オーストラリアのEnvato社が、2024年7月16日(現地時間)に同社の公式サイトで、新しいロゴデザインを公開しました。
同社が運営している、世界最大級のストック素材サービスEnvato Elementsのサイトは、ユーザーインターフェースも全面的にリニューアルされています。
Envato社は、デジタル素材の総合プラットフォームを提供しています。若い3人の起業家が2006年に創業しました。いまでは世界中の利用者数が200万人を超えるまでに成長。
先代のロゴは、約10年間使われてきました。それがまったく新しいコンセプトのデザインに生まれ変わっています。どのような思いが込められているのでしょうか。Envato社の公式サイトでは、ロゴデザインが決められるまでのプロセスも紹介されています。
明るいグリーンのシンボルマークとしっかりとしたロゴタイプ
リニューアルされたロゴも、先代と同じく、シンボルマークとロゴタイプの組み合わせです。しかし、シンボルマークはまったく異なるコンセプトでデザインされました。ロゴタイプには力強い書体が採用されています。色は、先代の落ち着いたグリーンから、活き活きとした明るい色にかわりました。
シンボルマークは、稲妻のようにも見えるジグザグの太い線です。その線の一番下には小さなドット(点)が置かれています。
ブランドの頭文字「E」をモチーフとしたジグザグのシンボルを、Envato社は「クリエイティブスパーク」と名づけました。訳せば「創造のひらめき」とでもなるでしょうか。また、クリエイティブスパークの先のドットは、「ダイナミックドット」と呼んでいます。
ロゴタイプには、太いサンセリフ系の書体が選ばれました。細かく見ると「t」のストロークの交差部分の処理や「a」のテイルなど、特徴的な加工に気がつきます。先代のラウンド体と比べると、かなり異なる印象です。
シンボルマーク、ロゴタイプともに、デザインの方向が大きく変わったことがわかります。
クリエイターのための総合プラットフォーム
リニューアルされたロゴデザインの意図を知るために、Envatoがどのようなサービスを提供しているのか、かんたんに整理してみましょう。
Envatoは、デジタルコンテンツを売ったり買ったりできる、非常に大きなプラットフォームです。
写真や動画をはじめ、音楽、フォント、3Dモデル、ウェブサイト用のテンプレートやプラグイン、コードスニペットなど、幅広い素材やコンテンツがあつかわれています。クリエイターが自分の作品を販売したり、制作に必要な素材を購入できる、世界中のクリエイターにとって便利なプラットフォームです。
Envatoでデジタルコンテンツを販売するクリエイターは、「Envato author」と呼ばれます。Envato作家、またはEnvatoクリエイター、といった意味です。
Envatoの提供しているプラットフォームは複数あります。その代表的なものは以下のとおりです。
Envato Market
「Envato Market」は、世界中のクリエイターが作品を売ったり、買ったりできる総合的なオンラインマーケットです。
Envato Elements
サブスクリプションサービス「Envato Elements」では、定額で好きなだけ素材を利用できます。PIXTA、amanaimages、写真AC、いらすとや、といったものと同様のサービスです。
Envato tuts+
また、Udemy、Schoo、ドットインストールなどと同じように、クリエイティブに必要なスキルが学べるオンライン教育プラットフォーム「Envato tuts+」も提供しています。
ほかには、デザインツール「Placeit」、無料素材サイト「Mixkit」などがあります。
マーカーのストロークとドットが描くクリエイティブの瞬間
ロゴを紹介するEnvatoの公式動画で、今回のデザインが何を表しているかがわかります。動画は、次のコメントから始まります。
「すばらしいクリエイティビティは、いつもひとつの印(マーク)から始まる」
アイデアスケッチの中の気に入ったデザインや、参考になりそうな印刷物、写真、イラストがあると、わたしたちは印(マーク)を付けます。その印を付けるときに使われる、ありふれたマーカーペンが、Envatoの新ロゴを作るにあたっての発想の元となりました。
大文字「E」をモチーフにしたジグザグのストロークは、クリエイターの創造性をかき立てるエネルギーと活力を表しています。クリエイターが「クリエイティブスパーク」(創造のひらめき)を得ることを、Envatoが手助けしているということです。
