映画のヒット作品にはアメリカンコミック(略称アメコミ)が原作となっているものが多くあります。特にヒーローを題材にしたものは「アメコミヒーロー映画」というジャンルにまとめられたりします。なかでもここ10年ほどは、アイアンマンやキャプテン・アメリカ、スパイダーマンといった複数の物語のヒーローが1本の作品の中に登場する『アベンジャーズ』などの映画がメガヒットを飛ばしています。
このようなスーパーヒーローのチームが活躍するアメコミ作品『リージョン・オブ・スーパーヒーローズ』を「ペンシラー」として精緻でリアリスティックな筆致で描いたアーティストがジェームズ・シャーマンです。
Comic book creator James Sherman at the November 2008 Big Apple Convention in Manhattan by Nightscream (CC BY 3.0)
アメコミの制作は分業システム
アメコミは分業システムによって作品が生み出されています。ライター(writer)、ペンシラー(penciller)、インカー(inker)、カラリスト(colorist)、レタラー(letterer)といった作業ごとに専門職がいます。
ライターはストーリーを考えます。ペンシラーは主に鉛筆を使って下絵を描く担当です。ライターの脚本に基づいてコマ割りや構図を決定しながらストーリーを視覚化します。インカーは下絵に対してペンや筆で絵を完成させます。
ペンシラーによって絵のタッチが決まる場合もあれば、ペンシラーの下絵を参考にしてインカーが絵のタッチを決定することもあります。彩色はカラリストがおこないます。ペンシラーがインカーやカラリストまで兼業している場合はアーティスト(artist)と呼ばれることもあります。
吹き出しやオノマトペ(擬音語・擬態語)、表紙のタイトルロゴなど文字まわりを担当するのがレタラーです。レタラーでは登場人物ごとに書体を変えるなど革新的なスタイルを追求したギャスパー・サラディノ(Gaspar Saladino)が有名です。
アメコミの著作権は出版社が保有
アメコミでは作品やキャラクターの権利を出版社が所有しているのが一般的です。ですから、同一のヒーローを主人公にしたシリーズであっても、実制作にたずさわる人は時の流れとともに変わっています。
たとえばDCコミックス(DC Comics)社の『スーパーマン』(Superman) は1938年に登場してから現在でも続いている息の長いシリーズで、作品作りに関わった歴代ライターとペンシラーはそれぞれ20人を数えます。そのため時代によってストーリーのコンセプトや設定も変わるし、スーパーマンの顔つきも変わっていきます。
アメコミではライターやペンシラー、インカーについても評価と好みが変わり、それぞれのファンがいます。東宝の映画『ゴジラ』シリーズが製作年代によって監督も着ぐるみも変わっているのに似ているかもしれません。
『リージョン・オブ・スーパーヒーローズ』への関わり
コミックの世界に入る前、広告グラフィック業界に身を置いていたジェームズ・シャーマンは、その経験を活かしてアメコミに新しいリアリズムをもたらしました。子供のころからアメコミの大ファンだったシャーマンは大学を卒業すると年に数回ポートフォリオを出版社に持ち込み、アメコミ界に職を得ようと試みます。
5年間チャレンジを続け、1975年の年末ついにアメコミの2大出版社であるDCコミックスとマーベルコミックス(Marvel Comics)の両方から同じ日に仕事のオファーを受けることになりました。1976年にDCコミックスの『Tarzan Family』と、マーベルコミックスの『Blackhawk』でペンシラーとしてデビューします。
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ジェームズ・シャーマンの代表作の一つは『スーパーボーイ・アンド・リージョン・オブ・スーパーヒーローズ』(Superboy and Legion of Super-Heroes)です。シャーマンは1977年から1978年までライターのポール・レヴィッツ(Paul Levitz)と組んで人気を博しました。このシリーズでは、スーパーヒロイン「ドーンスター」(Dawnstar)や敵の「インフィニットマン」(Infinite Man)といった印象的なキャラクターが登場しています。
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1970年代から80年代にかけてシャーマンはDCコミックス、マーベルコミックスの作品を数多く手がけました。また、1991年と1992年にはイレイン・リー(Elaine Lee)原作のグラフィックノベル、『The Transmutation of Ike Garuda』の作画もしました。この作品はノワール(黒)スペースオペラと呼ばれるジャンルに含められています。
映画『メン・イン・ブラック』への関わり
ジェームズ・シャーマンは映画作品にも関わっています。1997年に公開され大ヒットしたSFコメディアクション映画『メン・イン・ブラック』(Men In Black)では、エイリアンや武器、乗り物などのデザインをしました。また、ディズニーの長編アニメ『ヘラクレス』(Hercules)などいくつかの映画で、ストーリーボード、アートディレクション、衣装や小道具のデザインなどを手がけています。
MLBロゴについてのミステリー
1969年に米メジャーリーグ(MLB)はプロ野球100周年を記念したロゴを作成しました。この「バッターマンロゴ」とも呼ばれるロゴは、色味が若干変わりましたが現在でも使われています。シャーマンはこのロゴを自分が作成したと2003年発行の書籍でインタビューに答えています。
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しかし、スポーツ専門チャンネル「ESPN」が2008年におこなったシャーマンへの取材でMLBのロゴがシャーマンの手によるものでないことが判明しました。1980年代に同様のデザインのロゴを作成していたことがあったためにシャーマン自身も勘違いしていたのです。
そして、このロゴの本当の作成者ジェリー・ディオー(Jerry Dior)というグラフィックデザイナーをシャーマンが探し出しました。その後のESPNの取材やMLBの調査で1969年のMLBロゴ作成のいきさつの一部が明らかになりましたが、シャーマンのロゴの経緯は謎に包まれたままです。シャーマンは食料品を中心としたスーパーマーケットShopRite(ショップライト)など他にいくつかのロゴも制作しています。
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ジェームズ・シャーマン(James Sherman)
1948年〜
米国
アーティスト(ペンシラー、インカー)
【参考資料】
・James Sherman、Wikipedia(https://en.wikipedia.org/wiki/James_Sherman_(comics))
・Superboy and the Legion of Super-Heroes #231 – A Day In The Death Of A World! (Issue)(https://comicvine.gamespot.com/superboy-and-the-legion-of-super-heroes-231-a-day-/4000-17753/)
・MLB Updates Their Famous Batter Logo, Colours, and More | Chris Creamer’s SportsLogos.Net News and Blog : New Logos and New Uniforms news, photos, and rumours(http://news.sportslogos.net/2019/04/23/mlb-updates-their-famous-batter-logo-colours-and-more/)
・Uni Watch: Intelligent design – ESPN Page 2(https://www.espn.com/espn/page2/story?page=lukas/081105)
・The Legion Companion (Glen Cadigan, TwoMorrows Publishing, 2003)
・アメコミ入門 – 第3回 分担作業も多種多様、アメコミ作りの分業制 | ComicStreet(外漫街)(https://comicstreet.net/discover/comics-usa/usa-comics-introduction-3/)