
スシ、テンプラ、エダマメ、ラーメン、ウマミなどなど、多くの日本語が海外でそのまま使われていますが、「極度乾燥(しなさい)」を発見したときはかなりの驚きでした。
実は、これはSuperdryというイギリス発のアパレルブランド。創業2003年以来、英国はもちろん、ヨーロッパや北米、南米など61もの国で展開されている超人気ブランドです。

・Superdryのブランドロゴ / Claudio Divizia – stock.adobe.com
このコラムでは、Superdryのビジネスを紹介します。日本に店舗がなく、日本人にほとんど知られていないSuperdryがユニークな日本語とともにどう成長してきたのでしょうか。
ブランドSuperdry「極度乾燥(しなさい)」が誕生

・Superdryの店舗 / Björn Wylezich – stock.adobe.com
2003年、James Holder氏とJulian Dunkerton氏が地元コッツウォルズのCheltenham(チェルトナム)にてコラボを始めました。この時、彼らのブランドが将来全国的いや世界的な成功を収めることになるとは夢にも思っていませんでした。
Superdryの共同設立者のJames(ジェームス)氏は、Benchという有名なスケートウェアブランドをすでに設立していていましたが、これはグラフィックとタイポグラフィへの愛情が示された商品でした。
それが一転、Julian(ジュリアン)氏と立ち上げたSuperdryは、なんと日本に刺激を受けたブランドになったのです。ロンドンの古着、アメリカのヴィンテージスタイル、そこに日本語のデザインを加えたのがSuperdryです。
2004年、ロンドンの中心地コベントガーデンに「Superdry 極度乾燥しなさい」ブランドのショップを出しました。当時、服やバッグに「極度乾燥しなさい」と書かれたロゴに遭遇した多くの在英日本人が話題にしたものでした。
Superdry「極度乾燥(しなさい)」のブランド名はどこから?

ジェームスとジュリアンが日本を訪れました。そしてこの旅が彼らにとって特別なものとなります。東京からインスピレーションを大いに受けたのです。
東京で2人は食べ物やお店のパッケージを大量に集めます。あらゆるものに「スーパー」というラベルが付いていることも見つけました。そして、あるバーで行なわれた2人のブレインストーミングの結果、それまでコレクションしたものに入っていた某ビール・スーパードライをブランド名とすることに決定したのです。

イギリスに戻ったジェームスは、英語名の上に日本語でスーパードライと書き添えたデザインを試み、ブランドのロゴに日本らしさを加えることになったのです。
ちなみに、欧州でビールのアサヒスーパードライが初めて参入されたのが1997年です。
Superdryを着るディビット・ベッカム
イギリスのフットボールファンであれば、2002年に日韓合同W杯でデイビット・ベッカムが出場したことを覚えているかもしれません。
その後2007年、ベッカムがSuperdryの「Osaka 6 T-shirt」を含むオリジナルTシャツ(5枚組)を初めて着用、世界が注目します。
他にもレオナルド・ディカプリオ、ケイト・ウィンスレットやダニエル・ラドクリフも愛用していたということで、謎の日本語が入ったSuperdryは世界を舞台にどんどんメジャーになっていったのです。
「意味のわからない外国語」がブランド名として機能するメカニズム
Superdryの「極度乾燥(しなさい)」は、日本語としては意味が通じない奇妙な表現ですが、英語圏の消費者にとっては「エキゾチックで格好いいジャパニーズテキスト」として受容されています。この現象は、日本の製品に英語やフランス語を使う場合にも逆方向で起きています。
制作の視点で重要なのは、「外国語をデザイン要素として使うとき、文法や意味の正確さよりも、文字の見た目(フォルム)がデザインに与える効果を優先する場合がある」ということです。漢字やひらがなは、欧文にはない画数の多さや筆文字のニュアンスを持っており、海外ではそれ自体がグラフィック要素として機能します。
ただし、日本国内で使用する制作物に不自然な外国語を入れると、逆に「ダサい」「意味がわからない」と受け取られるリスクがあります。「外国語をデザイン要素として使う」手法は、ターゲット市場がその言語に馴染みがない場合にのみ効果を発揮する、という前提を忘れないことが大切です。
「極度乾燥(しなさい)」の衝撃的アイデア

