
「手間ひま」という言葉の裏側で、僕たちが本当に感じる価値とは何か?
ネットでも街中でも、「手間ひま」を強調する広告を見かける機会は少なくありません。
手作りのアクセサリー、じっくり煮込んだカレー、職人技が光る革製品。その言葉には、作り手の誠実さや愛情が込められているようで、なんだか温かい気持ちになりますよね。僕たちもデザイナーとしてものづくりに関わる端くれとして、その気持ちは痛いほどわかります。
ただ、こうも思います。「手間ひま」って、それ自体が価値の本質なんだろうか?と。
「頑張り」のアピールに違和感を覚える時
以前、あるお店で「○時間じっくり煮込みました!」と大きく書かれたカレーを食べたことがあります。期待に胸を膨らませて一口。…うん、普通に美味しい。でも、正直なところ「○時間」という情報がなければ、そこまで特別な感動はなかったかもしれません。
この経験は、小さな問いを投げかけました。
もし、そのカレーの品質や味がそこそこだったとしたら、「○時間煮込んだ」という事実は、どれほどの価値を持つだろうか…と。
作り手が頑張っている姿をアピールしたい気持ちは、とても自然なことです。でも、その「頑張り」が、受け取る側の「感動」に直結するとは限りません。むしろ、最終的に仕上がったモノの品質や見た目、使いやすさといった点が先立ち、その上で「こんなに手間がかかっているんだ」と知るからこそ、感動が増幅されるのではないでしょうか。
工業製品やアプリの世界を考えてみると、この関係はもっとクリアになります。最新のスマートフォンや便利なアプリに対して、「エンジニアが何千時間もかけて開発しました!」とアピールされることは稀です。僕たちが評価するのは、あくまでその使いやすさ、デザインの美しさ、機能の革新性。その裏にある膨大な「手間ひま」は、最終的なアウトプットの価値を高めるための、見えない土台のようなものだと思います。
僕たちが「手間ひま」に心を動かされる瞬間とは
では、僕たちはどんな時に「手間ひま」に対して、素直に価値を感じるのでしょう。
それはきっと、「手間ひま」そのものではなく、その背景にある「ストーリー」や「思想」に心を動かされている時ではないでしょうか。
例えば、フェアトレードのチョコレート。カカオ豆の生産者に公正な対価が支払われる仕組みは、単なる美味しさを超えた「意義」を僕たちに与えてくれます。この場合、「手間ひま」は生産者の労働や生活を守るという、大きな物語の一部です。僕たちはその物語に共感し、対価を支払うのです。
あるいは、何代にもわたって受け継がれてきた伝統工芸品。
こうしたものに感じる価値は、単に「作るのが大変だから」という理由だけではないはずです。その技術が失われれば二度と再現できないかもしれないという儚さ、地域や国の歴史を背負ってきたという重み。まさに「歴史を紡いでいる」という壮大なストーリーが、モノに特別な価値を与えています。それは、時間と人の想いが幾重にも重なった、かけがえのない価値です。
そう考えると、僕たちが本当に価値を感じているのは、作業時間や労力そのものではなく、その先に透けて見える「人の想い」や「譲れない哲学」なのかもしれません。
プロセスを見せる意味、見せない意味
デザイナーという仕事柄、「制作のプロセス」をどう見せるか、というのは常に悩むポイントです。
クライアントにデザインを提案する際、「こんなに時間をかけて考えました」とアピールしたくなる気持ちをぐっと堪えることがあります。なぜなら、多くの場合、クライアントが求めているのは「費やした時間」ではなく、「課題を解決するアイデア」だからです。
ただ、プロセスを見せることが大きな意味を持つ場合もあります。
それは、新しいブランドを立ち上げる時のように、「これからどこへ向かうのか」という未来を共有したい時です。どんな想いからこのプロジェクトが始まったのか、どんな試行錯誤があったのか。その「起点」を示すことで、まだ形になっていない未来への期待感や共感を育むことができます。
ここでも重要なのは、単なる作業報告ではなく、「なぜそう考えたのか」という思想や哲学を伝えることです。完成されたプロダクトだけでは伝わりきらない、根っこの部分を共有する。プロセスを見せる意義は、そこにあるのだと思います。
これからの時代の「価値」を捉え直す
「手間ひま」は、それ自体が絶対的な価値を持つわけではありません。
どちらかと言えば、料理における「隠し味」のようなものなのかもしれません。隠し味だけで料理の味が決まることはありませんが、ベースとなる素材や調理法がしっかりしていてこそ、全体のクオリティをぐっと引き上げてくれる存在です。
作り手は、「手間ひま」という便利な言葉に頼りすぎるのではなく、自分たちが本当に届けたい価値の本質(品質、美しさ、思想、物語)と向き合う必要があるでしょう。
そして僕たち受け手も、「手間ひまがかかっているから良いものだ」と短絡的に考えるのではなく、その言葉の裏側にあるストーリーや品質をしっかりと見つめる。自分が何に心を動かされ、何に対して対価を払いたいのかを意識する。
そうやって、作り手と受け手の双方が「価値」についての解像度を上げていくことが、もっと豊かなもの選びや消費体験に繋がっていくのではないでしょうか。
あなたにとって、「価値がある」と感じるモノには、どんなストーリーがありますか?
手間暇そのものを価値として押し出されるのに違和感があるのは、その理屈で言うならアプリや工業・家電製品も人的手間暇で価値が上がるのかという疑問。手間暇はストーリーとしてブランドの価値に貢献することはあっても、価値は最終仕上がった製品の見た目や品質面等が先立つと思います。
X (Twitter) – Feb 23, 2022,
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