2024年5月6日、台湾観光庁が「台湾観光ブランド3.0」を発表しました。それにともない、ブランドアイデンティティが13年ぶりにリニューアルされました。
3代目となる今回のロゴタイプは、初代、2代目とは異なり、ミニマルなデザインが特徴です。波打っているような太い曲線の「TAIWAN」に、スローガン「Waves of Wonder」が添えられています。
アフターコロナ期に入り、日本でもインバウンドが急増しました。買い物から体験型へと旅行のトレンドも大きく変わっています。台湾もこの変化を踏まえ、将来を見すえた旅行者誘致を目指しているようです。
どのような狙いが新しいロゴデザインに込められているか見てみましょう。
台湾のさまざまな魅力を象徴しながら躍動する曲線
台湾観光庁(交通部観光署)の公式動画「TAIWAN – Waves of Wonder」は、野球と台湾高速鉄道の短いカットで始まります。続いて流れる都会、自然、文化を短く切り取ったモンタージュのあとに登場するのが、上空のカメラでとらえた鉄道のシーンです。
このS字型に曲がった線路上を走る車両に沿って登場するのが、プロモーション動画の主役である曲線です。
同様に農地や海沿いの道路をしばらく走ると、オレンジの曲線が勢いよく脈打ち、画面いっぱいに広がります。そこにあるのは次のことばです。
「Wave after wave of wonders(次々と押し寄せる驚きの波)」
グレーで描かれた2代目ロゴタイプが登場すると、新しい「3.0」のロゴタイプのオレンジの文字にひとつずつ置き換わっていきます。
新ロゴ「TAIWAN – Waves of Wonder」の全貌が示されるとすぐに糸がほぐれるように、ふたたびオレンジの曲線が出現。
孔子廟や三鳳宮など代表的な寺院の美しい装飾が波打つように流れ、瓦が細かく震え始めます。オレンジの曲線は、起伏に富んだ台湾の風景の中で、海岸線や山並みに沿って自在に旅を続けます。
温泉、買い物、イベント、食事など、旅行者が台湾で体験する楽しみが次々と紹介される中で、曲線は波形やスピード、色を変えながら、元のロゴタイプへと戻っていきます。
ちなみに、台湾観光庁の公式サイトでは、台湾観光ブランド3.0」のスローガン「TAIWAN – Waves of Wonder」の日本語訳を「台湾魅力・驚き喜び無限大」としています。
ロゴデザイン
Tourisme: #Taiwan adopte la nouvelle marque “TAIWAN – Waves of Wonder”. La graphie du logo s’inspire des courbes formées par les montagnes, l’océan, les routes & les voies ferrées à travers le pays…
▶️En savoir plus grâce à notre article: https://t.co/zMk1CwdgP0
📸studio Bito pic.twitter.com/vUbZIbLVpA
— Taiwan Info (@SiteTaiwanInfo) May 14, 2024
公式プロモーション動画では、新しいロゴデザインのコンセプトがとてもわかりやすく表現されています。
ワードマークが描く波は、旅行者を運ぶ鉄道や道路、四季折々に姿を変える自然のシルエット、そして途切れることのない台湾特有の楽しみを表現しています。そしてなにより、驚きと喜びではずむ旅行者の心を示しているのです。
台湾観光庁のプロモーションテーマは、「山に親しみ・海に親しみ・台湾一周を楽しむ」です。新しいロゴデザインは、このテーマを見事に体現しています。
ブランドカラーは、台湾の温かさと活力を伝えるために前代ロゴで採用されたオレンジ色を踏襲しました。
公式動画を踏まえて見ると、「TAIWAN – Waves of Wonder」のロゴデザインは、「台湾観光ブランド3.0」のコンセプトに基づいて緻密に練られたものであることがわかります。
台湾観光庁は、「持続可能性」と「デジタル」を両軸に、観光産業のモデルチェンジやレベルアップを推進しています。新しいロゴタイプやビジュアルアイデンティティからも、この動きがはっきりと見て取れます。
NASAの「ワーム」ロゴとアラン・フレミングの「CN」ロゴ
・NASAの旧ロゴ / OceanProd – stock.adobe.com
「TAIWAN– Waves of Wonder」のロゴタイプは、いくつかの点で米航空宇宙局(NASA)で1974年から1992年まで使われていた「ワーム」と呼ばれるロゴを思いおこさせます。太めの均一の線、クロスバー(横棒)のない「A」、つながった「A」と「S」、丸みのあるコーナーなどが特徴的です。
このミニマルなロゴは、デザイン関係者から高く評価されてきました。現在でもベストロゴのひとつとしてネット上で好意的に取り上げられています。NASAのこの時代のロゴは、スペースシャトルの画像などで確認することができます。
・カナディアン・ナショナル鉄道のロゴ / Kevin Brine – stock.adobe.com
もうひとつ、旅行や鉄道に関連して思い出されるデザインに、カナディアン・ナショナル鉄道(CN)のロゴがあります。カナダのデザイン界に大きな功績を残したグラフィックデザイナー、アラン・フレミング(Allan Fleming)が生み出したロゴです。
フレミングは「CN」ロゴのコンセプトを考える際に、十字架やエジプトの象形文字など、時が経っても古びない過去のシンボルを研究しました。そこから生まれたのが均一の太さの線を使うアイデアでした。
「C」から「N」へとつながった線は、目でたどると流れと動きを感じます。これは「ある地点から別の地点への人・物・情報の動き」をシンボル化したものであり「CN」という文字を描いている鉄道ルートであるとフレミングは述べています。
台湾観光庁のプロモーション動画の冒頭で、鉄道や道路の曲線にロゴのラインが重なる様子などに、CNのロゴのコンセプトと共通のものを感じます。