また、クリエイティブスパークの下に置かれた「ダイナミックドット」は、クリエイターが世界に影響を与えることを象徴しています。英語の「make one’s mark」という表現は、印(マーク)を残す、という意味ですので、それをストレートに視覚化しています。「make one’s mark」という表現は、文脈によっては【名を残す・影響を与える】という意味にもなります。
つまり、このシンボルマークが表現しているのは、クリエイティブスパークによって、ダイナミックドットが生まれる様子です。
「私たちは、インスピレーションが湧いた瞬間、つまりクリエイティブなアイデアを現実にする興奮をとらえたいと考えました」
先に紹介したように、Envatoはクリエイターのためのプラットフォームです。クリエイターは自分が作った作品や素材、コードやノウハウを販売します。そして、クリエイターが、創作に必要な素材やコンテンツを購入します。Envatoは、クリエイターたちのコミュニティなのです。
公式サイトでは、次のように書かれています。
「Envato の明るく活気に満ちたエネルギーとコミュニティへの取り組みを、ロゴに反映させたいと考えました」
生き生きとしたグリーンと新カラーパレット
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先代と同じくグリーンをアイデンティティカラーとしながらも、新ロゴのコンセプトに合わせて、カラーパレットも一新されました。
一枚の葉のシンボルマークで使われていた渋めのグリーンは、大胆で明るい色に変えられ、「Envato Green」と名づけられました。
「活気に満ちた、弾むような、エネルギッシュな新しい色は、私たちのブランドに活気を与える新鮮な空気の息吹です」
カラーパレットには、「ハラペーニョ」「ソフトクリーム」「ダークバブルガム」の3色も加えられています。
ハラペーニョは深みのあるダークグリーン、ソフトクリームは、あたたかみのあるほのかなクリーム色、ダークバブルガム(風船ガム)は、ポップな印象を強める、エネルギッシュなパープルです。
全体に、カラーパレットも今回のリニューアルで、鮮やかで躍動的な方向を目指していることがわかります。
「Envato author」とのコラボレーション
Envatoが、クリエイターたちのコミュニティでもあることは、リブランディングのプロセスにも反映されています。
新しいブランドアイデンティティとソニックアイデンティティは、Envato authorと呼ばれる、Envatoに作品を提供しているクリエイターとの協働で生み出されました。
ロゴデザインはデザイナーMilos Mitrovic氏とのコラボ
書体デザイナーでありアートディレクターであるMilos Mitrovic氏が、Envatoのリブランディングで重要な役割を果たしました。
ノルウェーのベルゲンにスタジオを構えて活動しているMitrovic氏は、デザインの世界で20年以上のキャリアを誇ります。Envato authorとしても数多くの作品や素材を提供しているMitrovic氏に、Envatoはロゴリニューアルの話を持ちかけました。Mitrovic氏は言います。
「Envatoとは10年以上一緒に仕事をしてきました。ですから、ロゴとワードマークの制作を引き受けないかと打診されたとき、迷うことなく即座にイエスと答えました」
Mitrovic氏によると、今回のプロジェクトは、単純なロゴ制作の外注というものではありませんでした。世界中のEnvatoのスタッフとMitrovic氏とのコラボレーションの場がオンライン上に設けられ、クリエイティブなアイデアや考え方の交換がおこなわれました。特に決まった予定表や計画といったものもありませんでした。
その後の数週間で、12冊のスケッチブックに数え切れないほどのデザイン案が描き記されました。そして、ついに、マーカーにヒントを得た15個のデザインにしぼられたうえで、クリエイティブスパークとダイナミックドットにたどり着いたのです。
「Envatoとの仕事は、私のキャリアの中でもっとも記憶に残るコラボレーションのひとつです」
Mitrovic氏は、タイプファウンドリー「Gradient®」を経営しています。そこで2020年にリリースした書体「PolySans」も、Envatoのブランドフォントとして採用されました。PolySansは、インキトラップが特徴的で、伝統とモダンが融合した独特のデザインです。Envatoの公式サイトやSNSの見出しや本文でも効果的に使われています。
音楽家のK. Sparks氏が手がけたサウンドロゴ
ひとによっては「ソニックアイデンティティ」よりも「サウンドロゴ」のほうが聞きなじみがあるかもしれません。