DenisMArt – stock.adobe.com

Tobias Arhelger – stock.adobe.com
Superdryの衣料品には英字の横に配置された「極度乾燥(しなさい)」という日本語が使用されています。日本人にしてみたら驚きの和訳、これは中国語?と思える漢字らしきものも使われています。
ここにもう一つ、Superdryの戦略が見てとれます。
そもそも、正確な訳にする意図はなく、自動翻訳ソフトで翻訳されているのです。このアイデア、そして翻訳された結果にも衝撃を受けるとともに、こんな風に日本語を遊びロゴに仕立てるんだという奇抜なアイデアに感心します。もともと謎の日本語を使うコンセプトがあるとか?!
このコンセプトが大当たりでクールなファッションと認められ、謎のロゴ入りSuperdryファッションに火がついたのです。
ちなみに、現在の日本語は「極度乾燥(しなさい)」から「冒険魂」になっています。
Superdryのカジュアルなファッション
日本以外の世界中の国で購入できるSuperdryはメンズ、ウィメンズとキッズのアウターやTシャツ、バックパックなどが人気です。全体的にカジュアル、スポーティですが、ウィメンズにはワンピースなどドレッシーなラインも揃っています。
Superdryの価格帯も紹介しましょう。
Tシャツ3枚セットが50ポンド(約8,200円)、フーディー(パーカー)が60ポンド前後(約9,800円)、バックパックが50ポンド前後(約8,200円)といった感じです。※為替レートは2022年7月15日のもので計算しています。
海外市場で魅力的な要素が、本国では逆効果になる「文化距離」の構造
Superdryのデザインが面白いのは、「海外(イギリス)市場では魅力的に映るのに、本家(日本)では奇妙に見える」という、市場ごとに評価が大きく分かれる点です。これは「文化距離」と呼ばれる現象で、ブランド設計では押さえておきたい構造です。
文化距離が大きいほど、その国の文化要素は「異国情緒」として魅力的に映ります。逆に、自国の文化要素は当たり前すぎて魅力に映りにくくなります。Superdryの日本語は、イギリス人には「クールで未知のもの」ですが、日本人には「変な日本語」になります。同じことが逆方向でも起こります。日本市場で英字ロゴが人気なのは、欧米人にとっては当たり前のアルファベットが、日本人には「洗練された印象」を生むためです。
ブランドを設計するときには、「対象市場の文化距離」を意識すると、効果的なビジュアル戦略が立てられます。輸出を視野に入れているなら自国文化の要素を活かす、国内向けなら海外要素を取り入れる、という具合に、文化的な距離感を意図的に活用できる場面があります。本家市場と海外市場で違うデザインを使い分ける、という選択肢も合理的です。
テレビ広告をしないSuperdry

thinglass – stock.adobe.com
誕生した当初もテレビで広告を出すことがなかったSuperdry。マーケティングでは「製品が適切な人々に行き渡ること」にフォーカスし、ベッカムなどのインフルエンサーを起用することでやってきたのです。
このやり方をとっても、自動翻訳ソフトで翻訳されるおかしな日本語にしても、オリジナル性が高いブランドと言えるでしょう。
「広告に頼らないブランド」のデザイン設計には、独自の発想が要る
Superdryは創設当初からテレビ広告に頼らず、インフルエンサーマーケティングで成長してきたブランドです。これは現代のSNS時代以前から取り入れられていたアプローチで、ブランドのデザイン設計にも独特の影響を与えています。
広告で「説明する」前提のブランドは、ロゴやコピーで多くの情報を伝えようとします。一方、「着用されている姿が広告」というブランドは、デザインそのものが目を引く必要があります。Superdryのロゴが大きく目立つ「極度乾燥(しなさい)」になっているのも、Tシャツやジャケットに着用されたときに、遠くからでも視認できる「歩く広告塔」として機能させるためです。
このアプローチをとるブランドは、「説明よりインパクト」「内容より視覚的記号」を優先する設計になります。受け取る側が一瞬で「あのブランドだ」と認識できれば、それで広告効果が成立する仕組みです。SNS中心で発信を考える現代のブランドにも、似た発想が応用できます。「画面を一瞬通過する間に何を残せるか」を起点に設計すると、長文の説明よりも、強い視覚記号のほうが効くケースが多くなります。
日本人の知らないSuperdry人気
東京でアイデアを得て、ブランド名がSuperdryに決定。自動翻訳ソフトで「極度乾燥(しなさい)」という謎の日本語を作りだし、それがインフルエンサーによって今や世界各国に広められました。
日本人の知らない英国ブランドSuperdry、お楽しみいただけていたら嬉しいです!
参考:
・LDNFASHION (https://www.ldnfashion.com/features/superdry-facts/)
・Superdry (https://www.superdry.com)
・Wikipedia Superdry (https://en.wikipedia.org/wiki/Superdry)
・Fritinancy (https://nancyfriedman.typepad.com/away_with_words/2010/05/how-superdry-got-its-name.html)

<プロフィール> ビスコム
ロンドン在住ライター。イギリスに住み、さらに強くなったデザインやアートへの興味をライティングに活かす。インテリアにも食指が動き、Edward BulmerやWilliam Morrisのセンスに憧れる。剣道道場運営やボランティア活動も行ない、バランスのとれた在英生活を満喫中。
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