団体・企業のロゴは、ビジネスにおけるブランドイメージの重要な基盤です。企業とユーザーの最初のコンタクトであり、効果的なロゴは、それぞれの経営理念や顧客に対するメッセージを正しく表すことができるものです。
ロゴをデザインする際に気を配らなければならない要素は多々ありますが、何よりも基本となるのは、企業の特色をいかにロゴに反映しているかどうかということでしょう。 企業のイメージを顧客に忠実に連想させるロゴを作るためには、ロゴ形成のコンセプトを明確にし、ロゴを構成する形態・バランス・カラー・書体などの視覚的な要素が生み出す心理的な影響を把握することが、デザイナーに求められます。
最近では、大企業だけではなくスタートアップや中小企業でも、洗練されたロゴの起用が増えてきています。また、ビジネス立ち上げ当時に比べ、ユーザー数の増加や知名度のアップに合わせてリニューアルを行い、より一層洗練されたデザインに変更される例も少なくありません。 今日は、数々のロゴのリニューアルプロジェクトを担っている フランスのグラフィックデザイン事務所、Graphéine社のユニークで優れた作品を見ながら、ロゴが作り出すブランドイメージの構築について考えてみましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Graphéine ! )
グラフィックデザイン事務所 Graphéine社は、2002年にフランスの首都パリで創業しました。ビジュアルアイデンティティに加え、ブランディングデザイン・出版物やサインデザイン・ウェブデザイン、とグラフィック全般のプロジェクトを行なっています。現在はパリの他、フランス南東部のリヨンにもオフィスを持ち、精力的にデザイン活動を繰り広げている事務所です。
農業環境コンサルを生業とする企業のロゴデザインリニューアル事例
まずは、『Agrosolutions』社のブランディングデザインです。 Agrosolutions社は、世界中の8400人の従業員を抱えるフランスの農業共同組合『In Vivo』の子会社で、農業環境コンサルティングを担っています。『In Vivo』は、「農業」「栄養と動物の飼育の管理」「公的な流通」「ワイン」の4要素の促進を主要な活動目的とし、Agrosolutions社はその中の「農業分野の発展」を担当しています。 ちなみに社名『Agrosolutions』は、「Agro(農業を意味する)」と「Solutions(解決)」を組み合わせた造語です。
ロゴデザインのリニューアル
Graphéine社が提案したリニューアルロゴデザインを見てみましょう。
第一に気付くのが、旧タイプのロゴはAgrosolutions社がIn Vivo社の傘下であることを示唆するだけのものであったのが、新ロゴではAgrosolutions社の独自なアイデンティティーとその位置付けを明確に表すものになっています。
ブランドカラーについて
Agrosolutions社の基本的な活動は、「Agricultures(農業)」「Filières(農地)」「Territoires(地域)」の三分野。この三つを湾曲した形態で表し、動きのあるスパイラル状に編成されていますね。流動感のあるこの構成は、発展と成長のイメージを喚起させ、加えて、全体にAgrosolutionsの頭文字である小文字の『a』を彷彿させるデザインです。
ロゴのカラーリングにも活動の三要素が的確に把握できるように考えられています。Agriculturesはグリーン、Filièresはブルー、Territoiresにはオレンジ色を採用。
この三色にライトグレー加えたカラーリングで、名刺、レターパッド、ポスターやリーフレットなど、他のグラフィック媒体も構成されています。
ブランドカラーを利用したグラフィックデザイン
Agrosolution社の活動方針や理念を表現したポスターやリーフレットのデザインもとても興味深く仕上がっています。
小さな鳥から作られる人間の顔のイラストレーションは「慣例にとらわれない自由な発想」、とうもろこしの葉と握手から「より良いパートナーシップの創造」、人の筋肉と自然は「環境の保存」、手のひらと蜂とライトで「人生への尊重」という具合にイラストレーションの中に二重の意味が盛り込まれています。Agrosolution社のユーザーやのメッセージを、一連の遊び心のある詩的なテイストで的確に表現している秀逸なデザイン制作事例です。
教育協会の堅い印象を打破したシンプルでユニークなロゴデザイン
次は『CPU』のブランディングデザインを見てみましょう。
『CPU』は「Conférence des Présidents d’Université=大学総長の総会」の略。フランスの大学の総長で構成される教育協会で、1901年に創設されました。大学での様々な研究やイノベーションの推進、学生生活の改善や社会問題への適応、エネルギーや情報技術への発展、国際化やエコロジー関連への示唆など、大学を基盤としてできる活動を幅広い観点より討論・プロモーションしている機関です。
ロゴデザインのリニューアル
まず、旧タイプのロゴを見てみましょう。ヨーロッパでは古くから答弁の場として象徴的な円形劇場をモチーフにしたロゴデザインでしたが、一見して視覚性・可読性に乏しいデザインです。『CPU』よりブランディングのリニューアル依頼を受けたGraphéine社は、デザインコンセプトとして、視覚性を第一の条件に挙げます。また、見る人の記憶に残り、今日のコミュニケーションツールに容易に適合できるものを第二の条件としました。
新しいロゴマークは、大文字の「C」「P」「U」で構成されたとてもシンプルなもの。CとPを縦に配列し、その横に長くのばしたU字を置き出来上がっています。U字を大きくしたのは、現代や未来の社会における大学(Université)の役割の重要性や、『CPU』と大学との密接な繫がりを強調したことからきているそうです。
