米国の食品大手ペプシコ社が、同社の世界的な飲料品ブランド「ペプシ(Pepsi)」の新しいロゴデザインを2023年3月末に公表しました。
現行のロゴでは、「グローブ」と呼ばれる丸いシンボルマークとロゴタイプは分かれていますが、新しいロゴでは、「グローブ」のセンターに、ペプシのロゴタイプが一体化されています。
・ペプシの新ロゴ / Игорь Головнёв – stock.adobe.com
ペプシ・コーラのルーツである「Brad’s Drink」という飲み物は、1893年に生まれました。その製品の名前は、1898年に「ペプシ・コーラ(Pepsi-Cola)」と変わります。Brad’s Drink生誕から125周年を迎えたのが2023年です。
新しいロゴデザインは、2023年の秋に北米で、2024年に全世界で展開される予定です。
Pepsi gets a new logo pic.twitter.com/faVyksd6hg
— CNN (@CNN) March 29, 2023
力強いロゴタイプとビビッドなブルーの「ペプシ・パルス」
新しいロゴデザインを紹介する公式動画が公開されています。やや重ためのビートをBGMに、ロゴが躍動する30秒の映像です。ビートに合わせて新しいロゴが拍動し、ブルーの波紋がひろがります。
新しいロゴとビジュアルアイデンティティがどのように使われるのかも確認できます。12缶パックのパッケージや輸送用トラックのラッピング、ビルボードなどのプロトタイプ画像が見られます。
カスタム書体の極太ロゴタイプ
動画の冒頭で、トイ・ブロックのような黒いかたまりが登場します。新しいロゴタイプです。立体的なロゴタイプが象嵌(ぞうがん)のようにシンボルマークに埋め込まれて、新デザインの全体像が姿を表します。
この一連のシークエンスでアピールしているのは2つのことです。ひとつは、新ロゴタイプが太く力強い書体に変わったこと。もうひとつは、そのロゴタイプがシンボルマークのセンターに堂々と組み込まれたことです。
2008年のリニューアルで作成された現行のロゴは、赤・白・青で構成された円形のシンボルマーク「グローブ」と、ブランド名のロゴタイプは別になっています。また、ロゴタイプは小文字で、ウェイトも軽めです。新ロゴは、現行とは明確に異なる方向のデザインとなっていることがわかります。
ペプシコ社はプレスリリースの中で、次のように述べています。
「モダンなカスタム書体は、ブランドの自信と断固とした考え方を表しています」
カスタム書体は、「P」のボウル(空間を取り巻く曲線)が斜めにステムに合流している点が特徴的です。また、「I」の上端は、斜めに切り取られています。
60〜80年代のシンボルマークへの回帰
現行のシンボルマークは、赤と青で斜めに塗り分けられていて、その境界の白い線がすこし膨らんでいます。一方、新しいシンボルマークは、
上から赤、白、青の帯に塗り分けられています。ゆったり波打つ白い帯も太いです。オランダ国旗を連想するひとがいるかもしれません。
History of the Pepsi Logo Design https://t.co/NeBCL0kGER pic.twitter.com/j64ltoY7hn
— Inkbot Design 🆔 (@Inkbotdesign) November 28, 2017
・Алексей Филатов – stock.adobe.com
実は、このデザインの基本的な構成は、1960年代末から90年代の始めまで使われていた、一連のロゴと共通です。ロゴタイプの書体や色、赤・白・青の比率、カラーパレットなどは微妙に変わっていますが、新しいロゴからは、この時代のロゴのエッセンスが組み込まれているのを感じます。
現行ロゴのブルーは、彩度の低い落ち着いた色調です。2023年バージョンでは、赤味の強い、ビビッドなブルーに変わっています。1969年バージョンに通じる明快さです。
グローブとロゴタイプが分離してから30年以上、グローブの白い帯が水平でなくなってから15年経ちました。ペプシコ社は、消費者にペプシのロゴを思い出してもらうという調査を時々おこなうのですが、今でもグローブの真ん中にブランド名を描き込む人が多いそうです。
ペプシコ社の最高デザイン責任者Mauro Porcini氏は、CNNの取材にこう答えています。
「このような調査結果を無視することはできませんでした。拒絶せずに、受け入れることにしました。」
動画の冒頭に登場する立体的なロゴは、エンディングにも姿を見せます。店舗やソーダ・ファウンテンのエンブレムとして、この3Dバージョンを目にすることになるのかもしれません。
音楽のリズムとエネルギーを表現する「ペプシ・パルス」
ビートにのってエレクトリックなパルスが、ドットや、ライン、帯状グラデーションで放出されます。
パルスの中心にあるのは、新しいデザインのグローブであったり、缶であったり、プラスチックカップです。そして、パルスの形は、パルスの源のシルエット応じてさまざまに変容します。
この「ペプシ・パルス」は、波打つ液体や、炭酸のはじける様子を連想させながら、音楽のリズムとエネルギーを感じさせます。ペプシは、マイケル・ジャクソンやブリトニー・スピアーズ、ビヨンセをキャンペーンに起用するなど、音楽やダンスなどのポップカルチャーと深くかかわってきました。こうしたブランドのレガシーをこれからも踏襲していくことの表明でもあります。
また、パルスは、電飾のようにリアルに表現されたり、フラットでミニマルなイラストっぽいアニメーションで演出されたりしています。リアルな世界であっても、デジタル空間であっても、ブランドの力強いビートとエネルギーが、一貫したメッセージとして伝えられるというわけです。
