新型コロナウィルスが猛威を振るった2020年が過ぎ去り、2021年も半分が経過しました。今年も多くのロゴがすでに誕生しています。ロゴデザインに特化したコミュニティ&ニュースサイト「LogoLounge」には世界中のデザイナーから毎年多くのロゴが投稿されており、LogoLongeのスタッフはそれらの情報を分析することで、毎年フレッシュなロゴのトレンドレポートを発信しています。
今回は、そんなLogoLungeから最新情報【2021年のロゴデザインのトレンド】を紹介します。本年度も丁寧にロゴレポートをまとめていただいた代表のBill Gardner 氏とスタッフの皆様に感謝です。(Thank you Bill and LogoLounge crew !! )※翻訳・編集・掲載許可をいただいています。
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2021年 ロゴデザインのトレンドレポート
■はじめに
今年のロゴのトレンドレポートをまとめるなかで、いつもたどり着くのが「ドラマ」という言葉でした。ドラマといっても、恋人や夫婦が遠回しに相手を攻撃し合うような娯楽的なものではなくて、どちらかといえば古代ギリシアの演劇です。つまり、古代ギリシアの悲劇・喜劇・サテュロス劇のように、人間としての体験と強く結びついているドラマのことです。
とても業績のよかったデザイン事務所があれば、非常に厳しいところもありました。電話の鳴りやまない会社があれば、ピタリと鳴らなくなったところもあります。ソーシャルディスタンスのためのリモートワークで、離れていてもクライアントとの関係を保てるようになりました。バーチャルオフィス同士がつながりやすくなったので、リモートワークが広く活用されるきっかけとなりました。
リモートで請け負う業者を受け入れる代理店が増えたので、気に入られているフリーランサーたちの仕事は増えました。社内のデザイナーにZoomでつながるのと同じく、はるか遠くのひととも簡単につながることができます。新規参入者が増えて、もともといた人々は新しい場所へ移動しました。
学びの1年でした。リモートワークに適応するために、新しいスキルを身につけ、コミュニケーションのスタイルを磨きました。あたらしいツールに不慣れだったひとたちも、いつの間にかZoomやTeams、Skype、Google Meetといったアプリ上だけでミーティングをおこなっています。
スモールビジネスには活躍の場が増え、副業がフルタイムの仕事になりました。彼らは、こういった仕事が拡大する前は、おどろかせるようなデザインでイキがるようなことをせず、小規模の職人的ブランドをクライアントとしていました。正直さこそ信頼を得るうえで重要ですから。
バーチャルなビジネスモデルへの私たちの旅は、必要に迫られてタイミングよく大きく飛躍しました。デジタルをベースにして急成長しているビジネスは、ピカピカな豪華さと個人的なものとの融合を探っています。
ペットや植物、掃除に関係するプロダクトは、家庭の関心を引きつけました。デリバリーサービスが大流行です。新しいスキル習得のためオンライン講座が次々と登場しました。料理、ライティング、絵画、編み物、ジャグリングなど、ありとあらゆるものがあります。ネットでつながれることが成長要因となります。また、ネットを介した交流は衛生的です。
大きな疑問は、こういった傾向はこれからの数年間、どの程度続くのか?その反動はどれくらいか?ということです。
グラフィックデザインのトレンドについてわかっていることは、トレンドは振り子のように戻るということです。ある飽和状態に達したら、空白になっているもう一方を埋めるために、デザイナーは急いで引き返します。
このことは、デザイナーやブランディングにとっては特別なニュースです。新しいプロダクトやサービスの市場導入や、熱狂的なマニアには、語るべき物語があります。それを伝えるのがデザイナーの役割です。
「ブランディングに関わる者は、物語を伝えて意味を創り出すことによって報酬を得ているのです。ドラマを大事にしましょう。」
