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賢い提案方法

「この値段じゃ割に合わない!」を防ぐ。クリエイティブの価格設定と賢い提案方法

フリーランスのデザイナーやイラストレーターとして活動していると、多くの方が一度は悩むのが「価格設定」ではないでしょうか。特に、イラスト・デザイン制作のようなクリエイティブな作業は、かけた時間や労力、そして自身のスキルや経験といった目に見えにくい価値を、どう価格に反映させるかが難しいところです。

「このイラスト、構想から完成まで〇〇時間もかかったんだ。もっと高い金額を請求したい!」

こんな風に思うことは、制作者として当然の気持ちですよね。僕も、渾身の作品が出来上がったとき、その価値を正当に評価してほしいと強く思います。

でも、一方で厳しい現実もあります。こちらが「これだけの価値があるはずだ」と提示した金額に対して、クライアントから「うーん、その値段なら今回は見送ります…」と言われてしまうケース。これも、悲しいけれど、実際によく起こることです。

今回は、この「制作者の思い」と「クライアントの現実」のギャップを埋め、お互いが気持ちよく仕事を進めるための価格設定と提案方法について、僕なりの考えをまとめてみました。

 

「これだけ時間をかけたんだから!」制作者の気持ち

まず、制作者側の気持ちをもう少し深く掘り下げてみましょう。一枚のイラスト・デザインが完成するまでには、単に手を動かしている時間以外にも、たくさんの工程があります。

  • ヒアリングとリサーチ:クライアントの要望を正確に理解し、テーマやモチーフについて調査する時間。
  • コンセプトメイキング:方向性を定め、アイデアを練る時間。ラフスケッチを何枚も描くこともあります。
  • 線画・着彩:デジタルツールや画材を駆使して、実際に形にしていく時間。試行錯誤も含まれます。
  • 修正対応:クライアントからのフィードバックを受けて、調整を加える時間。
  • スキル習得のコスト:ここまで描けるようになるために費やしてきた、長年の学習時間や画材・ソフトウェアへの投資。

これらすべてが、成果物であるイラストの価値に含まれているはずです。だからこそ、「かけた時間や労力に見合った対価が欲しい」と感じるのは、ごく自然なことだと思います。特に、細部までこだわり抜いた作品や、複雑な要望に応えた作品であれば、なおさらですよね。

一方、クライアントの現実「その値段なら、いらないかも…」

クライアント側にも事情があります。多くの場合、プロジェクトには予算が設定されています。そして、クライアントは提示された価格とその成果物(イラスト・デザイン)によって得られる価値を天秤にかけます。

ここで重要なのは、クライアントにとっての「価値」は、必ずしも制作者の「かけた時間や労力」とイコールではない、ということです。

例えば、クライアントが求めているのが「ブログ記事の簡単な挿絵」だったとします。制作者としては「もっとクオリティの高いものを!」と意気込んで、何時間もかけて細部まで描き込んだイラストを提案したとしましょう。そして、その労力に見合った価格を提示します。

しかし、クライアントからすると「確かに素晴らしいイラストだけど、ブログの挿絵にそこまでのクオリティは求めていなかったな…。この値段を出すなら、他のことにお金を使いたい」と感じてしまうかもしれません。

「その値段なら、いらない」という言葉の裏には、「その価格に見合うほどの価値を、今の私(クライアント)はこのイラストに感じていない」という意味合いが含まれていることが多いのです。決して制作者のスキルや作品そのものを否定しているわけではありません。あくまで、その特定の状況下における費用対効果の判断なのです。

 

現実的な解決策としての「松竹梅」プラン

松竹梅

では、どうすればこのギャップを埋められるのでしょうか?

僕がおすすめしたいのが、「松竹梅」的な価格プランの設定です。提供するイラスト・デザインの仕様や作業範囲に応じて、複数の価格帯を用意するという考え方です。

松(プレミアム)プラン:高価格帯

  • 内容:最も高品質で、時間と労力をかけたプラン。複雑な構図、細部までの描き込み、複数回の修正対応込みなど、手厚い内容。
  • ターゲット:クオリティを最重視するクライアント、予算に余裕があるプロジェクト。
  • 制作者のメリット:理想とするクオリティを追求でき、十分な対価を得られる。

竹(ベーシック)プラン:中価格帯

  • 内容:品質と価格のバランスが取れた標準的なプラン。一般的な要望に応えつつ、作業範囲や修正回数に一定の制限を設ける。
  • ターゲット:多くのクライアント、標準的なプロジェクト。
  • 制作者のメリット:現実的な範囲で、安定した受注が見込める。

梅(ライト)プラン:低価格帯

  • 内容:シンプルな仕様に限定した、最も手頃なプラン。簡単なタッチ、単色や少ない色数、修正なし(または1回のみ)など、作業を簡略化。
  • ターゲット:予算が限られているクライアント、とにかく早く安くイラスト・デザインが欲しい場合。
  • 制作者のメリット:価格がネックで失注する可能性を減らせる。簡単な作業で対応できる。