「TAIWAN– Waves of Wonder」のクリエイティブが、NASAのワームロゴやカナディアン・ナショナル鉄道のロゴを知っていたかどうかはわかりませんが、少なくとも、ミニマルで高品質なデザインである、という点は過去の名作ロゴと共通していると言えます。
台湾観光ブランド1.0と2.0
台湾観光のブランディングは2001年に初代がスタートし、2011年に2代目と交代しました。初代、2代目、そして今回の3代目のロゴデザインは、互いに異なるコンセプトで作られ、それぞれ個性が際立っています。
初代の王道的「Touch Your Heart」ロゴデザイン
動画作成例を見る (via YouTube)
初代ロゴはは、太い毛筆で書かれた「Taiwan」と赤い印章の組み合わせです。東アジアのイメージを伝えるデザインとしては、王道的アプローチと言えるでしょう。
落款(らっかん)風の印章は、台湾本島の形になっていて、中には漢字の「台湾」が入っています。
「Taiwan」の各文字の打ち込み部分が大きい塊になっています。プロモーション動画を見ると、これは人の頭部であることがわかります。「ai」「w」「an」は、それぞれひとが向き合っている様子が、隠し絵のようになっています。
ロゴタイプの下にレイアウトされているスローガン「Touch Your Heart」も含めて日本語にすると、「台湾、それは心に響く場所」といった感じでしょう。
「Taiwan, Touch Your Heart」ブランドのプロモーションは、台湾人の親しみやすく温かなイメージを伝えることに成功しました。2010年に台湾を訪れた観光客は500万人を超えました。
2代目「The Heart of Asia」ロゴデザイン
台湾観光庁は2009年から新ブランドのコンセプトの検討を続け、新しい台湾観光ブランドのスローガンを「The Heart of Asia」としました。台湾観光の中心テーマである「心」を踏襲しながらも、デザインは一新されています。
2代目のロゴは、ロゴタイプとハート型のシンボルマークの組み合わせです。
ロゴタイプは、ステンシルのようにデザインされたスラブセリフ風のフォントに変わりました。初代の伝統と東アジアを軸としたアプローチから、革新的で開放的な印象を与える方向に舵を切ったことを感じます。
シンボルマークには、台湾で体験可能なさまざまな要素が、親しみやすいタッチでぎっしり描かれています。
初代のロゴデザインは、台湾に対するひとびとのイメージを踏まえたものであるのに対し、2代目のロゴは、可能性に満ちた新しい台湾の姿を提示していると考えられます。
コロナ禍後の観光客誘致を期待
台湾観光庁が観光ブランド3.0版「TAIWAN– Waves of Wonder」をリリースした背景には、コロナ禍後の観光業界の回復と新たな市場開拓への期待があります。
2019年の訪台外国人は約1,100万人に達していましたが、2023年は約600万人にとどまります。日本と中国本土からの訪問客数がおおきく減少しました。日本人観光客は、2019年の約216万人でしたが、2023年には約93万人と半分以下です。
台湾政府は、観光業の活性化に熱心で、2016年以降、東南アジアからの観光客誘致を強化する「南向政策」を展開しています。ベトナム、タイ、フィリピンなどからの観光客は、ここ数年で3倍以上に急増しました。今後も東南アジア諸国からの観光客誘致を進める方針です。
2024年は、日本を始めとするアジア各国に加え、北米や東南アジア等から台湾への旅行者誘致を目指すなど、観光立国・台湾としてのビジョン「Taiwan Tourism 2030」実現へ向けた動きを加速させています。
日本向けスローガン「ビビビビ! 台湾!」
台湾観光庁は日本向けに、2023年から「ビビビビ! 台湾!」のスローガンで観光誘致を進めています。
2023年には女優の川口春奈さんをイメージキャラクターに「さぁ好奇心の旅へ!」キャンペーンをおこないました。 2024年は俳優の妻夫木聡さんをイメージキャラクターとして「したいことぜんぶ! (体験したいことが全部台湾にある!)」というキャッチコピーのもとにプロモーションを展開することが発表されています。
ほかの国と比べると、台湾を訪れる日本人は60代がもっとも多いようです。台湾観光庁は、これまでの顧客層を維持しながら、20~30代の男性、40代以上の男女に向けたプロモーションへの取り組みを強化していく、としています。
海外から日本への訪問者を見てみると、日本政府観光局(JNTO)によると、2023年の訪日観光客は2,500万人を突破しました。もっとも多いのは韓国からの訪問客で約700万人。その次が台湾からの約420万人でした。また、消費額は1位となっています。
2011年の東日本大震災では、世界で最大規模の義援金が台湾から寄せられました。熊本地震や能登半島地震でも被災地にあたたかい手を差し伸べています。
これを機に台湾観光を考えてみるのもよいかもしれませんね。
【参考資料】
[台湾観光庁・台湾観光協会公式サイトの新ロゴ紹介]
Say Hello to a New-Look Envato – Marketing – Envato Elements (https://elements.envato.com/learn/envato-rebrand)
[台湾観光庁・台湾観光協会公式情報サイト]
New TAIWAN Tourism Brand Communicate Globally:TAIWAN – Waves of Wonder > Tourism Administration, Republic of China (Taiwan) (https://eng.taiwan.net.tw/m1.aspx?sNo=0043496)
[日本向けプロモーション]
台湾観光イメージキャラクターに俳優の妻夫木聡さんが初就任。知られざる台湾の魅力を徹底解明! | いくたび、ふたたび台湾。(https://go-taiwan.net/ikutabi/archives/12057)
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