本年度のロゴトレンドを見ていると、とても個性豊かで、シンプルさへのアンチテーゼのようなロゴデザインやロゴタイプが多く見られるような気がします。トレンドや定形を生み出すのもデザイナーですが、それに飽きるのもデザイナーです。60年代・70年代という過去のトレンドを今のロゴに取り入れて新たなスタイルを生み出したり、シンプルさに遊び心を付加したり、世界中のデザイナーの想像力は留まることを知りません。
ロゴデザインに特化したコミュニティ&ニュースサイト「LogoLounge」には世界中のデザイナーから毎年多くのロゴが投稿されており、LogoLongeのスタッフはそれらの情報を分析することで、毎年フレッシュなロゴのトレンドレポートを発信しています。今回は、そんなLogoLungeから最新情報【2022年のロゴデザインのトレンド】を紹介します。本年度も丁寧にロゴレポートをまとめていただいた代表のBill Gardner 氏とスタッフの皆様に感謝です。(Thank you Bill and LogoLounge crew !! )※翻訳・編集・掲載許可をいただいています。
■2021年のロゴトレンドはこちら
2022年 ロゴデザインのトレンドレポート
■はじめに
これまでの20年間、春が来るたびに、提出されたデザインを腰を据えてじっくりと調べてきました。それはもう、野外研究をする科学者さながらです。今年のレポートだけでも、200カ国以上からLogoLounge.comに提出された3万5千点以上のロゴを、丹念に精査しました。重要なリブランドや印象的なブランド起ち上げは、国内外を問わずすべて検討しています。
LogoLoungeのメンバーは、文脈が十分に検討された38万点以上のロゴを検索し、閲覧できます。アイデアのヒントを求めて詳しく調べたり、さらに深く没頭して、デザイナー自身のトレンドを発見したりできます。20年分のトレンドを振り返って、デザインの軌跡を確認し、自分のデザインを進化させるヒントを見定めることが可能です。デザインの目的地に近づいたときに、手を伸ばして確認する場所なのです。
トレンドを把握しているときだけ、トレンドを超えられるのです。
2022年のレポートでは、ワードマークとタイポグラフィにこれまで以上の重要な役割を持たせようとしているロゴデザインが見られました。いずれも、個性のない解決策に、視覚的な覚えやすさを持たせる必要を認識しています。
コントラスト(抑揚)の逆転はひとびとの不意を突きます。伝統的な字形をループさせたり水平方向に引き伸ばしたりした文字は、無味無臭のサンセリフ書体のワードマークに、独特の足がかりをつけようと試みています。
企業然としたロゴマークが作られる一方で、職人技による手作り製品のビジュアルアイデンティティをどう作るかを模索する取り組みが強まっています。
わたしたちは人間味を強く求めますが、結局のところ人間には欠陥があります。マグカップや、ラグ、クッキーなどは手作りに向いています。一方、チェーンソーや自動車のワイパーは、そうではありません。手作りの模様、素朴なバッジ、手書きの文字や記号にはすべて役割があり、さらに多くの唯一無二の製品がそれを求めています。
シンボルや使われる素材を、生態系にやさしく環境に配慮したものにしようと、大きな努力がそそがれています。植物をあちらこちらに飾ったトレリスは、ひとつのアプローチです。アール・ヌーヴォーの美学に回帰した「ムチひも」もそうです。これは、1910年代、1960年代、2020年代をブレンドしたものですが、1960年代のサイケデリック・ムーブメントのカラーパレットは使っていません。ウェイトの変化する曲がりくねった線で大麻製品のプロモーションをおこなう場合でも、落ち着いた色使いにすることで少し上品になっています。
色に関しては、3色、4色、5色のカラーパレットがブランド表現に広く採用されているのを見てきました。そういったロゴでは、メインカラーを1色に絞ることはせず、さまざまな色をしたロゴのファミリーとなります。また、ジェンダーの香りを漂わせないピンクがコーポレートカラーに大量に採用されています。この5年間、ピンクがカラートレンドのひとつと予測されていて、それは年々強くなっています。しばらくはここに居座るでしょう。