この「松竹梅」プランの最大のポイントは、価格を下げる代わりに、提供する内容(=自分の労力)もディスカウントするという点です。

「梅プラン」は、決して「松プラン」と同じものを安売りするのではありません。「梅プラン」の価格に見合った、よりシンプルな内容、より少ない作業量で対応するのです。制作者は不当に安売りすることなく、クライアントは予算に応じた選択肢を得ることができます。

「松竹梅」プランをうまく活用するポイント

この段階的価格設定を効果的に使うためには、いくつかコツがあります。

各プランの内容を明確にする

何が含まれていて、何が含まれていないのか(例:修正回数、ラフ案の数、描き込みの度合い、背景の有無、納品形式など)を具体的に定義し、クライアントに分かりやすく提示することが重要です。こうすることで、後々の認識のズレを防げます。

クライアントのニーズを把握する

最初のヒアリングで、クライアントがイラスト・デザインに何を求めているのか、予算はどのくらいか、どの程度のクオリティを期待しているのかをしっかり聞き出すことが大切です。その上で、最適なプランを提案したり、複数のプランを提示して選んでもらったりすると良いでしょう。

安易に「梅」に流れない

クライアントから値引き交渉をされた際に、すぐに「じゃあ梅プランで…」とするのではなく、まずは「松」や「竹」の価値をしっかり説明することが大切です。その上で、予算的に厳しい場合に「梅プランであれば、このようなシンプルな形になりますが対応可能です」と代替案を示すのが理想的です。

自分の作業量もしっかり調整する

「梅プラン」を受けたのに、ついついサービス精神で「松プラン」並みの作業をしてしまう…これは避けたいところです。プランごとに作業範囲を明確に区切り、その範囲内でベストを尽くす、という意識を持つことが大切です。「安いプランだから手を抜く」のではなく、「安いプランだから、その価格に見合ったシンプルな作業をする」という考え方です。

価格だけじゃない、大切なのはコミュニケーション

価格設定は非常に重要ですが、それだけが全てではありません。クライアントとの良好な関係を築き、お互いが満足できる仕事をするためには、やはりコミュニケーションが不可欠です。

  • なぜこの価格なのか?(プランによる作業範囲の違いなど)
  • このイラスト・デザインで何を実現したいのか?
  • 予算はどのくらいか?
  • スケジュールはどうか?

これらを丁寧にすり合わせることで、価格に対する納得感も高まりますし、認識のズレによるトラブルも防げます。「松竹梅」プランは、こうしたコミュニケーションを円滑に進めるためのツールとしても役立ちます。選択肢を提示することで、クライアントは自分の状況に合わせて選びやすくなり、制作者側も一方的に価格を押し付ける形になりません。

 

まとめ – 賢く、柔軟に価値を提供しよう

「自分の時間と労力には、正当な対価が支払われるべきだ」

この気持ちは、クリエイターとして持ち続けて良い大切なものです。

しかし、その思いだけで価格を決めてしまうと、クライアントのニーズや予算と噛み合わず、せっかくの機会を逃してしまうこともあります。

そこで提案したいのが、今回の「松竹梅」のような段階的な価格プランです。これは単なる値引きではなく、提供する価値(作業範囲やクオリティ)と価格を連動させる考え方です。

  • 最高の仕事には、最高の価格を(松)
  • 標準的な仕事には、標準的な価格を(竹)
  • シンプルな仕事には、手頃な価格を(梅)

そして、どのプランを選ぶにしても、その価格に見合った自分の労力を投入する。

このように柔軟な提案方法を取り入れることで、クライアントは予算やニーズに合わせて選びやすくなり、制作者は価格が理由で仕事を取りこぼすリスクを減らすことができます。そして何より、「割に合わない…」と感じるストレスを軽減できるはずです。

価格設定に悩んでいるデザイナーさん、イラストレーターさんの参考になれば嬉しいです。自分たちの価値を守りつつ、賢く、柔軟に、クライアントに価値を提供していきましょう!

 

「このイラストはこれだけ時間がかかるんだから、もっと制作費を貰わないといけない!」という気持ちは理解できます。ただ現実問題として「その値段ならいらない」と言われることもあり得るので、”松竹梅”的な価格プランの設定がオススメです。安く提供する時は自分の労力もディスカウントしよう。

X (Twitter) – Jan 9, 2021



この記事は過去の自分のX(Twitter)のポストを元に、編集しています。

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グラフィックデザインを中心とした小さなデザイン事務所を経営しています。スタッフや外部のデザイナーさん・ライターさんに助けられながら、コツコツと地道に仕事をする日々が気に入っています。パッケージメーカーのデザイナーとして新卒入社→美容系のベンチャーに転職→家庭用品メーカーに転職...という流れを経て、その後独立しました。フリーランスデザイナーとして、10年以上の経験から学んだことや雑記をブログにしています。情報発信が趣味に近く、それが興じてPhotoshop関連の本を出版したり、noteを執筆したりしています。