消費者は、見知らぬ土地で助言を探しています。デザイナーが偵察して案内するのです。消費者のいる場所に商品があるべきですが、コロナ禍のなかでは、実店舗ではなくオンラインショップに並べられていました。だからこそなおさら、商品はRGBの世界で生き延びるるようにデザインする必要があるのです。
反対に、デジタル機器から離れて、自然とつながる必要性を強く感じた1年でもありました。エコロジーと環境が今年の大きなテーマであり、あらゆる分野がサステナビリティへ顔を向けました。
当然ながら、ロゴデザインのトレンドの多くが、カルチャーやブランドの変化にギアを合わせています。トレンドのひとつ「コース変更」は、高さを急に変えて見せることで、思いがけない変化を伝えています。「スインガー」と「CBCロゴ風重ね継ぎ」は3次元的な変化を見せています。
「磁気テープ」と「IDタグ」は、過去の慣習にとらわれることなく、緊急性を訴えるメッセージをたくみに伝えています。わざと不完全にするというのは美学的な戦略です。
レスポンシブなロゴデザインは、バリアブルフォントからバリアブルつまり変化する書体へとシフトしました。セリフ系ディスプレイ書体から簡素なサンセリフ系書体へと変化することで、驚くような変身ができることを身をもって示しているのです。
エッチングによる伝統的なロゴが、猛烈な勢いで復活しました。ただし今回はデジタルによる再現です。
「剣にからみつく蛇」も「箸でつまむスシ」も、革命を目指して何度も突き上げるこぶしと同じく、そこらじゅうにあふれています。アボカドや水滴、ヤシ、松。そして、別のものを見せるために半分に切られたキュートな生き物たち。こういったデザインは予想外の多さでした。
それから、どのレポートもそうなのですが、忘れないでいただきたい重要なことは、本記事は、昨年のレポート以降にLogoLoungeに投稿された35,000点以上のロゴを徹底的に調べた結果のレポートだということです。さらに、この1年に登場したりアップデートされた世界中の重要なロゴデザインをくまなく評価したレポートでもあります。
「本記事はロゴデザインのトレンド(傾向)についてのレポートであり、トレンディな(最新流行の)デザインのレポートではありません。」
本記事は、重要なデザインの進化の道筋がどこへ向かっているのかを観察した結果のレポートです。デザイナーの皆さんのロゴを真似しようというものではありません。ロゴデザイン業界がどちらへ進んでいるかを伝えるため、そして、紹介しているデザインを手本として、ロゴをアップグレードしたり、まったく新しいレベルまで高めたりできるかについて伝えるために活用しています。もしそうできるデザイナーは1年後には、うらやましくも賞賛されるクリエイターになるかもしれません。多分、たぐい稀なる次なるトレンドの先駆けとなっているでしょう。
ロゴデザインのトレンド1【アステリスク】
ギザギザの稲妻や4ポイントの星形がまん延したこの1年のあとなので、デザイナーたちが次の星を求めてアイデア拾いの旅に出ているのは驚くことではありません。
そして、最終的にアステリスクにたどり着いたのです。それはまさしくラテン語で「小さな星」を意味しています。頂点の数には5つ、6つ、8つなどバリエーションがありますが、アステリスクは今やおなじみの象徴的記号として、グラフィックデザインの世界にしっかりと根づいています。脇役として参加するロゴの数はどんどん増えていますし、主役としてキャスティングされたりもしています。この1年でもっとも起用されたマークです。ブランディングの準備が進められているロゴにおいても、今後数年間は出番がもっとも多いでしょう。
ウォルマート(Walmart)やフェデックス・オフィス(FedEx Office)は、アステリスク由来のマークを10年以上も掲げてきましたが、人気が復活してきたアステリスクでは、もっぱらサンセリフ書体に集中しています。サンセリフのアステリスクはすっきりとして調整しやすく、太陽や星、花、火花、アイデアのひらめきとして受け取ってもらえます。もちろん、省略や注意喚起のシグナルにもなります。奇妙なことに、別の使い方も盛んにおこなわれています。それは、収束点を設けてアンバランスな大麻の葉を表現しているデザインです。アサテリスクとでも呼びますか?
