」は、英語でもデンマーク語でもありません。
ワードマークとレターマーク
一部の専門家は、文字だけで構成されたロゴを「ワードマーク(wordmark)」と「レターマーク(lettermark)」のふたつに分類しています。
ワードマークというのは、ワード(単語)とトレードマーク(商標)の合成語です。つまり、社名やブランド名がスペルアウトされたロゴを指します。ほとんどロゴタイプと同じ意味で使われています。
このワードマークという言葉は、1990年代に登場したようです。海外のデザイナーたちのなかには、ワードロゴ(word logo)やタイポグラフィックロゴ(typographic logo)いう言い方をしている人もいます。
一方、レターマークのレターは、手紙ではなく文字のことです。レタリングのレターです。英語では、2つ以上の単語でできたことばの頭文字だけをつないだ略語がよく使われます。
・BBCのロゴ / Cerib – stock.adobe.com
たとえば、BBCは、ブリティッシュ・ブロードキャスティング・コーポレーション(British Broadcasting Corporation)の略語です。このように略語でできたロゴを、ワードマークと区別するために、単語ではなく文字のマークということで、レターマークと呼ぶようになってきています。
コンピューター・ハードウェア関連ブランドでいえば、デル(Dell)、レノボ(Lenovo)、エイサー(Acer)のロゴがワードマークで、ヒューレット・パッカード(HP)やインターナショナル・ビジネス・マシーン・コーポレーション(IBM)のロゴがレターマークです。
名前を覚えてもらうならロゴタイプ
社名やブランド名なのか、プロダクトやサービス名なのかによって、ロゴに込められる消費者へのメッセージは違ってくるでしょう。しかし、名前を覚えてもらうことで、競合と区別して認知してもらおうというのが、ロゴタイプの根源的な役割です。シンボルマークではなく、ワードマークが選ばれる目的はそこにあります。
社名やブランド名のロゴタイプは「名札」のようなもの
ロゴデザインで失敗しないためには、ロゴタイプとシンボルマークの役割の違いを明確に理解しておくことは有効です。たとえば、ロゴタイプを名札、シンボルマークをバッジまたは社章のようなものと考えるとわかりやすいのではないでしょうか。
ある会社を訪問して、はじめて会うひとたちが名札をしていれば、それぞれを認識することができます。これがロゴタイプの役目です。このとき、文字が読みやすいことが大切です。
逆に、面識のないふたりの田中さんが来訪したとき、それぞれが異なる社章をつけていれば、判別しやすくなります。これがシンボルマークです。
とても基本的であたりまえのことだと思うかもしれませんが、この区別があいまいになっているロゴデザインをときどき見かけます。ラテン・アルファベットでも日本語でも事情は同じです。
・様々なコカ・コーラのデザイン / Model Republic – stock.adobe.com
ロゴタイプが名前、つまり「ことば」であるということは、コカ・コーラの例がわかりやすいでしょう。コカ・コーラのパッケージには、国・地域ごとにそれぞれのことばで作られたロゴタイプが印刷されていることがあります。かつては日本でも、英語ロゴと一緒にカタカナのロゴが入れられていました。
コカ・コーラは社名と製品ブランド名が同じなので、特殊なケースかもしれません。しかし、ワードロゴとは本来どういうものなのかがうかがえます。スクリプトタイプの装飾的なロゴではありますが、シンボルマークではないのです。
いずれにしても、ロゴデザインのプロジェクト開始時には、デザイナー自身やクライアントが、ラテン・アルファベットのロゴをシンボルマークのようにとらえていないかどうか確認しておいたほうがよいでしょう。
■さまざまな言語のコカ・コーラロゴ
・さまざまな言語のコカ・コーラロゴ / Model Republic – stock.adobe.com
ロゴタイプ(ワードマーク)が向いているケース
ネット上にはワードマークが向いているケースとして、おおよそ次のようなものが挙げられています。クライアントのブランド名がいずれかに該当すれば、シンボルマークは保留にして、ロゴタイプに集中してみる価値があります。
1. 新規参入ブランドである
2. 名前が短い
3. 名前がビジネスを言い表している
4. 名前に特徴がある
市場でだれにも知られていない状態のスタートアップ企業なら、まず検討すべきはロゴタイプ(ワードマーク)でしょう。予算に限りがある場合は、当面はモノクロでいく、という選択もできます。社名やブランド名の認知度が上がってから、レターマークやシンボルマークに着手するという段階的な導入を進めているデザイナーもいます。
