
「デザイナーになりたいのに、ポートフォリオがない」はなぜ問題か?採用担当者が本当に知りたいこと
日頃デザインについて考えたり、情報収集したりする中で、特にキャリアに関する話題は多くの人の関心を集めているなと感じます。「デザイナーになりたい!」という熱い想いを持つ人は、本当にたくさんいますよね。その情熱は、何かを生み出す原動力として、とても尊いものです。
ただ、もし僕が採用する側の立場だったら、一つ気になるであろうポイントがあります。それは、「デザイナーになりたい」と強く願っているのに、「具体的な制作物(ポートフォリオ)がまだない」という状況についてです。もちろん、様々な事情があることは想像できます。それでも、なぜ採用担当者がポートフォリオを重視するのか、そして、もし本当に「まだ何もない」場合に、どう考えればいいのか。今回はそんな話を掘り下げてみたいと思います。
なぜポートフォリオが重要視されるのか?採用は「相対評価」の世界
まず大前提として、就職活動や転職活動における採用選考は、多くの場合「相対評価」です。つまり、応募者の中から「誰がより自社にマッチするか」「誰がより活躍してくれそうか」を比較検討して、採用する人を決めていきます。
ここで考えてみてほしいのです。「デザイナーになりたい」という気持ちや熱意。これは、デザイナー職に応募してくる人の多くが、当然持っているものです。もちろん、その熱意の大きさや方向性は評価の対象になります。しかし、皆が同じように「やりたいです!」「頑張ります!」とアピールしてきた時、それだけで差をつけるのは非常に難しい。
面接官だって人間です。熱意を言葉や表情から感じ取ることはできますが、それを客観的に、かつ他の応募者と比較可能な形で点数化するのは至難の業。「情熱があります!」という言葉の裏付けとなるものがなければ、「本当にこの人はデザインができるのだろうか?」「どのくらいのレベルなのだろうか?」という疑問符がどうしても残ってしまいます。
そこで重要になるのが、具体的なアウトプット=ポートフォリオなのです。
ポートフォリオは、その人が持つスキル、センス、そして「デザインに対してどれだけ時間と労力を費やしてきたか」を示す、客観的な証拠となります。言葉だけでは伝わらない「具体的に何ができるのか」を雄弁に物語ってくれる、いわば “デザイナーとしての実力の証明書” なのです。
熱意が同程度の応募者が複数いた場合、どちらを採用したいと思うでしょうか?
- Aさん:熱意は人一倍。でも、具体的な制作物はまだない。
- Bさん:熱意はもちろん、自分のスキルを示すポートフォリオをしっかりと準備している。
多くの場合、採用担当者はBさんを選ぶでしょう。なぜなら、Bさんの方が「入社後にどんな活躍をしてくれそうか」を具体的にイメージしやすく、採用のリスクが低いと判断できるからです。これが、熱意だけでは超えられない「タイブレーカー(同点決勝の決め手)」としてのポートフォリオの役割です。
「でも、まだ経験がないから…」その気持ち、わかります
「そうは言っても、実務経験もないし、学校で課題を作ったくらいで、見せられるものなんて…」
「何を作ったらいいのか、アイデアが浮かばなくて…」
そんな声が聞こえてきそうです。特に未経験からデザイナーを目指す場合、ポートフォリオ作りのハードルは高く感じられますよね。クライアントワークの経験がないのは当然ですし、何から手をつけていいかわからない、という気持ちは僕もよく理解できます。
自信を持って「これが私の作品です!」と言えるものがない、という不安もあるでしょう。
採用担当者が知りたい「合理的な理由」とは?
ここで、最初の話に戻ります。もし僕が採用担当者で、「デザイナーになりたい」という応募者がポートフォリオを持っていない場合、僕が知りたいのは「ポートフォリオを作っていない(作れていない)、合理的な理由」です。
これは、決して応募者を責めたいわけではありません。むしろ、その理由を知ることで、応募者の状況や考え方、ポテンシャルを理解したい、という意図があります。
では、「合理的な理由」とは何でしょうか?