アステリスクは、入力欄のパスワードを隠すだけでなく、はるかに多くの柔軟性を持っています。このシンボルの見た目は、さまざまに解釈できますし、文字記号としての意味を失わせることなく装飾することができます。唯一のマイナス面は、用心深い消費者がロゴの下に脚注がないか探してしまうということです。
ロゴデザインのトレンド2【コース変更】
これはおそらく今年のトレンドのうちでもっとも興味をそそるデザインのひとつです。指摘されると簡単に見つけられますが、定義するのはむずかしいです。
コースを途中で変え、ふたたび同じ向きに進む帯やリボンを思い浮かべてください。向きが変わる前後ではなく、変化する部分が興味を引きます。進路の変化が示しているのは、スピードアップかもしれないし、新たなプロセスかもしれないし、新世代の始まりかもしれません。場所、素材、所有者、プロダクトに変化があるかもしれませんが、ともかく経路がいったん変更された後は、元のコースに従って前進を続けます。
Bancontactのロゴ(左上)は、左から右へ向かうリボンが、中ほどで反転してゴールドの面を見せたあと、高さを変えて進んでいます。Eisbachのロゴ(右上)は、それとほぼ同じですが、3本の帯はサーフィンの「ポイントブレイク」を表現しています。いずれのロゴマークにも共通しているのは、コース変更前後のギャップをかろうじてつないでいる、あるかないかの接合部が作られているということです。ちょっとその瞬間を讃えているように感じます。コース変更があったことは間違いないですが、それを証明する証拠は十分とは言えません。デザイナーの視点から見ると、大きな変化が起きた瞬間とその前後の継続性とがひとつになった物語をこのデザインは作り出しています。良くも悪くも、一時的な中断はあったけれども、予定どおりの方向に向かっている、というわけです。
ロゴデザインのトレンド3【CBCロゴ風重ね継ぎ】
バートン・クレイマー(Burton Kramer)が、カナダ放送協会(CBC)の万華鏡のような、独創的なロゴを作ったのは1974年でした。無作法にも「爆発するピザ」と呼ばれることもありましたが。
・CBCのロゴ / JHVEPhoto – stock.adobe.com
長年のあいだにアップデートが繰り返されましたが、トンボの複眼を通して見たかのような、幾何学的なかけらを放射している赤い円のデザインによって、初代ロゴの輪郭は維持されています。このエレガントな破裂のような効果を採用したロゴは、CBCが最初でも最後でもありませんが、今日まででもっともよく目にする実例であるのは間違いありません。そのロゴが誕生したときにはまだ生まれてなかった世代に、いまも影響を及ぼしています。
核となる要素から放射されて徐々に小さくなっていくかけらの連なりが、このモチーフの特徴です。池に投げ込んだ小石が起こす波紋のように、欠片は拡がりながら消えていきます。この細胞分裂のようなコンセプトから思い浮かぶのは、拡散・増殖・影響範囲といったものです。ソニー・ミュージックパブリッシングのロゴは、繰り返す見せ方を使って、音楽を広めたりデジタルプロダクトを提供するビジネスを完璧に表現しています。放射されているかけらを、核となるエレメントからすべて離す必要はないと考えている新世代デザイナーもいます。初代CBCロゴのカラーパレットは連続的な明るい色ですが、このトレンドのロゴのほとんどがモノトーンです。変化の様子が十分に伝わるデザインなので、段階的に色を変えていくのはやりすぎだと考えているのです。
ロゴデザインのトレンド4【磁気テープ】
デザイナーが選んだメディアが磁気テープだった場合、それが前進なのか後退なのかよくわかりません。
野蛮な落書きから、1本のラインで描いた巧みなデザインまでのあいだのどこかにあるこのロゴは、悪ぶった態度を受け入れます。トラックの車体に貼る標識ステッカーを買うお金がないひとが、粘着テープで作った文字のようなデザインです。このDIYスタイルではたいていの場合、同じ太さの直線で作られるので、コーナーでは急に曲がらざるを得ません。また、接合部をきれいに仕上げる気づかいはなく、手ばやくまとめられています。