次に、ブランド名が単語1つ、長くても2つの場合に、ロゴタイプは適しています。名前が短いほうが認識しやすく、おぼえやすいです。単語が複数の場合は、頭文字によるレターマークを検討しましょう。
・YouTubeのロゴ / chathuporn – stock.adobe.com
さらに、ブランド名がビジネスのコンセプトを端的に表現している場合は、ワードマークが最初の選択肢となります。フェイスブック(Facebook)、ネットフリックス(Netflix)、ユーチューブ(YouTube)などはそのよい例です。ことばの見え方を優先しながら、最小限のデザイン処理で大きな効果を出しています。
・無印良品のロゴ / Ned Snowman – stock.adobe.com
無印良品が誕生したときは、上記の4点を満たしていました。ユニークなブランド名でもあり、印象に強く残ります。ブランドのコンセプトと名前のシンプルさはマッチしていますし、ミニマルなロゴデザインが最適だと言えます。
その後、海外展開をする際にブランド名をキャッチーな「Muji」に決めました。「ムジルシリョウヒン」とうまく言えなかった現地スタッフが使っていた愛称を、そのまま海外市場での名前にしたそうです。日本語をもとにしたブランド名なので、上記の「3.」こそ望めませんが、それ以外には当てはまります。無印良品とMujiが、シンボルマークを持っていないことにも留意しておきたいですね。
ロゴタイプにはタイポグラフィの視点が必要
ロゴをワードマークにすることを決めたのであれば、文字、つまり、ことばで消費者にメッセージを送るということが出発点となります。
海外のデザイナーのあいだでも、ロゴタイプのデザインはプロでないと難しいと考えられています。ロゴタイプには尻ごみするノンデザイナーが多いそうです。それは、ロゴタイプをデザインするためには、タイポグラフィに関する知識と感覚が必要だからではないでしょうか。
この記事の最初のほうで、アルファベットでロゴが作られる理由をいくつかリストアップしました。そのなかの、「1. 海外ブランドだから」「2. グローバルブランドだから」「3. インバウンド市場がターゲットだから」に該当する場合は、タイポグラフィックの視点を持ってロゴタイプをデザインことが必要となってきます。
色と書体の心理的印象
ロゴタイプは単なる文字のかたまりで、地味だと考えるノンデザイナーがいるかもしれません。しかし、色と書体というふたつの要素をかけ合わせることで、デザインの可能性は限りなく広がります。
色が与える印象については、デザイナーでなくても、ファッションやインテリアなどを通して多くのひとに知られています。それと同じように、書体が与える印象もさまざまです。書体の違いで、都会的だったり、伝統的だったりと変化します。さらには、ウェイトが変わることであらゆる表情を見せます。
力強さ、繊細さ、カジュアルさ、王道感、といった書体と文字のトーンが、ブランドにマッチしているかを検討することは、ロゴの色を決めるのと同じく大切です。書体の成り立ちや背景などを知っておくことも、選択のヒントになるでしょう。
色についても、モノトーンにするか、文字を塗り分けるか、どこかにアクセントカラーを設定するか…などでさまざまなバリエーションが生まれます。
大文字にするか小文字にするか
ロゴタイプの表情は、大文字か小文字かによっても変わります。
大文字、小文字、という文字体系は日本語にはないものです。とりあえずは、そのことをはっきりと認識しておきましょう。
■はじめの一文字が大文字のロゴ
・カルティエのロゴ / Electric Egg Ltd. – stock.adobe.com
英語の通常の文章では、固有名詞は最初の1文字を大文字にします。この表記ルールに従って、最初の文字だけを大文字にしたロゴタイプは少なくありません。グーグル(Google)、カルティエ(Cartier)、ケロッグ(Kellogg’s)などがそうです。
■全て大文字のロゴ
・ボーイングのロゴ / IanDewarPhotography – stock.adobe.com
一方、すべて大文字(オールキャップ=all caps)で組んであるロゴもあります。たとえば、ボルボ(Volvo)、ボーイング(Boeing)、オラクル(Oracle)などです。
■全て小文字のロゴ
・ダイソンのロゴ / obert – stock.adobe.com
アマゾン(Amazon)、エアビーアンドビー(Airbnb)、ダイソン(Dyson)といった比較的新しい企業には、小文字だけのロゴが多くあります。
・ペプシのロゴ / Alexandr Blinov – stock.adobe.com
また、マスターカード(Mastercard)やペプシ(Pepsi)といった歴史の長いブランドも、近年では大文字から小文字にロゴを変更する例が増えました。