組織に採用された視覚的ボキャブラリーの中で、ロゴは従属的な役割を担っていることが多いです。ロゴとワードマークが素晴らしいことに変わりないですが、パターン、色、テクスチャー、なかでも、表現力がぐっと良くなった文字、それらの補助的役割をつとめています。デジタルの世界で生きている、ごく小さなブランドにとっても、動きと音は重要な検討事項です。タコベル(Taco Bell)、Mac、ソニー、Xbox、Netflixのサウンドロゴは、それが1音であれ2音であれ、ロゴと同じ意味を持ちつつあります。
ひとびとの記憶に残り、つながりを持つ能力は、五感すべてのタッチポイントを追加することで高められます。音とアニメーションには、言語のような境界がほとんどありません。パッケージの一部として伝えられるブランドの個性と自信は、キッチンで聴いていても、ブランドと熱心にコミュニケーションをとっていても、吸収できます。
ロゴデザインのトレンド1【蝶ネクタイ】
バス・ペールエール(Bass Pale Ale)の赤い三角形のロゴは、世界で初めて商標登録されたロゴマークです。デザイン業界にとって画期的な出来事であると同時に、三角形はロゴマークとしては異質でした。
Bass Pale Aleのロゴ
三角形は、硬くて鋭く、道路標識などのあらゆる警告に関係しています。
長い辺を下にして置いたときだけ安定します。どう回転させるかによって、「動画の再生」から「上」や「下」、そしてスピリチュアルな意味や、変化量を意味する記号「デルタ」まで、あふれるほどの象徴的な意味が詰め込まれているのが、三角形のすばらしいところです。
蝶ネクタイの外形に目を向けると、専門用語で言えば、直線で描かれた無限大記号や、レムニスケート曲線につながります。この話をクライアントとの会話に混ぜ込めば、信頼度が少し上がるでしょう。ふたつの三角形の組み合わせが土台を築いて強い安定性を生み、ふたつの要素の合流地点で魔法が起こります。そこでは、ふたつの事物がパワーアップしたり、ひとりの知識が共有されたりします。なにかが光学的に焦点を結んで反転し、読みやすくなったりします。特に注目してほしいことは、蝶ネクタイが水平だと無限の時間を示し、垂直だと、時間切れが近いことを伝える砂時計だということです。向きが90度変わるとまったく別物になってしまいます!
ロゴデザインのトレンド2【口蓋垂】
何のしずくでしょうか。水、血、油、バニラエッセンス、それとも薬?
こどもの涙は480粒で1オンス(約30ミリリットル)ですが、1粒で親の心を粉々にします。このことからわかるのは、ふさわしいブランドストーリーの中で語られることで、このトレンドの影響力がいかに強いかということです。1滴でも2滴でも、またはもっと多くても、ロゴデザインでしずくを使うことはまったく珍しくありません。液体や水を示すのにもっともてっとり早い方法のひとつですし、エコロジーや環境資源について論じるときには、この上なく便利です。しかし、今年のレポートでは、1滴のしずくの大切さについて、ロゴデザイナーたちが別の視点を持っていることがわかりました。
ここで紹介しているロゴは、口内検査で、のどの奥にぶらさがっているのが見える口蓋垂(いわゆる「のどちんこ」)にそっくりです。しずくに高い敬意が払われています。説明的なフレームに囲まれ、クライアントのブランドストーリーに文脈を提供しています。しずくがとても貴重である瞬間をとらえたかのように、その出どころにまだつながっているのに気づいたかもしれませんね。コンタクトやアレルギー症のための点眼薬がありますし、絞ったばかりのオレンジジュースのしずくもあります。別のロゴで、しずくが炎を消そうとしているのか、燃え上がらせようとしているのかの判断はおまかせします。しずくが重みでしたたり落ちた直後に起こる化学反応に対しては準備しておいてください。
ロゴデザインのトレンド3【根っこ】
シンボルを作るということは、すなわち、現実を単純化してシンプルに提示するということにほかなりません。