チェコ・スケートボード協会のロゴ(左上)は、チェコ共和国の国章のライオンと、スケートボードに乗った略奪者をみごとにマッシュアップしていて、気が利いています。このトレンドのロゴマークは、ぴったりとは合っていない角と直線的な構成によって、いたずらっぽい雰囲気です。そのため、どのブランドも深刻にとらえられる心配がない、敷居の低いものとなっています。このスタイルは柔軟性に富み、イメージからタイポグラフィまでどんな姿にもなりますが、ラインにカーブがない点で一目瞭然です。洗練されているとは言えないのでマーケットはかなり限られるでしょうが、気取った装飾がまったく必要でない場合は、このスタイルが手っ取り早い手段であることは間違いありません。
ロゴデザインのトレンド5【透明な反転】
このクリスマスツリー飾りのようなロゴを見ると、催眠術や呪術にも似た魅惑的なものが思い浮かびます。
リズミカルなシンメトリーと内部の光がもたらすものに深く引き込まれて我を忘れてしまいます。いずれのロゴでも、エレメントを反転させて組み込む前を想像すれば、透明なレイヤーがいかに力を増幅させるかがわかるでしょう。現実的には、レイヤーが多いほど重なった部分の色が濃くなります。不透明なレイヤーや控えめなグラデーションにした場合であっても、奥行きを感じさせる効果は同じように魅力的です。このトレンドのデザインは今回初めて目にするものではありませんが、この1年で激増しました。
透明なレイヤーをデザイン要素とする場合、微妙な色の階調がとても多くなることがRGB環境においても課題となります。必要に応じて段階的に塗り分けられた充分な数の色の区画を作ることになりますが、ロゴを縮小すると完成度が損なわれることがあります。グラデーション人気の広がりの中で、このような段階的色分けが、非グラデーションによる幻惑的な魅力的なテクニックとして、デザイナーにとって別の選択肢となります。ここではシンメトリックなデザイン例を紹介していますが、このテクニックは非対称的なロゴにも同じように応用できます。クライアントにとってのこのトレンドのメリットは、透明性のある整然とした魅力的な関係性を消費者に期待してもらえるということです。
ロゴデザインのトレンド6【積み上げたアイコン】
ロゴデザインとアイコンデザインの間にはとてもグレーな領域があります。
このトレンドには、白い領域の方がふさわしいでしょう。いまやどんなインターフェイスにもあふれかえっているシンボルやピクトグラム、絵文字といったものに消費者は慣れ親しんでいます。モバイル機器のマルチリンガルなOSだけでなく、タイヤ圧やアイロンの使い方、リサイクル、心拍数、排卵などありとあらゆる名称や機能の説明に使われています。アイコンがデザイナーに提供しているのは、世界共通のビジュアル要素を活用できる究極のユートピアです。グラフィックデザインにとって、アイコンは豊富に手に入る建築用ブロックであり、まさにそのように積み上げて使われます。
たとえば、特別なリゾートのマークを作るとしましょう。まずは、波、家、そしてすばらしい日光と日焼けのための太陽。それを積み重ねれば完成です。率直に言って、よくできたマークですが、舞台に関連した要素を組み合わせるというアイデアは新しくはありません。少しばかり新しいのは多分、映画産業や写真を視覚的な要素に分解して正方形とリングで表現したり、アメフトのハッシュマークで撮影用のカチンコを作り出す能力でしょう。円をスライスした6つのくし形と四角形が、見るひとをトロピカルなパラダイスへ連れていってくれます。
ここで紹介しているロゴマークは、ポジティブスペースとネガティブスペースをうまく魅力的にブレンドしています。汎用のマークに見えるかもしれませんが、そのジャンルならではの説得力を持つシンボルであることがわかります。
ロゴデザインのトレンド7【4個1組】
世界はそういう風にできているからでしょうか、本当に重要なことは4つで1組となることが多いようです。四季、東西南北、トランプのマーク、ファンタスティック・フォー、ファブ・フォー、そしてCMYK。
わたしは他にもいくつか見逃しているかもしれませんが、今年のデザイナーたちは違います。彼らは4個1組のことが気にかかっていて、とりわけ、正方形を4分割するうまいやり方に夢中です。正方形がロゴデザインの基礎となるエレメントの定番であることは認めざるをえませんが、なんと、ここにも「4つ」の辺があります!イニシャル、パートナー、サービスといったものが、実際に4個1組できれいにまとめられているとはいえ、それはこのトレンドの使命ではありません。このトレンドは、多様性や豊かさを、入れ物の中できちんと整理して示す簡単な方法なのです。
