米国バーガーキングが、2021年1月6日(現地時間)に新しいロゴを公表しました。ロゴに加えて、カスタム書体、スタッフのユニフォームなども含む、1999年以来の総合的なリブランディングとなります。
out with the old, in with a new classic #NewProfilePic pic.twitter.com/y2eRT9qqO6
— Burger King (@BurgerKing) January 7, 2021
バーガーキングといえば、ちょうど1年前にマクドナルドへ送ったメッセージを思い出すかもしれません。マクドナルド秋葉原昭和通店が閉店することになり、すぐ近くのバーガーキング昭和通り店がライバルをねぎらうメッセージを掲げました。しかし、横書きのそのメッセージをタテ読みすると、別のことばが浮かびあがるというものです。ネットを騒然とさせました。
これに限らずバーガーキングは、話題にのぼることの多いブランドです。世界第2位のファストフードハンバーガーチェーンである同社は、各国でインパクトのあるプロモーションを盛んにおこなっています。広告賞を受けたキャンペーンは1度だけではありません。同社のマーケティング手法に注目している企業は多いと思います。
・バーガーキングの新ロゴデザイン / Ned – stock.adobe.com
一見、2世代前のロゴを再利用したような今回のブランドリニューアルですが、そこにはどういう意図があるのでしょうか。
70年代から20世紀末までのロゴをルーツとしたデザイン
先代のロゴについては次のセクションで触れることにして、1969年版、1994年版、最新の2021年版を比べてみたいと思います。
バーガーキングの歴代ロゴ (via Pinterest)
今回のリブランディングにともないリニューアルされたロゴは、ブランド名「Burger King」がバンズにはさまれています。柔らかみのあるレタリングで2段に重ねられたワードロゴは牛肉パテのように見えます。
バーガーキングの主力メニュー「ワッパー(Whopper)」を表現したロゴがはじめて登場したのは1969年です。4半世紀後の1994年には、基本的な構成を踏襲しながら少し手を加えられました。バンズの赤味が強くなり、エッジに丸みがつけられます。また、トップのバンズの厚みが増しました。ワードロゴは、60年代風のレタリングから、すっきりした書体に変わっています。
バンズモチーフのデザインになって以降の69年版、94年版、2021年版のロゴを並べると、まるでひとつのデザインのバリエーションのようです。2021年ロゴでは上のバンズがさらに厚みが増しています。エッジの丸みも強くなりました。ワードロゴの書体は、94年版と69年版をミックスしたような印象です。94年版の文字は、スッキリとはしていますが、印象はやや弱いです。そこに69年版の特徴的な要素を追加して2021年版となったような感じがします。丸みが強くなり柔らかみが強調されていることが、「K」「G」「R」などによく現れています。
ネット上では、最新のロゴは70年代から90年代まで使われていたロゴのリバイバルだという意見が多いようです。基本のコンセプトは確かにそのとおりですが、細かく見ていくと、過去のロゴの良さを取り入れ、古くなった部分を改善していることがわかります。個人的には、よりおいしそうな印象のロゴになっていると感じますが、いかがでしょう。
2021年版の登場で異端児になった1999年のロゴデザイン
Savvapanf Photo © – stock.adobe.com
さて、先代の1999年版ロゴですが、上に述べた3つのロゴとは大きく違っています。
バンズとワードロゴの組み合わせをベースとしていますが、それを取り囲むブルーのスウォッシュがまず目を引きます。ワードロゴはわずかに弧を描きながら傾けられ、それに合わせてバンズも斜めに配置されました。ワードロゴはバンズよりもぐっと大きくはみ出しています。全体に、躍動感のある印象の強いデザインです。
細かい部分もさまざまな手が加えられています。バンズには白いハイライトが入りました。ワードロゴの各文字には、エッジをたてられているコーナーと丸いコーナーがあり、独特の書体となっています。柔らかでリッチなテイストとシャープなスタイルが程よくミックスされているのではないでしょうか。
94年版ロゴに取って代わった99年版は、当時としてはとてもモダンでインパクトの強いリニューアルだったことは想像に難くないです。それまでのミニマルなスタイルと方向性は違っていますが、ロゴ全体のデザインとしてはとてもよくできていると思います。ただ、ワッパーの印象は薄まったように感じます。