新ロゴ紹介動画のエンディングで、クリエイティブスパークとダイナミックドットがリズミカルに描画されます。そこに添えられたサウンドロゴを制作したのが、K. Sparks氏です。
米国のヒップホップミュージシャンのK. Sparks氏は、作曲家、音楽プロデューサーです。K. Sparks氏は、映画やテレビ、プロモーション動画などに向けた、映像用音楽やサウンドエフェクトを提供する「Rhythm Couture」の最高経営責任者(CEO)でもあります。
Envato authorとして音楽ライブラリを提供しているSyncHitsにもK. Sparks氏は貢献しています。
「最初のいくつかのソニックスケッチは素晴らしかったのですが、大胆さが十分ではありませんでした。そこで、何度も見直し、作り直し、限界に挑戦しました。そして、最終的にEnvatoブランドを完璧に表現するサウンドができました」
「(Envatoスタッフとの)ミーティングは実際ミーティングのような感じはしませんでした。アイデアのやりとりをして、Envatoがやりたいことがクリアになりました」
完成品はまさにチームワークの賜物だったと言います。
ほかの数名のプロデューサーと協力しながら、録音、電子楽器、さまざまなボーカルテイクをブレンドして、サウンドが作られました。
・YouTube公式動画 – ソニックアイデンディティ部分
完成したサウンドロゴは、さまざまな音が使われています。たとえば、K. Sparks氏自身の「ウー」という声や、バスケットボールの「シュッ」という音、風船が破裂する音、マッチを擦る音、テニスのサーブ、黒板へ書き込む音、スニーカーの「キュッ」という音、車が通り過ぎる音、すばやく息を吸う音などです。ロゴには、実に120レイヤーもの音声が重ねられているのです。
K. Sparks氏が目指したのは、クリエイターたちが、大胆で、勇敢で、唯一無二になるための力を与えるソニックアイデンティティでした。
「最初のいくつかのソニックスケッチは素晴らしかったのですが、大胆さが十分ではありませんでした。そこで、何度も見直し、作り直し、限界に挑戦しました。そして、最終的にEnvatoブランドを完璧に表現するサウンドができました」
ガレージで生まれ、世界的ストックフォト企業の傘下へ
・ShutterstockのWebサイト / dennizn – stock.adobe.com
オーストラリアのシドニーのとあるガレージで3人の若者が「FlashDen」というマーケットプレイスを立ちあげました。2006年のことです。Adobe社のFlash Playerと互換性のあるテンプレートやアニメーション、スクリプトなどを取り扱っていました。Flash Playerは、ひところは必須アイテムとなっていたウェブサイト用の動画プラグインです。
その後も、プラグインやコード、ストック写真、フリーランサー向けマーケットプレイスなど、業容を拡げます。2014年には、「オーストラリアで最もクールなテクノロジー企業」に選ばれました。
Shutterstockの傘下にはいったことで、Envato社がデジタル素材のサブスクリプションプラットフォームであるEnvato Elementsに主軸を移した、という声もあります。
Envatoが、これまでどおりクリエイティブコミュニティであることをアピールして、レベルの高いクリエイターをつなぎとめると同時に、さらに呼び込みたい…という願いが、ロゴに込められているように思います。そうすることで、デジタル素材自体のクオリティも期待できるわけですから。
【参考資料】
[公式サイトの新ロゴ紹介]
Say Hello to a New-Look Envato – Marketing – Envato Elements (https://elements.envato.com/learn/envato-rebrand)
[Milos Mitrovic氏 – Behance]
Milos Mitrovic (https://www.behance.net/blacknail)
[ロゴデザイン紹介]
Design resource platform Envato launches new logo and sonic identity | Creative Boom (https://www.creativeboom.com/news/envato-launches-new-brand-identity/)
[Envato – Instagram]
Envato(@envato) (https://www.instagram.com/envato/)
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