ブランディングの主な役目は、一貫性を作り出すことです。ロゴで秩序を示すことはデザイナーにとって必須の能力です。このトレンドがふさわしいクライアントに応用できれば、もっと良くなります。その中でも、建築家・博物館・工務店など、空間的構造物の建設のために召集される都市部の事業者のロゴに、このトレンドを見かけます。しかしそれは驚くべきことではありません。ひとつの正方形が4つの正方形に分割されているので、それぞれが個別のロゴとしても十分な大きさの要素がひとつに集められています。各要素は緻密にデザインされ過ぎる可能性があるので、骨太で飾り気のないデザインの方がきれいでしょう。その結果、基本的な幾何学図形や文字の形の中に、幾何学図形が描かれるというようなことになります。
ロゴデザインのトレンド8【チェーン】
A地点からB地点へ最短で行く方法は直線であると教わりました。
ですから、これらのロゴを見たときに頭に浮かんだのは、くねくねとした線は時間に余裕のあるひとのためのものであり、目的地よりも旅路を楽しむ美学の問題であるという考えです。いずれも、交互に反転させた半円がファッションチェーンのように先端でつながれています。蛇行するラインを使うことができたかもしれませんが、同じような視覚的効果や重みはとても得られないでしょう。波打つ線を必要とする湯気・煙・波などが、この1年でロゴデザインに増えたこのテクニックを使うのにふさわしいです。
このテクニックは、ボウルからあがる湯気のような補助的役割を果たしたり、シンプルな幾何学模様を作ったりするために使われながら、最小限の手間でリズミカルな部分をロゴマークに加えます。この手法をマークの中心に据えると、何個もつなぎ過ぎた場合に拡大縮小の範囲が制限されてしまうので、腕が試されます。小文字の「s」を描くのには最適ですが、他の文字にはそれほどではありません。中心線に沿って3次元的なスパイラルを描くまでもう一歩のところにあるので、このトレンドがどう進歩するか興味が引かれます。
ロゴデザインのトレンド9【二面の神ヤヌス】
バリアブルフォントは、ここ2〜3年に登場したほかのツールと同じく、デザイン界の変化に大きく貢献しました。
ウェイトや太さを簡単に調整できる書体の魅力のほとんどは、形の変化で示されてきました。どのような特徴であっても結果に変化がなければ魅力的ではありません。良いものではありますが、この進化はそれほど驚くほどではありません。ある要領のいいデザイナーが問題提起をしました。セリフ書体から全く異なるサンセリフ書体に変化するバリアブルフォントを作ったらどうなるだろうかと。
この前提にもとづいて、デザイナーたちは精一杯の努力で、バリアブルフォントをアナログ的に見せてくれるワードロゴを作りました。それぞれの文字がウェイトを連続的に変化させるデザインです。Evolved By Natureのワードロゴ(左上)は、進化のプロセスを見せるのに成功しています。それぞれの文字が、左から右に順番に、セリフからスタートしてほっそりとしたサンセリフに変身していく様子がはっきり見えるので、いっそうよくわかります。Evolvedのロゴのアステリスクも非常に限られた範囲の中ですが、同じように変化しています。多様性や変化を表明するときに際立つテクニックです。
Canal Brasilのロゴ(右下)では、もっと大胆でおもしろいアプローチが取られています。まるでハリーポッターシリーズのポリジュース薬を無駄使いしているところのような、各文字がそれぞれめいっぱい変容するループアニメーションになっています。
ロゴデザインのトレンド10【合流】
だれでも一度はどこかで、にわか雨のあとに水滴でおおわれた窓ガラスを見つめたことがあるでしょう。
雨のしずくは、重力によって、ひとつ、またひとつ…別のしずくと一体になりながら、ガラスをつたって落ちていきます。やがては、つたった道筋にあったしずくをすべてのみ込んで、小さな川ができあがります。行き当たりばったりとはいえ、必然的に、ひとしずくひとしずくが全体的な力を大きくしています。要素が引きつけられて集まり、しずく2、3個の連なりだったものが、激しい流れになるかもしれません。このトレンドのロゴが表わしているものは、1粒1粒が合わさって増幅した力と、動きに加わる準備のできた個々のしずくです。
このシナリオで使われているしずくは、それ自体が毅然とした完璧なドームの姿をしています。完全に自己充足していますが、もっと大きなものの一部になるほんのわずか手前です。このトレンドのロゴは、数の強さや能力の拡大を表現しています。一体化のしやすさと俊敏に反応する能力を示しています。このデザインのロゴのほとんどが、まさに結合が起こる瞬間をとらえたチェーン状の連なりで、このプロセスを示しています。消費者の想像力をかきたてるのに最適の、完璧な瞬間に撮られたスナップショットです。