複雑な樹木の根をアイコン化しようとすると、脳細胞がいくつか壊れてしまいそうになります。多分それが、ほとんどのデザイナーが木を逆さまにするだけでよしとする理由でしょう。根や葉脈、毛細管といった植物の内部のしくみ、またはデジタルの根が広がっているような電子回路のとんでもなく複雑な構造のせいで、デザイナーは部屋の隅で丸まって、子どものようにすすり泣くことになるかもしれません。フィボナッチ数列、フラクタル図形、繊維状構造に囲まれて。自然は設計図のようなものを持っていますが、デザイナーたちは今、その象徴的な暗号を壊し始めています。
ここで紹介するロゴマークのうちの2つは、「きれいに整理された混沌」とも言えるような視覚的言語が入念に作り上げられています。このふたつのロゴデザインは、平行投影による角ばったグリッドで自然の推移が図表化されていて、角度とスペースが均一です。また、パターンが描かれた面に目立つ穴ができないようになっています。これとは逆に、右上の「C」と左下の「R」のロゴマークは、機転を利かせてうまくいっていますが、同じ植物内部のライフラインを使ったパターンを作るのに、公式に基づくアプローチはとっていません。いずれのロゴマークも、植物あるいはクライアントが、生命活動をとらえ、維持し、育てようとする試みを、いかに人知れずおこなっているかを表現しています。複雑であるということは、難題などではなく、高潔で生産的であるということがこれらのロゴで確認できます。
ロゴデザインのトレンド4【抑揚の逆転】
1820年の世界は、ディド (Didot)やボドニ(Bodoni)のような、タテのストロークが太くてヨコがとても細いフォントであふれていました。
活字はそうでなくてはいけません!ですから、ウィリアム・カスロン(William Caslon)活字鋳造所の職人が、ストロークの抑揚を逆転させた「イタリアン(Italian)」という名のパロディ書体を作ったとき、大騒ぎになりました。不気味に肥大した水平のストロークと細長いヤリのような垂直のストロークを、これ見よがしに振り回す愚行は、邪道というに等しいです。ところが、あろうことか、ポスター用のディスプレイ書体として支持されるにつれ、ほかの活字鋳造所も自分たちの書体でその真似をしました。ある有名な社説は、そういった書体はタイポグラフィの醜い怪物であると言いました。ネタバレになりますが、今年のレポートでも、この怪物はすくすくと成長しています。
ストロークの重みをあべこべに割り当てた、どう見ても奇異なフォントは、反アカデミズム的で快楽主義的な禁断の喜びへと変えました。
目をそらさないでください! 再び息を吹き返したファンの支持のもと、夢中になっている新しい書体デザイナーたちによって、60年代から70年代のアーカイブのバリエーションが広がり始めています。その熱気はブランディングの領域までおよび、上下が太くなっているワードマークを踏まずに部屋を横切るのはとても難しい。このデザインのロゴが、業界の保守的な経営幹部を飾るにふさわしいとは思えませんが、顧客基盤を確実なものにする特定分野はあります。刺激が欲しいときに、このロゴはよい相棒になるでしょう。
ロゴデザインのトレンド5【ループ】
無骨なサンセリフ体のワードマークがなだれを打って登場し、何世代にもわたるブランド資産を荒らしてから5年が経ちます。この激流がまだ静まっていないので、恐怖で立ちすくんでいるブランディングの職人たちがいます。
無味無臭化の波は、なにが起こっているかを知っている人たちには、魅力的なビジュアル資産をもたらしました。しかし、この種のロゴデザインの多くは、取り残される恐怖に対抗する手段としての「右へならえ」のえじきとなりました。わかりにくい反応なのですが、今年集まったワードマークには、サンセリフで安全を確保しながら、気まぐれなふるまい、または、ユーモアのセンスのないMBA取得者がいつもとは違うこと試みたような【自身への反抗のそぶり】が埋め込まれた解決策がたくさんあります。