この99年版のデザインは、登場した当時はとても新鮮に受け取られたに違いありません。おもしろいのは、それよりも古いバージョンをルーツとする2021年版が登場したことによって、歴代ロゴのなかで異端児のように見えてしまっていることです。まるで20年ほどのあいだ、バーガーキングが脇道にそれていたかのようにも見えます。回りまわって、2021年版のデザインこそが王道を歩んでいるような形になっています。デザインの方向性が大きな意味を持つことの実例といえるでしょう。
本物のおいしさにフォーカスしたリブランディング
バーガーキングの公式動画で、リブランディングの概要を見ることができます。動画の冒頭では、柔らかみのある極太の書体でブランドからのメッセージが大きく表示されます。
「We’re doubling down on what makes us great.(バーガーキングを大きくしてくれたものにこれまで以上に力を注ぎます)」
バーガーキングを大きくしたもの。すなわち、より新鮮で(fresh)、食欲をそそる(craveable)、本物(real)のおいしさです。
ほかのハンバーガーのファストフート店とは異なり、パテを鉄板ではなく、直火焼き(flame-grilled)するのがバーガーキングの特徴です。またバーガーキングは近年、人工的な着色や風味、保存料を排し、新鮮な自然素材にこだわっています。味の改良にも務めています。同じ動画には次のことばも見られます。
「It’s all about the taste.(大事なのは味)」
つまりバーガーキングのサービスの核心である「本物のおいしさ」にフォーカスをあてたのが、今回のリブランディングなのです。さらに、60年代から70年代風のポップなイラストが美味しさと食べる喜びを表現しています。
ブランドリニューアルを手がけたロンドンの広告スタジオJones Knowles Ritchie社のサイトでもキービジュアルや、デジタルメディア用イラスト、パッケージデザイン、アプリ、スタッフのユニフォーム、店舗デザインなどを見ることができます。
ワッパーにインスパイアされたカラーパレットと書体デザイン
カラーパレットを見る (via Pinterest)
カラーパレットは、直火焼きと新鮮な食材をヒントに作られました。燃える赤(firey red)、炎のオレンジ(flaming orange)、バーベキューのブラウン(BBQ brown)などは直火焼きのビーフパテがベースになっています。また、この赤・オレンジ・ブラウンにグリーンが加わって、トマトやポテト、レタス、チーズなど食材の色にもなっています。先代ロゴのスウォッシュの色はブルーですが、カラーパレットには含まれていません。これは商品に使われている食材に、ブルーのものがないからです。
このカラーパレットは、商品パッケージやデジタルメディア用のイラスト、スタッフのユニフォーム、店舗の外観とインテリアにも適用されます。
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どことなく「Cooper Black」を思わせるカスタム書体「Flame」も新たに作られました。この書体も商品にインスパイアされました。まるっこくて、大きくて、おいしそうなデザインです。1922年に生まれた書体Cooper Blackは、60年代から70年代のポップカルチャーで盛んに使われました。
秀逸な「BK」モノグラムのアプリアイコン
新しいブランドデザインへの置き換えは徐々におこなわれるそうです。いち早くリニューアルされたのは、ウェブサイトやアプリなどデジタルメディアです。米国公式サイトのロゴは差し替えられ、Flame書体が使われています。
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スマホアプリのアイコンとしては、「B」と「K」のモノグラムが新たに作られました。ワードロゴの代わりに「K」がビーフパテとしてバンズにはさまれています。そして、上下のバンズと「K」の組み合わせが「B」の形になっているのです。公式ロゴをさらにシンプルにしつつ、コンセプトはしっかり保たれています。なんとも巧みでかわいらしいデザインです。
パッケージからユニフォームまでおいしさを楽しく表現
ブランディングデザインを見る (via Pinterest)
紙袋やカップ、ポテトの袋などには新しいロゴが大きく印刷されています。また、ワッパー やキングドッグのラッピングには、「Flame」書体を60年代のサイケデリックデザイン風にアレンジした文字で、「トロリとジューシー」とか「サクサク」「チーズとベーコンたっぷり」など商品の特徴が書かれています。ぐにゃりと曲がった文字のデザインは、ザ・ビートルズの『Rubber Soul(ラバー・ソウル)』(1965年)のアルバムジャケットを思い浮かべるひとがいるかもしれません。
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プロモーションに使われる商品写真は、目の前にハンバーガーやホットドッグがあるかのような極端な接写で撮られています。ビーフパテのジューシーさや食材のみずみずしさを伝えて食欲をかき立て、おいしさを伝えるためです。
