
その「ビニール袋」は本当にビニール製?日常に潜む素材の勘違い
普段、何気なく使っている言葉やモノに対して、「あれ、これって本当にそうなのかな?」と、ふと疑問に思うことってありませんか。そんなことをぼんやり考える時間が好きだったりします。
今回は、そんな日常の中で僕が「おや?」と思った、身近なアイテムの「素材」に関するお話です。特に、私たちの生活に欠かせない「袋」について。もしかしたら、長年の思い込みが覆るかもしれませんよ。
みんな呼んでる「ビニール袋」、でもその正体は?
商店で「ビニール袋いりますか?」と聞かれたり、家でゴミをまとめるのに「ビニール袋どこだっけ?」なんて言ったりしますよね。この「ビニール袋」という言葉、あまりにも日常に溶け込んでいますが、実はちょっとした落とし穴があります。
レジ袋でお馴染み、実は「ポリエチレン」
まず、お店で商品を入れてもらう、あの半透明でシャカシャカ音がする袋。多くの人がこれを「ビニール袋」と呼んでいると思いますが、その主な素材は「ポリエチレン(PE)」です。
ポリエチレンは、軽くて丈夫、そして比較的安価に加工できるため、レジ袋の他にも、食品を保存するための袋やラップフィルム、シャンプーのボトルなど、本当に幅広い用途で使われています。僕たちの生活を陰で支えてくれている、まさに縁の下の力持ちのような存在ですね。
お菓子の袋のパリパリ感は「ポリプロピレン」
次に、お菓子やパン、雑貨などを包装している、透明で少しパリッとした質感の袋。あれは「ポリプロピレン(PP)」という素材で作られていることが多いです。
ポリプロピレンは、ポリエチレンよりも透明度が高く、少し硬めでコシがあるのが特徴。熱にも比較的強いので、電子レンジ対応の食品容器などにも使われています。CDやDVDのケースなんかも、このポリプロピレン製が多いですね。指で弾くと、ポリエチレンの袋とは少し違う、乾いた音がするのも特徴かもしれません。
つまり、普段僕たちが「ビニール袋」と一括りにして呼んでいるものの多くは、実はポリエチレン製かポリプロピレン製。「ポリ袋」と呼ぶのが、素材的にはより正確、ということになります。
じゃあ本物の「ビニール」って何者?
では、「ビニール」とは一体何なのでしょうか。本来「ビニール」と呼ばれる素材の正式名称は「ポリ塩化ビニル(PVC)」と言います。「塩ビ(えんビ)」と略されることも多いので、そちらの呼び方なら聞き覚えがあるかもしれません。
「ポリ塩化ビニル(PVC)」の意外な活躍場所
このポリ塩化ビニルも、私たちの生活の様々な場面で活躍しています。例えば、昔ながらのレコード盤、水道管や電線の被覆材、壁紙、床材、ホース、さらにはバッグや靴、消しゴムといった日用品まで、本当に多岐にわたります。
耐久性が高く、燃えにくい性質を持ち、加工もしやすいため、非常に便利な素材です。ただ、レジ袋のような薄くて柔らかい袋の素材としては、ポリエチレンやポリプロピレンほど一般的ではありません。質感も、ポリエチレン製のレジ袋とは異なり、もう少し厚手でしっかりした印象のものが多い気がします。
衝撃の事実?「ビニール傘」もビニールじゃない!?
さて、素材の勘違いは袋だけに留まりません。雨の日に多くの人がお世話になる、あの透明な「ビニール傘」。これも、名前に「ビニール」と入っているのに、実は「ポリ塩化ビニル(PVC)」製ではないものが増えています。
雨の日の相棒、その意外な素材とは
現在、多くのいわゆる「ビニール傘」に使われている透明なシートの素材は、「アモルファスポリオレフィン(APO)」という比較的新しい合成樹脂や、前述の「ポリエチレン(PE)」の一種であることが多いようです。
特にアモルファスポリオレフィンは、燃焼時に有害な塩素ガスを発生させにくいという環境面でのメリットがあり、注目されています。もちろん、一部にはポリ塩化ビニル製の傘も存在しますが、以前に比べるとその割合は減ってきていると言われています。
「ビニール傘」と呼びながら、その素材がビニール(ポリ塩化ビニル)ではないかもしれないなんて、なんだか面白いですよね。
なぜこんな「勘違い」が広まったのか
「じゃあ、なんでみんな『ビニール袋』って呼ぶの?」「どうして『ビニール傘』なの?」と疑問に思う方もいるでしょう。この呼び方の混乱には、いくつかの理由が考えられます。
昔の名残?それとも言いやすさ?