色や書体と同じく、大文字か小文字かでも心理に与える印象は異なります。オールキャップのロゴは、伝統、威厳、風格、強さ、信頼といった印象を与えます。
一方、小文字だけのロゴがまとっているのは、親しみやすい、先進的、現代的、クリエイティブといった雰囲気です。
日本語では、漢字とかなで多少の違いはありますが、文字の高さはほぼ揃っています。これが日本で作られるラテン文字のロゴデザインに影響していると推察します。でこぼこした小文字よりも、すべて大文字のほうがしっくりくると感じるデザイナーにとっては、オールキャップのロゴが作りやすいでしょう。また、文字のかたまりが長方形または帯状になっているほうが、レイアウト上も扱いやすいということがあるのかもしれません。
ロゴをデザインするときには、大文字小文字がもたらす心理的印象やトレンドなどを考慮に入れましょう。そのブランドにオールキャップがベストマッチなのかどうかの確認は無駄ではありません。
単語がふたつ以上のブランド名
・カルバン・クラインのロゴ / IB Photography – stock.adobe.com
ロゴタイプが向いているのは1単語の名前ですが、2単語のロゴもあります。たとえば、カルバン・クライン(Calvin Klein)やアメリカン航空(American Airlines)のロゴです。単語の間にはスペースがもうけられています。
その中には、コカ・コーラ(Coca-Cola)のように、2つの単語をハイフンでつないだ複合語になっているものがあります。
■キャメルケースで構成されたロゴ
・FedExのロゴ / JHVEPhoto – stock.adobe.com
ハイフンを使わず、スペースも入れずに2つ以上の単語をつないだロゴタイプもあります。ペイパル(PayPal)やメットライフ(MetLife)、フェデックス(FedEx)などがそうです。それぞれの単語の最初の文字だけが大文字になります。
こういった文字の扱いを、キャメルケースまたはパスカルケースと呼びます。最初の単語の頭を小文字にする、アイパッド(iPad)などもキャメルケースです。キャメルケースは1980年前後から、IT関連ブランドやプロダクトの名前で使われるようになりました。現在ではさまざまな分野で社名やブランド名として使われています。
■名前が長い場合
・スターバックス・コーヒーの旧ロゴ / kalpis – stock.adobe.com
名前が長くなりすぎる場合は、頭文字だけのレターマークにしたり、ロゴタイプではなくエンブレムスタイルのロゴにアレンジする方法もあります。スターバックス・コーヒー(Starbucks Coffee)の旧ロゴやハーレーダビッドソン(Harley-Davidson)のロゴがエンブレムロゴの例です。
ロゴタイプの成功の鍵はスペース
ラテン文字のロゴタイプでは、文字のスペーシングはとても重要です。読みやすさの確保はもちろんですが、ブランドのトーンを正しく伝えられるかどうかも、スペースが鍵をにぎっています。
ラテン文字の書体の多くは、文字ごとに幅の異なる、いわゆる「プロポーショナル」なデザインになっています。デジタルフォントでは、文字や記号のひとつひとつがスペーシングのデータを持っていて、アドビ社のInDesignやIllustratorでテキストを入力すると、ある程度は自動で字間を調整してくれます。
しかし、アプリの自動調整は汎用的なものです。本文テキストでは、さまざまな文字の組み合わせが考えられるので、それを前提としています。ロゴタイプの場合、特定の文字の組み合わせに対する最適なスペースを追求しなければなりません。
書体、ウェイト、セリフかサンセリフか、フルキャップかすべて小文字か…などに応じて、字間の調整(カーニング)は丁寧におこなう必要があります。同じ書体で同じウェイト、さらに大文字小文字の使い方まで同じであっても、単語が異なればカーニングも変わります。
また、単語全体の文字の感覚(トラッキング)の違いでも別の表情を見せます。大文字をゆったり並べると王道感が生まれ、タイトに詰めたサンセリフのロゴからは先進性や信頼性などが感じられます。
さらに、単語が複数の場合は、単語間のスペースや行間も慎重に決める必要があります。シンボルマークとの組み合わせでは、マークとロゴタイプとのスペースもデザインの完成度に影響します。
日本語の社名やブランド名では、基本的に同じ幅の正方形を並べたようなレイアウトになりがちです。グローバル市場を視野に入れたロゴタイプをデザインするときは、日本語の影響を受けていないか見直してみましょう。
適切なカーニングで大事だとされているのは、文字そのものの間隔ではなく、文字が書かれていないエリア(ネガティブスペース)のバランスとリズムです。ゲーム感覚でカーニングをチェックできるサイトがあります。一度チャレンジしてみてはいかがでしょう。
・カーニングチェックサイト