ロゴデザインの基本カラーリングにはブルーを採用。集中力を高める色彩心理効果を持ち、信頼性や開放感、また知性を連想させる抽象的イメージを持つ青色は、教育機関のロゴの配色にはぴったりですね。
ロゴを巧みにグラフィック要素として活用
基本の青色ロゴをベースとして、紙媒体の名刺、レターパッド、リーフレットから各種のデジタルツール、Tシャツのデザインなどと幅広い媒体に使用されているこのロゴですが、 それぞれの用途に合わせた豊富なカラーバリエーションも展開されていることにも注目です。
ロゴをリズミカルに縦横に並べて作り上げたパターンを使ったレターパッドや名刺の裏面デザインや、黄色をアクセントとして視覚性を高めるセンスの良い色彩コンビネーションなど、いずれも高いデザイン性が感じられる作品に仕上がっています。 多様なカラーリングにも関わらず、どの媒体を見ても、シンプルでかつユニークな『CPU』ロゴデザインの放つ強い存在感を感じられる出来栄えです。まさに、リニューアルロゴの成功例と言えるでしょう。
土木・建設コンサル企業のロゴリニューアル事例
最後は、『Groupe Qualiconsult』のブランディングデザインです。
1982年に創設されたGroupe Qualiconsult社は、建設・技術設備・インフラ全般のコンサルタントを業務とする会社です。 Graphéine社は、Groupe Qualiconsultブランドの認知化を高めるための新しいブランドアイデンティティーを創造し、最新のデジタル通信コミュニケーションに対応できるリニューアルロゴデザインプロジェクトを依頼されました。
ロゴデザインのリニューアル
Groupe Qualiconsult社の業務内容を再確認しつつ、Graphéine社が掲げたリニューアルロゴデザインのコンセプトは、旧ロゴが持つ象徴的なDNAを引き継ぎながら、より明確で機能的な幾何学的なシンボルマークの作成、「Qualiconsult」の名称を読みやすく可視性の上昇を図るデザイン、そして他社と一線を画すGroupe Qualiconsult社の特徴を見る人に理解してもらいやすいものに仕上げることでした。
旧タイプのシンボルマークは、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた有名なドローイング「ウィトルウィウス的人体図」と、Qualiconsult社の社名より用いられた大文字のQ字とC字をモチーフに作られました。多くの方がご存知のように、この「ウィトルウィウス的人体図」は人体の尺度を数学的に説明しており、人体がいかに幾何学的プロポーションを備えているかを表しているドローイングですね。
直線と幾何学的な形状で構成され、Groupe Qualiconsult社の主的業務である建設をイメージさせるシンボルマークでしたが、少々閉鎖的で無秩序の感が否めないデザインでした。 Graphéine社の提案した新ロゴは、旧シンボルマークの持っていたイメージを損なわずに視覚的に記憶に残りやすくすることに主点とし、ビジネスの可能性を示唆した解放的でありながらバランスのとれたデザインです。
正方形から円で切り取られてできた四隅のグレーの形状はGroupe Qualiconsult社の常に焦点をとらえた堅実な業務理念や安定性を示唆し、赤い丸は革新性を表現しています。 旧シンボルマークに比べて現代的ですっきりとしたデザインとなり、視覚性にも大変優れています。
タイポグラフィーもリニューアル
新しいシンボルマークに併記する社名「Groupe Qualiconsult 」のタイポグラフィーもリニューアルされました。全て大文字のみの標記から、頭文字「Q」を残して他は読みやすさを向上させる小文字を使用。視覚性や文字配列のバランスを考慮して、ゴシック系のサンセリフ書体をベースに新しい書体を制作し、ロゴタイプがデザインされました。
各文字間や縦列する際の余白部分のサイズにも綿密な配慮が施され、新シンボルマークとの釣り合いも見事ですね。書体の放つイメージから企業の真摯性や誠実感、また、ロゴマーク全体の視覚的な安定性を感じさせられる作成例です。
ロゴのカラーバリエーション
シンボルマークの基本カラーリングのグレーと赤色に加え、青、黒、白色をサブカラーとして用途に沿ったカラーバリエーションを展開しています。
この『Groupe Qualiconsult』ロゴも上記の『CPU』ロゴと同様、シンボルマークが確固な独自性を持っているので、サブカラーを使用したロゴを見ても一眼で Groupe Qualiconsult社のものと認識することができます。
まとめ
Graphéine社のロゴのリニューアルプロジェクトを見てきました。
どの企業にも創設時に作られたロゴマークにはある種の思いが付きまとうものです。企業の歴史や理念を盛り込み慣れ親しんだロゴマークをリニューアルすることはたやすいことではありません。それまでの価値観、自社のイメージ、社内的な思い出や歴史など、一度白紙に戻してリニューアルしなければならないからです。
しかし、ロゴマークのリニューアルには多くのメリットが存在しています。企業理念を再確認し、新たな価値観や活動方針を盛り込んで作られるクオリティーの高いロゴマークは、ブランドとしての存在感を増し、顧客に対してもポジティブなイメージを持ってもらえることが可能です。
Graphéine社のリニューアルプロジェクトは、企業のアイデンティティーや将来性のエキスをシンプルで可視性に富んだ形でデザインされ、アナログ・デジタル両方の全ての媒体で使用できることが特徴です。 統一感を持ったロゴは、一貫したブランドイメージを構築させます。Graphéine社の作品は、ロゴのリニューアルデザインのお手本とも言えるのではないでしょうか。
design : Graphéine ( France )
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