「ゼロシュガー」を中心としたラインアップ
米国市場での商品ラインアップは、日本市場とは少し異なっています。
ペプシのメインは、「ペプシ」「ペプシ・ゼロシュガー」「ダイエット・ペプシ」の3種類です。パッケージの色は、ペプシがブルー、ゼロシュガーがブラック、ダイエットがシルバーです。
米国市場では、ここ数年のあいだに、無糖コーラの需要が急速に伸びています。それを受けて、「ペプシ・ゼロシュガー」が今後のコミュニケーション戦略の主役となると、Porcini氏がCNNにコメントしました。
新しいロゴタイプの色にブラックが採用されたのも、「ゼロシュガー」を前面に押し立てた戦略に呼応するものです。
日本市場にはない製品は、ほかにもあります。
・ペプシ(リアル・シュガー)の缶デザイン / Steve Cukrov – stock.adobe.com
サトウキビ糖とてんさい糖を使った「ペプシコーラ・メイド・ウィズ・リアル・シュガー(Pepsi-Cola Made with Real Sugar)」という製品には、1950年から60年代初頭まで使われていた「Pepsi-Cola」のロゴが使われています。
・ニトロ・ペプシの缶デザイン / jetcityimage – stock.adobe.com
数年前からアメリカではニトロ飲料がブームとなっています。窒素ガスの注入で生まれるクリーミーな泡が特徴です。昨年ペプシからも「ニトロ・ペプシ」が発売されました。
マンゴーフレーバーやチェリーフレーバーの製品もあります。今回のロゴ・リニューアルで公開された新しいパッケージは、現行のデザインから大きく変わりました。缶全体をにぎやかに飾るチェリーのイラストは、ヘタと葉が、ブルーの蛍光色っぽく描かれています。エッジのきいたポップさが感じられるデザインです。
視覚エレメントとしての缶のシルエット
・ペプシの現行の缶デザイン / Alex – stock.adobe.com
現行の缶のパッケージは、シンボルマークを大きく配置して、その下に控えめなロゴタイプが添えられています。ミニマルで洗練されたデザインと言えます。
それと比べると、新しいパッケージでは、ロゴが手前に飛び出してくるような力強さを感じます。太いロゴタイプとビビッドなカラーパレットの効果もあるでしょう。それに加え、実際にロゴは以前よりも大きくレイアウトされています。
新ロゴ紹介の動画に、缶のシルエットから「ペプシ・パルス」が放射されるシークエンスもあります。そこでは、ロゴが缶よりも大きくはみ出して拍動し、ペプシであることを声高に主張しています。
・ペプシの新しい缶のデザイン / Игорь Головнёв – stock.adobe.com
缶よりも大きなロゴは、動画のための演出ということだけではないようです。12缶パッケージに印刷されている缶の写真でも、デジタルのタッチポイント用のポップなグラフィックでも、ロゴが缶よりも大きくレイアウトされています。
缶のシルエットは、新ロゴを大きく見せる土台として機能しているようです。プラスチックカップも、缶と同じ使われ方をしています。
ところで、缶シルエットと大きなロゴの組み合わせは、大きな丸いシールの両端を缶からはがした状態がアイデアの元だろうと無意識に考えていました。しかし、プラスチックカップのデザインを見ていると、ルーペで拡大した様子がヒントとなったのかもしれないとも思います。
コカ・コーラとのライバル関係
コカ・コーラのボトルのシルエットは、誰もがそれとわかるアイコンです。また、コカ・コーラのロゴは、レトロな手書きレタリングスタイルという点で、130年以上変わっていません。
それに対して、今回ペプシが採用したのは、缶のシルエットであり、モダンな力強いサンセリフ体のロゴタイプです。ペプシの歴代のロゴデザインは、かなりバリエーションに富んでいます。その意味でも、コカ・コーラとは好対照です。
ペプシとコカ・コーラというソーダ飲料2大ブランドのライバル関係は、いろいろな面で興味深いものです。街頭で目隠しテストをおこなった「ペプシ・チャレンジ」などのキャンペーンや、コカ・コーラに対する優位性をユーモラスにアピールしたCMなど、数多くの話題があります。アイデアのヒントとしても、話のネタとしてもおもしろいと思います。
【参考資料】
・PEPSI® Unveils a New Logo and Visual Identity, Marking the Iconic Brand’s Next Era (https://www.pepsico.com/our-stories/press-release/pepsi-unveils-a-new-logo-and-visual-identity-marking-the-iconic-brands-next-era03282023)
・Pepsi has a new logo | CNN Business (https://edition.cnn.com/2023/03/28/business/pepsi-new-logo/index.html)
・CNN International on Twitter: “Pepsi has a new logo (https://twitter.com/cnni/status/1641141972583710723)
・Pepsi.com (https://www.pepsi.com/)
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