Kern Type – https://type.method.ac
【参考資料】
・How to Use a Wordmark Logo For Your Brand | Tailor Brands (https://www.tailorbrands.com/blog/wordmark-logo)
スモールキャップのホンモノとニセモノ
・ティファニーのロゴ / Claudio Divizia – stock.adobe.com
ティファニー(Tiffany & Co.)のロゴタイプを見ると、フルキャップで組まれたブランド名のうちの「T」と「C」だけを大きくしたデザインのように見えます。「見えます」と書いたのは、実際はそうではないからです。
ラテン文字の文章では、ほぼ小文字の高さ(エックスハイト=x-height)の大文字が使われることがあります。この文字は、英語で「スモールキャップ(small caps)」または「スモールキャピタル(small capitals)」と呼ばれます。小さな大文字という意味です。
つまり、ティファニーのロゴは、単語の最初だけ大文字で残りは小文字という表記がもとになっていて、小文字の代わりにスモールキャップが使われているのです。
スモールキャップは、章の冒頭などで使われます。また、文中の略語をスモールキャップにすることもあります。BC、AD、AM、PM、ISO、WHOといった略語が文中で多く出現すると大文字が目立ちすぎて邪魔になることがありますが、こういう場合に、文章の流れをさまたげないようにスモールキャップにする、という使われ方をします。
大文字とスモールキャップの組み合わせは、書物や論文の見出し以外に、広告やポスターのキャッチ、ロゴでもよく利用されています。
スモールキャップが用意されているかどうかは書体次第です。スモールキャップが提供されているフォントの場合、小文字に対してアプリでスモールキャップを指定すると、提供されているスモールキャップに変換されます。
あらかじめ準備されたスモールキャップは、大文字や小文字に揃うようにウェイトや幅が調整されています。しかし、スモールキャップを持たないフォントの場合、アプリで指定すると、適当な割合で縮小した通常の大文字が代わりに使われます。
たとえば、20ptの文字の中に14ptの大文字が挿入されるようなものです。これは「ホンモノ」のスモールキャップではありません。その結果、スモールキャップを指定した部分だけ、文字が細くなり、また字間がつまったアンバランスな見え方をします。
ラテン文字を使っている国々でも、これに気づかず、「ニセモノ」のスモールキャップを使っている例が多いようです。プロのデザイナーたちは、ホンモノのスモールキャップを使うよう注意をうながしています。
ティファニーのロゴは、既存の書体を使ったのではなく、特別に描き起こした文字のようですが、「T」「C」がヘンな目立ち方をしていません。ブランドにふさわしい品位あるロゴタイプとなっています。
【参考資料】
・Understanding and Applying Small Caps | CreativePro Network (https://creativepro.com/understanding-applying-small-caps/)
合字(リガチャ)と異体字(オルタネート)
・マイクロソフトのロゴ / theartofpics – stock.adobe.com
欧文タイポグラフィでは、文字を美しく見せるために「合字(リガチャ)」が使われることがあります。
「ft」「fi」「ffi」などのように2文字以上がつながるときに、文字どうしが干渉するのを避けて、2文字または3文字を1組にまとめてデザインした文字です。マイクロソフト(Microsoft)のロゴでは、この合字が「ft」部分に使われています。
筆記体のリガチャ by Nikolai Sirotkin (CC BY-SA 3.0)
ファッションや美容関連のブランドやプロダクト、店舗などのロゴでは、流れるような優雅なスクリプト書体をよく目にします。スクリプト書体でも合字を活用して、手書き文字らしい美しさを表現できます。
さらに、「スワッシュ」と呼ばれるひげ飾りのついた文字には数種類の「異体字(オルタネート)」があり、これを駆使することで印象的なロゴタイプを作ることができます。ただ、どこでどのオルタネートを使うかなどについてルールがあるため、スクリプト体でロゴをデザインするには、ある程度の勉強が必要です。
意外と自由な文字の形
店先に出された本日のメニューや友人の絵葉書などで、手書きの文字が日本の学校で習ったように書かれていないことがあります。たとえば、大文字で書いている文で「i」だけ小文字のようにドットが付けられていたり、反対に、小文字の単語のなかに小さな「R」が混ざっているのを見たことはないでしょうか。