「Angi」「Upwork」「Tailwind」はすべて、精神の自由や人間性を、太さが均一の流れるような線で表現しようとしています。
この3つのロゴは、うまくできています。しかし、ループ状の文字をひとつ採用している数多くのロゴの氷山の一角でしかありません。ループがなければ、単なる文字の集まりになったかもしれないロゴの代弁者です。また、ループを描く自由な文字のいくつかは、今年ひとり立ちしました。モノグラムとして、きまじめななワードマークに組み合わされたり、評判のよい「Camp」のロゴに見られるように、自由な精神を持つループどうしで再会を果たしたりしています。
ロゴデザインのトレンド6【アーチ】
ワードマークとシンボルマークを組み合わせたロゴには、美しいけれども時々ぎこちなくダンスするものがあります。
ワードマークとシンボルマークは共存を余儀なくされています。会社組織のように互いに関わり合い、支え合わなければなりません。ときにはワードマークがシンボルマークをひとりで出歩かせます。ワードマークがシンボルマークなしでほかのロゴとうろつくのを時々目にするでしょう。今シーズン、ワードマークは規則を離れて、事あるごとにシンボルマークをおおっています。文字に囲まれたバッジというよりも、主題の上に垂らされた文字の天蓋です。特別なカーニングや巧みな技などは凝らされていません。
このアーチの形状は大流行していて、かなりの数のバージョンがあるのは間違いないです。
この形状は、通路や大きな門のような印象を与えます。もしかすると、プロダクトの魂やクライアントのミッションが見える窓かもしれません。「Archwell」のロゴのようにデザイン要素で囲んでいるものがありますが、囲みのないロゴはどちらかといえばモノクロっぽく、その背景が寝るための家になっています。これらのロゴには現代的な雰囲気もありますが、バッジや紋章のようなマークを使ってクライアントに結びつけられることの多い、親しみやすい個人的な関係も隠されています。
ロゴデザインのトレンド7【ムチ】
アール・ヌーヴォーや、それに連なる同様の芸術運動の起源、そしてそれを非難するひとびとについて深く掘り下げることはしません。
【ただアール・ヌーヴォーがすごい勢いで戻ってきた】とだけお知らせしておきましょう。
アール・ヌーヴォーは、20世紀初頭の創作活動の大部分を占めていました。1960年代になると、カウンターカルチャーであるサイケデリック・ムーブメントのイメージキャラクターとして、ひょっこり再登場してウイニングランをおこないます。さまざまなウェイトのオーガニックな線が、アール・ヌーヴォーの特徴とされることが多いです。流れるツルのような線が、急に向きを変えたり、引き伸ばされたり、休ませたムチひものようであったりして、まさにエレガントです。
酔わせるような字形や象形文字、イラストが、アール・ヌーヴォーのグラフィックの美しさを、もっともよく示しています。自然界や動植物のフォルムへの敬意が、時代にかかわらずこのスタイルのバックボーンです。柑橘系の色と外皮を細かくふるわせた軽快さが、60年代のムーブメントには与えられていました。しかし、カラーパレットの彩度が大幅に下げられ、ビジュアル要素はひとつだけというのが現代のスタイルです。いまの世代でも、伝統的な自然擁護が上品に表現されていますが、慎みのある控えめなフォントと組み合わされています。高級品や豪華な隠れ家的ホテルのプロモーションであれ、大麻製品やその他の快楽主義的欲求に対するプロモーションであれ、快適ではあるけれども気ままな現実逃避がこのトレンドにはあります。
ロゴデザインのトレンド8【手描きのドット】
消費者にとって、私たちが作ったものが本物かどうかは、常に第一印象で決まります。
デザイナーは、適切で信頼できるのは何かを気にするのが自分たちの役割であると強く認識するようになりました。それはデザイナー自身にとってもクライアントにとっても良いことです。
このトレンドのキモは、完全にハンドメイドだということです。デザイナーたちは不完全さを探しています。なぜなら、率直に言って、人間には欠点があり、実際それがセールスポイントになるからです。