ブランディングデザインを見る (via Pinterest)
レトロなタッチのイラストは、遊び心にあふれています。オニオンリングを指に通したり、ピクルスを目にあてたり、フレンチフライを口いっぱいに押し込んでいたり、といったメニューアイテムにまつわる楽しいシーンばかりです。
スタッフのユニフォームも新しくなります。国や地域によってアイテムやデザインは変わる可能性があるようですが、ポロシャツやエプロン、Tシャツ、ジャケットなどが計画されています。アプリと同じイラストがプリントされたTシャツを着たスタッフを目にするかもしれません。ちなみに、先に紹介したリブランディングを紹介する動画や、プロモーションに使われるビジュアルに、新しいユニフォーム姿で登場しているのは実際の店舗スタッフだそうです。
数世代前のロゴの復活とミニマルデザイン
punctuation saves lives… and money pic.twitter.com/PfmyKAeFnB
— Burger King (@BurgerKing) January 14, 2021
先代のロゴを別にすると、バーガーキングの69年版、94年版はミニマルかつフラットデザインです。ですから、デジタルデバイスの画面でも活躍する素質は持っていたといえます。それが、2021年版として復活できた理由のひとつでしょう。バーガーキング以外にも、世代を飛び越えて過去のミニマルでフラットなロゴを再生させるブランドがときどき目に入ります。
21世紀後半から今世紀初頭にかけて、スキューモーフィズムの流行などの影響を受けて、グラデーションを使い、立体的でリッチなロゴデザインが増えました。しかし、こういったデザインはデジタルデバイスの画面との相性があまりよくありません。また現在では、極小のウェアラアブルツールの画面からかなり巨大なサイネージまで、さまざまなサイズでの使用に耐えるデザインが必須です。
解像度の低いテレビ画面と、モノクロ印刷も少なくない新聞などへ印刷が広告メディアの中心だった時代は、ミニマルデザインでロゴを作ることや、ノーマルロゴとは別にミニマルなバージョンを用意することが一般的でした。そのため、時を超えた一貫性が大きな意味を持つブランドでは、デジタルとの親和性を目的にしてロゴをリニューアルするとき、過去のロゴをアイデアのベースとすることが少なくないのです。
日本市場でのリブランディング時期は未発表
日本市場でバーガーキングを展開している株式会社ビーケージャパンホールディングスは、2021年1月24日現在、ブランドリニューアルや新ロゴについてのアナウンスをおこなっていません。
バーガーキングが日本市場に登場したのは1993年ですので、先代のロゴに親しんでいるひとの方が圧倒的に多いのではないでしょうか。米国やその他の国々のように、新しいロゴになつかしさを感じるユーザーは少ないと思います。
日本のバーガーキングの公式サイトやアプリは、1月24日時点ではまだ新デザインには置き換わっていません。業界関連メディアやデザイナーの間では新しいロゴが話題になっていますが、日本のバーガーキングのブランドがリニューアルされて、一般消費者の目に入るまではもう少し時間がかかりそうです。新ロゴやリブランディングに対する反応がどのようなものになるか注目したいところです。
【参考資料】
・バーガーキング®STORY (https://www.burgerking.co.jp/company/whopper.html#/story)
・Burger King rebrand is a sizzling masterclass in flat design | Creative Bloq (https://www.creativebloq.com/news/burger-king-sizzling-rebrand)
・Burger King – JKRGlobal – JKRGlobal (https://www.jkrglobal.com/case-studies/burger-king/)
・Burger King has a new logo. Here’s what it looks like – CNN (https://edition.cnn.com/2021/01/07/business/burger-king-new-logo/index.html)
・Burger King redesigned logo and signs with whopper – Business Insider (https://www.businessinsider.com/burger-king-redesigned-logo-and-signs-with-whopper-2021-1)
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