■小文字に大文字が混ざったロゴ
・ディズニーのロゴ / ink drop – stock.adobe.com
ロゴタイプにもそのようなケースはあります。たとえば、ディズニー(Disney)のロゴを見ると「NE」が大文字と同じ形です。いかにも手書きといったデザインです。
■大文字に小文字が混ざったロゴ
・Pumaのロゴ / doganmesut – stock.adobe.com
また、プーマ(Puma)のロゴタイプやブラウン(Braun)のロゴタイプは大文字で組まれていますが、「m」「n」は小文字のような形をしています。ロゴ全体で視覚的な統一感が保たれ、違和感はありません。
タイプディレクターの小林章氏は、著作のなかでブラウンのロゴなどを例に挙げながら次のように述べています。
「世の中に『絶対的なアルファベットの形』がひとつだけ存在するみたいに固く考えずに、自然発生的な字形のバリエーションみたいなものというふうに考えてはどうでしょう」
実際、「ストップ(Stop)」「カウントダウン(Countdown)」「バンコ(Banco)」といった書体を見ると、字形の可能性を垣間見ることができますし、この文字をこんな形で表現するのか、という驚きも感じます。
・書体「Stop」 – Stop Font | Webfont & Desktop | MyFonts
・書体「Countdown」 – Countdown Font | Webfont & Desktop | MyFonts
・書体「Banco」 – Banco Font | Webfont & Desktop | MyFonts
英文字でレターマークを作るときのヒント
レターマークも、ワードマークと同じく文字だけで構成されたロゴです。ワードマークと異なる点は、社名やブランド名がスペルアウトされず、頭文字だけで構成されていることです。
名前が長いとレターマークが選ばれる
ワードマークではなくレターマークをロゴとする理由の第1は、名前が長すぎるからということです。社名やブランド名が2単語以上のため、ロゴタイプにすると文字数が多くなり、認識しにくい場合に、頭文字でロゴを作るという選択がされます。
これ以外に、フルネームだと発音しにくいため頭文字にするケースもあるようです。いずれにしても、レターマークにすることでブランドが認識しやすく、覚えやすくなります。
・IBMのロゴ / nmann77 – stock.adobe.com
ヒューレット・パッカード(HP)やインターナショナル・ビジネス・マシーン・コーポレーション(IBM)が、長い名前の頭文字でレターマークとした例です。レターマークのロゴのなかには、スリーエム(3M)やエムティービー(MTV)のように、以前使っていた社名の頭文字が正式名称になったというケースもあります。
日本の企業名には、〇〇機械産業や〇〇化学工業というふうに、固有名詞に業種などが連なったものが多くあります。これをローマ字にすると単語数が増え、長くなりがちです。固有名詞部分だけでグローバル市場向けのワードマークをデザインすることもありますが、頭文字によるレターマークが多いように思います。
バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)のように、3単語でもワードマークを選択する企業もあります。また、教育機関や美術館、博物館などには、ワシントン州立大学(Washington State University)、国立航空宇宙博物館(National Air and Space Museum)などのように、単語数が多くてもワードマークのロゴにしている例も少なくないようです。
小文字が使われているレターマーク
・UPSのロゴ / Tobias Arhelger – stock.adobe.com
欧文では、短縮系は大文字で表記されるのが一般的なスタイルです。しかし、ロゴの場合は、小文字でデザインされることもあります。ゼネラルモーターズ(GM)は2021年にロゴを小文字にリニューアルしました。
ヒューレット・パッカード(HP)とユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)も小文字のロゴですが、意外なことに20世紀前半から小文字でデザインされていました。
文字をからめてデザインする「モノグラム」
ラテン文字の世界では、人名のイニシャルを並べたり重ねたりして、ひとつのシンボルのようにデザインした「モノグラム(monogram)」というものがあります。
古くは為政者のイニシャルのモノグラムをコインに刻印する、画家が署名の代わりに入れる…といった使われ方をしていました。その後、所有者を示すために、蔵書、ステーショナリー、衣類などに入れられるようになります。また、夫婦のモノグラムを入れた装身具なども作られています。