ハンドメイドが賞賛されるかどうかは、題材に大きく依存しています。自動車のワイパーやチェーンソーはハンドメイドが魅力には繋がりません。しかし、手作りのトルティーヤが完全な円になっていなければ、それは「売り」になる特徴です。
ここ数年、素朴な手描きのロゴがブームになっています。
特定のクライアントのための特殊なスタイルです。このトレンドは、ロゴの描き方ではなく、面に濃淡をつけるために手描きのドットを使うところにあります。このトレンドの魅力は、ハーフトーンをまねているけれどもハーフトーンではないということです。各ドットを手で意図的に打ち間違えながら、ハーフトーンの処理を再現しています。公平を期すると、ロゴが手描きなら、ドットも手描きでいいじゃないか、ということです。こういった不完全さが、顧客体験と顧客の期待のトーンを決めます。これによって消費者は、気にかけてくれる人が実際にいるのだと確信するのです。
ロゴデザインのトレンド9【スーパー・インキトラップ】
わたしは「予期せぬ結果」という言葉でたちまち物語に引き込まれます。
ある意味、その言葉自体がひとつの物語です。主人公にとって良い結果なのか悪い結果なのかわかりませんが、最後には誰かが結果に対して首を横に振ることは予想できます。印刷時にインキが意図せぬふるまいをしないように施された、タイポグラフィック上の工夫に、デザイナーたちは心酔しています。予防対策として、「インキトラップ」と呼ばれるネガティブスペースのポケットが、小さな字形のクロッチ(ストロークが接する「また」の部分)に刻み込まれました。インキがひろがったり、たまったりしても、インキトラップのおかげで、文字の元のデザインを損なうことはありません。巧みで効果的な手段ですが、もともとは別の時代の遺物です。
・Illustration of the typeface Bell centennial’s ink traps, Jim Hood (CC BY-SA 2.5)
たとえば、「ベル・センテニアル(Bell Centennial)」という書体は、もっとも安い多孔質の紙材を使った電話帳で、5ポイントという小さなテキストを印刷するためにデザインされました。これは見事にうまくいきました。しかし、わたしたちが本当に関心をいだいているのは、インキトラップのあるフォントを、正常に機能するよりもはるかに大きく、デジタル処理で拡大しはじめたデザイナーたちです。
ブランドアイデンティティのデザイナーたちは、微小すぎてこれまで気づかなかった、洞窟のような形状に心を奪われています。
このトレンドのロゴは通常、インキトラップをやたらと強調した新しい字形で作られますが、再発見されたインキトラップによって、技術的な美しさと目を引く異例なデザインが新たにもたらされました。かつて意図されたときよりも大きくなっている新しいインキトラップが信用を得たのです。
ロゴトレンドのトレンド10【つまみ】
今年は多くのロゴが、文字どおり、角をショートカット(cut corners)するための新しい方法に力を入れています。
ひとつの角を丸くしたり、丸くした角が同心円状に並べられていたりするデザインは、「つまみ」とでも呼ぶのがよいような外観をしています。それは、銅管を曲げるときに生じるような形状です。圧力をかけ過ぎると、上品なカーブができる代わりに、全体がぐにゃぐにゃになってしまいます。デザイナーは実際には配管工事をしないので、この「つまみ」によるデザインは、思いのほかスマートです。内側の丸みのある角の一貫性を見てください。つぶれた外側の角度は、揃って45度で繰り返されています。その曲がった部分も丸められていて、和らげる効果が保たれています。同心円状に配置されることで、魅力的な三角形の空間が連なり、ポジティブスペースとネガティブスペースの反復が作られています。
角を曲げてコーナーの内側をへこませると、そうしなければ線の太さは均一だったわけですが、デザインの緊張が和らぎます。
1回だけだと間違いのように見えます。やり過ぎるとわざとらしくなります。慎重に判断して繰り返せば、魅力的な特徴になります。
