中国で活躍するクリエイター Donghai Liu 氏は、広告業界で15年のキャリアを積む敏腕ディレクター。アシスタントデザイナーからはじまり、デザイナー、コピーライター、クリエイティブディレクターと階段を上った、広告業界においてのオールラウンダーです。
そんな彼がクリエイティブについて常々思っているのは、広告制作においてこの業界の人は、半分はデザインベース、もう半分はコピーベースで制作を考えているということ。そんなDonghai Liu 氏がもっとも大切にしているのは “アイデア”だと言います。アイデアこそが広告の原点であり、デザインやコピーの源になるものだと。
今回ご紹介したいのは、そのアイデアからはじまった啓蒙広告です。大胆な合成写真による仮想現実が見るものに何を訴えるのか、一緒に見ていきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you,Liu! )
リビングのソファでくつろぐ母親と子供。そのソファに突き刺さるようにして親子を遮断するものがあります。そう、誰にでも見覚えのある“スマートフォン”です。ソファのかたわらで遊んでいる子供に目を向けず、母親の視線の先はスマートフォンの画面。非常にインパクトの強い画像ですが、この画像が現実と違っていることはスマートフォンの大きさだけ。母親の手の中にスマートフォンがあれば、それはどこにでもある日常風景なのです。
画像の片隅にあるコピー「The more you connect, the less you connect」
訳すと「繋がるほど、繋がりを失う」
スマートフォンに代表されるデジタルデバイスの急速な普及は、私たちの暮らしを一変させるほど便利にし、遠くに住んでいる人や世界中の人々と繋がることを可能にしました。しかし、便利さに夢中になり過ぎて、一番身近にいる人との距離を遠ざけてしまってはいませんか。
スマートフォン依存症という新たな現代病が誕生してしまったり、便利な反面使い方を誤ると取り返しのつかないことになる、という話題がよく取り上げられていますね。そうした社会現象に警鐘を鳴らすため、中国の心理研究機関が世間に向けた啓蒙広告がこの広告デザインなのです。
次に、父親と子供のパターンです。今度は食卓を分断していますね。母親の場合と同じく、父親の目は画面にくぎ付け。子供はスマートフォンの陰に隠れてしまっています。食事そっちのけでおもちゃで遊んでいますが、父親は一向に気づく気配がありません。
最後に紹介するのは、若い男女の寝室。本来ならば仲良く語らっているはずなのに、女性は画面の中の別の男性と会話している様子。隣の男性は陰になりふて腐れているかのような表情。
これらの広告は実に細かいところにまでこだわって作られています。画面を見る側に強く光があたる分、一方は暗く影になっています。これは、単に物理的な影響だけではなく、一方が画面の方に囚われていると、相手のことは死角となり見失ってしまうというメタファーかもしれません。
また、母親と子供のパターンでは、母親がネットショッピングで靴を選んでいる隣で娘は人形の靴を見つめ、車の動画を見る父親の隣では息子がミニカーのおもちゃで遊んでいるという風に、奇しくも親子は同じようなことに関心を持っているように描かれています。方向性は同じにも関わらず、お互いそれに気づかぬまま時間を過ごしてしまうという、すれ違いが描かれているんですね。
これらの広告は「スマートフォンを巨大にする」という1つのアイデアから生まれたシリーズです。たったそれだけのことなのに、この広告が伝えたかったことを見事に表現し、見る側に強烈なインパクトと重大なメッセージを伝えているように思います。
アイデアをかたちにするには、それが絵であろうと写真であろうと文字であろうと、そのスタイルは問いません。ただ、その伝えたいことの真をついているか、それだけが問題なのではないでしょうか。
created by : Donghai Liu ( China )
Ogilvy Beijing advertising agency
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