現代でも多くの企業やブランドがモノグラムのロゴを採用しています。
■ファッション分野
・イヴ・サン・ローラン(YSL)のモノグラム / Roman Tiraspolsky – stock.adobe.com
ファッション分野では、創業者のイニシャルで作られたモノグラム・ロゴを簡単に見つけられます。ルイ・ヴィトン(LV)、ココ・シャネル(CC)、グッチオ・グッチ(GG)、イヴ・サン・ローラン(YSL)などは、世界中で知られているモノグラムの代表格です。
■スポーツチーム
・ニューヨーク・ヤンキース(NY)のモノグラム / fifg – stock.adobe.com
ニューヨーク・ヤンキース(NY)、阪神タイガース(HT)、読売ジャイアンツ(YG)のようにスポーツ分野のロゴでもモノグラムをよく目にします。
企業やプロダクトのブランドでは、個人名のイニシャルではなくてもモノグラムのロゴが作られています。
シンボルマークとしてのモノグラム
レターマークは、基本的にワードマークの略語バージョンと考えることができます。一方、同じく頭文字で作られてはいますが、モノグラムロゴは本質的にシンボルマークです。
実際、モノグラムはシンボルマークとしてロゴタイプ(ワードロゴ)と組み合わせて運用されています。先に紹介したルイ・ヴィトンやシャネルなどのモノグラムにはワードマークが別に存在します。
・PlayStationのロゴ / OceanProd – stock.adobe.com
プレイステーション(PlayStation)のシンボルマークは、「P」と「S」を組み合わせた現代的なモノグラムです。このPSマークも、ワードマークや製品名ロゴと並べてレイアウトする場合は、シンボルマークとしてあつかわれています。
・CNNのロゴ / JHVEPhoto – stock.adobe.com
レターマークのなかには、ケーブル・ニュース・ネットワーク(CNN)のロゴのように、かなりモノグラム的なデザインになっているものもあります。プレイステーションのモノグラムとケーブル・ニュース・ネットワークのレターマークを比べると、字形に対するデザイン加工の強さは同程度に感じます。
視覚的には同じ考え方でデザインしたように見えますが、このふたつのマークでは運用の仕方が違います。CNNのロゴは、シンボルマークではなく、レターマークとしてあつかわれています。
モノグラムロゴの制作プロセス動画
【参考資料】
・Monogram Logos: How to Deliver the Ultimate Punchline – Tailor Brands (https://www.tailorbrands.com/blog/monogram-logos)
・The Modern Monogram: A Historic Survey of Ciphers, Marks and Monograms – PRINT Magazine (
https://www.printmag.com/culturally-related-design/the-modern-monogram-a-historic-survey-of-ciphers-marks-and-monograms/)
・Two-tone Monograms – PRINT Magazine (https://www.printmag.com/daily-heller/duotone-monographs/)
ロゴにおける文字のデザイン加工はどこまでが適切か
ロゴをデザインするとき、文字をどこまで加工するのが適切なのでしょうか。
ロゴタイプ(ワードマーク)の場合は、それを選択したこと自体がデザインの大前提となります。つまり、文字としてどのように見せるかということが出発点となります。
レターマークも基本的にはロゴタイプと同じですが、2つか3つの文字が正しく認識できればよいので、タイポグラフィックな視点に立って、書体を尊重しながら整えたものもあれば、図形的なアプローチによるデザインもあり、さまざまです。
モノグラムの場合、デザインの自由度はぐっと広がります。文字としてはっきり認識できるものから、かぎりなく図形または文様に近いものまでバラエティ豊かです。タイポグラフィックな制約はないと考えてよいでしょう。
ロゴの視覚的なデザインに着目して、レターマークとモノグラムを同じカテゴリーにまとめる考え方もあります。デザイン面だけを見ると、その境界はあいまいです。
ロゴタイプは読みやすさが最優先
ロゴタイプは、読みやすいかどうかが最優先です。ブランドが伝えるメッセージにふさわしい書体を選んで、適切なカーニングとトラッキングを設定します。
ロゴですから、グラフィカルなデザインで差別化して、ブランドのメッセージやトーンを伝える使命があります。文字自体は、書体の特徴を生かしたオーソドックスなものであったとしても、色やパターン、フレーム、背景などとの組み合わせで特色を出したり、文字の高さや傾きを不揃いにして、快活で楽しい雰囲気を演出することもできます。
