Helvetica(ヘルベチカ)は、世界で最もポピュラーで、企業や公共機関のロゴ、街で見かける看板や雑貨、書籍、テレビ、パソコンなど実に様々なところで使用されている”永久のスタンダード”とも言える定番のフォントです。1957年、スイスのデザイナーマックス・ミーティンガーとエドゥアルト・ホフマンの手により誕生し、今日にいたるまで約50年以上の長きに渡って愛されてきました。クセがなく合理的でありながら、確かな温かみも兼ね備えた万能の書体・ヘルベチカの魅力について紹介していきましょう。
【ヘルベチカの魅力①】どんなデザインにも適応する汎用性
ヘルベチカの魅力と言えばやはり、スマートかつ良い意味で”特徴がない”書体であるという点があげられるでしょう。現代におけるフラットデザインの基礎ともなっている「スイス・スタイル」のサンセリフ体(日本語フォントで言うところの、ゴシック体に近いクセのない欧文書体のこと)として、合理性と中立性を追求して生まれたこのフォントは、シンプルで落ち着いていながらも、自然に人々の目線を集める力強さがあります。用途を選ばす様々なデザインにフィットする汎用性の高い万能書体…そういった特徴から、現在でも世界で最も使用され、出版・広告・デザイン業界でも一心に支持を集め続けています。
誰でも手軽に利用できるだけでなく、世界的大企業アップル社のパソコン・スマホに付属する標準フォントの一つとして装備され、またマイクロソフト社でもヘルベチカに近いフォント・Arial(アライアル)が採用されるなど、ITの世界へも進出していきました。他にもJRの駅名表示に採用されるなど、私達日本人にも馴染みが深い文字ですね。タイポグラフィの覇者とも言えるヘルベチカですが、如何な文字組みやデザイン手法でも耐えうる幅の広さは、デザイナーにとっては非常に大切。作り手の意図を汲み、使い方によって全く違う顔を見せてくれるその汎用性こそが最大の魅力と言えるでしょう。
【ヘルベチカの魅力②】”フラットである”という大いなる価値
整合性の高いスイス・スタイルを好むデザイナーの多くは、政治・戦争に揺れ動く時代の中で、国家・宗教など特定のものをイメージさせないフラットなデザインを求め、シンプルなサンセリフ体のフォントを愛用していました。その一種であるヘルベチカは、その完成度の高さから世界各地で爆発的な人気を呼びましたが、それは「フラット」であるという点に大いなる価値があったからでもあります。わかりすく明確で、単純であり何かしらの意図も持たない―それこそがヘルベチカの持つ力。書体として圧倒的に”平等”であるからこそ、乗せた文字が国境や人種を超えて多くの人の心に届くのです。
著名なオランダのグラフィックデザイナー「ウィム・クロウェル」も、書体に意味は必要ない。だからこそヘルベチカに高い価値があると評価しています。また、「意味合いとしてフラットである」ということもですが、「見た目としてフラットである」ということも大切です。現在のデザイン業界が好むのは、ドロップシャドウやテクスチャといった装飾を排除した効率の良いデザイン。時代遅れになること防ぎ、伝えたいポイントに照準を合わせることが出来る”フラットデザイン”を、より際立たせるのがヘルベチカというフォントなのです。
【ヘルベチカの魅力③】世界的一流企業を虜にするブランド
誕生してから約50年という歴史の中で、ヘルベチカは実に様々な有名企業のロゴに採用されています。例えば、「BMW」「Jeep」「トヨタ自動車」といった世界的自動車メーカー、「Microsoft」「オリンパス」「パナソニック」「サムスン電子」といったソフトウェア・電子メーカー、「THE NORTH FACE」「American Apparel」「FENDI」といったアパレルメーカー、「エビアン」「Dole」「ネスレ」など食品・飲料品メーカー、他にも「American Airlines」や「無印良品」など、名だたる一流企業ばかりです。それぞれ文字間や比率を独自に変えたり、アイコンと組み合わせたりして、同じヘルベチカでも全く違う印象のロゴを作り出していますね。
一つ具体例をあげてみましょう。世界でも名の通ったかの有名な食品・飲料メーカー「ネスレ」のロゴと言えば、子供も安心して口に出来る安全性などの意味を込めた、母鳥が雛を見守る鳥の巣をあしらったイラストと、丸みを帯びた温かみのある企業名のテキストが合わさったものです。当初はイラストだけでしたが、時代の流れと共にテキストが加えられるなど変化していき、1988年にヘルベチカのフォントが採用されてからは、よりワールドワイドなデザインになるよう進化を続け現在の形となりました。言葉や文化の壁を越えたユニバーサルなデザインに相応しいヘルベチカ。これからも世界中の企業を魅了するブランドフォントと言えるでしょう。
【ヘルベチカの魅力④】ヘルベチカをテーマにしたドキュメンタリー映画
ヘルベチカという書体については、長きに渡って討論が繰り替えされてきました。その誕生から役割、そして人々にとってヘルベチカとは何かという部分にいたるまで、全てを描いたドキュメント映画「ヘルベチカ 世界を魅了した書体」という映画も作成されました。多くのデザイナーやクリエイターが、普遍的で完成されたフォントとして熱く語るシーンがある一方で、普通過ぎて抜きん出ないという理由、または今まで政治的・企業戦略的に使用されてきた歴史から権威のイメージが強いなどの理由でヘルベチカを好まない意見も多くありました。
結論としては、様々な考え方はあれど、あくまでもフォントは材料でしかなく、それを活かすのは作り手のデザイナー・技術者・クリエイターであるということ。普段から誰もが何気なく目にするフォントですが、見方を考えさせられる作品です。しかし、このように世界を巻き込んだ議論が巻き起こるのも知名度があるからこそですね。それ単体で映画化まで発展する書体というのも、ヘルベチカを置いて他にはないでしょう。
【ヘルベチカの魅力⑤】ヘルベチカの現在とこれから
ヘルベチカが誕生した1957年当時は、現在のようにデジタル化が進んでいないがゆえに金型を使った活版印刷が主流でした。そのため書体というものは金属を削って専用の版を作る必要があり、大変手間がかかる作業でしが、そんな中でアクチデンツ・グロテスクという当時メジャーだったドイツの書体を目標に作られたのが現在のヘルベチカの原型です。それから時代が進み、容易に写植できるようになったことでヘルベチカに似通った書体が世の中に溢れましたが、コンピュータが発達するに従ってしっかりとしたルールができ、後に斜体や太さなどで51種類に分類・統一されました。現代でもこれほど変わらぬ高い評価を得ているフォントというのも他にありませんが、なぜここまで人々の興味を引くのでしょうか?
それはヘルベチカという書体が「完全性」「合理性」「普遍性」という隙の無い魅力に溢れているからです。人間の手で作り出された書体の最終的な完成形はヘルベチカなのか、これ以上の進化はないのか―など、デザイナー達が探求してきた答えの無い問い。それこそが私達がヘルベチカに感じる大きな魅力でもあり、永遠のテーマなのかもしれません
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