ロゴデザインのトレンド11【Oリング】
多分デザイナーにとって円ほど基本的な形はないでしょう。
円には非常に厳しいレベルの完璧さが求められますが、デザイナーは幸いにも、デザイン用アプリで完璧な円を何度でも手ばやく作れます。最初に作った円から、少し小さな同心円をサクッと作り出せば、リングのできあがり。書体Avant Garde(アヴァンギャルド)を使っているなら、円は「O(オー)」です。リングを作るときには、太さをライト、ミディアム、ボールド、ブラックのどれにすれば良いかを考えるだけで済みそうに思えます。しかし、このトレンドのロゴは、もっと多くの別の要素があることを証明しています。何世代にもわたってリングを作り続けロゴと呼び続けてきましたが、なぜ今この一群のロゴをひとつのトレンドとみなせるかという理由が、その別の要素です。
この形状が人気ランキングのトップに躍り出た原因は、グラデーションやハーフトーン効果です。もちろんリングは、永遠・統一・完璧・循環といった概念を伝えます。完成され、完全であることを示しています。中に空いている穴は、通過・窓・門といった概念を伝えることが可能です。そういった意味が含まれていることは確かですが、表面が淡い色で処理されていて、シンボルの新しい世界を見ることができます。単にひと周りしているだけでなく、クールからホット、夜から昼への変遷であり、適切な陰影によってリングが新たな面を獲得しています。円の周囲でも全体でもグラデーションにできますし、中心部に向かって消えていくような処理も可能です。もし名前が「O」で始まっていると素敵ですが、この形の秘めた力は、単なるモノグラムとしての関わりよりもはるかに大きいものです。
ロゴデザインのトレンド12【スインガー】
「静止している物体は静止し続ける」というアイザック・ニュートンの慣性の法則は、デザイナーに払拭させましょう。
動きを表わす効果線や流線を加えて、消費者の頭の中で静止していたものを動かしたり回転させたりといったことを、ニュートンがデザイナーに期待していなかったのは明らかです。デザイナーというのはとても器用なひとたちで、もし動きを静止画で見せる必要のあるプロジェクトであっても、その解決方法がネタ切れになることはありません。回転・跳躍・飛行・爆発・突進など現在進行形の状況にまつわる技は何度も披露されてきましたが、ロゴデザイナーはこの1年間でスイングさせることが習慣となっています。
「スインガー」とは、動きを表わしたいけれども、安定性を示唆する原理や核心につなぎ止められているマークです。このマークは、なにか元の位置から軸回転しているものを表現しているでしょう。ヒンジを使って動いているような効果は、もしかすると、安定性と柔軟性とは両立しないわけではないという考え方を強めるかもしれません。動きを示す一連のコマを透明な面で表現し、開かれていることと分かりやすさを伝えています。そして、これらのロゴはすべて、光学的な描写で空間を表わしています。そよ風の中で、スイングしている、はためいている、波打っている…といった様子のいずれに見えるにせよ、どれも静止している物体には見えません。
ロゴデザインのトレンド13【ドッグタグ】
重要な情報をすべて72文字以内でひし形の小さな金属に詰め込むというアイデアには、魅力や美しさ、完成形といったものが伴っています。
怪しげな略語の選別、細部の省略、重要なものとそうでないものの見極め。これらを通して情報が決定されます。カーニングや文字の修正には重きをおかず、どんなに小さなスペースでも活用しながら、曲線の内側に沿って言葉をカーブさせているこの解決策を見ると、あるリズムがはっきりとわかります。このトレンドでは、追加書体を押し込むこともできますが、あまり目立たないフォントを使い、1種類のウェイトとポイントサイズだけで作られることが多いです。
従うべき制約があると、クリエイティブ分野の人間はとてもうまい解決策を生み出しますが、これらのロゴにはそれが反映されています。クライアントにとっては、このトレンドのロゴが表わしているのはシンプルさであり、ストレートで純粋な機能性です。文字自体が装飾や模様となって、高い問題解決能力を見せながら、タグの形を決めたり反復しています。原則として図形は使われず、輪郭の形状だけがアイコンであることを示しています。このマークに合った美意識を持つクライアントを見つけることが重要です。いかにもぴったりに見える場合と同じく、相手を間違えて意図しないデザインとなったように見えるこのロゴは、完全に意図的なものです。