一つには、歴史的な背景があるかもしれません。かつて、ポリ塩化ビニルがフィルム状の製品として広く使われていた時代があり、その頃の「薄くて透明なプラスチックシート=ビニール」というイメージが強く残った可能性があります。その後、ポリエチレンなどの新しい素材が主流になっても、呼び名だけが慣習として残った、という説です。
また、単純に「ポリエチレン袋」や「ポリプロピレン袋」と言うよりも、「ビニール袋」の方が短くて言いやすく、響きも馴染み深かった、というのも理由の一つかもしれません。言葉は、必ずしも正確性だけで使われるわけではなく、使いやすさや語感の良さも大切ですからね。
イメージが先行する言葉たち
僕たちが日常で使う言葉の中には、このように本来の意味や正確な定義から少し離れて、特定のイメージや用途を指す総称として定着しているものが少なくありません。例えば、「セロテープ®」はニチバン株式会社の登録商標ですが、透明な粘着テープ全般を指して使われることがありますよね。それと似たような現象が、「ビニール袋」や「ビニール傘」にも起きているのかもしれません。
言葉は生き物で、時代や社会の変化とともにその意味合いや使われ方も変わっていくものです。そう考えると、こうした「勘違い」や「誤用」と呼ばれる現象も、言葉のダイナミズムの一端と言えるのかもしれません。
素材を知ると、世界がちょっと解像度を上げる
こうして、普段何気なく接しているモノの素材について少し掘り下げてみると、なんだか日常が少しだけ違って見えてきませんか。僕はデザイナーという仕事柄、様々な素材に触れる機会が多いのですが、こうした発見はいつも新鮮で、知的好奇心をくすぐられます。
モノ選びの視点が変わるかも
素材の特性を知ることは、モノを選ぶ際の視点を少し豊かにしてくれるかもしれません。例えば、同じように見える袋でも、「これはポリエチレンだから柔らかいな」「これはポリプロピレンだからパリッとしていて中身が見やすいな」といった具合に、素材の違いを意識することで、より自分の用途に合ったものを選べるようになるかもしれません。
リサイクルや環境問題への小さな一歩
また、素材を意識することは、リサイクルや環境問題について考える上でも、小さなきっかけになることがあります。プラスチック製品は、その種類によってリサイクル方法が異なる場合があります。自分が使っているモノがどんな素材でできているかを知ることは、適切な分別やリサイクル行動への第一歩にも繋がります。
もちろん、全ての素材を完璧に覚える必要はありません。でも、ほんの少しだけ素材に目を向けてみることで、モノとの付き合い方が少し丁寧になったり、環境への意識が芽生えたりするなら、それはとても素敵なことだと思います。
日常の「?」は、新しい発見の入り口
今回は、私たちのとても身近にある「袋」や「傘」の素材にまつわる、ちょっとした勘違いと、その背景にある素材の特性についてお話ししました。
- レジ袋の多くは「ポリエチレン(PE)」製
- 透明でパリッとした袋は「ポリプロピレン(PP)」製
- 本来のビニールは「ポリ塩化ビニル(PVC)」
- ビニール傘の多くは「アモルファスポリオレフィン(APO)」やポリエチレン製
普段、当たり前だと思って使っている言葉やモノの裏側には、意外な事実や面白い発見が隠れていることがよくあります。そんな日常の小さな「?」は、新しい知識や視点と出会うための素敵な入り口かもしれないですね。
クソリプっぽくなるのが嫌なので空に向かって話すと、ポリ袋はビニール袋と呼ばれがちですが誤用です。レジ袋はポリエチレン(PE)、透明なパリッとした袋はポリプロピレン(PP)です。身近なビニール製品はそんなに多くなく、ビニール傘もビニール製ではなくアモルファスポリオレフィン(APO)製。
X (Twitter) – Apr 14, 2021