オリジナリティのあるロゴにするために、文字の一部に変形を加える場合がありますが、これは慎重におこなうのがよさそうです。
たとえば、「Caroline」というブランドがあったとします。幾何学的なサンセリフ書体では、「o」はほぼ真円です。これがデザイナーの発想を刺激して、「o」の代わりに丸い何かを入れたいという誘惑が生じます。
この真円に何か意味を持たそうとするあまり、前後の文字から浮いてしまうと、「Car」と「line」の2単語として読まれてしまいます。こうなるとワードマークとしては失敗です。
ロゴタイプではやり過ぎないこと
ロゴタイプをデザインするときのコツのひとつに、「やり過ぎない」ということがよく挙げられています。
既存の書体を使ったロゴタイプでは、タイポグラフィックな調整のみをおこない、文字の形状にはまったく手を加えないケースがあります。一方、シンボルマークと合体させたり、巧みにネガティブスペースを組み込んだデザインもあります。
はじめから文字を書き起こしたロゴもあります。手書きの署名やカリグラフィーをもとにしたデザインもあれば、グラフィティ風だったり、コンピューターで作成した文字で構成されたりと、こちらもバラエティ豊かです。
いずれにしても、海外のロゴタイプを見ると、文字に対する「ひねり」は、抑制の効いたものが多いことがわかります。最小限のデザイン素材や加工で大きな効果を上げています。
・Amazonのロゴ / ifeelstock – stock.adobe.com
アマゾン(Amazon)のロゴは、オレンジの「a」から「z」までの矢印またはスマイルが印象的です。矢印で「z」の下部がほんの少し押し上げられて、フレンドリーさを効果的に演出しています。
・FedExのロゴ / BGStock72 – stock.adobe.com
文字がすべて接している独特のデザインのフェデックス(FedEx)のロゴは、ネガティブスペースの矢印が隠されていることで有名です。字形にもこまかく手が加えられているのですが、それを感じさせない整然とした外観になっています。
レターマークは正しい文字として認識できるかが重要
レターマークでは、ワードマークと同じくタイポグラフィックなデザインアプローチもあります。また、既存の書体から離れて、グラフィカルなアプローチでデザインされたレターマークも少なくありません。
いずれにしても、ロゴを構成している文字が正しく認識されることが必要条件です。レターマークは、それ自体でロゴとして使われます。ロゴタイプの代わりにレターマークが採用されているわけです。モノグラムやシンボルマークのように、ロゴタイプと組み合わせて使われることはありません。
via Wikipedia
ひとびとに熱望されて復活した米航空宇宙局(NASA)のワームロゴは、同じ太さのラインで構成されたミニマルなデザインです。「A」にはバーがありませんが、「NASA」と読めます。もしかすると、1文字だけでは「A」と読めなかったかもしれませんが、レターマークに組まれたことで認識できるのでしょう。これがロゴデザインの妙です。
・CNNのロゴ / prima91 – stock.adobe.com
ケーブル・ニュース・ネットワーク(CNN)のロゴは、「N」のストロークが共有されていますが、「CNN」と読むことができます。
タイプディレクターの小林章氏は、書体デザイナーが新しい書体を作るとき、矛盾した2つのことを同時に実現しなければならないとして次のように述べています。
「例えば文字が『A』なら『A』に読めることって大事です。自分でアルファベットの形を発明するわけじゃなくて、それを他の人が読めなかったら使い物にならないですよね?(略)一方で、『新しい』と誰もが認めるような形でなくちゃいけない」
これは書体デザインについての話ですが、既存の書体を使わずにレターマークをデザインするときにも同じことが言えます。
小林章氏の講演 – 2009年
Type design and visual communication | Akira Kobayashi | TEDxUTokyo
文字と図形の境界について
文字のデザインについての、おもしろい例を紹介します。
・カタカナにヒントを得て作られた書体「エレクトロハーモニクス(Electroharmonix)」
カタカナのように見える文字は、すべてラテン・アルファベットです。カタカナが邪魔して、日本人だけがうまく読めません。「レエナナレモ」のように見える単語は「little」です。これは、日本在住のカナダ人デザイナーRay Larabie氏がカタカナをヒントに作った、ラテン文字アルファベットです。