正直なところ、「デザイナー職を目指しているにも関わらず、デザインのアウトプットが全くない」という状況をポジティブに説明できる理由は、かなり限定的かもしれません。
例えば、以下のようなケースは、理由として理解できる可能性があります。
- ごく最近、キャリアチェンジを決意したばかり:例えば、全く別の職種で働いていた人が、強い決意を持って1ヶ月前にデザイナーを目指し始めたばかりで、今はまず基礎学習(ツールの使い方、デザインの原則など)に集中的に取り組んでいる、など。この場合、「これからポートフォリオ制作に着手する計画がある」ことを具体的に説明できれば、熱意は伝わるかもしれません。
- 特定の専門分野の学習に集中していた:例えば、UI/UXデザイナーを目指していて、まずはユーザーリサーチや情報設計などの上流工程の学習・実践に時間を費やしており、ビジュアルデザインのアウトプットはこれから、という場合。(ただし、この場合でも簡単なワイヤーフレームやプロトタイプなど、何かしらの思考プロセスを示すものは欲しいところです。)
重要なのは、「なぜ、現時点でポートフォリオがないのか」を、他責にせず、自身の状況や計画と合わせて説明できるかどうかです。
一方で、「時間がなかった」「アイデアが浮かばなかった」「何を作ればいいかわからなかった」といった理由は、残念ながら多くの場合、「合理的な理由」とは見なされにくいでしょう。なぜなら、時間は作るものですし、アイデアは生み出すものですし、何を作ればいいかわからないなら調べるなり、誰かに聞くなり、行動を起こすことができるはずだからです。
採用担当者は、「困難な状況でも、自分で考えて行動できる人か?」という視点も持っています。「時間がない」「アイデアがない」という理由では、「仕事でも言い訳をしてしまうタイプかな?」と思われてしまう可能性すらあります。
ポートフォリオがないなら、今すぐ「作る」ことから始めよう
もし、この記事を読んで「自分にはポートフォリオがない…まずいかも」と感じたなら、落ち込む必要はありません。大切なのは、今から行動を起こすことです。
経験がない? 大丈夫です。ポートフォリオは、必ずしも「実務経験」や「クライアントワーク」だけを載せるものではありません。
- 架空のプロジェクト:自分でテーマを設定し、課題解決のためのデザインを提案してみましょう。例えば、「地元のお店のウェブサイトをリニューアルするなら?」「自分がよく使うアプリのUIを改善するなら?」など、身近なところからテーマを見つけられます。
- 自主制作:自分の好きなもの、表現したいことをテーマに、自由に作品を作ってみましょう。イラスト、タイポグラフィ、Webサイト、簡単なアプリのモックアップなど、形式は問いません。
- デザインコンテストへの応募:公募されているデザインコンテストに挑戦するのも、目標設定とアウトプットの良い機会になります。
- ボランティアやプロボノ:NPOや地域活動などで、デザインのスキルを活かせる機会があれば、積極的に参加してみましょう。実績にもなりますし、社会貢献にも繋がります。
大切なのは、「完璧なもの」を目指しすぎないこと。まずは、完成させること、形にすることを目標に、小さな一歩を踏み出してみてください。一つでも作品ができれば、それがあなたのポートフォリオの第一歩になります。
「プロセス」を見せることも重要
そして、ポートフォリオで示すべきは、完成したアウトプットだけではありません。そのデザインが生まれるまでの「プロセス」も、あなたの思考力や問題解決能力を示す上で非常に重要です。
- どんな課題があったのか?
- 何を目的としてデザインしたのか?
- どんな調査や分析を行ったのか?
- なぜそのデザイン(色、形、レイアウト、構成など)を選んだのか?
- どんな試行錯誤があったのか?(ラフスケッチ、ワイヤーフレーム、没案なども有効な場合があります)
これらのプロセスを丁寧に説明することで、たとえアウトプットがまだ拙かったとしても、「この人はちゃんと考えてデザインができる人だな」と評価してもらえる可能性が高まります。
まとめ – 熱意を行動で示そう
「デザイナーになりたい」という熱意は、素晴らしいスタート地点です。しかし、その熱意を具体的な「行動」と「アウトプット」に繋げて初めて、あなたの価値は採用担当者に伝わります。
ポートフォリオがないことに「合理的な理由」を見つけるのは難しいかもしれません。だとしたら、今すぐ「作る」行動を始めるのが最善の策です。
完璧じゃなくていい。まずは一つ、あなたの想いを形にしてみてください。その一歩が、きっとあなたの未来を切り拓くはずです。
僕が採用担当者なら、「デザイナーになりたいのに、成果物を作っていない合理的な理由」を知りたいです。 就活は相対評価なので、他の人と比較検討されます。気持ちや熱意も評点であると思いますが、そこは皆持ち得ています。となると、何がタイブレーカーになるか?という事です。
X (Twitter) – May 8, 2020