ロゴデザインのトレンド14【エッチング】
私たちの知っているマスコットやロゴには、20世紀に変わる前に使われていた、エッチングによる広告図案からの引用が多いです。
咳止めドロップのSmith Brothers(スミス・ブラザーズ)やシリアルのQuaker Oats(クエーカーオーツ)の男性、レコードレーベルRCA Victor(RCAビクター)の不思議そうに首をかしげる犬などを思わせるマスコットたちは、質に出されたアートから拝借したものです。こういったロゴはエッチングで描かれていて、世界が純粋だった時代のノスタルジックな魅力にあふれています。しかし、この方法で描かれていた理由は単に、そのテクニックが印刷に必要だったからです。このスタイルに私たちがいまでも引き続き夢中になっているのは、複製手段とは無関係です。デザイナーが心を奪われているのは、前世紀の特徴をプロダクトに反映させるということにほかなりません。
緻密に彫られたロゴやバッジが依然として身の回りにあったり、はるか昔の加工品として新たに作られてきたことは間違いありません。しかし最近は、まさしくこのタイプのロゴだらけです。このような状況を生み出した要因は2つに絞れるでしょう。ひとつは、ここ数年、巨大企業に対抗するプロダクトやサービスを、厳選して小規模で提供する起業家が急増したことです。ふたつめは、ジンのボトルやチョコレートの箱を、完全にこのスタイルで作り始めた有能なイラストレーターやデザイナーが何人もいるということです。今や彼らは燃料満タン、提供準備も万端です。クオリティレベルやスタイルは、素朴なものから高度に磨かれ洗練されたものまで多様ですが、いずれも消費者を文化遺産的な場所へと連れていってくれます。
ロゴデザインのトレンド15【棒】
パースペクティブは、ありとあらゆるものに関係しています。
もしかすると点と線の違いは、見る角度の違いかもしれません。棒を少しだけ傾けて上から見ると、軸の太さが小さくなっていき、上下の端は丸く見えます。これを整然と広げると、このトレンドのデザイン要素が手に入ります。その要素の中心を少しねじると現れるのが、らせん状に少しずつ回転する渦です。
ここ数年で頻繁に採用されているオーラや光輪の派生であるこのトレンドに飛びつくのは簡単です。ただしこのトレンドは、中心の要素を取り囲む光輪を提供するというよりも、軸そのものによるデザインです。軸の末端を丸くすることで、親しみやすくなるとともに特徴的な要素となっています。モノトーンでも、形や距離感をはっきりさせるためのグラデーションでも、同じく印象的です。このマークはほとんどいつもまばゆい光に輝く中心部から飛び出してきて、拡張・希望・希奉仕活動といった印象を与えています。これらはすべて行動の仕方についてのものであり、その原因にはあまり関わりがありません。
2021年のロゴトレンドは、この唯一無二のレポートシリーズの18回目になります。おかげで、新しいトレンドのニュアンスや特徴を求めて、何千ものロゴのひとつひとつを文字通り見直す機会を、毎年得ています。それぞれのデザインは、世界中のデザイナーの何時間もの熟慮と奮闘の結果です。彼らの創作活動への献身には、いつも畏敬の念を抱きます。また、このレポートを作るにあたって重要な役割を果たしてくれることをありがたいと思います。これまで、そしてこれからも、このトレンドレポートに貢献してくださるデザイナーの皆様に感謝します。
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■ビル・ガードナー(Bill Gardner)について
ビル・ガードナー(Bill Gardner)は、Gardner Designの代表でありLogoLounge.comの開設者です。同サイトでは、リアルタイムで会員がロゴデザインを投稿したり、会員の作品をキーワードやデザイナー名、クライアントタイプなどで検索ができるサイトです。ロゴデザイナー向けのニュースやベストセラー書籍LogoLoungeブックシリーズでの考察のための記事が閲覧できます。ビルへの問い合わせはbill@logolounge.comから。
参考 : LogoLounge ©2021 Logolounge Inc.
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