あるカタチを文字と感じるのはなぜかという、人間の情報処理の不思議を感じます。
ヒューレット・パッカード社の最近の製品には、ブランドロゴとは別のマークがついたものがあります。長短2種類のななめの線が4本並べられた究極のミニマルデザインです。同社の小文字のブランドロゴを知っている人には「hp」と読めます。同社のロゴを見たことのない人にはどう見えるのでしょう。これはシンボルマークなので、文字と認識されなくても構わないと思いますが。
ラテン文字をモチーフにしたシンボルマーク
モノグラムは【ラテン文字をモチーフにしたシンボルマークである】と言い換えることができます。ロゴでは多くの場合、モノグラムもシンボルマークも同じようにあつかわれます。
日本でロゴといえば、シンボルマークを頭に浮かべるひとが多いように感じます。そして、シンボルマークをデザインするときは、ブランドをローマ字表記したときの頭文字(イニシャル)をモチーフにするのが、ひとつの定番になっているようです。
ロゴのブランド名がすぐにわからなかったことがあります。そのブランド名を仮に「Style」としましょう。そのロゴでは頭文字「S」をモチーフにしたミニマルデザインのシンボルマークが使われていました。その横にロゴタイプがレイアウトされていたのですが、ぱっと見たとき「SStyle」と見えたのです。もしかしてブランド名は「S-Style」なのだろうかとも思いました。
1文字でシンボルマークを作るときには、ロゴタイプの文字とはできるだけ違うデザインにするほうが安全です。
・ユニリーバのロゴ / nmann77 – stock.adobe.com
海外ブランドにも1個のアルファベットをシンボルマークとした例はあります。アドビ(Adobe)、ユニリーバ(Unilever)、ワーナー・ミュージック・グループ(Warner Music Group)などがそうです。日本の本田技研工業やマツダのロゴも1文字をモチーフとしています。いずれもロゴタイプの文字とは明らかに違うデザインです。
話が少し脱線しますが、シンボルマークとアイコン、ピクトグラムを混同している人もいるようです。プロジェクト内で整理して、クライアントと共有しておくと無用な混乱が避けられると思います。
グローバル市場向けか日本市場向けか
一般に、日本語表記には、ひらがな、カタカナ、漢字という3種類の文字が使われると言われます。これにローマ字を加えて4種類が、現代の日本語表記の文字だという考え方もあります。日本市場で使われているラテン・アルファベットは、ほとんどが日本語の文脈のなかで使われていると考えたほうがよさそうです。
広告やパンフレット、店名、商品名、サービス名など、目に入ってくるさまざまなラテン・アルファベットの文字には、ラテン・アルファベットを使っている言語とは関係ないものが多くあります。日本市場の消費者向けに選ばれた外国語、または作られた外国語風の言葉が、ラテン・アルファベットで表記されているのです。これは、日本国内向けに適正化されたネーミングであり、デザインです。
国内市場向けに適正化されたブランドとロゴデザインは、日本製品への信頼度が高い国や地域、日本文化に関心のある消費者には強くアピールします。そういうターゲットには、漢字やかなのロゴも効果的かもしれません。海外向けだからラテン・アルファベット、と自動的に考えないほうがふさわしいプロダクトやサービスもあるでしょう。
ひらがな、カタカナ、漢字をもとにした家紋やモノグラムは、海外向けにもシンボルマークとして機能すると思います。そこに視認性の高いラテン・アルファベットのロゴタイプを組み合わせることで、日本発のユニークで印象的なロゴデザインの可能性があります。
ラテン文字のとらえ方やロゴの組み立てについて、ラテン・アルファベットの世界と日本とではいくらか違いがあるようです。そのことを踏まえて、内外のすぐれたロゴデザインをもう一度ながめてみてはいかがでしょうか。テクニックとしてのデザイン処理とは別のヒントが得られるかもしれません。
【参考資料】
・小林章 著、『欧文書体』、美術出版社
・小林章 著、『欧文書体2』、美術出版社
・小林章 著、『フォントのふしぎ』、美術出版社
・高岡昌生 著、『欧文組版』、美術出版社
・Typography In Logo: All You Need To Know – World of Type (https://www.worldoftype.com/2021/04/27/typography-in-logo-all-you-need-to-know/)
・Wordmark Logo Design: A Beginners Guide (With Examples) – Looka (https://looka.com/blog/wordmark-logo-design/)
サイトへのお問い合わせ・依頼 / 各種デザイン作成について