「KION」のロゴの「K」で巧みに示されているのは、このトレンドが文字にも不慣れではないということです。鋭い角が和らげられることで、技術的ではあるが親しみやすいという二重性を見せています。均一の太さの単調なロゴデザイン界に贈られた、歓迎すべき気分転換です。
ロゴデザインのトレンド11【可変光】
エネルギーと光の爆発でできたロゴは、野心に満ちたクオリティを感じさせて魅力的です。
現在のデザインはこれまで以上に立体的です。伝統的な円形のロゴは躍動的ですが、ほかの形に比べると弱いかもしれません。線の太さに段階的な変化をつけるというテクニックは、透明な層が重なっているような錯覚を与えます。このテクニックが、「Lily Pad」のロゴが豊かで独創的な形状をしている理由です。
光を放つこれらのロゴマークを構成しているのは直線なので、そこにあるものと同じく、そこにないものも重要です。この特徴のために、ロゴはロゴが置かれる面の色と強く結びついています。発光しているような効果を適切に得るには、それとは対照的に暗い土台の上に置かざるをえません。明らかにこれは、デザイナーの見方とデザインスキルの巧みさ次第で、制約にもチャンスにもなります。このトレンドのロゴは、勢いや、成功、スピード、時間、わかりやすさなどの変化や増加といった、デザインで表現しようとしている改善なら何でもはっきり見せてくれます。最後に、「Pragmatika」のロゴのクリスタルのボールをのぞいてみてください。このロゴは、3つの消失点を探求することによって、古い殻をスマートに破っています。
ロゴデザインのトレンド12【タイト】
今年のレポートのためにロゴを探しをするなかで、カーニングのきつい、セコイア並みに大きなワードマークが、文字どおり林立しているのに気づきました。そのワードマークたちは、非常に背が高くて重いフォントで作られているため、本記事に収めたらぎゅうぎゅう詰めになったでしょう。
このトレンドのロゴはあらゆるところで目にします。
ここ数年、グラフィックデザイン界のいたるところで目にする、「わたしに注意を向けないで」スタイルのサンセリフ書体に対するアンチテーゼであると推測できるかもしれません。
しかし、それは今年のレポートのトレンドではありません。今年のトレンドは、同じサンセリフ書体を、字形だけに限らず、どれだけ「タイト」にできるかということです。もしこのロゴが通気口なら、このレポートを書き上げる前に窒息していたかもしれません。
その代わりに、デンタル・フロスのような細いすき間のある、大きなブロックに注目してください。このデザインから、ミルトン・グレイザー(Milton Glaser)の書体「Baby Teeth(ベイビー・ティース)」を思い起こすひとがいるかもしれません。このトレンドのロゴの多くは、上手なひとがテトリスをやっているときのように、ブロックをうまくまとめたパズルに似た特徴を持っています。斬新で魅力的ですが、サイズを小さくしたときの視認性に課題があります。これは予測された影響ですが、このトレンドで作られた単語を解読するには、1文字だけのモノグラムやシンボルマークを見るときよりも鋭い目が必要になります。斬新さと大胆さ、空間設計のセンスのすばらしさが、このトレンドから感じられます。
ロゴデザインのトレンド13【アーモンド】
毎年のレポートで、ある特定のカタチが浮かび上がってくることが多いです。それはデザイナーが、そのシーズンの基本となる基礎的要素として狙いを定めているカタチです。
今年は、以前のレポートとは異なり、トレンドの形状をひとつではなく、ふたつ発表せざるをえませんでした。ひとつめは、等しい2つ円のかさなった部分にできるシンプルな形です。半透明のベン図でできたマスターカードのロゴの中央の形によく似ています。この形状の正式な名前はしっくりこないので、ここでは「アーモンド」と呼びましょう。なお、このオーガニックなアイコンは、葉、目、レモン、ライム、魚、羽根、花びら、種などさまざまな自然の塊を、何度もくりかえし演じています。
ここで重要なのは、このシェイプの新しさではありません。この1年で、このアーモンド形状が視覚的に広く浸透してきたことにあります。
シンボルとしてロゴマークの主役を演じられるだけでなく、デザインパターンを確立することで何倍も活躍できます。同じ形の円が重なった部分で表わされているのは、東洋と西洋、精神と物質、天と地、健康と治療です。悪い予兆がまったくないので、人気があるのも頷けます。
ロゴデザインのトレンド14【トレリス】
デザイナーとして、ロゴに意味合いを持たせるときは、より大きなバッグに詰め込まなければなりません。重量制限を超えない範囲でマークにコンセプトの重みを持たせるお気に入りの方法のひとつは、シンボルの表面をフィールドとして考えてみることです。
植物をモチーフにした今年のロゴが、まさしくこれです。
草花を使って植物そのものを表現するのではなく、別のメッセージを込めて表面を飾ります。
つまりそれは、ロゴマークを、つるバラなどを這わせて飾るトレリスとして使うのに似ています。たとえば、白ゆりの紋章(フルール・ド・リス)の形をしたトレリスは、フランスやフランス王家を表しながら、成長や自然も示しているのです。
葉が茂っているように見えるものは葉ではなく、シンボルマークの土台です。その土台は草花のつるに巻きつかれて緑色かもしれません。環境と生物圏に関するプロジェクトは、植物が使われていることがはっきりわかるだけでなく、使うことが義務なのです。わたしたちはつい、植物はすべて環境問題についてのことであると軽々しく一般化してしまいます。しかし、シンボルの豊かさは、【植物には様々な種類がある】ということに関連しています。平和のハトが運んだのはオリーブの枝でした。イバラの冠は苦しみや宗教的な愛の象徴ですが、冠が月桂樹であれば勝利を意味します。
ロゴデザインのトレンド15【マカロニ】
このトレンドについて話を始める前に、形や食感の異なるあらゆる種類のパスタをひっくるめて「マカロニ」と呼ぶ家庭で育った方々には、まずお詫びします。
わたしの家では、マカロニにチーズをからめた「マッケンチーズ」のことでした。家計の都合により、有名ブランドのマカロニが食卓を飾るのはまれでした。この図形に名前がついてないのがわたしには驚きですが、「マカロニ」ベースのロゴが、それが半円か四分円かにかかわらず、小さな国を養えるほど急増したことが今年の調査でわかりました。そうです。
これが「アーモンド」のレポートで触れた、今年の形状のトレンドのふたつめです。
デザイナーたちは、このトレンドをかなりユニークな視点でじっくり考えました。押し出したり折り曲げたり階調をつけたりして、立体的な筒や四角形に成形することで、マカロニを強調しています。そして、基礎的要素としては、このマカロニは期待通りでもあり驚くべきものでもあることがわかりました。このマカロニは、企業メッセージや美的感覚を伝えるだけでなく、遊び心も備えています。このパーツの柔軟性が十分に発揮されています。経路、流れ、プロセスなどのステップのシンボルです。また、シンプルな形状からもたらされる、簡潔さ、明快さ、そして飾り気のない親しみが示されています。デザイナーたちの何人が、子供のマカロニ工作を手伝っているときに、クリエイティブなひらめきを得たのでしょうか。
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■ビル・ガードナー(Bill Gardner)について
ビル・ガードナー(Bill Gardner)は、Gardner Designの代表でありLogoLounge.comの開設者です。同サイトでは、リアルタイムで会員がロゴデザインを投稿したり、会員の作品をキーワードやデザイナー名、クライアントタイプなどで検索ができるサイトです。ロゴデザイナー向けのニュースやベストセラー書籍LogoLoungeブックシリーズでの考察のための記事が閲覧できます。ビルへの問い合わせはbill@logolounge.comから。
参考 : LogoLounge ©2022 Logolounge Inc.
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